ロシア語の歌ロシア語で聞いてみるvol.2「子マンモスの歌」(歌詞和訳)

ロシア語ソング集

歌で外国語を学ぶというのは悪くないやり方だと思っている。たとえば平易な言葉で書かれた子供の歌(детские песенки)なぞ好個の教材だ。今回はソビエトアニメ「子マンモスのママ」主題歌「子マンモスの歌」を取り上げてみる。ロシア語歌詞、和訳、解説。

「子マンモスの歌」とりま聞いてみよう

とりま聞いてみよう。「子マンモスの歌」(Песенка мамонтёнка)1分。サムネをクリックするとYouTube開きます。

ご覧の通り、子マンモスが流氷に乗って海を渡っている。おおよそ何を歌っているかというと・・

この海の向こうにママがいる。どういうわけかボクが長い眠りから覚めるとそこにママはいなかったのだけど、諸先輩方の言う通り、この遥かな海を渡っていけば、そこには当たり前のようにママが待っていて、どこ行ってたの坊や、心配したのよなんていって迎えてくれる。ママはそこにいる、必ずそこにいる。子供がいるのにママがいないなんて、そんなバカなことあるもんか……

だが実は、言ってしまうと、そこにママはいないのである。この子マンモスは永久氷晶の中から現代に甦った例外中の例外個体であって、お仲間のマンモスは一万年も前に絶滅してしまったのだから……。

「子マンモスの歌」歌詞と対訳

お話の結末は後段述べるとして、ではロシア語の歌詞を見ていこう。ロシア語原文と和訳を聯ごとに示していく。

Песенка мамонтёнка (Мама для мамонтёнка)
子マンモスの歌(「子マンモスのママ」より)

【1番】
По синему морю, к зелёной земле
Плыву я на белом своём корабле.
На белом своём корабле,
На белом своём корабле.


青い海を、緑の大地めがけ
ぼくは渡ってゆく、白いおふねで
白いおふねで、白いおふねで

Меня не пугают ни волны, ни ветер, –
Плыву я к единственной маме на свете.
Плыву я сквозь волны и ветер
К единственной маме на свете.


波も風も恐れずに
ぼくは渡ってゆく、世界にひとりのママのもとへと
波風かきわけ渡ってゆく
世界にひとりのママのもとへと

【2番】
Скорей до земли я добраться хочу,
“Я здесь, я приехал!”, – я ей закричу.
Я маме своей закричу,
Я маме своей закричу…


はやく岸へとたどり着きたい
「ぼくはここだよ、到着したよ!」と叫ぶんだ
ママに叫ぶよ、ママに叫ぶ

Пусть мама услышит,
Пусть мама придёт,
Пусть мама меня непременно найдёт!
Ведь так не бывает на свете,
Чтоб были потеряны дети.


その声をきっとママが聞く
ママが駆け付ける
ママは必ずぼくを見つける!
だってこの世に子があって
ママがいないなんてことあるもんか

Пусть мама услышит,
Пусть мама придёт,
Пусть мама меня непременно найдёт!
Ведь так не бывает на свете,
Чтоб были потеряны дети.


ママには聞こえる
ママは駆けつける
ママは必ずぼくを見つける
だってママのいない子どもなんて
そんなのこの世に あり得るもんか

ロシア語のお勉強・初級編

与格というものに注目してみようか。青マーカーで示す。

【1番】
По синему морю, к зелёной земле
Плыву я на белом своём корабле.
На белом своём корабле,
На белом своём корабле.

по(に沿って)とк(に向かって)は与格支配の前置詞

по + синее море(青い海)⇒ 青い海の上を
к + зелёная земля(緑の大地) ⇒ 緑の大地の方へ

Меня не пугают ни волны, ни ветер, –
Плыву я к единственной маме на свете.
Плыву я сквозь волны и ветер
К единственной маме на свете.

к + единственная мама(たった一人のママ) ⇒ たった一人のママのもとへ

【2番】
Скорей до земли я добраться хочу,
“Я здесь, я приехал!”, – я ей закричу.
Я маме своей закричу,
Я маме своей закричу.

ей(она与格) закричу(叫ぶ) ⇒ 彼女に叫ぶ
маме своей(мама своя与格)закричу ⇒ 自分のママに叫ぶ

ロシア語のお勉強・中級編

何が初級で何が中級か正直よく分からないが、この3つの表現に注目したい。

【2番】
Скорей до земли я добраться хочу,
“Я здесь, я приехал!”, – я ей закричу.
Я маме своей закричу,
Я маме своей закричу…

Скорей(早いとこ)до земли(大地にまで)я добраться хочу(辿り着きたい)

добраться「辿り着く」は使い勝手のいい表現。やや困難を伴う到着、「漕ぎつける」。Еле добрался до дома.(どうかこうかやっと家に帰った。)Нет машины но как-нибудь доберусь.(車ないけどまぁ何とかして行くわ。)または、単に道/行き方を尋ねるときにも使える。Как добраться до станции?(駅へはどうやって行ったら?)

Пусть мама услышит,
Пусть мама придёт,
Пусть мама меня непременно найдёт!
Ведь так не бывает на свете,
Чтоб были потеряны дети.

Пусть:いわゆる使役動詞というやつ、「〇〇をして××せしめよ」。英語でいうlet。Let mom hearママをして聞かしめよ、Let mom comeママをして来さしめよ…。

бывает(あり得る)не бывает(あり得ない)のペアは使いでがある。凡ミスした人にБывает!と言えば「そゆことあるある」と慰める言葉に、無理筋の言い訳する人にТак не бывает!と言えば「いやいやあり得へん(お前ウソついてるやろ)」みたいなことになる。

так, чтобы + 過去形:такは形式主語というやつで、その実質内容がчтобы以下で示される。英語でいうit is ~ that…という構文。так не бывает на свете(この世界にそんなことはあり得ない)(どんなことがかというと)чтоб были потеряны дети(子供が失われてあるなどということは)。

アニメ「子マンモスのママ」について

ソビエトアニメ「子マンモスのママ」(Мама для мамонтёнка)は1981年の作品。8分間の短編アニメ。YouTubeで全編見れます⇒こちら

あらすじを紹介すると、

①北極の氷塊が溶けて中から一匹の子マンモスが現れる。ママを探すが姿がない。②物知りのセイウチ(トド?)は子マンモスを見てびっくり。「奇跡だ……!」

セイウチはマンモスが大昔に絶滅した生物種であることを知りながら、ママを呼ぶ子を哀れに思い、こう言う。「聞いた話だが、遠い遠い南の国に、お前にそっくりの鼻の長い生き物が住んでいるというよ。そこにきみのママがいるのではないかな?」

③流氷に乗って南の国へ。※今回取り上げた「子マンモスの歌」はここで歌われる。子マンモスは遠い岸辺にママが待つことを信じて疑わない。④果たして南の国に、子マンモスにそっくりの鼻の長い動物(ゾウ)はいた。「ママ!」と狂喜してまとわりつく毛むくじゃらの子マンモスに対してゾウは……

しばしの逡巡ののち……


「うん、我が子よ。わたしがママだよ。」

そうして二人仲良く歩み去っていきました。子マンモスは歩きながら、もう二度とママを見失わないように、その長い鼻を母親のしっぽにきつく巻き付けたのでした。おしまい。

「子マンモスの歌」とわたくし(何丘)

自分に子がいるからか知らんがなんかめっちゃ泣けるんですよね。

Ведь так не бывает на свете,
Чтоб были потеряны дети.

このリフレイン聞くと胸が締め付けられる。無言の糾弾。だって実際には母のない子が世界には一杯いるわけじゃん。子を捨てる親というのもいるわけじゃん……。これほどまで無垢な魂にどうしてかくも過酷な懲撃を加えたもうのか(神よ)とイワン・カラマーゾフみたいなこと言いたくもなる。

子供が母親にもつ特別な思い、純粋な純粋な依頼心、これを私も日々に見ている。それは父親には絶対に代替することができない何かであるらしい。

ママが待つことを信じて一ミリも疑わず、千里を遠しとせず荒波を分けてゆく、一途な一途な思い。このアニメでは最後にそれが報われてよかった。その(主観的に)完全な世界が壊れなくてよかった。こうでなければいけない。必ずこうでなければ。

【ご案内】
この「ロシア語の歌ロシア語で聞いてみる」シリーズでは、何丘が個人的に好きなロシア語の児童唱歌を100曲ほど紹介していきます。

ひとつ前の曲 ⇒ vol.1チェブラーシカ「誕生日の歌」(歌詞和訳)
次の曲 ⇒ vol.3「お団子パンのうた」(乞うご期待)

なお本シリーズは、何丘Twitterの「ロシア語アニソン百夜百曲」の姉妹編です。
何丘Twitter「ロシア語アニソン百夜百曲」第2夜「子マンモスのうた」

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