「ヘンリー8世」とは誰か

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「ヘンリー8世」とは誰か。昔の、イギリスかどっかの王だ。英国の歴代王の中でも最も重要くらいの人物。でも、なんで? 何で歴史的に重要? 何した人?

それを読者よ、私とともに学んでみないか。大丈夫、むずかしい話はしない。てか私はたぶんあなたより頭が悪いので、難しい話なんかできない。

何丘と「ヘンリー8世」

私とヘンリー8世の因縁は深い。どのくらい深いかと言うと、私とハリーポッターの因縁と同じくらい深い。

私はロシア語ができるのだが、ロシア語を知らない人に対して「ロシア語ってこういう言語だよ」と概説するときの「つかみ」のひとつに、ガリー・ポッチェルの話がある。

ロシア語では、英語のH(エイチ)がG(ジー)の音に変換されることがよくある。それでハリーポッターHARRY POTTERの「ハリー」が「ガリー」になる、という話だ。

それで話を終わらしておればよかったものの、その日は私も調子にのってしまったんだね。「同じように、ヘンリー8世は、ゲンリー8世になるよ」と続けてしまった。

「え、ヘンリー8世て誰?」
「え、いるやん、歴史上の人物で」
「あ、そう。何した人?」
「え・・」
「・・・」
「・・・」

迂闊だった。私は歴史オンチ。知りもしないのにヘンリー8世の名など出してしまって、自分の無知が露呈した。しかし……たしかに歴史上重要な人物だった筈なのだ。7世でも9世でもなく、ヘンリー8世が。

そのヘンリー8世について、ついに確かな知識を身につけてみたい。今から何が可能か。

「ヘンリー8世」て誰よ、Google

とりあえずグーグルで「ヘンリー8世」と検索してみよう。

この通り、まぁ色々出てくる。

何はともあれ、上から順に10記事見ていくことにしよう。

まずはWikipediaだ。(正直Wikipedia苦手なんだよな……)

①Wikipedia「ヘンリー8世」

Wikipedia「ヘンリー8世」のページを全部見た。くたびれた。詳しすぎるのだ。これだからWikipediaは……。
だが頑張って最後まで読んで、いくつかの事柄が頭に入った。

ヘンリー8世は、

・1491年生まれ、1547年没。
・イングランドのテューダー朝の2代目の王。
・6回結婚したが跡継ぎに恵まれず、テューダー朝は断絶した。
・宗教的にローマカトリックから分離独立し、イングランドを聖公会(イングランド国教会)の国にした。
・インテリで文化人であった。自ら作曲し、詩を書いた。
・一方で浪費家。贅沢な暮らし。また、邪魔な人間を処刑しまくった。

何しろ若い王家(できてまだ2代目)の存続のために、男子の誕生を強く望んだ。そこが原動力だ。
それで結婚と離婚を繰り返した。そのことでローマ教皇庁と対立し、結果的にイングランドが宗教的にカトリック教会から独立することになった。歴史的にはこれが大事だ。多分。
以降はやりたい放題だ。結婚して、励んで励んで、男児ができなければ見限って離婚して処刑して、次の女と結婚。それで6回結婚したが、結局望んだ男子は得られず、テューダー朝は断絶しました、とさ。
(※正確には1人男子ができて次代の王になったがすぐ死んだ)

ほか、見ていて気になった単語を羅列:
百年戦争/薔薇戦争/カール5世/五港長官/トマス・ウルジー/「信仰の擁護者」(Fidei defensor)/金襴の陣/アン・ブーリン/トマス・クロムウェル

②Wikipedia「ヘンリー八世 (シェイクスピア)」

有名な話で、ひとごろしの作品をいろいろ書いたシェイクスピアの生没年は1564(ひとごろし)- 1616(いろいろ)だ。
ヘンリー8世が死んだのが1547年。つまり、シェイクスピアにとってヘンリー8世は、自分が生まれるちょっと前まで生きていた、ほぼ同時代の人だ。

そのシェイクスピアが「ヘンリー8世」という戯曲を書いている。それについてまとめたWikipediaの記事を見た。以下のことを学び取ろうと思う。

シェイクスピア劇「ヘンリー8世」は、

・必ずしも史実通りではない。
・ヘンリー8世の6人の妻のうち、最初の2人だけ出てくる。
・登場人物は「ヘンリー8世/その部下ウルジー/そのさらに部下クロムウェル/最初の妻キャサリン/第二の妻アン・ブーリン」ほか。
・「あらすじ」を読んだ感じ、主人公はむしろウルジー?

ちなみにウルジーはこんな顔の人だ。

枢機卿ウルジー(Sampson Strong画、1526年)、Wikipediaより

あらすじを私の方でさらに噛み砕いて言うと、王の重臣として権勢をふるったウルジーが、いろいろ陰で悪いことやっていたのが露見して王の信頼を失い、処刑される。それと並行して、ヘンリー8世が最初の妻であるキャサリンから第二の妻アン・ブーリンへ乗り換える様子が描かれるっぽい。

③比較ジェンダー史研究会「ヘンリー8世と6人の妻たち」

ヘンリー8世の「6人の妻」それぞれについてコンパクトにまとまっていて分かりやすかった。こちら。私なんかが言うことじゃないが、いいサイトだと思った。

それぞれのキャラについて認識が深まった(気がする)。以下まとめる。

・最初の妻キャサリン。長女メアリを生む。メアリはのちイングランド女王となり、プロテスタントを迫害しまくって、ブラッディメアリーと呼ばれる(そういうカクテルありますよね。ウォッカとトマトの。その由来だそう)
・二番目の妻アン・ブーリン。このアン・ブーリンをナタリー・ポートマンが演じた映画がある(「ブーリン家の姉妹」)
・三番目の妻ジェーン・シーモア。唯一の男子を産む。産んですぐ死んだ。この男子がヘンリー8世のすぐあとのイングランド王となる。六人の妻たちの中で唯一王子を産むことができた、そんなジェーン・シーモアの肖像画がこれだ。

ジェーン・シーモア、ハンス・ホルバイン画、Wikipediaより

・第四の妻アン。パネマジ婚。肖像画が可愛かったので実物を見ずに結婚したが、会って見るとぶさいくだったのですぐ離婚した。その問題の肖像画がこれ。

『アン・オブ・クレーヴズの肖像』、ハンス・ホルバイン画、1539年、Wikipediaより

第三の妻も第四の妻も、肖像画を描いたのはハンス・ホルバインという人だ。ドストエフスキー好きならピンとくる名であろう。

(第五・第六の妻はあんまキャラをつかめなかったので割愛)

④世界史の窓「ヘンリ8世」

さて「ヘンリー8世」でググって、でてきた記事を上から10個読む、つーのをお届けしております。

第4の記事は「世界史の窓」というサイト。元高校の歴史教員がやってるらしい、情報充実の世界史サイト。買うと千円くらいする山川の世界史の教科書がネットでタダで読める、みたいなイメージ。

このサイトによると、「要するに一言でいうとヘンリー8世て誰」かというと、

イギリス・チューダー朝の王。16世紀前半に絶対王政を強化し、ローマ教会と対立してイギリスの宗教改革を断行した。

そういう人であるらしい。

ほか、次の記述に「へえ」と思い、「ほお」と言った。

宗教改革を議会との協調で進めるなど、絶対王政ではあるが議会との概ね良好な関係を保った。それによって当時ヨーロッパの弱小国に過ぎなかったイギリスが後の大国に発展する前提を作った

英国といえば議会制民主主義の国だ。なんだろう、ヘンリー8世がその「前提を作った」のか? 議会と王が良好な関係であることが大国への発展の「前提」となる、とは?

てか、こういうことだったんだよね、知りたいのは。実際、ヘンリー8世について知りたいというときに、知りたいのは何も、「6人の妻と結婚した」とか、「長女メアリはカクテルのブラッディ・メアリーの語源」とか、そういうトリヴィアルなことじゃないんだよな。知りたいのはむしろ、ヘンリー8世が何したことによってのちの世界史の推移がどうなったか、ひいては現在の世界・我々のこんにちの生活がどのように変わったか、ということなんだ。

もひとつ。

ローマ教皇と対立を深めたヘンリ8世は、1534年に首長法(国王至上法)を議会で制定させ、ローマ教皇にかわってイギリス国王を教会の首長とする宗教改革を断行、イギリス国教会を創始した。

1534年、首長法(国王至上法)ね。

すでにヘンリー8世について少なくない文字数を読み、にわかヘンリー8世通になりつつある何丘。このくらいの重要単語はいい加減覚えておきたい。読み方はくびながほう? でいいのかな。年号語呂合わせは「以後見よ(1534)我が威光」、これでいこう。

⑤Super!drama TV「ヘンリー8世と6人の妻たち」

ようやく程度の低い記事がきてくれて助かった。こちら。Super!drama TVというのは「海外ドラマ専門チャンネル」だそうだ。スカパー? 時代遅れだね。

既にヘンリー8世についてひとかたならぬ知識をつけている何丘が批判的に記述を読み解いていく。

その私生活は好色に満ち、6人の妻を娶っていたのだった。

書いてる奴の頭の悪さが露呈している。「生活が好色に満ちる」てどういう日本語なんだ。あと、「6人の妻を娶っていた」てのは誤解を招く言い方だ。六重婚してたわけじゃない、あいついで六人と結婚したのだ。

本作は、今まで撮影することができなかったヘンリー8世と妻たちの手紙を撮影することに初めて成功。

撮影することに成功て……。ただの手紙をウミガメの産卵か何かのように……。
いや、ただの手紙ではないのはわかるが。それを「撮影する」こと自体のどこが手柄なんでしょうか。んなもん別にドラマで見なくてもいいし。

本作は単なる歴史番組でもドラマでもない。ドラマとドキュメンタリーが融合した新しいスタイルの作品で、真実の物語である。(中略)全て彼らの対話やスピーチ、手紙などの歴史的文書をもとに再現した実話であり、テューダー朝や登場人物にゆかりがあり現存する地で撮影された。(中略)ドラマともドキュメンタリーとも言える新しい手法で、これまで明かされることのなかった歴史的事実を描く本作は見応え抜群だ。

「真実」「実話」「事実」とか言いすぎ。500年も前の歴史的過去をドラマ仕立てで表現するというときの、歴史的事実の<再現精度>を、高く見積りすぎ。手前味噌のお手盛り、「お手盛り味噌」とこれを言う。

捨てられた妻、愛人、耐える女性、器量が悪い女性、尻軽な女性、献身的な良妻――

これが「六人の妻」のキャラクター付けなんだろう。たしかに、今や半可ヘンリー8世通である何丘には、それぞれ思い当たるフシがある。

2016年、英国製ドラマ。結論:べつに見なくてよい。

⑥小樽商科大学言語センター倉田稔論文「ヘンリー8世およびトーマス・モア」

ひー、これ読むのか……。

読んだ。

いやー、これは無理だ。「絶望的に構成力がないやつ」の論文のサンプルが読みたければぜひ一読を。こちら

⑦鹿児島大学丹羽佐紀論文「『ヘンリー8世』における「真実」の意味をめぐって -イングランド宗教改革との関連性-」

また論文か……。ま、さっきのやつよりひどいことはないだろう。読んでみる。

読んだ。

・シェイクスピア戯曲「ヘンリー8世」は<真実の物語>をうたっている
・だが歴史的事実とは異なる点もある。では何をもって<真実>か
・歴史的人物(ヘンリー8世、最初の妻キャサリン、第二の妻アン・ブーリン……)を理想化せず、その人間的強さも弱さも描いてる。そういう<真実>
・また、すでに「国教会の国」となったイングランドで書かれた作品ではあるが、国教会を美化しすぎない。プロテスタントからもカトリックからも等距離。そういう<真実>

あ、こちらです。

他、この論文を読んで気になったワード:
エリザベス1世/ジェイムズ1世/パジェント/ロイヤル・タッチ

⑧武将ジャパン「ヘンリー8世が離婚再婚離婚再婚でぐだぐだイングランド」

出た。私の嫌いなSEOサイト。どこぞのスタートアップが広告収入目当てでやってるサイトだ、えーとアフィリエイトサイトというのかな。タイトルからしてアレだが……まぁ読んでみよう。

読んだ。

・2017年はルターの宗教改革から500年の記念の年だったらしい

へー、と思ったことは以上。あとは苦虫かみつぶしながら走り読みした。「おもしろおかしく歴史を語ってる」つもりなんだろうが、全然面白くないし、何よりテキトーはいかんよ。テキトーは。にわかヘンリー8世ツウの私はもう知ってるよ。キャサリン・オブ・アラゴンとヘンリー8世が未亡の嫂と義弟という関係でありながらそれでも結婚しなくちゃならなかったのは当時弱小国だったイングランドが対フランスを念頭にスペインと結んどく必要があったからじゃろが。政略結婚じゃ政略結婚。それで一度無理を押して教皇庁から結婚許可を受けていたからこそ、二十年後やっぱ離婚したいですと言い出したとき大問題になったんじゃろが。馬鹿が。下らんサイトだ、大嫌いだ。

てか私のような、知識ゼロの状態から単にグーグルで「ヘンリー8世」で調べて、上から順にいくつかサイト見ただけの人間が、すでにこのサイト(武将ジャパン)のこの記事書いた人の知識を超えてるとはどういうこと。どんだけ安いコストで記事を粗製乱造してるんだろうか。これがSEOスタートアップですよ。こちら

⑨大人の美術館「ヘンリー8世!英国史上もっともスキャンダラスな王と王妃の物語!」

歴史好きの個人ブログだろうか。こちら。どれどれ拝見します。

読んだ。おもしろかった。

衝撃だったのは次の記述だ。

度重なる王妃の死産や流産の理由はヘンリー8世が若い頃にフランスで罹患した梅毒が原因だと言われています。

おうまいが! これが事実だとすると、強い男子だの世継ぎだのを望むのはそもそも無理ゲーだった……?

それから、改めて、「王妃キャサリン多すぎ問題」に思いを致した。ヘンリー8世の6人の妻のうち、実に3人までがキャサリンだ。あと関連して、「宰相トマス多すぎ問題」。トマス・ウルジー、トマス・クロムウェル、トマス・モア……これでもかとトマス。

あと、「レディ・ジェーン・グレイの処刑」という絵が2017年に初来日して話題となったそうな。たしかに言われてみるとポスターか何か見たことある気がした↓↓

「レディ・ジェーン・グレイの処刑」 ポール・ドラローシュ、Wikipediaより

なお、ジェーン・グレイというのはヘンリー8世の姪で、ヘンリー8世没後まず王位にヘン8の長男が就き、次にヘン8の長女が就くのだが、正確に言うとこのふたりの間に9日間だけこのジェーン・グレイが王位に就いた。そこから「九日間の女王(Nine-Day Queen)」と呼ばれ、夏目漱石『倫敦塔』にも言及があるそうだ。

見よ、知識ゼロから出発した私だが、もうこのくらいマニアックな話じゃないと「へえ」と思わないまでになっている。

⑩(空白)

Googleで「ヘンリー8世」と調べて、出てきた記事を上から10個見る、見て、知識ゼロからヘンリー8世観念を構築する。そういうプロジェクトだったわけですが。

記念すべき10記事目が、ワァイ! エラーで表示されなかったよ。

何度も試したが表示されなかった。消去されたウェブページだ。わぁい! べんきょうがおわったよ、つとむ君つよし君、あすぼう!

「ヘンリー8世」て誰よ、YouTube

ちなみにYouTubeで「ヘンリー8世」と調べてみると、こんな感じで↓↓

たくさん出てくる。いくつか見てみた。たとえば

たいへん内容充実だった。あらかじめグーグルで10記事(正確には9記事)読んでいたおかげで、情報がすっと入ってきた。ヨカッタ。

~完~



要するにヘンリー8世とは

さて、なんだかんだ3時間くらいかけて、ヘンリー8世について読みかつ見た。ここらでまとめよう。

「ロシア語だとハリーポッターはガリーポッチェルになるよ」
「ふむふむ」
「そしてヘンリー8世はゲンリー8世になるよ」
「ふむ。ヘンリー8世て誰?」
「それはね……」

ヘンリー8世は要するに何した人か

16世紀のイングランド王。世継ぎを得るため離婚と結婚を繰り返し、生涯に6人の妻をもったが、けっきょく血筋を残せなかった失敗王。絶倫王。残虐王。

歴史的には、イングランド国教会を打ち立てて、イングランドを宗教的にローマカトリック教会から独立させたことが重要。……重要王。

結局わからなかったこと

国教会を打ち立てて、イングランドを宗教的にローマカトリック教会から独立させたことが、なんで重要なのか。

想像では、王が政治的な権力と宗教的な権威を一身に集めることで、いわゆる絶対王政とかいうやつへ道が開かれたのだ。多分。
でも、それは英国一カ国にとって重要なことなのか。世界全体、ひいては今日を生きる私たちにとっても重要なことだったのか。

あと、イングランド国教会というのは、いわゆるプロテスタントなのか?よく位置づけが分からない。

それを含め、学び残した人名・用語を以下に挙げる。このへんもう少し掘りたい。
百年戦争/薔薇戦争/カール5世/トマス・クロムウェル/トマス・モア/エリザベス1世/ジェイムズ1世/絶対王政/イングランド国教会

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