この道をずっと行けばどこに通じるかとか、この海の向こうにどこの国があるかとかは、知らないよりは知っていたほうがいい。
オデッサの岸辺を歩きまくった
何丘はオデッサの海沿いに住んでいる。歩いて7分で海抜0mまで降りれる。人生30年半ではじめて海辺に暮らす嬉しさに、この数か月ジャンキーのように水辺を恋うた。たぶんこの秋冬、上の衛星写真の範囲のビーチに最も頻繁に降り立った人間の一人が私だと思う。週に8回くらい降りてたから。
地図で見ると黒海の向こうはトルコ
上の地図を見よ。埼玉県みたいな形をしたこの黒海という海の、オデッサは本庄のあたり、つまり北岸に位置する。
オデッサから見て海の向こうはどこですかということになると、普通に地図的な感覚としては、トルコである。イスタンブルとかアンカラとかのあるトルコ。私もふだん浜から海を見て、この向こうにトルコがあるんだなーとなんとなく思っていた。
でもだが、なるほど「おおまかに言えば」オデッサの対岸はトルコということになるんだろうが、こと私がふだん降り立つビーチの、私がふだん立つ場所・立つ角度にとっての対岸は、実はふつうにクリミア半島(上の地図でセバストポリとあるところ)だったりするのかもしれないし、もっと近い、地図でヘルソンとあるあたりなのかもしれない。だとしたら私はこの数か月間違った想像をして、「海の向こう」にお門違いな思いを馳せていたということになる。おるず!
真人間への更生への一歩として、こと私が岸辺でふだん向いている方角に関して、海の向こうにいかなる地平が広がっているのかを正しく知り、今後それを正しく想像できるようにしてみたい。
ポイント①無名水兵の記念碑
私はいくつかの地点から海を見る。まずの一つはこの「無名水兵の記念碑」オベリスクの建つところ。上の写真は先日撮ったもの、この日は視界良好だったので海の向こうの陸地が見えてるな。地図で確認してみよう。
赤ピン立ってるオベリスクから左下(7時の方角)へ直線の道が伸びている、これがさっきの写真に見える立木を両脇に従えた敷石の道である。これを海側に延長していくと何があるか。
フォンタンカ。オデッサ州オデッサ区の一村だ。
なんということだ・・この広い黒海の、上の地図で赤ピン立ってるのがフォンタンカ、そのちょい左下の白丸がオデッサである。対岸のトルコどころの話ではなかった、私はオデッサからオデッサを見て「トルコよ~」とかほざいていたのだ!
ちなみにオデッサ随一の観光名所であるポチョムキンの階段も、角度的にフォンタンカ村のほうを向いている。
ポチョムキン階段の上から海を見はるかして「向こう岸はトルコかな~」などと思うには及ばない。向こう岸もオデッサである。
ポイント②イエローストーン
あと私はよくこの地図でイエローストーンと記されている巨石がある浜にいて海を見ている。
この巨石越しに見る海のそのまた向こうには何があるのか。今度こそトルコか。
巨石に正対して真っ直ぐそれごしに海を見るなら多分地図で真東に進んでいけばよい。すると・・
「ビロベレジジャ・スビャートスラバ国立公園」があった。濁音が多くて完全なランダム文字列にしか見えない。
その奥にはおお、なるほど。ドニエプル・デルタがある。大河川ドニエプルが河口付近でわっさわさの三角州を作っている。ここ行ったことあるわ。
より広域の地図で位置関係を見てみる。
なるほど、依然として非常に狭い範囲で世界が完結している。海を見ている、広大な海を、そしてその向こうの知らない国を遠望している・・と思ったが、全然そういうことにはなっていなかった。
ではイエローストーンのあたりの浜からトルコのほうへ(本当にトルコがある方へ)視線を向けかえることはできないのか。
こう見るとイエローストーンの浜続きになんとかビーチなんとかビーチと称してぼこぼこ海に出っ張ってるところがあって、真っ直ぐ南を見はるかすことはできそうにない。少なくともイスタンブールをこの浜から見はるかすことは不可能だ。
だが、うまく視覚を調節すれば、広いトルコのどこかにわが視線の向かう先を結びつけることはできる。地図で見よう。
このように浜つづきに視線を遮られない範囲でギリギリ右手を見れば、その先に・・
このあたりに視線を落とすことができる。なんていうとこだか知らない。とにかくトルコの国土だ。
気を付けないといけないのは、角度調節が相当シビアである。少し角度が甘いとクリミア半島にぶつかってしまう。トルコを見たければかなり鋭角に浜続きに視線を近づけないといけない。だが浜続きに視線を寄せすぎるとすぐの陸地にぶつかってしまう危険性がある。
ポイント③アルカディア
それでもアルカディアなら。アルカディアならきっと何とかしてくれる……!
オデッサからトルコを見るのはかくも難しいことであった。いや、どうせ見えはしないのだが、「この海霧の向こうにたしかにトルコがあるのだ」と確信と安心をもって胸に呟くことはかくも難しいことであった。それでもアルカディアなら。
どんな願いも叶えてくれる不思議なビーチ、アルカディア。オデッサ随一のビーチと言われるアルカディア浜。アルカディア理想郷エルドラド黄金郷のそのアルカディア。「地球の歩き方」ウクライナの巻オデッサの章で、数多く存在するオデッサのビーチのうち唯一取り上げられているのがこのアルカディアだ。
アルカディアがなんで有望かというと、上の地図のように、アルカディアは海岸線の海へのでっぱり部の最南端に位置しており、視線の南進を妨げるものがない。複雑な角度調節をしなくても、真っ直ぐ南へ視線を投げればそのままトルコに届かせられそうだ。
たとえば上の図のように、南東向きの突堤の先端から、その突堤と同じ角度で海を見はるかせばどうだ?
大丈夫そうだ!たぶんクリミア半島にぶつからないでトルコの謎の岸辺につける。
作戦②、同じ突堤から、対をなす北東向きの突堤の先端を見るような角度で、その奥なる海を見はるかすとどういうことになるか。
うまいぞ!イスタンブールとはいかないが、かなりそれに近いようなあたりへ視線を降ろせた。これをオデッサからトルコを見るための必勝法としてよかろう。
まとめ
私がふだん海を見て「この向こうにトルコが……」と幻視していたのは、まさしく幻視、事実に根ざさぬ迷妄であった。
私が出没するビーチ、高台、ビューポイントのうち、いくつかからは全くトルコが見えない。
あるポイントからはトルコが見える。よほど気を付ければだ。どう気を付けるかというと、
・なるべく右のほうを見る
・右すぎると近くの陸にぶつかって視線が砕ける
・右さが甘すぎるとクリミア半島で座礁する
・絶妙な右さ加減で右を見る
「右さ」という言葉が存在するかどうかわからないが、要するにそういうことだ。