東京五輪ポシャってほしいと思っていたが

その他

世が世なら今ごろオリンピックが開かれていた。

うまくすれば来年の今ごろオリンピックが開かれているという。

「開かれないでほしい」「五輪、ポシャってほしい」と思っていたが、

NHKのとあるニュースを見て揺らいだ。

世論調査では66%が延期or中止を支持

まずこちらのニュースによると、NHKの世論調査で、

35%の人は「もっとあとに延期したほうがいい」と答えました。31%の人は「中止したほうがいい」と答えました。この2つの答えを足すと66%になります。

NHK NEWS WEB EASY

「来年の夏に開いたほうがいい」と答えた人は26%でした。

NHK NEWS WEB EASY

何丘は密かに「中止」を望んでいた

告白するが、私は極めて性格が悪い。だから友達がいないのだと思う。

五輪ポシャるといいな、と思っていたのは、何も深い考えがあってのことではない。
ただ単に悪意として、そう望んでいた。

私は、自分がかつて属した場所の滅びを望む、という奇癖がある。
私は上智大学の出身だが上智滅ぶといいなと思っている。上智に何かスキャンダルがあると嬉しい。(※私の学生生活は全体として幸福であった)

私は32歳にして正社員の経験がないが、会社勤めをしたことはある。
私が4年いたあの会社も、2年いたあの会社も、滅ぶといいなと思っている。
1年いたあの会社は実際に滅んだ。そうと知ったとき、嬉しかった。

私はかつてロシアに住んでいた。ロシア滅ぶといいなと思っている。
私は外国住まいである。いま日本にいない。日本敗亡への祈念は、その事実から直接にくる。

五輪が中止されれば、日本は大きな経済的損失をこうむり、政府は大いにガッカリする。私は理由もなくただそれを望む。

望んでいた。そこへNHKのこんな記事。

NHK 特集記事「1年後の舞台へ」

7/24、NHK NEWS WEB に「1年後の舞台へ アスリート 東京オリンピックへの誓い」と題する記事が載った。
柔道の大野、卓球の水谷、空手の西村ら、五輪出場内定&メダル有望視の選手たちが、ちょうど1年後に迫った「東京五輪2021」への想いを語った。

これに何丘は大変感銘を受けた。各選手のコメントをちょっと見てみたい。

空手の西村拳

空手選手で名前が「拳」て出来過ぎだろ。どんだけ宿命づけられてるんだ。珍名辞典に掲載したろかい。

この方は割と冷めている。醒めて?いる。

「開催してほしいというのが本音だが、環境が整わず中止となれば、それは受け入れなければならないと思っている」

NHK NEWS WEB 「1年後の舞台へ アスリート 東京オリンピックへの誓い」

「モチベーションが上がらないのは事実だが、今の状況を考えれば無理して上げなくてもいいと思っている」

NHK NEWS WEB 「1年後の舞台へ アスリート 東京オリンピックへの誓い」

「状況は変わっていくが、一喜一憂せずに堂々とやるべきことをやる。開催されれば、そこに向かって調整して、最高の状態で戦って金メダルを取るだけ」

NHK NEWS WEB 「1年後の舞台へ アスリート 東京オリンピックへの誓い」

私はこのあたりが選手たちの心境として一般的だろうと思っていた。しかし……

柔道の大野将平

しかし、アスリートというのは見上げたものだ。この間も日々鍛錬・研鑽、高みを目指して修行し続けている人たちがいる。

「1人の時間が多いので、孤独な時間が増えるが、孤独ではなく『孤高』だ。自分1人で高いところに行くという自己暗示をして、トレーニングを積んできた」

「3カ月、半年、1年間で失うものは無い。この稽古をしている道場のどこかに無くなった技術、体力、精神的なものがすべて落ちているので、しっかりと拾い集めて、もう一度、強かったときの自分を、焦らずに取り戻していくことが、今、1番やるべきことだ」

NHK NEWS WEB 「1年後の舞台へ アスリート 東京オリンピックへの誓い」

ていうか、この言葉の強度は何。これはもう詩だ。武道家って詩人だったのか。

「もう一度、畳の上に立って、何か伝わるような柔道を体現する」

NHK NEWS WEB 「1年後の舞台へ アスリート 東京オリンピックへの誓い」

「何か伝わるような柔道」!? この人には何が見えてるの?

よく詩人とか小説家が、アウシュヴィッツ以後文学には何が可能かとか、フクシマの後詩には何が可能かとかいって懊悩する。それはまだ分かる。

でもこの人、柔道で、コロナ後の世界に「何か」を伝えようとしている。
コロナを一本背負いして畳に叩きつける? そんなことが可能なら……見せてほしい。

陸上(男子短距離)の桐生祥秀

この人は大会の1年延期は「100%プラス」だと言い切る。100m走者だという。100という数字にこだわりがあるのかも知れない。食後は100秒歯を磨くであろう。

「年齢的にも24から25になるし、メンタルも体も1年1年成長しているので、自分にとっては延期は100%プラスだと捉えている」

NHK NEWS WEB 「1年後の舞台へ アスリート 東京オリンピックへの誓い」

たとえば東京五輪が中止されて、次の舞台が自身29歳で迎える2024年パリ五輪となる可能性など、微塵も考えていないようなのだ。信じる力。

スポーツクライミングの野口啓代

この選手は31歳で、東京大会で現役引退の予定だった。それが1年先送りされて「競技人生を一年もうけた」ととらえているらしい。

「オリンピックは延期されたが、もう1年間、競技生活としてこの壁で練習できることをうれしく思って、わりとすぐにポジティブに受け止められた」

NHK NEWS WEB 「1年後の舞台へ アスリート 東京オリンピックへの誓い」

「毎日のように自分の力はまだまだだと実感させられている。本来であればあと1か月もないくらいで競技を引退するところだったので、いただいた1年間でどれだけ自分が強くなれるかというのを毎日考えている」

NHK NEWS WEB 「1年後の舞台へ アスリート 東京オリンピックへの誓い」

卓球の伊藤美誠

同じく、来年の五輪開催を信じ、日々向上に努めている。「五輪を楽しみにしている」という。

「オリンピックがないと思って行動しているのと、あると思って行動しているのではモチベーションも全然違う。私自身は完全にあると思って練習しているので、突き進む一方かなと思う」

NHK NEWS WEB 「1年後の舞台へ アスリート 東京オリンピックへの誓い」

「来年にオリンピックが開催されたほうが、ことしより勝てる自信がある。実力が上がるチャンスや優勝するチャンスもあると思う。(……)オリンピックを楽しみにしている」

NHK NEWS WEB 「1年後の舞台へ アスリート 東京オリンピックへの誓い」

日本人だな~、というのは誤った感想だろうか。
同じアスリートといっても、たとえばロシア人に、同じような心構えで無明の闇を信じて耐え抜き、向上し努力し続けることができるとは、私には思えないのだ。

この人たちの願いは叶えられて欲しい

アスリートたちのこんな言葉を読んで、ああ、この人たちのために五輪は開催されてほしい、と素直に思った。

属した組織の不幸と破滅を望む何丘の奇癖だが、
それを望む対象はいつも組織、たとえば国家という擬制であって、個人ではない。

先に紹介したNHKの世論調査にはこうある。

延期するか来年開いたほうがいい理由は「選手が頑張っているから」がいちばん多くなりました。

NHK NEWS WEB EASY

最初ピンと来なかったが、今ならよく分かる。

よかった、何丘にもまだ人の心が残っていたようだ。だからといって五輪中止を期待することを止めることはできないが、この人たちのために五輪開催を望む新たなきもちが芽生えた。よかった。

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