黒海の真珠(の胸飾りの少女) ※12/3更新

ウクライナの戦争

12/03

新聞を読んでいると、露のどっか、ハバロフスクだっけか、で日本文化フェスが開かれ、日本から声優とかそういう人が行ってパフォーマンスをした、アニメとかJポップとか好きな現地人がコスプレして集まって盛り上がったそうだ。そうかと思えば、いくつかのスポーツ種目で、露選手に対し、その三色旗のもとに、または中立資格で、国際競技大会に参加するのを容認するという話も聞こえてくる。4年が経つ。4年前に露が開始したこと。その開始に対する懲罰が済んだか。もうだから許してやるのか、こちらからも人がいくし、人がそこから出てくれば容れるか。だが待ってくれ、その開始されたことは、いちど開始されてそれで終わりでなく、昨日も今日も明日も、日々継続されているのである、ミサイルが飛んだ、集合住宅に当たった、人が死んだ、これは分かりやすい例だ、だが話はそれに尽きない、二色旗、あの美しき二色旗、見渡す限りのひまわり畑と、果てのないそうきゅう、私はこの目でそれを見た、その風景のただなかにいた、ことがある、そう遠くない過去だ、
その黄色いじゅうたんを、軍靴と車輪で、ふみにじる。二色旗の右端から火をつけて、じりじり焦がしていく。無数の地雷、クラスター弾、どろーん・じゅどぅーん(光ファイバーFPVドローン待機モード)、
その青い空を、真墨もて黒々塗り潰していく。夜の兵器化。寒さの兵器化。かつてむりーや(夢)が広い翼をひろげて飛んだその空を、もう雲雀も歌わない、破壊と殺人の鐵具が横切っていく、→どぉおおん!

曙光! ついにロシア軍が私たちを解放しに来てくれた!

「私の母親は賢い、およそ人好きのしない、蓬髪、人は来てその髪をあえて梳かさない、枯れ葉や何やふちゃくして見るからにうすぎたない蚤も恐らくはたかっている、人に好かれないということは私たちの社会では致命的である、それでも誰よりも長く生きた、冬がくるたびまだ生きているよこの猫はと言われた、春がくるたび身ごもるのが私たちだ、えっちがしたくてしかたなくなる、だが私の母は賢いから、にんしんしないために、えっちしなくてすむように、荒野に隠棲した、人界に下りれば接触は避けられない、だから荒野に自棄して飢餓を受忍した、4月はな月、5月くさ月、荒野を彷徨い、6月あか月、7月ぼだいじゅの花のさくころ、ようやく人界におりてきて幽鬼の姿をさらした。その母もみえずなり。ついでその娘の娘(わたしの娘)もみえずなり。いまはわたしもそこにいない」

薄汚れたみちょーるか(祖母)、白猫かずゃーわ(母)、愛くるしいりぷーちゃや(娘)。賢治がうたった「ウクライナの舞手」のすがたして、私らのダーチャから道を少しくだったところの、荒野で舞っている。ミサイルが降り注いでも、その音もなき優美なステップは乱されない。轟音、爆音、燃える、燃える。ウクライナの舞手たちのすずしき横顔。

12/01

まただいぶ日が空いてしまった。

事態はすごく動いている、ように見えて、本質的には何も動いていないのかもとも思う。

このかんの二大事件はなんといっても汚職スキャンダルと「和平プラン」である。内憂と外患。虎穴を逃れて竜穴へ、ケツ穴からケツ穴への往還でウンコまみれのゼレンスキー、ポクロフスクはもう失った、電力はズタボロ、人員不足のウ軍は人狩りに躍起、わが義兄はリクルーターとの遭遇を恐れてもうほとんど家を出ない、

エネルギー部門の汚職というのはさすがに落胆させた。だがだからウクライナの人たちが冬に凍えていいということにはならない、越冬を支えるために私たちができることを考えなくていいということにはならない。

政権内部・市民社会・前線・後衛・アメリカ・欧州、どこを見ても希望の光が見出しがたいなかで、突如として28か条の和平プランなる怪文書が出たとき、その全文を読みながら、これがひとつの終わりの形、と奇妙な納得を覚えていた。はじめて、終わりをリアルに感じた。

だが当然ながら、ウと欧が、ほぼ原形ないくらいに鍛造しなおして、米に返した。「終わり」のイメージがすーと遠のいた。この案を露がのむわけがない。ということは、戦いはまだ当分続くのである。

(MeduzaのPodcastでクズネツォフが言ってた、たしかに茶番じみているが、こうしたことのたびにウ露の立場がちょっとずつ縮まっているのも事実であり、「米露が糞提案→ウ欧が修正案→露これを肯んじず結局は戦闘継続」これを何周か繰り返したところで、戦争は終わるのであろうと。卓見・・。)

ザルージヌィのテレグラフ寄稿によれば、戦争は往々にして明確な勝敗がつかないもので、第二次世界大戦などは稀有な例外である。我々の戦争では、ウクライナの勝利とは即ち露連邦の崩壊、ウクライナの敗北とは即ちウの全面占領であって、その他のものはすべて戦争の継続である。ただし再侵略を抑止するに足る十分な力をウが得た状態で安定的な休戦状態を得ることは可能であり、そのかんに政治改革、出国者の帰還、復興、経済成長を十全に成し遂げることすら可能である。では「再侵略を抑止するに足る十分な力」とは何か。それはたとえば、NATO加盟、相当規模の外国軍の駐留、あるいは核武装である。(https://www.pravda.com.ua/rus/news/2025/11/29/8009595/)

「唯一の被爆国」の人間がそんなことを言うなんて、と眉をひそめられそうだが、私は、ウクライナの核保有を時限的に認める(数発の核弾頭とその運搬手段(望ましくはモスクワを射程に収める)をウに供与する)ことが、一番安上がりな安全の保証であると、シンプルに思う。それは道徳的に許容されると思う。ブダペスト覚書の経緯から、論理的に自然な帰結とすら思う(約束を破った側である米露他が、ウから取り上げていた核兵器を返却するという形)。大量広範多様な破壊を飽かず続ける露の破倫に、核不拡散の高潔は見合っていない。

ほか、最近読んで印象深かった論考(メモ):露「カオス理論」、待ち伏せドローンの恐怖、NYTトランプ79歳耄碌説

11/08

ウクライナは全国的に暖房シーズンに入っている。まだそこまで寒くはない。東京よりはだいぶ寒いが札幌ほどではない(今のところ)。キエフの10日間予報↓

オデッサ↓

(読み方:左端:11月8日土曜、曇り、最高気温10度、最低気温9度)

露によるウのE網破壊は順調に進んでいる。全土で終日、時間単位の計画停電。少ないところで1日2時間、多いところで8時間の停電。今後これより良くはならない。

ともしび、ぬくもり。にんげんを野生状態と文明状態にわかつもの。それがなくては生きていかれないもの。とりわけ北国の、冬には。

わたくしは、40年の人生で、3度の冬を、ウクライナで過ごしたので、その暗いこと、寒いことを、よく知っており、(同じ暗さ、同じ寒さの、モスクワでも、4度ほど冬を過ごしたが)、この3年は、冬がくるたび、心が痛く、ウクライナ越冬支援に協力をといって、要は、日本の一般市民に募金を呼び掛けるということを、どこぞかに拙文を寄せて載せてもらったり、なんだり、してきたが、年を追うごと尻つぼみになり、昨年は、なんやかややぁやぁ言いはしたが、結局は、私らがウクライナで使っていた発電機(露の攻撃でウが停電しても、それがあれば、少なくとも一軒の家に、灯りが灯る)と同型の発電機が日本円にして9万円で買えることを確認し、その同じ9万円を、発電機一台分のつもりで、UNHCRに寄付した、その個人的な、欺瞞的な、自己満足みたいなことで終わった。赤い羽根募金に100円投じたのと変わらない。今年は? 「日本人ファースト」が幅を利かせる今の日本に、何を訴えることができるか。

イルミネーションの季節だ。三鷹の商店街にもともしびが灯る。なくてもよい光。余計な光。贅沢な光。それがなくても凍えない、それがなくても夜が短い、過ごしやすい東京の冬の、要らない電気。今年限りそれを中止して、余剰のお金をウクライナに送ってあげたら、という論法を、用いて、市役所だの、市長だの、商工会だのにかけあった、成果ゼロ、それが去年。ますます忘れられ関心外へと追いやられつつあるウクライナ。

猫が多い。東京を歩いていても、三鷹くらい田舎でもだ、野良猫を見ることは極端に少ない、だがオデッサにはうじゃうじゃと猫がいる、海辺にもいる、冬の海は寒い、だがもこもこに着込んだおばちゃんとかが、わざわざビーチまで降りてきて、海棲みの、猫たちに、魚のお頭とか、かりかりとか、撒いてやっている。この冬もきっとそうする。猫たちはそうして生きていく。

慈しみ。人間の、慈しむ心。その反対のものの、そのまた反対のもの。私たちはどちらの側にと言うならば大停電のその日にも着込んで頬を赤くして浜へと降りていき猫に餌を撒くものの側に立つべきだ。

その側に立つとは、何をすることであろうか。どのような心の状態で、何を言い、何をすることが、そちらの側に立つ人に相応しいだろうか。

千たび、単純な、暫定的な、回答は……関心を持ち続けること、露を安易に許さぬこと、可能であれば、端的に言って、ウクライナ(と、それを支えるもの)に金銭を送ることだ。

10/18

東部の灰色地帯に二色旗たてた・三色旗たてたの戦いと同時進行でもうひとつ、E戦争、すなはち、エネルギー戦争、あるいは、エンジニア戦争

УП(ウクライナ・プラヴダ)16日付け論説によれば、

E戦争は新たなフェーズに入った 露の戦術は、かつての絨毯爆撃から、段階的蚕食へ さらなる冷血主義の深みへ 電気を一部屋一部屋パチンパチンと消していくように 一つのエリアから一つのエリアへと 順繰りウのEシステムを破壊していく 緻密に、組織的に 今はたくさん持ってるドローンをぶんぶん飛ばして よりよく当たるようになったミサイルをつこて

ブラックアウトの基礎戦略:ウのEシステムを2つに切り裂き統合不能に ざっくり言って、ドニエプル左岸と右岸を分断する 「断層」は、イメージ的には、УПによれば、こう走る

3ステップを踏む 第1に、戦線ないし露との国境に近い左岸(東部)側の発電力を徹底的に叩いて根絶やしにする 第2に、右岸(西部)から左岸への電力供給ラインを叩いてずたぼろにする これで電力需給が黒字の西と赤字の東に分断する しまいに第3、西側の発電力を叩く

戦争4年で最悪の冬は22-23年のシーズンだった 22年11月23日のブラックアウト(大停電)では水なし電灯なし暖房なしの状態に1000万市民が陥った(その状態が地域により短くて1昼夜、長くて1週間続いた)

この冬を痛みなしに乗り越えられる確率はゼロである 電力不足は確実に起こる 秋時点で既に全土が緊急停電を経験している スームィおよびチェルニーゴフの両州では計画停電が常態化している 一つの予測によれば「4×2体制」が敷かれる、すなはち、4時間停電が続き、2時間通電し、また4時間停電し、2時間通電…… 最も深刻な電力不足に見舞われる見込みなのは、やはり前線沿い・(露との)国境沿いの諸州である すなはち チェルニーゴフ スームィ ハリコフ ザポロージエ ドニエプロペトロフスク ニコラエフ ヘルソン そしてオデッサ

なぜこうなった ひとつには 露の攻撃の厚みと巧みの向上 膨大なドローンと 精度を増したミサイル

またひとつには ウの防空能力の不足 それをきたしたのは 西側の支援の及び腰もあるが ウの内部統制の問題もあり かつて提唱された3層防御(土嚢と鉄筋・コンクリを複合利用)も所管曖昧で結局未完 西側パートナーから声望高かったウクルエネルゴのクドリツキー社長の解任など人事のごたごた また先立つ24-25冬が比較的穏やかに越せたことによる油断から予見可能だったはずの今冬の再攻撃への備えを怠った、との指摘もあり(最高指導部会合では一体誰が何の担当なんだと毎度ゼレンスキーの怒号が飛ぶとの証言もあり)

露の攻撃をコンサルしてるのは露側の電力技士たちである ウ側の同業の問題点・弱点を知悉してる彼ら エンジニアの戦争とこれを呼ぶ この者たちが大学で電気工学を教わったのは 光を灯すためでなかったのか 敵対者の光を消すためではなかったはずだ 

この戦争を実態として担う沢山のプロフェッショナルたち そのそれぞれの人生のうえの学問、恩師、学友、青春 人を殺せと教えしや 人間が人間を殺す 人間が人間の街を壊す、この酷薄・・

10/10

ウクライナは北国である

「黒海沿岸の温暖なビーチリゾート」オデッサの緯度は北海道・宗谷岬と同じ 冬は暗く(日照時間僅少)かつ長い(11-4月) 真冬は日の平均気温が零下10度という日も珍しくない 寒波到来で零下20度ともなると不凍の黒海も水際は氷結する

そんな寒いウクライナでは家に暖房があることは基本的人権である(生存に直結) だので

都市部では、暖房は各戸任せでない、インフラでまかなう、中央でどかっと熱水を作ってパイプラインで各戸に配給する 集合住宅の壁にはこのパイプラインの枝変われしたものが縦横に張り巡らされている それが壁暖房になって冬でも屋内は暖かである それで生きていける

こうした都市インフラはソビエト時代から受け継いだものである キエフもモスクワも同様のシステムを使っている モスクワは素晴らしくよく分かっている キエフがどれだけ寒いかも、それでも冬場キエフで人たちが凍えないのは何ゆえであるかも、裏を返せば、この暖房システムを止めてしまえば、キエフがどのような寒さと闇に閉じ込められるかを

上記セントラルヒーティングは電力に依存している 熱水は電力で作る 電力が止まればウクライナの冬を明るくするもの(光)と暖かくするもの(熱)を同時に奪える モスクワはそれを素晴らしくよくわかっている

露はまた開始した 冬のとば口 ウクライナの電力網に対する攻撃を 変電所など枢要な電力施設をミサイルとドローンで破壊して回る 連日報じられている 昨日はキエフでドニエプル左岸が大停電、きょうはオデッサ州44市村が停電・・

このかん報じられたところでは、露はミサイルとドローンを用いた複合攻撃に戦術的イノベーションを起こし(弾道弾2種(イスカンデルM、キンジャル)の機動性向上でPatriotすり抜け)、ウの防空体制はいまだこれにキャッチアップできないでいる ずっと見ている私としても、このごろの露の攻撃成功率、つまりはウの電力網の被害発生率とその規模は印象的 また被弾を許したのか、それもそんな規模でか、と驚かされる

ながい冬が待つ

キエフの病院学校等では既に中央暖房が始まっている

今はまだ大丈夫だ、キエフの日中最高気温は10度前後で推移(10日間予報10/11~20日

だがこれから長い冬がくる

繰り返す、モスクワは素晴らしくよく分かっている ウクライナの冬の寒さ、暗さ、ウクライナがどのような防寒体制を敷いているかを だって自分たちだって同じような緯度で、同じような寒さと暗さで、おんなじ暖房システムを使っているのだもの 自分がされたらいやだと思うことを相手に対してやる いや、これは言葉がやさしすぎた 「こうされたら自分が死ぬと知っていることを相手に対してする」

兄弟殺し、とこれを言う 露がウの電力網を破壊する 冬を兵器に使った虐殺 去年も一昨年もその前もやろうとしたがうまくいかなかった 今年はそれが少し巧くなった 戦争4度目の冬

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