学問せむとや生(あ)れけん生れけん。
仕事を休んだ
10月1日水曜、この日仕事を休むと決めるとこの日付けが輝きだした、光明、この日俺はついに鬱の森を抜けるのだ、起死回生の有休、この日はなんでも都民の日とかで、この日都内の一部ミュージアムが入館(入園)無料になる、たとえば、身近なところでは、井の頭公園の動物園が無料になる。上野の動物園も無料になる。あんまりいかないエリアでは、浜離宮とか無料になる。これにかこつけて、一日仕事を休んで、Lは飽くまで保育園にやって、私と妻とRの3人だけで、浜離宮とか出かけて、大門あたりで、ちょっといいランチを食べる。これらのことが劇的に作用して私は精神の均衡を回復する。水曜、その日は水曜、10月1日、10月の最初の日、
だがその日、その前後の日は晴れて、まさにその日のみ、予報は雨であった。
またそのこととは独立して、前日の晩に、妻と喧嘩してしまい、険悪なまま10月1日の朝を迎えて、雨は朝から降っていて、浜離宮のことを言いだしたのだが、言下に「私たちは行きません、一人で行っておいで」と言われ、「てことは、私は憂鬱になるということだ!」と自刑宣告して、そそくさと荷物をまとめて外出した。ともかくも外出した。一人で。
くさくさ電車乗った。電車乗ってたら妻からLINEきて追撃された。いつもならこちらから折れる。今回は折れなかった。す・まえい・とーちき・ずれーにや・ヴぉつ・たく・ヴぃーじぇっつぁ・しとぅあーつぃや、といって、反撃した。電車は新宿に着いた。くさくさ乗り換えた。同じホームの別の電車に。
①電車の中で読書に没頭する
②恵比寿の写真美でなんか見る
③早稲田で昼飯くう
④早稲田松竹で映画見る
これが私の即席で立てた計画であった。恵比寿ガーデンプレイスの東京都写真美術館でペドロ・コスタ展というのを見た。なんでもよかった。都民の日に無料になる何かの施設にとりあえず入りさえすれば。有休とったことの正当化に。結果、よかった。展覧会のタイトルInnervisionsはStevie Wonderの同名アルバムから、これは私も大好きなアルバム。あと黒人が全面にフィーチャーされてて、ちょうど岩波新書のブラックカルチャーという本を読んでいてなんかリンクするかもと思って、結果なんもリンクしなかったが、でも黒い人のものすごく大きな顔面を眺められて眼福でした。会場内はものすごく暗くしてあって、動線見分かず、どきどきした。ユニークな鑑賞体験なった。
それでエビスの極上生ビールでも飲んだろうと思って、同じガーデンプレイス内の、エビスビールの博物館へ(それに併設の、ビアホールへ)。記憶だと一杯500円とかで飲めたのだが(学生時分、だから、20年も前か)、果たしてこのかんのインフレで、一杯1200円!!とあって、会社サボって妻と喧嘩して育児ほっぽって家出してきた今の自暴自棄な自分にも、さすがにそこまでの贅沢はできず、こんど妻と来たときに、と
恵比寿から山手線で6駅くらい、
馬場で降りて小雨ふるなか馬場歩きして馬場歩きとはね、早稲田から馬場まで歩いて帰ることだが、たぶん馬場から早稲田まで歩いて行くこともたしか馬場歩きと言ってよかったと思う、だが私ゃあ老いたのか! 早稲田までのみち、永いこと永いこと! ものすごく遠かった。「オトボケ」でチキンカツ食った。780円。学生時分は500円だった。これに50円追加してご飯大盛りにするときもあった。メンチやクリームコロッケも同じ値段で、ジャンジャン(生姜焼き)だけ600円だった、ジャンジャンを頼むのは、ちょっとした贅沢だった。今はチキンカツのふつう盛りで十分だ。みそしるは相変わらずおいしくない。たくあんはほとんど手を付けずに残した。同じ親爺と同じあんちゃんがやっている。会計・注文システムだけ新しくなっている。券売機に印字の番号でできた順に呼ばれるので取りに行く。カンボジアかどっかの人たちだということだったと思う。「へいじゃんじゃんお待ち!」のあのあんちゃんは、いい感じに、おっさんになっている、私と同様に。
太一君の家に立ち寄る。もと太一君が住んでた家、必ず立ち寄る、むろん外から見るだけだが、三徳スーパーに寄って、太一君への手土産を物色、もう大人になったから、社員マスカットと、2000円のワインと、生ハムと、チーズを買っていくよ。という一人芝居を脳内で演じながら三徳店内くまなく歩きまわり、果たして自分のために瓶入りのシードル、ミニサイズ600円を買って、歩きながら飲んだ。太一君の家は株式会社なんとかの事務所になっていて雨戸がたてられていた。
松竹で見逃していたオッペン化粧品、て何これ、オッペンハイマーを見た。みごたえにじゅうまる。広島に玄白落としましたという話を唯一の被爆国とやらの国民が真面目な顔して(満席だった)一心に画面見つめていて暴動も起きないのがシュールだった。メッセージ・・いや問いかけは、強烈かつ明白。われわれが手にしてしまったものの恐ろしさをおもえ、これが本作の爆心からの叫びである。核兵器は世界をそれ以前と以後に画するというアイデアは自分には十分にリアリティがある。人類を1度以上絶滅させるに十分な量の核とその運搬手段を手にした者(現状では米中露)には「無敗」と「絶対的専横」が約束される(だって人類という種そのものが人質なのだから)、そういう世界に生きている。それを日々見ている。
オッパッピィは自らの犯した二重の罪に無自覚であるにはあまりに遠視的であった。一つは、広島と長崎における無辜の虐殺。一つは、人類に自殺の毒薬(毒林檎)の甘味を教えてしまった、プロメテウスの罪。オピーに何より恐ろしいのは、ことの経過を振り返るにつけ、核爆弾の誕生は、職業的誠実さと、真理探究心の必然の結果としか見えないことだったに違いない。何度たどりなおしても、人類は核爆弾を手にした。映画を観ている私たちも、ごくごく自然に、それに向けた登場人物たちの苦心への同情から、トリニティ実験の成功を喜んでしまえるのである。オッピィ、オッパピィ、オッピィ、オッパピィ。
で電車のって帰宅した。本谷有希子「セルフィの死」を1日で読了した。帰ると妻は私に宥和的であった。私はこの日一日自分がどこ行って何を見てきたか何ひとつ報告しなかった。今もしてない。だが私の気散じはどうか成功した。いま、いう鬱じゃない。
私は鬱病にはならない、決して
私は憂鬱にはなっても、診断書つきの鬱病には決してならない、一生ならない自信がある。自殺もまさかしないだろう。私は繊細でなさすぎる。私は浮力のありかを知っている。しんどいときどこに縋れば浮き上がれるかを知っている。私は向日性である。気候がよく晴れていれば必ず外へ出たがる。こういう人間は大丈夫。よくも悪くも大丈夫である。
私には思想がない。信条がない。哲学がない。あるのは立場だけである。その立場からものを言う。ポジショントーク(実は自己の立場を維持また強化することを故意また無意識の動機とながら、その事実を飽くまで隠し、あたかも一般的真理であるかのようにある主張を展開する、偽善的態度のこと)というやつである。私の言うことは全部そう。
前回私は外国人フレンドリーだ参政党はファック、と書いたが、それは私の妻が(日本において)外国人で、私自身、日本にいたりいなかったり、悪い意味では紛れもなく日本人であるが、気分的には、半分日本人を降りてるような、はみ出てるような、そういう中途半端な存在だから、それで、マージナルな人たちを、立場上、擁護せざるを得ないのである。せざるを得ない、というと、いやいやそうしているようであるが、これは深いところの動機なので、表面的には、それが正義だと思って、その強度でもって、自信まんまんで主張している。
選択的夫婦別姓なんか当然認めらるべきだ、うちは私と妻の苗字違うけど全然何の問題もありませんよ、と言うが、よくよく掘ってみると、日本において、私の戸籍には、私の中村という姓と、妻の全然違う姓名と、あと私の子ら、LとRには、私の中村という姓がついている。私は結局はマジョリティのがわから、子に自分の姓を名乗らせることに成功した強者の側から、選択的夫婦別姓は認められるべきだと言っている。「全然何の問題もない」とか言っている。
私は保守とリベラルという一般的な分類でいえば明らかに保守ではなく、自分のことを多分にリベラルだと思っているが、「多様な性自認」については、我ながらかなり偏狭であって、言葉を選ぶが(時流にそぐわないのは分かっているので)、今の西側文明の、このことに関しての寛容性は、かなり行き過ぎていると思っている。だがこれなども、自分の世間の狭さで、十分に説明がつくかもしれない。私の半生の交遊録にかかる多様性の発露は見られなかった。私は繊細さのない糞ヘテロとして、ガキを二匹もこしらえて恥じない。
私は露の暴力を憎む。イスラエルの暴力を憎む。私は戦争を憎み、暴力を憎む。だがこれだっても、私がヒョロ作だからということで、相当程度説明がつくかもしれない。私は膂力に優れないし、格闘術を身に着けてもいない。私を暴力で打ち負かそうと思ったら高2の兄の中3の弟一人で十分だ。だから私には法治が必要である。外部権力による暴力の独占という体制が必要である。この立場から私は国家をまた国際連合体を要請する。現実には、国連を機能させない「P5」のRとAとC、また機能しない国連を、憎み、恨むことになる。
私には思想も哲学もない。あるのは「立場」のみ。その立場から、ポジショントークをしている。
私は浅薄皮相な、内容空疎な、「繊細さのない糞ヘテロ」、文章もいうて上手でもない、いうて語学力、ロシア語そんな大したことない、
いうて子供にかまけてない、愛してるかも怪しい、
誰のことも・・ああ、俺は憂鬱じゃない。決して憂鬱じゃなく、これら言葉を書いている。

