ウクライナ戦争観察日記

オデッサ/ウクライナ/ロシア

「側面史」と題した一連の記事の続編。その呼称はやめた、そんな大したもんじゃないなと思って。これからは「観察日記」でいく。朝顔の観察日記。毎日その消長を観察してるので。情報の取得先はУП(ウクライナ・プラヴダ)とMeduzaに絞る。各項、その日付けに先立つ一昼夜ほどの間に両メディアに出たニュースや論説を、まとめ、いささかの私見を付してお届けする。軍事も政治も社会も文化も取り上げるが、話題の取捨選択、ある事象が重大であるか些末であるかの判断は、それが「この戦争の終結にどのくらい資するか」というシンプルな基準によってなされる。私の願いはただ一つ。この憎むべき戦争が一日も早く終わること。

9月4日(の朝しるす)

更新間遠になって申し訳ない。私の優先順は、①何かやる(実際に何かやる)②「何かやる」を更新する③戦争観察日記を更新する(④一千万字を更新する)なので、①もやる暇がないときは、③も更新しない。(ちなみに、①よりさらに優先することとして、⑴妊婦と4歳児の世話と⑵米塩の資を得ることとあり)

ただニュースを見てはいる。見ることはめちゃくちゃ見ている。で、メモをとっている。今はそのメモ(9/2までの分)をコピペするにとどめる。

●人事
・国営電力「ウクルエネルゴ」社長クドリツキーが解雇された。
・ウ軍のドローン軍こと無人システム軍(СБС)司令本部長官にR.グラトキー(Гладкий)任命、だが露とのつながり疑われSNSでスキャンダル、かつて国家反逆/スパイ/汚職容疑かけられたいわくつき人物、妻は露旅券所持、娘はスポーツ露代表。のちスィルスキー、人事再考を約束
https://www.pravda.com.ua/rus/news/2024/08/31/7472847/
・ゼレンスキー、空軍司令官N.オレシチュク(Олещук)解雇、理由明かさず。F-16墜落引責との噂あり

●遠爆
・露と隣接するスームィとハリコフの両州に無道の猛火が浴びせられている。
・9/1→2は「弾道弾の夜」。58飛翔体、ミ35発とド23機、前者のうち16発が弾道ミサイル、うち9のみ撃墜。ほか、巡行ミサイル13発、シャヘド20機をキエフ、スームィ、ハリコフ上空で撃墜。

●遠刺し
・8/31→9/1は逆にウのドローンが露に数多発せられた。総数不明、露発表で158撃墜。最多記録更新(それまで最多は8/14未明 117撃墜)

●防空
・26日の全土爆撃の直後にクレバ外相が諸外国に求めた「2つのこと」長射程砲による露本土打撃許可と近隣諸国の防空への参加。この後者につき、ポーランドでこのほど行われた世論調査によれば、自国領空内に侵入した露ドローン等の撃墜をポーランド軍が行うことを、国民の過半が容認している。賛成6割弱、反対2割強。26日の攻撃ではシャヘドと見られる飛翔体が33分間ポーランド領空に滞在した(が、ポーランド軍は例によって何もしなかった)

●展望
・ISW:露は先月半ば予備部隊をПокровск方面からKへ転地した可能性あり 圧力が露軍事行動の全セクターに圧力をかけている証拠 ただこれら部隊が当該方面の最前線でかつて使用された証拠は何らなく 依然としてТорецком или Покровском направлениях突破は優先
https://www.pravda.com.ua/rus/news/2024/09/1/7472900/
・英誌The Times:露は25年春にD州全域掌握しДнепропетровщине脅かす 防衛者は人も弾薬も眠りも不足 対する露政権はПокровскのためなら無限に人を失う構えв Мариуполе, Северодонецке, Бахмуте и Авдеевкеと同様、平にして廃墟の状態で取得の意向 同市攻略による些少の戦略的報酬はПокровск輸送ハブの掌握と高知в Часовом Яру取得 これを北/西への大規模進軍の橋頭保に D全域掌握しDP来春侵攻のため 今年戦場で決着がつく見込みは双方になく双方とも来年の地上戦争に向けた突破を図っている
ウの戦略家諸氏のK作戦の目論見は露民によりわかりやすい形で長期侵略戦争の対価を示しVVPへの政治的圧力を高めることか ウ指導部に魅力的な目標かもしれないがその達成の過程でПокровск и Часов Яр失うことを甘受することにはなるかもしれぬ その結果Zeやスィルが国内の政治圧力にさらされる可能性はあり
https://www.pravda.com.ua/rus/news/2024/09/1/7472952/

●ウメロフ国防相は果たして8/31訪米でATACMSで攻撃したい露深部標的リストを米当局者に手渡した

8月30日朝(しるす)

〇電力
電気は全然かんばしくない。昼過ぎ時点、キエフと11州(O含まぬ)で緊急停電。それ以外の各地では計画停電。
“Укрэнерго”のпредседатель правления компании Владимир Кудрицкийに英BBCが行ったインタビュー(26日以前)によれば、①露攻撃の累積で喪失した9ギガワット(900万kW)全部を冬までに回復するのは確実に不可能で、ひかえめにいって困難な冬とはなる。②とはいえ手をこまねいているわけではなく、毎月毎月、理論上露の攻撃で失い得るより遥かに多くのтрансформатор(変圧器?)を蓄えていっている。また、各施設、シャヘドが直撃しても大丈夫なくらいには、防塁を固めている。

〇世論調査
民主的イニシアティブ基金がラズムコフセンターと共同で行った調査(8月8-15日)

・戦争責任
ウクライナ侵略について全てのロシア人が責任を負う……76%
否……20%
どちらとも言えぬ……4%

(むしろ露指導部を戦争へと焚きつけているのは露市民である……64,5%)

・露への不信
今次の戦争の終結条件の如何によらず露はまたウを攻撃するだろう……59,5%
国際的な安全保障があれば、将来の露の侵略からウを守ってくれるだろう……62%
https://www.pravda.com.ua/rus/news/2024/08/29/7472509/
https://www.pravda.com.ua/rus/news/2024/08/29/7472527/
https://www.pravda.com.ua/rus/news/2024/08/29/7472515/

〇F-16
26日の露テロ(200超の飛翔体による空前規模のインフラ攻撃)の撃退には米国製戦闘機F-16も動員されたが、このさい、1機が墜落し、パイロットが死亡した。
まず米紙WSJが報じ、のちウ軍参謀本部も認めた。それは具合が悪い。すったもんだのすえようやく今月初頭にその第一便が納入された戦闘機がさっそく一機失われてしまったのだもの。
敵弾に撃墜されたのでなく、事故らしい。パイロットのミスなのか、友軍火砲を誤って浴びたか。原因究明中。空軍によれば、同パイロットはこの26日の防空ミッションにおいて、巡航ミサイル3発と無人機1機を撃墜したとのことだ。
https://www.pravda.com.ua/rus/news/2024/08/29/7472554/

8月29日朝(しるす)

〇全土爆撃①
26日㈪未明、首都キエフほか各地に、空前の規模のミサイル/ドローン攻撃があった。ミサイル127発、ドローン109機(合計236の飛翔体)、うち102発・99機撃墜。つまりミサイル25発も標的命中を許した。

↑空軍がいつも発表してる、どの種類の飛翔体がいくつ飛来したか、を一目で瞭然さすやつ。こんな絵ヅラは見たことない。

狙いは電力インフラらしく、未詳だが、各地で被害。一例として、キエフ水力発電所の攻撃があったが、こちらは被害僅少で済み、同日17時にはダム上の通行が再開した由。ただ、電力網には相当なダメージが入ったようで、月曜当日大規模な緊急停電、火曜以降は各地で長時間の計画停電が続いている(28水現在も)。エネルギー当局によると、「秋期(9・10月)はうまくすれば停電なしで済む」との楽観、また正念場たる冬への準備計画は、修正を余儀なくされた。

同日晩の警察発表では、各地で合計、7人死亡、47人負傷。

クレバ外相は、本件を受け、同盟諸国に次の二のことを訴えた。第1に、西側供与の長射程砲による露本土攻撃をいい加減認めよ。ウの電力網に対する攻撃を防ぐには、それら攻撃の発射ポイントになっている露本土の基地を、こちらから攻撃して撃滅することが是非とも必要だ。第2に、今回の攻撃はウ西部にも及び、ポーランドでも戦闘機がスクランブル発進するなどしたが、もしこうした露の攻撃がNATO諸国の近傍にまで及んだ場合に、それらNATO諸国の防空システムが、ウクライナの代わって敵飛翔体を撃滅してほしい。いずれも専守防衛措置であり、エスカレーションには当たらない。

なお、今回の攻撃では、電力施設に対するクラスター爆弾の使用もあった(初めて)とのこと。ただ、こちらはうまいこと防いで(撃墜?)被害は僅少とのことだ。また、防衛側は、F-16を使用し、これがミサイルとドローンの撃墜にだいぶ貢献したとのことだ。

印象として、攻撃の規模の大きさのわりに、被害の報道は、さまで大騒ぎでない。こうなると逆に、発表されないほうの被害、すなわち、軍事的損失(民生施設の被害は詳報するが、軍事施設の損害については原則公表しない)のほうが心配になる。電力網についても、被害の規模は未詳である。げんに停電は行われている。

〇全土爆撃②

つづく27㈫未明にも相当規模のミサイル/ドローン攻撃があった。ミサイル10発、ドローン81機。うち5と60を撃滅、4人死亡、16人負傷。

〇長射程砲

ここへきてゼレンスキーが、露クルスク州(以下、K)侵攻/占拠作戦は、まさに西側供与の長射程砲の露本土深部への使用許可を西側がくれないために、自軍で物理的に越境・侵入して露テロの策源を破壊せざるを得なくなったのだ、と言い出した。実はこういう目的(動機、狙い)があった、というのを小出しにしてくる。

ウは、泰然の米を動かすために、ATACMSであれば撃滅可能な露本土の軍事標的のリストというものを、米側に提出する意向だ。近く(週内にも)ウメロフ国防相とイェルマーク大統領府長官がワシントンを訪れて手渡すという。中にはこれを叩ければなるほどすごい効果だとうならせるような「旨味のある(жирные)」標的もあり、これでいよいよ山を動かせるか。

米の慎重姿勢は、まずエスカレーションを恐れているのと、あと、長射程砲が飛んでくるかもしれないとなったら露としては当然に潜在的な標的をその潜在的攻撃手段の舎弟範囲外に引き下げるだけなんで、意味あるか?という懐疑論による、とのことだ。ただこの後者については、なるほど航空機など移動が容易なものはともかく、工場や物資の大量集積地・物流拠点など移転が容易でないハードな標的も色々あるではないか、との反論がある。また、ATACMS用のミサイルもそう弾数ないんで、解禁したからといってそうばかすか撃てるもんでもない、という現実も。クリミア半島内の露軍事標的の破壊は効果的だし露本土深部へのドローン攻撃も奏功してるので、それに専念しとけば?との声もある由。

ちなみに米供与のATACMSと並んで英供与のStormShadowというのも長距離攻撃手段だが、英のほうには解禁容認論もあるものの、けっきょくはStormShadowも米のコンポーネントを使用しており、そのウによる露本土への使用許可についても、米の同意が必要とのこと。要は米が単独でブロックしている状況か。

許可くれないなら自力でやったる。ということで、ウは長射程砲の国産化を急いでいる。ドローンミサイル「パリャニツャ」というのが一発、すでに露本土を攻撃したとのこと(折しも24日の独立記念日に。ゼレンスキーが発表)。これについてフョードロフDX相「1発100万ドル未満。射程距離は秘す。ソ連式ミサイルを基礎とせず、全く新しいものを、18か月でゼロから構築した。ゲームチェンジャーになりうる。露の意想外な場所に攻撃可能。露の大面積はそのまま脆弱性になり得る」

〇ドゥーロフ

テレグラム創始者パーヴェル・ドゥーロフ(D)と露当局の黒い関係が取りざたされている。故国喪失者を気取っていたが、このほど露出入国管理当局の内部情報がリークされ、Dが露から「追放」された2014年以来、わかっているだけで60回以上も露に帰国しており、逮捕当時も有効なロシア旅券を所持していたことが判明。露当局によるテレグラムBAN(2018-2020)は有名無実のものであり、しかも、ロスコムナドゾルがBAN解除を発表したのが2020年6月18日の15時で、その数時間後にDは露から出国している(つまりその数時間前まで露にいた)。露政権となんらかの取引があったことを強く疑わせる。少なくともDの、自分は追放者であり故国喪失者であり、露には帰れない・帰っていないとの繰り返された発言は、真っ赤な嘘であった。当然の疑問:なんのためにそんなウソをついた?かく多年かつ多回にわたり?

8月27日朝(しるす)

この数日(23~26日)の話題:23日インドのモディ首相がきた。24日、ウクライナ独立記念日だった。同日、テレグラム創立者パーヴェル・ドゥーロフが逮捕された。同日、115人×115人の捕虜交換が実現した。以下詳細。

●パーヴェル・ドゥーロフ逮捕

ドゥーロフというのはおばかさんという意味の姓だが私と同じ84年10月生まれで要はロシア版の何丘と思ったらいい。もとい、ロシア版のザッカーバーグ(フェイスブック)と思ったらいい。テレグラムというメッセンジャー兼SNSを作った。要はLINEとTwitterが合体したようなやつだ。ユーザー人口世界9億5000万のメガアプリ。売りは匿名性。
ドゥーロフはロシア人だが数年前に露当局と関係を悪くし最近は複数もつ国籍(仏、UAE、セントクリストファーネイビス)を利してドバイを常居としていた。露政権のほか米欧ともあまり関係がよろしくなく、ここ数年は外遊するにしてもCIS諸国とか南米とかに限っていた。仏当局から逮捕状はとうに出ていたのに何で今回フランスを訪れたのか。そこが最大の謎である。プライベートジェットでパリの空港へ。晩飯を楽しもうとしたそうだ。逮捕を恐れて数年訪れていなかった欧米。なんで無事に晩飯食べられると思った。デスノートで死の前の行動を操られたとしか思えない。
パリの前にDはアゼルバイジャンを訪れていた(8/18-19)。そんとき丁度プーチンもアゼルバイジャンを訪れていた。会ったかどうだか不明。密約/密命あった?(密命あると、素直にお喋りできない……)
さて、なんで仏はDを逮捕したか。なじみの古いメロディーである。SNS所有者の、SNS上のやり取りに対する、管理責任。テレグラムではその匿名性を利してテロ謀議とか麻薬売買とか児童ポルノ拡散とか不法行為が各種行われていて、Dがそれに直接関与したわけではないが、少なくとも自身のSNSにおけるそれら不法行為を然るべく取り締まらなかった、あるいは、仏当局の情報提供要請を断った。というのである。
これに対して、いや、SNS上の膨大な通信の全てに対して、そのオーナーとはいえ、D個人が責任を負うなんて、そんな無体なことありますか、という主張がある。イーロン・マスクが仏を批判。で、興味深いのは、露当局/露プロパガンダも仏を批判している。「言論の自由に対する迫害」というのである。最も強くその言葉で非難さるべき当の者が恬然とこれを言い放つのだからまったく恐れ入る。当の露は最近まさにテレグラムをBANする気配を見せていた。そこへ、西側批判の(あるいはDを懐柔する)好機と見てか、手の平返し。露はちな、2018-20年の間、実際にテレグラムをBANしていた。理由はまさに、露当局の情報提供要請をDが断ったから。以来DとPは関係かんばしからず、Dは露に寄り付かなくなり、もう自分は露市民ではありませんとさえ公言するようになった。
P政権の苛烈な批判者である露反体制派の一部も本件につきD擁護・仏政権を批判している。Meduzaも手厚く本件報道。在露仏大使館前では#FreePavelの抗議デモ、その参加者の一人で「マクロンよプーチンのレベルにまで堕ちるな」と書かれたプラカードを掲げた男性が露当局に逮捕されるというだいぶ捻じれた状況になっている。本件ぶあつく取り上げたが個人的にさまで興味なし(ウ戦争の消長という観点から)

●露クルスク州(K)

K作戦の解釈(その目的は何であったか、それがもたらす効果は何か)がいろいろ出ている。ゼレンスキー自身が最近言い出したのは、K作戦は複数目的を同時に追求するものであるが、その重要な一つとして、露のハリコフ再侵攻(その第一のものは防いだが、今度はもっと北、スームィの方から)の未然阻止ということであった。露はスームィ州の一部を占領しそれから州都スームィを占領する計画であった、これを予防するために、スームィ侵攻の起点となるKの露戦力を破壊する必要があった。――という説である。
WSJによれば、K作戦の目標は、つまるところ3つである。①ウ東部から露軍を引き揚げさせる②ウクライナは必敗なりとのナラティヴを破壊する③将来の和平交渉に向けた立場の強化。
WPによれば、ウのK侵攻は赤線(レッドライン。それを越えたら恐るべきエスカレーションが起こるぞという)という幻想を解体した。ウはこれまで何度も露の主張する赤線を踏み越えてきた(旗艦モスクワ撃沈、クリミア橋爆破、クレムリをドローン攻撃、露国内でプロパガンディスト爆殺、露本土飛行場攻撃、露本土への西側兵器の使用……)が、露本土への地上軍の侵攻は、種々赤線の中でも最も赤い線であった、それをしたら核を使うぞとほぼ明言に近いほのめかしがP自身の口からも行われていた、だが露の実際の反応はきわめて鈍重で受動的であった。

●深部打撃

ISWによれば、K作戦にはHIMARSも参加している(米HIMARSがげんに露本土に入っておりそこから露本土を攻撃している)が、本当はATACMSを使いたい。ATACMSミサイルの長射程であれば露本土の軍事目標(大型軍事基地、通信基地、物流拠点、修理工場、燃料基地、弾薬庫……)250か所を叩ける。HIMARSではうち20しか叩けぬ。現状でもこれらにドローン攻撃は行っているが、露に兵站補給システムの大改造を強いるほどのインパクトは出せていない。もし長射程砲を露本土・深部に使用できれば、露のウ侵略軍事ポテンシャル弱体化には決定的となる。
また英Guardianによれば、英StormShadowなどの長射程砲によりう軍がモスクワやペテルブルクなど露政権の喉元まで直接攻撃できるようになれば、モスクワはいよいよウとの和平交渉を検討せざるを得なくなるであろう、と。

●平和サミット

ウは第2回平和サミットをグローバルサウスで行う意向を持っているようだ。たとえば、インド。(てっきり第2回もスイスでやるものだと思っていた)
ただし、開催地となる国は、第1回の成果文書(コミュニケ)に賛同していることが条件だ、とか。

8月23日晩(しるす)

ウ軍は一日1000人以上の露兵を「無害化」している。無害化、とは、死傷させて戦線から離脱させているということ。通算60万人を無害化している。
↓УПトップページ常設バナー8/23PM6(開戦912日で敵の何をどれだけ減ぜしめたか)

1日1000、計60万。途方もない数だが、露には1億4000万の人口がいて、うち半分が男、そのさらに半分が適齢・適格(18~59歳、健康)として、3500万。ざっぱくな計算だが、あと3500万人くらい無害化しないといけない。遼遠である。ところで、敵が減るとき味方も減る。比率は不明だがまず5分の1より開きが大きいということはない。露兵60万が死傷したならウ兵も15や20万は死傷している。ウクライナの人口はもと4000万、露の3分の1以下である。一方は高いところから急坂を、他方は低いところから緩坂を、せーので海まで駆け下りていく。以上、閻魔の算術。

実際にはまさか最後の一人まで滅ぼし合うということはなくて、犠牲が増えていき増えていき、あるポイントを踏み越えると、もう社会は耐えられない。capitulationでも何でもいい、とにかくもう朋友を、夫を、息子を、パパを、殺さないでください、となる。閻魔の経済学ではこれを損益分岐点という。そういう瓦解の閾値が、ウ露それぞれに内部パラメーターとして設定されている(が、不可知である)

また別の算術もある。ウは露のあぶらを燃やしている。露はなにしろ油だガスだ、とんでもなく産出する(原田大輔『エネルギー危機の真相 ロシア・ウクライナ戦争と石油ガス資源の未来』ちくま新書、読みました。原田さんアナタ、文章下手ですね)。燃やしても燃やしても燃え尽きない。あぶらは金である。金は戦争。露のあぶらを燃やし尽くすのはいつの日か。また遼遠である。(メモ:ж/д паром “Конро Трейдер” в порту “Кавказ” Краснодарского края, 22 авг.)

インドのモディ首相がウクライナに来ている。有難い。ウクライナに来てくれ。諸国、ウクライナを支えてくれ。可哀そうに、ゼレンスキー、なんという顔をしているのだ。

8月22日朝(しるす)

●戦況
露は当面、両面作戦。クルスク州(以下K)防衛に一定の戦力を割きつつ、ドンバスの本丸であるポクロフスクへの攻勢は弱めず、着実に支配域を拡大している。村落が一つまた一つと露の手に落ちて行っている。
УПタイムラインはKにつきやれ橋を落としたぞ、やれ捕虜をとったぞと威勢がいいが、悲観的な観測も各所から出ている。うちの一つに、米による軍事支援再開以来久しぶりに、ウ軍が「砲弾飢餓」に陥っているというものがある。K侵攻のためになけなしの弾薬を割いてしまって本土防衛側の残弾が僅少になっていると。露本土に支配地を作ることはその支配地の外周分、たださえ長大な戦線をさらに延伸することに外ならない。

●電力
いまウクライナ暑い。7月の暑気のぶり返し。それで今週は、3週間ぶり、計画停電が行われている。ただし7月のような苛烈なもの(1日数時間しか電気が使えない)ではない。需要ピークの夕刻、各地で数時間ずつ電気が止まるのみ。週末にはいささか暑気おとろえて停電も止むとのこと。

●露弾
スィルスキー総司令官が何かの会議で、露が開戦以来ウクライナに対しどの種類の飛び道具を何回使い、ウはそれを何発撃墜して撃墜率は何%であるかを、ミサイル/ドローンの種類別に数字を発表した。手元に控えてあるがちょっと書き写す時間がない。何しろその数の膨大なのに驚いた。

●P
VVPが外交活性を示している。Kの不祥事から社会の目をそらす狙いともいわれる。まずアゼルバイジャン訪問。次に南オセチア。さらにチェチェン。いずれも十年以上ぶり。いろいろ話題を作っている。
露エリートは、Kの占拠は少なくとも数か月続くであろうと見ているらしい。Meduzaの側近聴取より。露プロパガンダはコロナ・パンデミック用語である「ニューノーマル」との語を多用しているそうだ。ウと国境を接する露の一部地域がウに占拠されている。この事象を新たな現実、新たな日常として受け入れ、しばらくはこれと生きよと。「然り、敵は露領に侵入した。だが必敗の企図である。だが奪還には時間がかかる。しばし待て。その待つ間、負の感情を、建設的な行動へ。具体的には、K支援の募金に協力を」

8月16日(の分)

ウは露クルスク州(以下K)で占領地をじり拡大中。一方、露はドンバスで占領地を拡大中。ポイントは防衛資源と侵攻資源のバランス。ウはかつかつの防衛資源からかなり無理して侵攻資源を捻出した。2つのリスク。露が期待に反して侵攻資源(減)→防衛資源(増)の対応をとらず、むしろ侵攻を加速させて、ウに確実に生じたはずの脆弱性を探し当て・突破をはかれば、ドンバスの大領域を一挙制圧される危険性。また逆に、露が期待以上に侵攻資源(減)→防衛資源(増)の対応を分厚くとり、大勢力でKのウ軍を囲んで撲滅すれば、ウの戦力と士気の低下は恐るべきものとなる。

ゆえ、衆目は、露がどれだけの兵力をウ侵攻から引き揚げ、K防衛に充てるか、という点に集まる。いろんな見方が出ている。いわく、露は「優柔不断」。いわく、「強気」。いわく、「無能」。少なくとも現状、ドンバス(露のウ侵略の当座の大きな目標はドンバス全域の制圧である)から大兵力を引き上げる動きは見られない。露が「侵攻資源(減)→防衛資源(増)」という予見可能な対応をとらず、キエフの行政地区ミサイル攻撃など意想外かつ非対称な返報をとる、という可能性も指摘されている。

ウがこれほど大それた作戦をあえて決行した狙い、ということについても、さまざまに揣摩が行われている。ゼレの「戦略目標の達成近し」との意味深発言あり(14日)。「進軍があまりに早く、露の反応があまりに遅かったことで、ウは今(もしかすると)目標を再考中かも」との評も。つまり、目標は固定的でない、情況を関数として、流動する。

Kにおけるウ軍の今後の展望として、ある論者によれば、3つのシナリオがある。第1に、このまま国境から30km程度の深度にて長期居座り、Kの占領地を、将来の交渉における土地交換のカードとする。だが露が大兵力を集めて本気で叩いてきたとき全滅する恐れあり。第2に、戦闘力を示した(そして、沈滞ムードを打破した)ことだけでひとまず満足して、露本土からウ領内へと、すっかり引き上げる。兵員と装備の余力を保ち来年以降の全面反攻に備えるという意味では最善だろうが、今回の作戦そのものから得る利得の幅としては、最小である。第3に、上記の折衷。ウ国境により近い(だが露領内である)拠点まで引き上げ、そこを橋頭保とする。より少ない兵員で済み、ロジもより容易で、かつ、将来の再侵攻の起点になる。

●ポドリャク

M.ポドリャク大統領府長官顧問がインタビューでK作戦について語った。何しろ防衛の枠内の侵攻であることを強調。Kには夥しい軍事施設があり、ウに対するミサイル/ドローン攻撃の多くはKを起点としている。本作戦の狙いは、①ウ市民に対するこれら攻撃の起点を露深部へと遠ざける(バッファゾーンの創設)②露の予備戦力をウ内の前線へと配給するハブ(結節点)・ロジスティクス(兵站)の破壊③露文武指導部の無能さを内外に証明する④露市民に戦争を自分事化し本戦争の意義と正当性についての議論を惹起する。(最側近の証言として傾聴に値するが、本人いわく、これらは「政治的」目標について語ったもので、「軍事的」目標については、それを語るのは自分の任ではないし、進行中の作戦について手の内を明かす愚は犯さぬ、とのこと)

●愚見

何丘の愚見としては、3点あり、第1に、今われわれが目にしているものは、全き、ウ軍の’24夏季反攻なのだと思う。その様態が昨年の全軍前進と異なるので分かりにくいが、K作戦は多方面へのドローン攻撃と同期しており、総体として、ウは大規模かつ全面的な戦局の反転を追求しているのではないか。じっさいK作戦が始まった6日ごろから露各地へのドローン攻撃は著しく活発化してる印象、14日の100機をこえるドローンでの攻撃というのは露でさえ滅多にやらないことだ。16日はクリミア橋への攻撃も行われたようで、露発表によれば、ATACMSミサイルを12発撃墜したとのこと。この攻撃には無人機・無人艇も動員された。だが損壊はもたらせなかった。橋はやはりガチガチに守っているようだ。第2に、ポドリャクは言及しなかったが、ウの重大な目標のひとつに、やはり、長射程砲の露本土への使用許可を米から取り付けることがあると思う。ウ領土の全き防衛のためには、露がウ自身の兵器では手が届かないような深部に隠している、ミサイルの発射基地、誘導弾搭載機の発進基地を攻撃することが、どうしても必要である。米欧供与の長射程ミサイルならそれを叩けるが、それを露本土に使用する許可を、米らは出し渋っている。それでしょうことなし、自ら入り込んで、敵基地に手が届くところまでこちらの発射地点を物理的に接近させる作戦を余儀なくされた。――この目標(長射程砲の使用許可取り付け)のためには、Kに侵入したウ軍が全滅すること、あるいは、K侵入によって防御が手薄になり露の支配域が拡大することすら、利益となる。いわく「皆さんが長射程砲の使用を許してくれないから、ほら、我が軍は精鋭部隊を壊滅させられてしまった/敵の勢力拡大を許してしまったではないか!」第3に、今後の展望については、例の平和サミットの第2回を、今度は露も招いて、年内に行いたい(できれば米大統領選前の11月までに)ということだったから、多分そこまで、Kの支配圏を維持したいのだと思う。P帝はむしろKの一件でウと交渉の余地がなくなった、かのように言ってるが、実際どうだろうか。一日も早い(公正な)和平の実現を期待する私の立場からは、本件が和平交渉につながることを信じたい。この観点からは、スィルスキーが毎日「今日は1km前進しました」とか報告してるが、もう前進はしてくれなくていいです、という気持ちだ。勢力圏はもう拡げなくてよい、今持っているものを確実に守ってくれ、という気持ち。

●露の声①

露の反戦・反プーチン・反体制派は本件どう見ているだろうか。彼らは愛国者である。愛するロシアの国土が外国部隊に蹂躙され支配されているのである。これこそジレンマであろう。僭称帝とその侵略戦争は憎むべきだ。だが、聖なる/愛するロシアの地に入ってきた外国軍が、まさにその侵略戦争の被侵略者であるとき、これをどう考えればいいか。露反戦委員会(在外反体制派が組織。ホドルコフスキー他)が声明を出した。「本件はウの自衛権行使と捉える。P軍の主権国家への全面侵略に条件づけられた、対抗行動であると」「900日に及ぶ間断なき侵略の一方で国境防備のこの脆弱。これこそ、Pのいう『露は西側の東方伸張に対する防衛として特別軍事作戦を行っている』とのナラティヴの欺瞞性をありありと証明するものである」「ウ軍に対しては、ジュネーヴ条約の順守と、非戦闘員の損害最小化の努力を求める」もちろんこれが全在外反体制派の立場を代表するものではない。頭で分かるが生理的に不快ということもあるだろう。

●露の声②

現地露市民の声(by Meduza)によれば、ウ兵は、当然だが、必ずしも模範的にクリーンには行動しない。国境沿いの村落の家屋に土足で踏み入りそこらのりんごを齧ったり燃料ほか備蓄を積み出したりする様子が活写されている。いうほどファシストじゃないやんか、という印象をもたらせたら良かったが、いやどうして、ファシストそのものやん!(その語の正確な定義はともかく)という印象を一部または多くの露人に残さないではいないであろう。同じことを、いや、もっとひどいかもしれないことを、これより先に、これより遥かに大規模に、行ったのは、あなたらの軍ですよ、と言っても、信じないであろう。露市民をつかまえて、スマホのカメラを構えて、「わが村を露軍が攻撃しています、それをウ軍が守ってくれています」と言え、という強要のようなことも、ふつうに行われているようだ。憎悪の連鎖。胸が苦しい。これはウ軍による侵攻であり、露市民の生活の蹂躙である。一部ウ報道に「解放」の文字あり、とんでもない。(越境攻撃? とは?)

だが無論、その究極の責任は、露に帰せられる。露がはじめた侵略戦争である。糞!!

(全ての情報は8/15・16付で発表されたУП(ウクライナ・プラヴダ)とMeduzaの各記事を出典とす)

8月14日(の分)

クルスク州(以下K)に侵入したウ軍は14日も各方面で1-2kmほど支配域を広げ、即ち、自国を侵略から守るためのバッファゾーン(緩衝地帯)を広げつつある(byスィルスキー総司令官)。緩衝地帯の語は露が春先のハリコフ攻勢のとき使った言葉だ。その企図は失敗し、むしろ国境線について線対称な事態となった。なおゼレンスキーによれば、ウ軍はKにおいて「戦略目標を達しつつある」←それ、何。

●クレバ外相の声明を紹介する。K侵入の必然性・効果・正当性の説明はこれに尽きていると思われる。「ウは他国領土を占領支配することに関心なし。露と異なり、他人のものは他人のものと弁えている。ウ軍は文明的な欧州の軍隊。戦時国際法・人道法・慣習法を遵守する。ウ軍の作戦は純粋に軍事的目標を追求したもの。作戦の狙いは、広い意味で、国民の命を守り、ウ領土を露の攻撃から守ること。

「平和のフォーミュラ(ゼレ提唱、10か条からなる和平案、ウ全土からの露軍撤退など)を基礎にした公正な和平の樹立が早ければ早いほどウ軍の露領土強襲も早く終わる。

「Kからは今夏だけでも隣接するウ・スームィ州に対し2000回の攻撃が行われている。255発の航空誘導弾と100発のミサイル。このテロルから身を守る最良のすべはこれら攻撃の策源となっている敵拠点を長射程ミサイルで叩き潰すことであるが米欧は自国供与の長射程兵器の露本土への適用の許可をどれだけ請うても与えてくれない。であれば、他の手段で――即ち、ウ軍自ら敵領土に入り込み、叩き潰すほかないではないか。
⇒先にゼレンスキー、露のウに対する攻撃の起点は全て記録されており、その全てが正当な返報を受ける、と暗鬱な予言をしている。その一部成就がこれ、ということだ
⇒航空誘導弾(КАБ)は露の攻撃手段の中で現状ウ軍に対応困難なものの筆頭とされる。有効な対策は、これら誘導弾の発射母体となるSu-34戦闘機そのものを使えなくすること(たとえば、飛行場への攻撃によって。あるいは、地対空ミサイルや、将来的には、F-16による撃墜によって)
⇒これについて14日、2件の朗報あり。Kで地対空ミサイルによりSu-34一機撃墜とか。また、14日、露本土各所に対し、ウ軍、空前の規模のドローン攻撃。露側発表では117機を撃墜(!)。ウ側発表によれば、標的は特にSu-34戦闘機の母港たる軍用飛行場(4か所)。戦果は不明。再掲――「露のウに対する攻撃の起点は全て記録されており、その全てが正当な返報を受ける

「Kの作戦により露はドネツク州に追加の部隊を送れなくなり、ロジに困難をきたしている」
⇒露はK鎮圧のための増派を渋っているが(これで泡食ってドンバス侵攻の兵力を一部引き上げK防衛に回せばそれこそ「イニシアチブを握られた」ことになるから)、すでに現状でも、逆にKからドンバス侵攻への増員を阻むという効果は出ている
⇒とはいえ南のザポロージエや、遠くカリーニングラードから、一部部隊が引き上げられ、Kに向かっているとの報あり

●スィルスキー総司令官がZeに報告したところでは、ウ軍はKの74集落を管理下に置いたという。ただし、先の「1000平方km制圧」説しかり、これら数字はやや誇張されているとの西側分析あり。

●言うまでもないようなことだが、今度の作戦は、その電撃性を担保するため、極秘で準備が進められた。自軍部隊に対しても、将官級は決行の3日前、一般兵員には前日にのみ通知。西側パートナーについては作戦が開始され竹縄となるまで知らされていなかった。昨年の夏期反攻はメディアを通じて期待を煽りすぎ、それがかえってよくなかったという反省から(か)。わりを食ったのは市民であった。隣接するウ国スームィ州の国境沿いの村落は、事前になんら知らされることなく、作戦がげんに始まり、露の対抗射撃が始まってから、急ピッチで避難させられた。家財家畜を失ったのは無論、負傷者も出たであろう(死者も?)

●обменный фондの語が頻出する。直訳すれば交換基金。ウは今、Kにて空前のテンポで軍属を捕虜にとっている。これがのち、露側にとらわれたウ兵士の解放(捕虜交換)に使える。のちの交換に備えて蓄えておく、これを基金(ファンド)にたとえている。

8月13日(そのに)

クルスクについて少しく解説めいたことを(基本的に私の手に余る事柄)

何しろ6日朝にウ軍が露クルスク州に侵入した。ちょっと入って居心地を確かめてみてすぐ出る、というような軽いものではない。数千人という大部隊+米欧供与の戦車装甲車で本気で突入した。

敵はウ領土(特にドンバス中央部)の侵略と占領に忙しくて自国の国境警備が手薄だった。ウとしては露の虚を突いたかたち、ほぼ無抵抗な状態でウ露国境から30kmほど露深部へ入り込み、目下重機と人力で塹壕の構築に励んでいる。即ち、ウ軍はこの占領地に長期にわたり留まる構え。支配域は1000平方km(ウ軍スィルスキー総司令官)、あるいは、28村落(露側発表)~44村落(西側報道)

ウによる占領は、有効に、長期続くであろう、との見方がある。ウの塹壕構築は迅速である。露としては、いちはやく軍部隊を差し向けてウ軍を追いだしたいところであるが、もともとロジの拙劣さに定評ある露のこと、さらにウ軍の絶えざるドローン攻撃や砲撃を受け、増派は遅々として進まない。いちど構築されたウの防衛線の突破がいかに困難かはバフムートやアヴデーエフカで実証済みだ。

そもそも露は、大規模な増派に現状消極的。これで泡食って侵略の手をゆるめ、防戦に回ってしまったら、それこそウにイニシアチブを握られる。ここは強気でおりたい。クルスクの問題は飽くまでその周辺の戦力だけで乗り切りたい。そうして大局でのイニシアチブは飽くまでこちらで握っておりたい。

露の、クルスク州における事象の矮小化への希求は、このごに及んでクルスク州(および隣接のブリャンスク・ベルゴロド両州)に戒厳令を出さず、非常事態宣言とか「対テロ作戦」宣言止まりであることにも表れている。対テロ作戦の責任者に任命されたのはFSB長官ボルトニコフ(Pの腹心中の腹心)。事ここに至ってあくまでこれは戦争ではないと強弁する。この政治的な倒行逆施が、指揮系統の混乱とか、いろんなヒズミをもたらしてくれることを願う。

政治部門の対応・反応・意味づけでいうと、ウ政権は例によって当初本件への関与を明言せず、だが12日時点でスィルスキー総司令官ゼレンスキー最高司令官ともにウ軍の作戦であることを公言している。なお、米国は本件を容認。一部には目覚ましい突破として賞賛の声も。

という感じで、一週間が経過している。

このかんに原発関連で騒ぎがあった。クルスク州にはクルスク原発がある。ウ軍はこの占拠を目指すのではないかという観測がある。げんに露軍は当該原発周辺で塹壕・防塁を構築中である。戦争で原発を占拠されることがいかに致命的か、また、占拠すればいかに有利かということを、ウ軍は身に染みて知っている。だが、ウ軍が原発をあたかも露軍がザポロージエ原発でやってきた(やっている)ように戦局左右のテコにするさまは、個人的な心情としては、見たくない。一方、その当のザポロージエ原発(露軍が支配)で11日、ボヤ騒ぎ。ボヤどころでない、敷地内で赤赤と大火事。露軍は「ウ軍がミサイル撃ってきた!」と騒ぎ立てるが、「露軍の不注意による失火、ないし自作自演」とするウ側の説を私としては当然とる。

ウの今次のクルスク侵入は、戦争の語り方を変えた。という識者の説に同意。何しろ23年11月から9か月間ほど、露は攻めっぱなし、ウは守りっぱなしであった。じりじりと互いの戦力が消耗していき、少しずつ露が占領地を広げていく。その構図に慣れっこになった。そこへ風穴。この戦争にまだこんなことが起こる余地があるかと公人識者にテレビ視聴者、誰もがハッとした。ウクライナ軍の士気は爆上がりだそうだ。さもありなん。ウクライナ軍の創意に脱帽す。

ゼレンスキーの言葉で〆る。露は他へ戦争を持ち来した。その戦争がもときた場所へ帰る(война возвращается домой)。ダモイ(家路)という言葉のいじらしさが見せる幻想――母なるロシアと、その鬼子、戦争。

8月13日(しるす)

クルスク。心が痛いが、戦争とはこうしたものだろう。市民の犠牲が少なくなることを祈るばかり。現状1000平方キロほど占拠しているそうだ。

●狙い・効果

狙いはよく分からない。ISWによれば、一時的・局地的にもせよ、ウは露からイニシアチブを奪い返した。イニシアチブというのは、いつどこにどの規模でどんな攻撃をしかけるかということの選択権。ざっくり、これがあるほうが攻めてる側、ないほうは守る側、守るほうは後手後手で、「動かされて」「対応を強いられて」消耗する。というが、どうなのだろう。もともと僅少ななかを、相当ぶあつい勢力を(それも精鋭部隊を)クルスク侵入作戦に割いてしまって、そのあと、「では次ここ」「かと思えば今度はここ!」と、「いつどこにどの規模で」次なる攻撃を仕掛けるか、などウ軍は選べる状態だろうか。侵入したなら侵入したで、ではこの侵入したものをどうしようというところで手一杯にならないか。袋叩きで壊滅、となったら最悪の最悪だ。

ところで、今度もPは、事態が発生してしばらく、エポケーに陥った。Pは若く精悍な指導者などではなくただの長っ尻の灰王だから、思いがけないことがあると、しばらくピヨって何もできない。プリゴジンのときよく証明された。今度もだ。そうとわかっていれば、これほど大それたことをしたあとは、ウとしては、次から次へと二の矢三の矢をつがえ、広い範囲に大規模ドローン攻撃だのモスクワ中心部に破壊工作だのしかけ、露指導部が惑乱しているまに例の橋まで落としてしまえばよかった。というしろうとたくてぃくす。「イニシアチブ」に関しては、そういうことを思う。

ほか、クルスクをウクライナの占領地として確立してしまい、交渉の材料にする説。わからない。寸土である。その交換価値は何ほど。

ひとつ確実なのは、長期的には、今度のようなことを防ぐため、露は長い国境全線にわたって防衛力を広く長く薄く(可能な限り濃く)配備することを強いられる。これは間違いなくウとして軍事的利得である。

●呼称

朝日などは「越境攻撃」というのだが、それだと何を言っているのか全然わからない。これは侵攻である。露があの日ウに侵攻したようにウが露に侵攻したのだ。もちろん永久支配を望んでのことではない(決定的な違い)。だからウ軍が占領地で露の国旗を撤去するなどは、気持ちは分かるが、どうかと思う。かわりにウの国旗を立てるなどは確実に違う。一部メディアに「逆侵攻」の文字。それならまだ分かる。

いまかの地で起きていることを旧来の慣習から「ロシアのウクライナ侵攻」と呼ぶ人には、「越境攻撃」とかいう謎呼称もしっくりくるのだろうか。私はとうにAからBへの侵攻でなく「戦争」つまりAとBのレジームの滅ぼし合いという枠組みで事態を見ている(この見方を広めるに小泉氏の「ウクライナ戦争」いう新書の題づけがあずかって力あったに違いない)。戦争であるからは、B国領内のみに戦争行為が完結するとは限らない。BからAへの進軍ということも当然に行われる。

8月6日

・小泉法相という人が5日ウクライナ(キエフ?)を訪れた。日本はウクライナの司法改革と汚職対策を支援する
・6日も停電なし。7/30より8日連続。理由は①修理に入っていた原子炉2基が復活した②気温低下で需要が減った
・イランが露に防空支援を要請し、露は呼応してすでにイランへの防空システムの供与プロセスを開始したとか
・独法相、露に渡航しないよう独市民に呼びかけ。あることないこと理由つけて人質にとられる(のち交換材料にされる)恐れあり

8月5日

KMIS(キエフ国際社会学研究所)の5月の世論調査が上がった。

●和平は望ましいが、「和平」の内容がそれであるならば、現実には難しいであろう。
・露との和平交渉に踏み切る「べき」57%、「べきでない」38%。
  ∟23年11月は「べき」42%。和平望む声の高まり。ただし、
・回復さるべきは「14年以前の領土」すなわちドンバス・クリミア含む全土である・・66%
・現在の勢力境界がそのまま国境となることは「全く受け入れられない」60%
・和平のためにNATO加盟を断念することには賛成できない・・74%
・同、EU加盟の断念には・・76%

●戦争はまだ当分続くのであろう。
戦争いつ終わると思うか。「3か月以内に」3%「3~6か月で」5%「半年~1年」14%「1~2年」18%「2~5年」17%「5年以上」8%

●たとえば目安として6年後、2030年という年に、すでにウクライナはEUまたはNATOの加盟国に、なっていてほしいと思うか。また、現実に、なりうると思うか。
EUについて、加盟国に、「なってたい」90%「なるだろう」77%
   ∟なってたいの比率は変わらず高い。22年5月で既に90%、23年5月92%
NATOについて、「なってたい」84%「なるだろう」71%

以上、世論調査。
以下、その他の話題。

●オデッサ道路名称の改称(続)
改称を(市の肩越しに)決めてしまった側の、オデッサ「州」の方のトップ、キペル知事が、オデッサ市長トゥルハーノフの抗議声明(プーシキンだのオデッサと関わり深い文化人の名を一掃してしまえばオデッサがオデッサでなくなってしまう)に、反論。「過去に生きるな。帝国主義ナラティヴからの脱却の好機とおもえ。現代オデッサは現代の芸術家・詩人・作家・青年・防衛者たちの街だ。帝国主義やソ連邦の遺風かおる名をもつ街路を散策したい向きは、どうぞモスクワへでも行ってください。ウクライナの街オデッサにではなく」

●2024-2025年も人口の国外流出は続く。毎年30~40万人のペースで。電気なく暖房シーズン過酷ならん、また、電気なく工場の生産ラインや企業活動一般が低調となり求人数も低下し、まぁ住みよい国とはなってくれまいとの悲観から。また、ウクライナの出生数は死亡数の半分であるとの調べも。未来暗い。

●ISWによれば、F-16が少量(10機という)入ってきたことは慶賀すべき、ただ、それが十分に効力を発揮するためには、やはり10機程度では数が足りなく。十分数を既存の防空システムに統合してはじめて効果的な運用成る。かつ、もっとがんばって、露の防空システムを壊しておかないと、十分に機能させられない。西側供与の長射程砲でがんばって叩く。

8月4日(の分)

ゼレンスキーがF-16の取得を正式に発表し、動画で誇示した。象徴的なできごとがあったときにこうして動画とって発信する。

F-16は戦闘機だがその第一の課題は防衛力の向上であるらしい。スィルスキー総司令官「これで撃ち落とせるミサイルが増える」。動画を分析した人たちによれば機体には早期警戒システムが搭載されている。結構なことだ。

今回取得したのは10機と見られている。全部で79機が約束されていた(オランダ、デンマーク等から)。

8月4日(しるす)

●人物研究①イェルマーク(ウ大統領府長官)

大統領府長官イェルマークについての論考を幾つか読んだ。アンドレイ・イェルマーク(以下E)、ゼレンスキー(以下Ze)の最側近、もともとZeと同様ショービズ畑(映画プロデューサー)、19年~現職、事実上ウクライナNo.2の権力者。大統領府およびその長官の権限・所掌範囲について実は憲法以下法律上の規定あいまい。だが事実上、大統領に権力集中の現戦時体制下では、大統領と個人的信頼関係がありZeへのフリーアクセスを持つE長官率いる大統領府は、首相以下政府を圧倒する巨大な権限を有す(首相など大統領府長官の副官の一人(政府関連業務担当)に過ぎない、との揶揄も)。しかもその影響力は人事を通じて政府内部でさらに拡大中。先の国防相人事で現職のウメロフを推挙したのもE、現在外務(第一?)副大臣を務める人物もEの息のかかったの。そも、シュムィガリ首相の第一副首相のスヴィリデンコ女史はEの忠犬である(後述)。

Eは何しろ戦時ウクライナのあらゆる重要プロジェクトにおいて中心的な役割を果たしてきた:総司令官の交替、世界からの武器の調達、夥しい二国間安保協定、捕虜交換、平和サミット@スイス。業務は山積。だがそんな中でも自身の一番の仕事は「Zeの快適の保障」と心得る。ただその傍らに座って話相手になってやり温浴効果でZeを癒す。Eの際立った特徴は24時間いかなるマターにも即応する疲れ知らずとどんな難題にもひるまず自ら責任をとって仕事をする恐れ知らずだがもともとそれら特徴はZeの個性であった。ZeはKVN時代からライブツアー前となると郊外の合宿所に仲間と缶詰めになり携帯の電源切ってひたすらストイックに台本を書いていた。Eはこのリズムに自らを調律した。そうしてZeの強力なマネージャー/プロデューサーへと自らを改造した。

EがZeの寝首をかき、自ら最高権力者の地位を狙うことはあるか。世論調査に見る国民の信頼度でいえば、EはZeにとり現実的な脅威とはなり得ない。2月のKMIS調査で、Eを「信頼する」人27%、「不信」61%。ある評者によれば、Eは飽くまでZeの影であり、ダブル。Zeがあす戦争に疲れたといえばEも直ちに私も疲れたと唱和するだろう。だがZeが未だ疲れないうちは、Eも決して疲れるわけにはいかないのだと。Meduza

●人物研究②スヴィリデンコ(第一副首相)

ユリヤ・スヴィリデンコ(以下S)、第一副首相兼経済相(第一〇〇というのがよく出てくるが、要はかの国では首相とか大臣には副官が何人かいてそのうちの首席が第一〇〇)要はウクライナの政府内でいまシュムィガリ首相に次ぐ第二位につけている人物である。女性。ティモシェンコとまた別のユリヤが台頭してきた形。経済畑。かつて大統領府でイェルマーク(E)の副官(経済担当)を務め、これがキャリアパス上の最大の飛躍点となった。上述のように大統領府(長官)には絶大な権限が集中しEの副官は一人一人が政府でいう大臣数人分の仕事をする。ここでZeやEの無理難題をてきぱきこなしてとりわけEの覚えめでたくなり、あれよと政府内No.2の地位に。これが早晩シュムィガリを蹴落として政府No.1(首相)にまで上り詰めるかどうか、目下注目が集まる。ZeおよびEの意向としては、シュムィガリをいい加減退けてSを首相に据えていよいよ行政権力を一枚岩としたい。ただSには周知の弱点も。リーダーシップがない。No.2としては超優秀だが自らリスクをとったりクリエイティヴィティを発揮するタイプではない。根っから学校秀才型であり、休まず怠けず誰より優秀であり続ければきっと先生が認めて褒めてくれるという世界観。たとえばZeもEも不在の10時間がありその間に国家の死命を決するような決断を迫られた時にSは首相として決断できるか、いや恐らくは、ただZeないしEが帰ってくるのを待ち、帰ってきたらメモ帳をもって馳せ参じて何したらいいでしょうかって聞くであろう、そんなやつに首相が務まるか。あと、小心者。批判に耐性がなく、メディアパフォーマンスが不得手、カメラの前でびびる。これまでは誰かの陰に隠れていて名誉もヘイトも主として上官が浴びた。だが自らがそれを浴びる立場になったとき、耐えられるメンタリティかどうか。УП

●道路名称

オデッサ市の地名(主に道路名)85件、オデッサ州の347件の改称が決まった。これがスキャンダルを呼んでいる。州の決定に市が反対してるという構図。前提事項を2ついうと、まず大前提として、日本とちがい、ウ含め欧州では、小路横丁一本に至るまで、全部の道路に名前がついている。で、一々の道路に名前をつけるのは大変なことなんで、たとえば旧ソ連圏では、レーニン通りとかプーシキン通りとか、同じ名前が至る所で使いまわされて、どこの街にも必ずレーニン通りがありプーシキン通りがある、ということになった。でもウクライナは、特に今度の戦争が契機となり、露のことが余りに許せなくて、露の文物にちなむものを国内からなるべく無くしたいという気持ちになり、国内の道路という道路から、レーニン通りやプーシキン通りという名称を一掃することにした。地名の脱植民地化、脱共産化、脱ロシア化と、このムーヴメントのことをそう呼んでいる。一掃してもかわりになんとか名をつけてなんとかその道路のことを呼ばなければならないので、代わりにはもっとウクライナ的な、あるいはヨーロッパ的な、名前をつけることにしている。あるいは、今度の戦争で死亡した英雄的兵士たち(あるいは部隊)の名を。

で、このほどオデッサでは、ガガーリン大通りがレーシャ・ウクラインカ大通りに。チャイコフスキー小路が劇場小路に。プーシキン通りがイタリア通りに。変わることになった。

だが、これはオデッサ州軍政当局の一方的な決定であり、オデッサ市行政府および議会はこの決定に全く関与していない、これは地方自治の精神に反する、ということで、我らがオデッサ市長トゥルハーノフが抗議の声を挙げた。プーシキンやブーニンやバーベリやイリフ・ペトロフやジュヴァネツキーはなるほどロシア文学者やソ連文化人であり排除の対象なのかもしれないが、彼らはちゃんとリアルにオデッサと深い関わりをもち、オデッサの歴史の不可分の一部をなしている。これらの名をオデッサから奪うといういことは、すなわち、オデッサの歴史をいたずらに否定し、漂白してしまうことにならないか。たとえばオデッサ市の中心にプーシキンの胸像が立つ。像はオデッサの歴史地区に属し、ユネスコの保護対象である。これを撤去などすれば、オデッサ旧市街の遺産価値および真正性は棄損されてしまう。プーシキン通りという名称にしたって同じことではないか。こんな民意なき改名は、「キエフ政権の排露主義」とかいう露プロパガンダに薪をくべるだけではないかと。

●NATO脅威論

ウクライナへの侵攻の正当化(なるほど戦争はよくない、でも仕方のないことだったんだ)としてよく露のゾンビどもが言うNATO脅威論、NATOの軍事的脅威の高まりが先制的な攻撃を強いた、俺たちは挑発されたんだ、俺たちが先にやらなければ逆にこっちがやられていたんだ、という糞詭弁への強力な論駁(某УП論説より):ではなんで、げんに戦争が始まって2年半以上たって、ウにすぐ隣接する露の都市――ブリャンスクだのクルスクだのヴォロネジだのが、マリインカやバフムートやヴォルチェンスクの運命をたどっていないのか、つまり、瓦礫の巷にならずに済んでいるのか。これはNATOの非拡張的(むしろ余りに抑制的)ポジションを明証するものでなくて何であろうかと。教えてくれよゾンビー、ねぇゾンビー。考えるアタマがまだあるのなら。

8月1日

●F-16

待望のF-16戦闘機の第一便がすでにウクライナに入っているらしい。Bloomberg報道。機数は「小数」という。なお、約束では、オランダから42機、デンマークから19機、ノルウェーから6機が送られることになっている。先のNYT報道では、24年夏までにパイロット12名の訓練が完了するとのことだった。

●次回平和サミットは11月?

年内開催めざすとされていた第2回ウクライナ平和サミット、ウ政権は11月5日の米大統領選までに開きたい考えだそうだ。またゼレンスキー、仏メディアのインタビューで、その第2回平和サミットへの露の参加を希望する旨、改めて表明。

●人質交換

露と西側の身柄交換。露は自国で不当に収監していた政治犯らを米欧に明け渡し、米欧は手元に当然に収監していた露スパイ・暗殺者らを露に明け渡し。(本件ウクライナの明示的関与なし)

Meduzaはこの話題で持ち切り。当然だ、祭だ、イリヤ・ヤーシンとかカラームルザーとか反体制派のビッグネームや人権活動家、ジャーナリストらが一挙十数名解放。本来ならナヴァーリヌィもこの機に解放される筈だった由(残念なこと)。ナヴァなきあと反体制派は指導者不足をかこっていた。ロシア国外に大きな声もつ人たちが出て、国際世論に占める反戦反プーチンの声が増す。喜ばしいことだ。

その対価に露は何を得たか。FSBのスパイ連中を手元に取り戻した。一番のビッグネームはクラシコフという殺し屋で、かつて露とチェチェンの戦争でチェチェン軍を率いた指導者を外国まで追っかけてって殺し、終身刑を受けてドイツに収監されていた。露政権による注文殺人だとの西側の見方を当時露は否定していたが、現にその通りであった証拠に、今回露へ帰国なったこの殺人者を、プーチンは自ら空港に出迎えた。「よくやったぞ」と一言ねぎらって。

識者はいう。糠喜びは禁物。①クラシコフのようなやつを露に返してやるべきではなかった。この対価は高くつく。これは露の殺し屋たちへのメッセージだ。いわく、「政権の注文による殺人は、外国でとっつかまるリスクがあるが、つかまっても、ロシアは見捨てない。必ず取り戻す。実質ノーリスク」。これで殺人者は安心して露政権の注文を受けられるというわけだ。今後、露国外の反体制活動家や「裏切者」の暗殺事件が出来したときには、今回の身柄交換のことを思い出すがよい。②身柄交換の規模と内容だけを見ると、西側に明らかに利があるように見え、あたかも露の外交的敗北の観を示すが、もしかしたら、身柄交換は取引の一部分に過ぎず、別の不可視の次元で露が多大な利得を受けている可能性がある。

●囚人兵

囚人を兵隊に仕立てるというかつてのワグネルの得意技をいまウクライナもやってる。5月発行の新法で囚人と国防省の契約が可能になり、爾来3611人が契約した。ウの全囚人の13%にも及ぶ数字。窃盗強盗また殺人犯もこれで牢を出ているという。

7月31日

シャヘドの夜、から始まった一日。全土を89機のシャヘドが襲う、24年元日以来の規模。だが凄いのは、これ全部撃ち落とした。特に首都では上空及びその入口で41機撃墜。「この感じでミサイルも撃ち落としたいものだ」とゼレンスキー。

7月30日

●気候、電気

いま夏は涼しい、南部(オデッサ含む)でも最高気温30度いかぬ、朝晩は10度台。気温の低下で電力事情はだいぶ改善、30日は7月初めて停電が行われない日となる由。義母の報告でも電気は基本きている。このまま8910月と3ヶ月にわたり計画停電なし・あるとすれば短時間の事故停電、という希望的観測も。ただこれには「露の新たなエネルギーテロがなければ(いや、ある)」と反語みたいな仮定がつく。

●徴兵

志願して第110独立機械化旅団に入隊したУП記者の体験記(入隊までの顛末)を読んだ。その中心的なメッセージは「男たちよ、遅かれ早かれ兵隊にはとられる、であれば、街角で徴兵されるよりは、自ら志願したほうが、いろいろ得であるぞ」というもの。学職歴や能力適性に合った所属を得られる公算は自発的志願の方に大であり、逃げて逃げてついにはつかまって連行されて軍服着させられる場合には、それら度外視で単なる歩兵(悪く言えば、肉弾)に配せられる可能性大である、と。УП

УПは第四権力の矜持ある独立メディアであり(その編集長は私より若い30代女性)先の国防省汚職スキャンダルの調査報道ではレズニコフ前国防相を辞任に追い込んでいる。だがそのУПにも当然ながら編集上の大方針というものはあり、それが国家のそれと根本のところで一致しているのでなければ、そもそもこの時局でメディアとして存続することすらできなかったろう。要は、УПは、軍がいま喉手で欲している兵員の補充を阻害するような論説は、まさか掲載しない。その逆である。動員に協力する。言葉の力で市民を戦列へ駆る。そのために嘘はつかないが、編集はする。

何しろ上記記事、読んで暗澹とした。よほど人が足りていないらしい。払底してる兵種は言うまでもなく歩兵である。歩兵は数であり、この数は急速に失われ、ゆえに急速な補充を必要とする。どうせ早晩兵隊になる。同じことなら志願しろ、さもなければ手もなく肉弾だ…。

思い出すのは義兄(あに)のことである。誰かの兄たちが今日も戦場で戦っている。戦火の終熄の一日の遅れは彼ら100人の死である。私は恥ずかしくなる。何を冗談にも一千万字とかいって、戦争の永続を容認するかのようなふるまいを。それは今日この今にも終わるべき、昨日いや一年前いや二年前にも終わっているべき、始まる前から終わっているべき(должна быть закончена, не начавшись)ことだったに、その忌まわしきものに、少なくとも私が一千万字書き上げるまで存続する猶予を与えてしまっている。

徴兵についてもうひとつ気になるニュースがあった。オデッサのとあるWebメディアにとある筋から掲載依頼、寄稿者は「ウクライナ国防省情報総局」。内容はとんでもないもので、戦況劣悪を赤裸々に吐露、大規模動員の必要を説き、いわく、以後動員については政治でなく軍が全権を握る、兵役忌避者の密告を奨励する、徴兵センター職員には従わざるものへの発砲の許可を与える、云々。むろん、露FSBの情報工作である。狙いは反乱と恐慌の惹起、また、潜在的な兵力の国外流亡を加速させて、ウクライナ軍の兵力補充を破綻させること。

●放火

露FSBがらみでもう一つ。オデッサで軍用車連続放火の犯行グループが逮捕された。メンバーは18〜24歳の若者、6・7月にかけてウクライナ軍の軍用車15台を丸焼けに。同様の事件で30日はハリコフで18歳が、キエフで25歳男と20歳女が逮捕されている。スキームはこうだ。テレグラム(SNS)のお仕事マッチングチャンネルに求職側で「さくっと稼げる単発バイト募集します」で履歴書上げてる若者にFSBがアプローチ、さくっと稼げる単発バイトあるけど、やるかね。しかも高単価。まちなかで軍用車見つけたら油ぶっかけて放火。証拠にしっかり動画を撮ってね。こちらでちゃんと確認できたら、報酬、車一台につき、10万円。

いわゆる闇バイトである。若いやつの中にはこんなことまでして悪銭を稼ぐことに抵抗のないやつもいる。なんかのカメラに映ってて結構つかまえられてるらしいのだが母数が知れない、もしかしたら氷山の一角なのかも知れない。ちなみに送られてきた動画は露プロパガンダがウクライナのモラルかくまで低下したりという情報キャンペーンに利用するのだそうだ。なかなかよくできている。低劣なことには実によく頭の回る連中だ。以上

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