ウクライナ戦争側面史(オデッサを中心に)

オデッサ/ウクライナ/ロシア

リアルタイムで綴るウクライナ戦争側面史。軍事・政治・経済よりは、社会・文化の変化を中心に。とりわけ筆者がかつて2年半居住したオデッサの情勢について。主として2つの露字メディア――ウクライナ全国メディア「ウクラインスカヤ・プラヴダ」(Украинская Правда、УП)オデッサローカル紙「オデッサライフ」(Одесская Жизнь、ОЖ)の抄訳。

※開戦以来400日の経過を綴った過去記事(1234)の後継。

8月2日

1→2日の夜、首都含む各地へシャヘド、うち23機を撃墜。オデッサ州西部イズマイルの河川港湾インフラ(穀物倉庫含む)が破壊された。УПУП

心底疲れた。この記事の更新はこれで終わる。

何丘に「投げ銭」してみる

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8月1日

■露艦vsウ艇
ロシア国防省によれば、1日未明セヴァストーポリ南西340kmの海上でロシア黒海艦隊の巡視船2隻がウクライナの無人艇3艘による攻撃を受けたそうな。当のセヴァストーポリでは後刻、海上旅客輸送の停止が発表されたが、無人艇の攻撃との関連性は明示されず。УПУП

にしても340kmとは。ほとんどイスタンブールである。黒海艦隊はそこまで張り出しているのか&(攻撃が事実なら)ウクライナもそんなとこまで手を伸ばすのか。

■「ロシアによる海上封鎖」を平然と無視
イスラエルの商船が出発次点で行き先がウクライナであることを公然と明示しつつ黒海を通航しウクライナのドナウ河口部へ到着した。追ってギリシャ船、トルコ/グルジア船も到着するという。「ロシアが(その大法螺に反して)ウクライナへ向かう第三国の船舶を停止させることも臨検することもできないということの最初の証明となった」УП

■汚職ウクライナ
・各地の軍事委員会、金銭を見返りに徴兵逃れを容認
https://www.pravda.com.ua/rus/news/2023/08/1/7413774/
・オデッサ、電線修理の不正発注、担当官が多額の収賄
https://www.pravda.com.ua/rus/news/2023/08/1/7413766/

7月31日

31日午前、中部クリヴォイ・ログの集合住宅にミサイル、6人死亡、75人負傷。УП

■景観整備や文化振興は二の次
地方自治体の予算執行を中央政府が方向づけることが可能かどうか、УП特集記事。キエフ市はじめ各自治体が戦時下にもかかわらず景観整備に多額の資金を投じることに対して社会と国家の双方から批判が高まっている。地方予算の一部を強制的に徴収して国防費に充てる案も検討されているが実現には至らず、現在のところは国から地方へ「勧告」を行うにとどまっている。

7月30日

■ドローン攻撃 to モスクワ
モスクワ郊外、超高層ビルが立ち並ぶビジネス街「モスクワシティ」の50階建てのビルの低層部で爆発、一人負傷。露によれば「ウクライナのドローン攻撃」。この建物には経済発展省・産業貿易省・デジタル省など省庁のオフィスが入っており、破れた窓から街路へ、これら省庁の文書が飛散したとか。УПУПУП
ゼレンスキー、夕刻のビデオメッセージで「戦争は徐々にロシア本土へと帰還しつつある。その象徴的な中心部へ、軍事基地へ。これは不可避の、自然な、絶対的に正当なプロセスだ」УП

■冬に備えよ
同じビデオメッセージでゼレンスキー「ロシアがこの冬ウクライナの発電所ほか重要インフラへの攻撃を再開する可能性に対して自覚的であるべきだ。夏の間に冬の準備を最大限整えるよう全国の自治体に要請する」УПУП
シュムィガリ首相によればウクライナは暖房シーズン(冬季)への備えを60%ほど整えている。政府が5月に設置した冬季準備本部の調整のもと、昨冬ロシアの攻撃で損傷した発電所や送電網の復旧を行い、ガスや石炭を備蓄している。УП

■石畳を補修している場合ではない
首相の上記発言は大統領の参加のもと西部イワノ・フランコフスクで開かれた地方政府総会でのもの。そこで大統領、地方予算の使途につき、「今は国防が最優先」と強調。「自分を悪く思わないでほしいが、石畳の張替えにかかずらっているときではない。石畳で敵は撃退できない」「街の美化は勝ってからにしてもらいたい。あるいは、予算外から資金を調達するみちを探ってほしい」УП

■オデッサ
週末のオデッサのビーチは人でいっぱいだった。ОЖ

もちろん推奨される行為ではない。バカンスシーズンは二年連続で取りやめと公式にアナウンスされており、安全そして衛生上(7/3参照)の観点から、海水浴を控えるよう当局より再三再四の勧告がなされている。それでも浜はご覧の通り立錐の余地なし……ロシア語的には「りんごが落ちる場所もない」であった。
ОЖ記者によれば、水温は低く、水も浜も見た目きれいであったということだ。浜で日焼けするにあきたらず水に入っている人の姿も。子連れの人らもいた。オデッサ市外からの観光客も相当数を占めるものと見られる。

■蛇島
30日朝、オデッサ沖の蛇島を露軍の戦術航空機が2発の爆弾で攻撃した。蛇島への攻撃は今月3度目。УП。蛇島ちなここ↓

ウクライナ軍がクリミア深部での破壊活動を加速しているのは明らかで、ロシア側はクリミア要衝への攻撃の策源地として一度ならずオデッサを名指ししている(セヴァストポリ港、ケルチ海峡大橋攻撃など)。いうてオデッサからクリミアは遠いので、蛇島が中継地点として利用されている、あるいはそのように整備しようとしているところを露軍が叩いている……とかと想像する素人。

7月29日

■ユネスコの視察団がオデッサ訪問
ユネスコ使節がオデッサ市中心部歴史地区を訪問しロシアのミサイル攻撃による破壊の痕を査察した。УП

■アフリカ
穀物合意が有効であった1年間ロシアの自制のお陰でウクライナ産穀物は輸出されたけれどもそれら穀物は欧州の金持ちを肥やすばかりで肝心のアフリカ諸国には全然回されなかった、だから意味ないから停止した、これからはロシアから穀物を買ってください。というロシアの厚顔無恥なる言い分に反して、露サンクトペテルブルクで開催のロシア=アフリカフォーラムにおいて、アフリカ諸国から「ロシアよ穀物合意に復帰せよ」との訴えが相次いだ。南ア大統領「アフリカ諸国にお宅の穀物を供給してくださるというあなた(プーチン)の寛大なご提案に感謝はしますけれども基本的にそのような話をしにここへ来たわけではない。黒海の穀物イニシアチブを実現してください。黒海を開いてください」УП、コモロ大統領(アフリカ連合議長)「国連の仲介のもとウクライナ産穀物の輸出の即時再開を」УП

■黒海
ISWレポート:ロシアの黒海艦隊は黒海でのプレゼンスを強めているが、繰り返される脅迫的言辞に反して、ウクライナの岸辺に漕ぎつけようとする全船舶を撃沈することなどできる筈がない。NATO加盟の環黒海諸国=ルーマニア・ブルガリア・トルコらとの軍事衝突を誘発することはさしものロシアも避けたい筈だから。したがって、完全な海上封鎖が行われる見込みは低い。ロシアがいまやっていることは、海上封鎖するぞするぞと言い募ることで西側から譲歩を得るべく努めつつ、実行レベルでは商船の積み荷の検査を行う態勢を整えるということであろう。УП
この間に早やウクライナ国境警備が黒海上の商船とロシアの軍船との無線のやり取りを傍受、その音声を公開した。露軍はまず商船の帰属を問い、積み荷が何であるかを問い、武器の積載の有無を問い、次いで警告という名の脅迫を行った。いわく「警告する:ウクライナ諸港への航行は禁止されている。ロシアはウクライナへのあらゆる貨物の運搬を潜在的な軍事貨物の輸送と見なす。また当該船舶の帰属する国を、ウクライナにおける紛争の当事者と見なす」УП。完全に黒海の主人気取り。NATOも対抗的声明で均衡できないものか。通信は網羅的に傍受している、黒海におけるあらゆるマヌーヴァ―は監視下にある(偽旗作戦は通用しない)、もしもNATO加盟国を船籍とする商船に一撃でも加えれば、即ちNATOによる宣戦布告と見なす、と。

■フェンシング
フェンシングの国際大会でロシア選手と試合後の握手を拒んでウクライナ選手が失格になった件の続報。ウクライナ側の国を挙げた抗議とIOC=国際五輪委員会(またバッハ会長個人)の仲介により、選手資格停止は解除された。次の団体戦にも出られる。УПУП
本件を受けIOCは改めてウクライナ選手との結束を表明するとともに、各競技の国際連盟に対し、ウクライナ選手とロシア選手の対戦に際しては繊細な注意を払うよう求めた。УП
国際フェンシング連盟は規約を改訂し、試合後の握手を任意とした(УП)。そもそもコロナ中は剣と剣を打ち合わせることで握手に代えており、またイスラエル選手とアラブ諸国選手の試合後は例外的に握手を略する慣行もすでに存在していた。なお、ウクライナ側は連盟に対し、ロシア人選手とは握手できない旨予告していた。またウクライナ側によれば、こうした状況にも関わらず飽くまで握手に固執し、手を差し出したまま長時間待機した(つまりあたかも相手に握手を強要するかのようにふるまった)ロシア選手の方こそ挑発的であった(УП)。一見あまりにウクライナ側に有利な幕引きも、このような事情を聞くと納得がいく。

たとえ無所属(ロシア代表ということではない)としても、ロシア人と握手などしたくない、というウクライナ人選手の心情は理解できる。ざっと三通りの幕引きがあり得たと思う。連盟が杓子定規な規約の運用を行ってウクライナ選手の選手資格が停止されて終わる、これは最悪だった。資格停止が解除され、スポーツ界がウクライナとの全面的な連帯を表明しての幕引き、これはこれで良かった。
だが、個人的には、やはり握手をしてほしかった。いや、すべきであったと思う。握手どころか抱擁すべきであった。敵の頬に接吻するべきであった。だが同時に、ここが勘所なのだが、接吻しつつ、ロシアの侵略戦争への絶対的な否定をも、メッセージとして相手にしっかり届けてほしかった何丘マニフェストに書いたやつだ。愛と憎悪の二階建てのメッセージを届ける。それによって、周りは敵ばかり・自分の身は自分で守れ・滅ぼされる前に滅ぼせというロシア人の凝り固まった脳髄に、よき混乱を注入する。
酷なことを言うが、いまウクライナ人は、公の場で、自分がどのようにふるまえば戦争の終わりを現実に近づけられるかということを、常に考えなければいけない。自分のふるまいがロシアでどのように伝えられ・報じられるか。握手を拒めばSNSでヒーローになれるがロシア人からはそらルサフォブがまた一人と思われて終わりだ。周りは敵ばかり・自分の身は自分で守れ(以下略)の世界観が強化され、すなわち、継戦世論が強化される。高度に方法的であらねばならない。いやウクライナ人だけじゃないな。ひとしなみにロシア人の敵意の対象になっている西側、日本含む、の人たちもだ。

■世論調査
「民主イニシアチブ」財団の6月の調査。ウクライナ人の78%が「全てのロシア市民がロシアの軍事侵略について有責である」と考えている。
ウクライナの勝利を「確信している」77%、「どちらかというと信じている」16%。
ところで「勝利」とはなにか(複数回答)。「全ての被占領地の解放」70%。「捕虜・強制移住者全員の帰還」60%。「戦争犯罪人が裁かれること」51%。
実に95%が「戦争でウクライナにもたらされた損失についてロシアは賠償を行うべき」との立場だが、それが実際に可能であると見ている人は僅か40%。УПУП

■商用便の再開は…
ウクライナ空軍のイグナート報道官が戦時下における民間航空機の離発着再開(7/25参照)に懐疑的な見方を示した。「穀物合意を見てください。『空の人道回廊』を攻撃しないでくれなどと、ロシアと合意できると思いますか?ミサイルもドローンも国土のどこにでも飛んできますよ。キンジャールがどんだけ飛び交っているかご存知でしょう。イスラエルの防空網が網羅的なのは国土が小さいから。翻ってウクライナの国土は広大だ」УП

■ウクライナのクリスマスは12月25日
ゼレンスキーが国民の祝日の日付変更に関する法案に署名をした。これで晴れてウクライナのクリスマスは12月25日となる。ウクライナはかつて12月25日(グレゴリオ歴)と1月7日(ユリウス暦)の両方が国民の祝日である珍しい国であった。むろんそれぞれの家庭は自らの法と伝統によって生きるのであって、南部では今後も少なくない家庭で1月7日に降誕祭を祝うことであろう。УП

7月27日

■ゼレンスキー、オデッサ訪問
何かあるとゼレンスキーが来てくれる。27日の実務訪問の中で例の破壊された大聖堂を視察した。УП

■オデッサ攻撃
26→27日の夜、オデッサ州の港湾インフラにミサイル攻撃。警備員1名死亡。この時勢において重要インフラの夜間警備に当たる人こそ哀れ。УП

■フメリニツキー攻撃
空軍発表。26日の攻撃に使われたのは然りキンジャール(4発)であり、その目標は然りスタロコンスタンチノフの軍用飛行場であり、同飛行場には一定の損傷がもたされたが、その被害の規模については当然ながら、公表しない。УП
フメリニツキー州では27日未明にも爆発および対空兵器の作動があったということだ。УП
要するに現在の敵の注力先は西部のストームシャドー発射基地と南部の穀物輸送基地ということになるか。キエフへの攻撃はいったん鳴りを潜めた。キエフの空の防備は余りに堅くて攻撃しても仕方ない、より脆弱な地方都市を狙おうということだろう。キンジャールはもともと迎撃不可能とされていて、それでもキエフでは米供与の「パトリオット」が撃ち落としたが、同じことが西部でもできたか。重要拠点であることが(敵にも分かっていることが)分かっているのであれば相当に厳重に防備を構えていた筈であるが。

■フェンシング
伊ミラノで開催中の女子フェンシング世界選手権でウクライナ選手とロシア選手が戦い(ただし後者は「中立」の立場での出場。ロシアが参加資格停止中のため)、前者が勝利も、試合後行うことと定められいる選手同士の握手をウ選手が拒んだことが事後問題視され、ウ選手は選手資格を60日間停止された。これにウ側が反発。モメている。УП
握手の拒否は心情的には理解可能。だがルールなのであれば失格は当然。争点になっているのは選手資格の停止の妥当性(間近に団体戦が控えており、そこにはロシアやベラルーシの選手は出場しない)。個人的には大会側の不作為が気になる。予見(予防)できた事態ではないのか。出場選手が軍事侵攻の公然たる支持者でないかどうかを事前(出場の可否判定時)に厳重に審査し、クリアランスが証明されたのであればその旨対戦相手たるウクライナ選手に対し試合前にきちんと説明し、スポーツマンシップの遵守について告諭する、等。

7月26日

■ミサイル攻撃
26日白昼~夕方、ウクライナへ大量のミサイルが発射された。その大部分にあたる36発を撃墜(「カリブル」3発、「Kh-101/Kh-555」33発)。攻撃は3波にわたった。第1波が正午過ぎ、黒海から「カリブル」少なくとも3発。第2波は17時ごろ、カスピ海上の爆撃機より「Kh-101/Kh-555」36発。ミサイルは南東部からウクライナ領空に入り軌道を絶えず変化させながら西部へと向かった。第3波は19時ごろ、「キンジャール」と見られるもの、4発。どうやら撃滅したらしい。ウクライナ空軍によれば、特に夕方の攻撃の狙いは、西部フメリニツキー州スタロコンスタンチノフにある軍用飛行場。ここは英国供与の長射程ミサイル「ストームシャドー」の発射基地であることが知られている。УПУП
例によって被害の詳細はよく分からんが、晩方のビデオメッセージでゼレンスキーが「若干の被弾そして撃墜片の落下があった」ものの「攻撃は退けられた。対空防衛班、よくやった!」と讃えているので、大筋しのいだのであろう。УП

■空の防備
ゼレンスキーによれば、ウクライナは対空防衛システムの追加供与を得た。「今それを最も必要としている場所」に送られるという。オデッサのことか。УП

■海上封鎖
ウクライナ国防省によれば、ロシアは「穀物合意」離脱後、黒海艦隊の船舶・航空機を展開し、ウクライナの港を出入りする民間船を攻撃する準備を整えつつあるという。УП


■ドローン大国ウクライナ
フョードロフDX相が新品ドローン1700機がずらーっと並んだ様子を動画で公開。いずれもAI搭載、攻撃用もあれば偵察用もあり、これから前線に送られるという。いまウクライナには「アーミー・オブ・ドローン」と呼ばれる国家プロジェクトがあり、この枠内でドローンの大量生産およびパイロット育成が行われている。諸外国の助力も得つつ量と質の両立を目指し、年内に数十万機のドローンを取得する計画だという。УП
米ワシントンポストによれば、かつて農業・重工業大国として知られてたウクライナは、今やイノヴェイティヴな軍用品、世界レベルのドローンを産み出すスーパーラボラトリーへと変貌しつつある。シリコンバレー出身の技術者や各国からの投資を招きつつ200を超える国内企業が軍および前線部隊と一致協力して24時間態勢で実用的(効率よく敵を偵察し殺害する)ドローンの開発に取り組んでいる。今のウクライナの特異性は幸か不幸か開発したら即・試用できる点で、これがPDCAの超速回転を可能にしている。ロシアの10分の1とも言われる航空劣位をドローン軍団によって覆すことがウクライナの狙い。УП

■ベラルーシのワグネルを率いているのは「ウクライナ人」
ベラルーシのワグネル軍を率いているのはウクライナ出身者であるらしい。セルゲイ・チュプコ(46)、ウクライナ西部チェルノフツィの軍人一家に生まれ、ソ連崩壊後、露クラスノダール地方ノヴォロシイスクに一家で移住。94年に露軍の契約軍人となりチェチェンで従軍。02年~民間警備会社を転々。17年にワグネル入社。シリアで活躍を認められ、19年にはリビア支部長に。УП

7月25日

■穀物合意と港湾攻撃
・英情報局による現状まとめ:露は穀物合意離脱後の18日からオデッサをはじめとする南部港湾インフラへの攻撃を激化した。本来は対空母兵器である重量ミサイルKh-22などを用いて、オデッサ西郊チェルノモルスクの穀物倉庫を破壊し、オデッサ中心部歴史地区を破壊し、24日にはルーマニア国境から僅か200mのドナウ河上のドックをドローンで攻撃した。ところで穀物合意が生きていた22年8月から23年6月までは、ロシアはウ南部港湾インフラへの攻撃は自重していた。だが合意の停止により、ロシアは政治的な制限が緩和されたものと見て、港湾が弾薬庫として利用されているとの見立てのもとに、オデッサ攻撃を試みた。これは開戦当初から言えることであるが、露のミサイル攻撃は「諜報の劣悪さとターゲット選定プロセスの非効率によって特徴づけられている」УП

・プーチンのお家芸、「論文」。ペテルブルクで今月27-28開催のロシアアフリカサミットおよびロシアアフリカ経済人道フォーラムを前に「ロシアとアフリカ:平和と進歩と明るい未来のために力を合わせよう」と題する論文を発表、アフリカの発展に対するロシアの貢献を自賛しつつウクライナの穀物合意にも触れ、(自らウクライナ産穀物の輸出をブロックし且つミサイルで物理的にウクライナ産穀物を焼尽しておきながら)ロシアの農作物は豊富にあるからこれからはウチから買えばよい、一緒に明るい未来を築いてきましょうという厚顔無恥ぶり(論文
ISWによればプーチンがこのタイミングで「論文」を発表した狙いは、穀物合意からの一方的離脱とウクライナ産穀物および港湾施設への攻撃、国際刑事裁判所の逮捕状のせいでBRICSサミットへ自ら出席できないこと、これらによって損なわれたアフリカにおけるロシアおよび自らの名望を回復することにある。УП

・ところでオデッサ攻撃をロシア側は「17日のクリミア橋爆破への報復」とも規定している。タイミング的には17日に穀物合意が期限を迎えることは事前に分かっておりオデッサ攻撃は予め計画、少なくとも検討はされていた筈で、そこへクリミア橋のことがあり⑴攻撃のタイミングを早めた、あるいは⑵烈度をあげた、あるいは⑶計画通りに行ったところへさらに「クリミア橋の報復」という理由を付け足した。このどれかだ。対するウクライナ側は、今後も橋への攻撃を続ける意向を明確にしている。「クリミアおよびクリミア橋への攻撃は続ける。敵の兵站を破壊するのに必要だからだ。これはごくふつうの戦術である。敵が弾薬・燃料・食料その他を取得できないようにするため、兵站線を破壊する。その当たり前の戦術を彼らに対しても使う、それだけ」(レズニコフ、УП


■ロシアのドローン製造工場
ロシアではイランの協力のもとドローン製造工場の建設が進められており、来年初頭に竣工するものと見られている。これが稼働すれば「露がこれまでイランから購入していたものとはケタ違いのドローン在庫」を露は手にし、それがウクライナでの戦争に(ウクライナにとって)決定的な悪影響を与える恐れがあるとして、米国の情報当局が危機感を募らせている。УП

■ワグネル反乱についてプーチンは2ー3日前に知っていた?
ワシントンポストがウ露米欧の情報当局内の情報として伝えたところでは、プーチンはワグネルの乱の発生2-3日前に反乱の可能性について報告を受けていたが麻痺ってしまって(or、ピヨってしまって、スタン状態に陥り)、反乱前に予防の手立てを講じず、反乱当日も相当遅い時刻まで一つの命令も発出できなかった。УП

■ウクライナ、旅客機発着再開への道
現在ウクライナはミサイル・ドローンその他による攻撃の可能性がある中でいかに民間の旅客機を飛ばすかについてイスラエルの専門家と協議している。再開時期については2案あり、第1は戦争終結の暁に一斉再開、第2(最有力)は23年末ごろに限定再開するというもの。現時点で安全性が高いと見られているのはキエフおよびリヴォフの空港。オデッサにある国際空港も近々安全性を確立するだろうとのこと。主要な行き先はワルシャワ、クラコフ、ベルリン、フランクフルト、ミラノ、ローマ、ロンドン、ブリュッセル、アムステルダム、パリ。キエフと欧州20-25都市、リヴォフと10都市、オデッサと5都市を結ぶ計画であるとか。УП
「平和な空を!(Мирного неба!)」がウクライナ人の定型的な挨拶語になって久しい。空は長らく露ミサイル・ドローンら死と破壊の使途どもに領有されている。開戦以来ウクライナの空を民間機は一切飛行していない。ムリーヤのトラウマもある(ウクライナが誇る世界最大の飛行機、戦争初期に露軍によって破壊)。「平和な空」の回復はウクライナの人たちの悲願である。

7月24日

■オデッサ攻撃
・23→24日の夜、オデッサ州西部にドローン3機。今度の標的は黒海でなくドナウ川を通じた穀物輸送のインフラ。穀物倉庫が破壊され、6人が負傷した。УП
・上方修正。23日の攻撃によって損傷した建物は61棟、うち28棟が歴史建造物だそうだ。旧市街は100年ものの建物がひしめいており目をつぶって石を投げても文化財に当たる。УП

ようこそ世界遺産の街、オデッサへ。黒海の真珠と呼ばれます。

・露は飽きもせず高精度ミサイルによって軍事標的のみを破壊し住宅・文化財には一切攻撃していないと説明するのだが、ウクライナ国防省によれば、オデッサに対する最近の一連の攻撃(23日含む)で使用されている「Kh-22」ミサイルは高破壊力かつ迎撃困難である代わりに命中率が50%と低く、誤差は300m。仮に標的が本当に軍事施設でも、人口密集地に飛ばしていいような兵器ではない。それを一夜で3発。紛れもなくオデッサの街並みと、そこに住む人々の生命・生活の破壊が意図されていた、少なくとも許容されていたのである。ОЖ

■領土解放作戦
・米ブリンケン国務長官「ウクライナは昨年2月24日以降占拠された領土の50%ほどをこれまでに解放したが、今行われている夏季反攻は敵の抵抗も凄まじく、一・二週間では終わらない、少なくとも数か月は続くであろう」УП
・米ウォールストリートジャーナルの暗鬱な予測。「ウクライナの反転攻勢は訓練不足と武器不足のために行き詰まり、人員・装備の壊滅を引き起こす恐れがある。ウクライナが春に反転攻勢を開始した時点で西側軍事当局は知っていた、ウクライナはロシア軍を撃退するのに足るだけの訓練も武器(弾薬から戦闘機まで)も持っていないと。それでもウクライナ人の勇敢さと創意工夫で何とかなるのではないかと期待した。だがそれは起こらなかった。ロシアの広大な地雷原、要塞ネットワーク、航空戦力によって、ウクライナ軍の大幅な前進は阻止された」「今年の攻勢で大々的な戦果を収める見込みが縮小するにつれて、米政府内では①戦争は長期化し②武器供与・訓練の大幅な拡充が必要であるとの見方が強まる。だが24年秋の米大統領選に向けて対ウ支援の規模については慎重論が高まるはずだ。米国の及び腰は現時点で既に欧州の温度感(いわく「ユーラシアの安全のためにはウクライナの勝利とロシアの敗北が必須」)と異なっている。だが欧州自身は単独では、ロシア軍を占領地から追放するに足るだけの支援をウクライナに施すことができない」「一方の露軍も盤石ではない。士気の低下、補給の劣悪さ、指導部内の軋轢。ゆえに戦況を反転させウクライナ側に攻勢をかけられる状態にはない。だが、それでも、数百kmの防衛線を維持できる程度の力は残っている」「西側の常識では制空権がない状態で敵の防衛線突破を試みることはない。まさにウクライナも、防空装備や対空兵器の不足のために、前線の大部分にわたってロシアに空の覇権を握られてしまっている。ウクライナがF-16を手にすればどうなるか?一概には言えない。数量や、搭載される設備・兵器の複雑さなど、多くのファクターがある。現代的戦闘機を戦闘計画にどのように組み込むかということ自体が大変な難題である」УП

7月23日

■オデッサ攻撃

22→23日の夜、オデッサに大規模ミサイル攻撃。現状オデッサの防空能力では迎撃不可能な「オニクス」「Kh-22」計8発を含む、5種19発のミサイルによる猛攻であった。

ユネスコ世界文化遺産に登録されている市中心部の旧市街に破壊の嵐が吹き荒れた。文化財に指定されている歴史建造物25棟が損傷。中でもオデッサ最大の正教寺院であるプレオブラジェンスキー大聖堂の破壊(上掲写真)が市民またオデッサを知る人に衝撃を与えた。

人的被害については、死亡1人、負傷20人(うち子供4人)と伝えられている。УПУПУП


本件については色んな人が色んな声明を出した。若干を引例する。
まずオデッサ州に隣接する隣国モルドヴァのサンドゥ大統領「オデッサの破壊の様相を見ると心が痛む。オデッサはモルドヴァ市民の多くが愛してやまない街だ」УП
露ショイグ国防相によれば23日夜のオデッサ攻撃は「無人艇を用いたテロ行為」を予防するために行われた高精度兵器による攻撃だそうだ。ニコッ…(УП
またダニーロフ国家安全保障会議書記によれば、連夜のオデッサ攻撃の意図は①穀物回廊復旧への国際的努力を威力によって予防し無力化し、もってウクライナの黒海への出口を塞ぎ、孤立化させる、②アフリカ諸国に人工飢餓を起こし、移民の流入によって欧州を混乱に陥れる、③これらを避けるために制裁を解除するよう西側に強要する、④ウクライナの穀物輸出インフラを壊滅させることでロシア自らがウクライナに代わる穀物の一大供給国となり、ロシア産穀物に対する世界の依存を高める――いわば『エネルギー超大国』に甘んじず、さらに『穀物超大国』にもなろうとしている。УП

色々な人がコメントを出しているが、結局はゼレンスキーのこんなシンプルな言葉に泣かされてしまった。「我々はこれを越えていく。我々は平和を取り戻す。そのためにはロシアという悪に打ち勝つことが必要だ(Ми пройдемо це. Ми повернемо мир. І для цього треба перемогти російське зло)」УП

なお、日本外務省も「談話」を出している。

アリバイのためだけの声明。一ブロガーとして引用の食指が動かない。引っ掛かりが何もない。当然、ウクライナメディアに取り上げられることもない。今の時代に国際場裏で存在感を出したいなら、こんな情報発信ではダメ。なお、瞥見したところ、オデッサの姉妹都市である横浜市は沈黙。


私からもステートメントを出しておく。何丘。たかだか2年住んだくらいで何か語る資格があると思っている奴。だが何か感じてしまうことに資格が要るだろうか。第一報から一日半、今も喉の奥がきゅんきゅん締め付けられている。怒りとも哀しみとも名状しがたい。思ったことが二つある。

まず、私はロシアに抗議をしない。ロシアは言語による交渉の相手ではない。その暴力からただ身を守り、その暴力の行使を不可能にするべく対抗的暴力を行使するだけの相手である。だから私の声明は内部へ、私自身へと向く。すなわち、一生ロシアを許したくない、と思った。生涯ロシアを憎悪し続けたいな、と強く思った。そうしないとすれば、そんな自分を今度は自分で許せない。

第二に。これだけのことをしておいて、この上さらに制裁緩和(解除)という利得を得るなどということは、絶対にロシアに許してはいけない。ISWやダニーロフによれば、港湾・穀物インフラに対するロシアの攻撃の目的は、自らに対する農業部門の経済制裁の解除を西側に強いることである。が、言語道断。西側はむしろ制裁を強化するべきだ。これ以上の破壊を防ぐために制裁を緩和する、のではなく、すでに行われた破壊について制裁を強化する。前者がもたらすのは見せかけの平和である。制裁緩和すればそれでロシアは新たな資金を得、その資金でミサイルを作り、ウクライナへ飛ばすのだから。同じ過ちを繰り返すな。これはもうパターンとして学習すべきだ。ロシアが恫喝してきたとき、それに屈するのでなく、恫喝行為そのものについて懲罰を与えること。

では、恫喝という戦術は無効であるという認識をロシアが持つに至るまで、オデッサへの攻撃をもうしばらく甘受するしかないのだろうか。いや、できることが2つある。①パトリオット等、西側の新式対空兵器の追加供与。オデッサにキエフ水準の防空能力を備えさせる。②ATACMS等、長射程兵器の供与。クリミアおよび黒海上のロシアのミサイル発射基地を叩く、あるいは、下がらせる。この2つが可能で、必要で、またこの2つ以外のことはすべきでない(ロシアとの穀物ディール(сделка)等)。

7月22日

■夜襲
21→22日の夜は比較的静かであった。露はシャヘド5機を飛ばしたが全て撃墜した。УП

■防備
ウクライナ最高会議国家安全保障委員会の副委員長によれば、ウクライナは自前の対空防衛システムの開発に成功し、現在テストを行っている。ウクライナ開発されウクライナで製造される「最新鋭の中距離対空防衛システム」である由。УП

7月21日

オデッサ、港、黒海

■オデッサ攻撃⑴
20→21日の夜もオデッサに対しミサイル攻撃。「カリブル」。穀物倉庫や農業用機械の保管庫が破壊され、2人負傷。南方作戦司令部のグメニュク報道官「敵の繰り返すテロルが穀物合意(のロシアによる一方的破棄)との関係はもはや疑いがない。今宵は農業企業の貯蔵庫が直接の標的となった。穀物備蓄を根絶やしにしようとしている」「敵は真夜中に黒海海上のミサイル艦から『カリブル』ミサイルを発射、非常に複雑な軌道・低高度の飛行であったため発見は難しく、ほとんど防空警報の発令と同時に被弾した。まず2発。救助・消火活動が始まったタイミングで第二波。このため農業施設のほか複数の消防車も損傷した」。穀物そのものの損害はエンドウ豆100トン・大麦20トンである由。УПУП

■オデッサ攻撃⑵
攻撃は白昼も行われた。ミサイル7発がオデッサ州西部へ。「重要なインフラ施設が破壊された」とのこと。УП

■ISW「オデッサ攻撃の狙いは……」
ISW(米戦争研究所)によれば、ウクライナの港湾や穀物インフラへの攻撃強化、また民間船攻撃に関する脅迫は、「ロシアの穀物合意は喫緊の課題である」という認識を深めさせ、もって西側から経済的譲歩を引き出すために行われている。УП

■ロシア、黒海上の船舶の臨検強化?
ロシアは黒海海域を通行する全船舶の臨検を行う意向だそうだ。先に報じられたようにロシアは黒海上の全船舶を軍事貨物船と見なすが、かといって無条件に撃沈させるということはなく、まずは臨検を行う、とのことだ。……は? それで安全が確かめられたら航行を許してくれるんですか?УП

■国産の対ミサイル兵器でオデッサを守る
ダニーロフ国家安全保障会議「ロシアの使用するある種の兵器兵器に対して、こちらの対空兵器が不足している。ゼレンスキー大統領より港湾インフラ防衛強化の命令が下った。必要な装備品の供給を加速するため(パートナー諸国と)あらゆるコンタクトがとられているが、我々自身も独立して開発を行っている。ごく早期に港湾防備の強化は成るものと思っている」УП

CIA長官

CIAのバーンズ長官「ロシアは一連の重大な構造的欠陥を抱えている。士気の低さ、将官の質の低さ、政治および軍指導部内の無秩序などだ。とりわけ6月のワグネル反乱でプーチンが構築したシステムにおける重大な欠陥が露呈した。多くのロシア国民は『王様は裸』もしくは『王様は服を着るのに余りに手間取っている』と感じたことだろう」「反乱はCIAのロシアにおけるリクルート活動のユニークな機会となった。ロシア人向けにCIAと連絡を取る方法をレクチャーする動画をテレグラムに投稿したところ、1週間で250万閲覧を記録した」УП

バーンズについてはこの動画で倉井高志・前駐ウクライナ大使が「クライシス・マネージメントのキーマン」と規定していた。戦争の決定的エスカレーションを回避するべく露ウ間の「暗黙の合意」(ロシアはウクライナを侵略するが第三国には侵略しない、ウクライナは自国領土は解放するがロシア本土までは攻め込まない)の遵守を監督しており、重要局面の直前(ウへの西側戦車の供給決定前、ウの夏期攻勢開始前など)には決まってこの人がウクライナを訪問していると。

そのバーンズ氏はウクライナの反転攻勢の進捗を「楽観視」しているそうだ。諜報機関の情報に基づく限り、展望は明るいと。「(領土解放は)困難な課題ではあるが、我々は諜報機関として可能な限りの支援を行う」УП

汚職と改革

■汚職対策
УПの調査でオデッサの軍事委員会(徴兵センター)トップが戦時下の不正蓄財でスペインに豪壮なヴィラを購入していたことが分かり罷免された一件を受け全国的に軍事委員会に対する内偵が行われている。今月いっぱいで調査は終了するそうだ。УП

■EUへの道
欧州委員会のフォンデルライエン議長「ウクライナは戦時下でありながら目覚ましいテンポで改革を進めている。改革は、司法の独立、汚職対策、少数派の権利擁護、報道の自由まで多岐にわたる。ウクライナがスピーディにまた決然と改革を導入して行っているさまは見ていて気持ちがいい」。欧州委員会によればウクライナはEU加盟交渉を開始するのに必要な7条件のうち2つを完全に達成しており、残りは達成中(ウクライナ側の見込みでは10月までに達成可能)だという。今のテンポが維持できればウクライナはEU加盟手続きにおいて急速な成功を収めるであろうとフォンデルライエン氏。УП

■文相、辞任へ
文化および情報政策担当大臣トカチェンコ氏が辞表を提出した。先にゼレンスキーが同氏の解任をシュムィガリ首相に提案していた。
経緯:トカチェンコ氏はウクライナ国立「ウクライナ民族ホロドモール=ジェノサイド」博物館の建設を推進、またとある記念碑にあしらわれたソ連の国章をウクライナの国章へと改めることなどを提唱していて、それ自体は今のウクライナの脱ソ・反露・文化愛国主義路線に合致するものではあるが、「戦時下の今、莫大な国費を投じてやることではない」「予算は全てインフラ復旧、医療、教育に使うべきだ」と社会の内部から批判が噴出。ゼレンスキー「どうしてもやりたいなら国家予算の外部から資金を調達してほしい。世界には助けてくれる(募金にやぶさかでない)人たちがいる。戦時下では国費は最大限、国防に回すべきだ。博物館、文化センター、シンボル、これらが大事であることは認めるが、今は他に優先すべきことがある。予算外の資金を見つけてほしい。国費ではまかなわない」УПУПУП

■国防募金
ウクライナ人自身によるウクライナ軍への募金額の推移を調べたところ、ウクライナの主要な3つの慈善基金(United24、「生きて帰れ」、セルゲイ・プリトゥーラ財団)を通じた今年上半期(2023年1-6月)の募金額は83.5億グリヴニャ(322億円)であった。2022年の下半期と比べると22%減だが、月別ではこの6月の募金額が最高記録を更新した(УП)。領土解放作戦への成功への切望が形をなしたものと見える。募金額の推移は世論調査より雄弁に世論を語っているだろう。

■クリミアをシリコンバレーに
ウクライナDX相フョードロフによれば、ゼレンスキーにはクリミアを超ハイテクな大学・企業が24時間体制で稼働する、米シリコンバレーを思わせるIT拠点とする構想があるそうだ。戦争に勝利し安全を確立し正しい政策を行えば実現可能であるという(УП)。クリミアについて明るい未来を語ること大事。

7月20日

■オデッサ受難
19→20夜もオデッサそしてニコラエフへ猛火。これでクリミア橋爆破・ロシアの穀物合意離脱(17日)から三夜連続。発射された飛翔体は38発(ミサイル19・自爆ドローン19)、うち18(ミサイル5・ドローン13)を撃墜。オデッサでは市中心部で爆発・火災、1人死亡、8人負傷。ニコラエフも市中心部が被害に遭い、1人死亡、18人が負傷。УПУПУПУП

露国防省は声明でウクライナ南部への連夜の攻撃がクリミア橋の報復であることを明言。「高精度兵器によりオデッサ・イリイチョフスク(チェルノモルスク)の無人艇製造工場およびその保管庫を破壊、またニコラエフの燃料インフラ施設およびウクライナ軍の弾薬庫を破壊した」のだそうだ。「攻撃の目標は達成された、全ての標的が撃滅された」のだそうだ。УП

なお、今次のオデッサ攻撃では、市中心部にある中国領事館が損害を被った。窓ガラスが割れる程度のこと。中国側も事実と認めている。УПУП
(もし仮に、これで中国の館員が一人でも死んでいたら、それによって少しオデッサは安全になったのだろうか。今回のこと程度でも、中国側は抗議の一つくらいは述べたはずで、それによって……何か変わるのだろうか)

ところで今回の攻撃に使われたミサイルのうち7発はクリミア沿岸から発射された超音速対艦ミサイル「オニクス」で、ウクライナ側はこれを一発も迎撃できなかった。このミサイルの特性は①高速。マッハ2.6(時速3000km超)。②低軌道。巡航中は高高度を飛行するが目標に近づくと高度を海抜10-15mまで落とす。これら特性により防空システムによる捕捉・迎撃は困難であるという(УП)。ただし西側のPatriotやSAMP/Tが十分にあれば話は別ということで、ウクライナはこれら兵器の追加供与をパートナー諸国に求めていく構え(УП

■ロシア、黒海に機雷を設置
米大統領府によれば、ロシアはウクライナの黒海北岸諸港への通路となる海域に追加で機雷を設置した。民間船を攻撃しそのかどをウクライナに着せる方向でロシアは動いている、と米側の見立て。УП

■洪水の犠牲者(公式発表)
ウクライナ内務省によれば、カホフカダムの爆破に端を発するドニエプル下流域洪水による死者は、右岸だけで31人(ヘルソン州29人、ニコラエフ州2人)に上るという。水は引いており、目下最大の課題はむしろ流域住民の利水の回復であるという。УП

■クラスター爆弾の使用始まる
ウクライナ軍が南部・東部で米供与のクラスター弾の使用を開始した模様。ロシアの堅固な防衛線を破壊し夏期攻勢を加速する狙いと見られる。米側もクラスター弾が既にウクライナに入り「効果的に使用」されていることを確認している。УПУП

7月19日

■オデッサ攻撃
オデッサへの攻撃が止まない。昨日「安堵」とか言ってた自分を恥じる。
18→19日の夜、ロシア軍がウクライナの軍事施設や重要インフラの破壊を目指して放ったミサイルは30発、イラン製自爆ドローン「シャヘド」は32機。うち撃墜できたのは僅か14発・23機。撃墜率がガタ落ちしている。今回は現在のウクライナの防空能力では撃墜不可能な「オニクス」「Kh-22」といったミサイルも使用された由。
攻撃の主たる標的となったのがオデッサであった。穀物ターミナルや倉庫といった港湾設備、工場、宿泊施設などが被弾。幸い死者はなし。少なくとも6人が負傷。УПУПУП

ある一発の落下でこんなに大きな穴が開きました。ミサイルというものの威力のほどが窺い知れる。

お隣のチェルノモルスクの港では例の穀物回廊を通じて輸出されるはずだった穀物6万トンがロシアのミサイル攻撃によって灰燼に帰した。まともな神経ではない。犯罪、狂気、異常性、まこと度し難い。УП

■ゼレンスキー、オデッサ攻撃について
ゼレンスキーによれば、チェルノモルスクの焼失した穀物6万トンは中国に輸送される予定だったそうだ。本当か嘘か、中露関係に楔を打ち込む興味深い一手。使えるものは全て使う。УП
またゼレンスキーによれば、西側の高精度防空システム(「パトリオット」等)が不足しているために港湾の防備が不十分なのが現状で、軍に対し港湾の防備強化を命じたとのこと。УПУП

■穀物合意
すべての話の前提はこれである。朝日19日。

ここに述べられているように、ロシアは「取引」などできる立場ではない。ウクライナがウクライナの港からウクライナの穀物を輸出する。その当たり前のことをできなくしておいて、交換条件に、別件で予め設定されていた対ロ制裁の緩和という利得を引き出そうとする。盗人猛々しいとはこのこと。極めつけに、合意がないから安全は保障しないとばかり、港にミサイルを何十発も撃ち込んでくる。

原則論でいえば、国際社会は対ロ制裁の緩和に応じるべきではなく、武力には武力で、即ち、ロシアの黒海艦隊の恫喝に対してはNATOの軍艦による商船の護衛によって抗すべきだと思うが、無理なんですか。難しいのでしょうね。

プーチンによれば穀物合意を順守していたこの1年、ロシアは自制心と寛容性という名の奇跡を演じていたのであるが西側は合意の履行を忌避し続け、もってロシア農業に莫大な損害をもたらした。ところで今年ロシアは記録的な豊作であり、ウクライナに代わってロシアが穀物を世界に供給することは十分にできます。それならば、既存の穀物合意にこだわる意味は全くないではありませんか(УП)。またロシア国防省によれば、「どの国に属する船であれ、20日0時以降、ウクライナの港に向かう全ての船は、軍事紛争の当事者、軍用貨物の運搬者、特にウクライナに味方する当事者と見なす」。穀物合意は失効し、もはや航行の安全は保障されない旨、諸船舶に対し警告がなされた、と。УП

ウクライナのダニーロフ国家安全保障会議によれば、ウクライナはパートナー諸国および国連に対し人道護送船団の創設を呼び掛けることを検討しているという。さもなければ「人工飢餓」が引き起こされるのは時間の問題であると。УП

■原発

ウクライナ国防省情報総局によれば、ロシアはザポロージエ原発で重火器を用いた新たな扇動を行うことを画策している。その先ぶれとして、ロシアの情報機関は原発のロシア人職員らに対し「ウクライナ軍が7月末に原発攻撃を準備している」との情報を拡散しているという。いわゆる偽旗作戦。УП

■ポドリャク「領土解放作戦は厳しく、また長期にわたるものとなる」
ウクライナ大統領府のポドリャク顧問がAFPのインタビューで語った:領土解放作戦は相当に厳しく、長く、相当に時間のかかるものとなる。その進度は我々の期待よりも、遅い。УП

■ワグネルとプリゴジン
テレグラム(SNS)のワグネル関連アカウントに動画が投稿され、プリゴジンの姿が久しぶりに確認された。プリゴジンはベラルーシとされる場所でベラルーシ軍の訓練を行っているとされるワグネル兵らに激励の辞を述べる。いわく:我らの戦いぶりは見事であった、我らはロシアのために非常に多くのことを成し遂げた。いま(ウクライナの)戦場で起きていることは恥辱である。こんなものに我々は参加する必要はない。我々が全力で自分の力をぶつけることができるタイミングが来るのを待とうではないか。そのためにベラルーシに来ているのだ。ここで一定期間を過ごし、ベラルーシ軍を訓練して、ベラルーシ軍を「世界第二の軍隊(※本来はロシア軍の美称)」にする。УП
なお、ベラルーシ国内のワグネル軍の脅威に対してウクライナ軍は既に国境沿いに対戦車壕や地雷原を設置して、「汚いブーツをウクライナの土地に踏み入れるや否や」死あるのみという状態を整えているそうだ(УП

■オデッサ徴兵センター汚職事件
オデッサの徴兵センター所長が戦時下の不正蓄財で6月に解任された件、捜査が進められている。同人は戦争を背景に職権を濫用して2億グリヴニャ(7億円)に上る蓄財を行い、母親名義でスペインに370万ユーロ(5.8億円)相当の物件を購入するなどした。蓄財の主たる手段は金貸しで、複数企業に貸付を行い資産を増やしていた。また、徴兵適格の男性の不法出国の斡旋を行っていた疑いも持たれている。УП

7月18日

■オデッサ攻撃
18日朝まだき、大量のミサイル/ドローンがオデッサを襲い、爆発音が続発した。まず大量のシャヘド(ドローン)に波状攻撃を行わせてウクライナ軍の地対空ミサイルの場所を突き止め且つその力を消耗させたところへ「カリブル」ミサイル6発を撃ち込むという本気の攻撃。
だが、ミサイルは全弾撃墜した。ドローンもほとんど撃ち落とした。人的被害は、一人が負傷したのみ。
露ペスコフによれば今次のオデッサ攻撃は「クリミア橋の一件の報復」だそうで、俺たちのオデッサにミサイルを撃ち込みやがってという怒りはあるし、撃ち洩らしたドローンが敵にどのような軍事的利益をもたらしたのかは不明、だが正直、安堵している。この程度で済んだか、もう敵は命綱のクリミア橋を脅かされてもたかがこれしきのことしかできないか。УПУПУПУП

■クリミア橋爆発の影響
ISWによればクリミア大橋の破損は短中期にわたりロシア軍の兵站を困難にする。破損それ自体もさることながら、ロシア人観光客がクリミアから避難しようとして作り出す道路渋滞が、ロシア軍のクリミア→ザポロージエ/ヘルソン後方地域への補給をさらに困難にする(УП

■東部にロシア兵10万人集まってる問題
東部の敵兵10万人にもウクライナ側はひるんでいない様子で頼もしい。ウクライナ軍東部部隊スポークスマンによれば、リマン~クピャンスクにかけて露軍が展開させている10万の兵力は昨日今日現われたものではなく、これまでも微妙に増減を繰り返しつつ相当な人員がそこにいたが、何か月ものあいだ何らの成果も挙げられず、ウクライナ軍の猛火を浴び続けている。「なるほど数は大きい。考慮すべき規模ではある。だが質が伴っていない。よく訓練されてもいないし、士気も低い。数量は脅威の指標にはならず、恐怖の理由にもならない。むしろ、ウクライナの防衛力に対する誇りを掻き立てる」УП
またバフムート方面の戦闘に参加している第57独立自動車化歩兵旅団の司令官によれば、いま相手取っているロシア正規軍は、かつての対敵であるワグネル軍よりも与しやすい。ワグネル兵は「殺すために殺す連中であり、不都合な敵であった」。現在あとひと踏み込みでバフムートを包囲できそうなところまで来ており、(攻撃側の損失は防衛側の3倍という)セオリーに反して、今次の攻勢における損失はかつてバフムートの市街防衛に奮闘していたときよりも少ない。「ゆっくりにもせよ前には進んでおり、士気は維持しやすく、損失にも耐えやすい状況だ」УП

■クラスター爆弾
東部方面の作戦を統括するスィルスキー陸軍司令官によれば、米国のクラスターボムはすでにウクライナに入っており、数日中に使用準備を整える。バフムート方面での使用が計画されているという。УП
※繰り返すが、私はクラスター弾の米による供与、ウ軍による使用を肯定する。私たちは武力によらずにロシアを止めることができたかもしれない、たとえばロシアからの天然ガスその他あらゆるエネルギー資源の購入を停止して、少しの暗さと少しの寒さと少しの貧しさを引き受けることができたなら。だが私たちはロシアから天然ガスを買い続け、明るさと豊かさを享受し続けている。それでこの敵はもはや戦って滅ぼすしかないと覚悟を決めた相手に、「その兵器は非人道的だから使っちゃだめだ」などと、どの口がいうのか。

■ウクライナの脱地雷原化支援有志連合
リトアニア国防相が地雷除去支援の有志連合の発足を宣言した。ウクライナの工兵を訓練しかつ必要な機器を与える、いわゆる「train and equip」(訓練と装備)原則にもとづく支援であると。各国に加入を呼び掛けているそうだ。日本もぜひ。УП

7月17日

■クリミア橋
17日未明ウクライナ軍のものと思しい無人艇による攻撃でロシア本土とクリミア半島をつなぐ「併合の象徴」クリミア橋が一部損傷した。こういうことが行われないようにロシアはこの橋を、空の脅威に対しては哨戒機と対空兵器で、海の脅威に対しては障害物と軍用イルカで守っていたが、数多の失敗の果てにかいくぐったということだろう。УП

橋の損傷部のマクサー画像↓

橋は現在通行止めになっており自動車はウクライナ本土を通る大きな迂回を強いられている。またケルチ←→ロシア本土間の蒸気船の運行も停止している。橋の復旧は今秋の見込み。とはいえ無傷で残った車線もあり、通行自体は早々に可能になると見られる。УП

ウクライナ側は公式には関与を明らかにせず。いつもの伝。一方ロシアは本件をテロと認定しプーチンは「報復」を公約した(УП)。前回のクリミア橋攻撃の「報復」はまことに恐るべきものであった。忘れもしない、10月10日、全土への大規模ミサイル攻撃。今回は損傷も比較的軽微であるしロシア社会への衝撃度も恐らく初回ほどではなく、ミサイルはロシアにとって当時よりよほど貴重なものになっている。力んでも大した屁も出ないロシアであることを切に願う。

■穀物合意
オデッサほか黒海北岸諸港からのウクライナ産穀物の輸出に関する合意がロシアの一方的な履行停止宣言によって宙吊りになった。ロシア側は「合意の中のロシアに関わる部分が履行されなかったため」としている(УП)。仲介役のトルコ「プーチンに掛け合ってみる」byエルドアン(УП)、またの仲介役の国連「深い憂慮と失望を覚える」byグテーレス事務総長(УП)。当のウクライナ「ロシアなしでも穀物回廊は稼働を続ける」byゼレンスキー(УПУП

穀物合意の概要
ウクライナは欧州を代表する穀物(小麦ほか)生産国でありその一大輸出国であったが、ロシア軍の海上封鎖で輸出ができなくなった。ウクライナ産穀物の輸出が止まれば世界的な食糧危機また食糧価格の高騰が引き起こされ当のウクライナにとっては経済的な大打撃である。それで約1年前、穀物合意というものが結ばれ、輸送船の航行の安全が保証された。
この合意はウクライナとロシアの二国間合意ではなく、「ウクライナと国連、トルコ」の合意と「ロシアと国連、トルコ」の合意が個別に結ばれている。後者が停止しても前者は生きている、だから穀物輸出は続く、「ロシアなしでも恐れず決然と輸出を続ける」とゼレンスキー。だが何を言ってもロシア側が合意の不存在を理由に再び黒海に艦隊を展開して海上封鎖したら終わりだ。
むろん陸路で、つまり鉄道や自動車道で西国境から欧州へ穀物を運びこむルートもあるが、船舶による輸送力には全然追いつかない。

■東部でロシア軍が「反転攻勢」
ウクライナ軍のスィルスキー陸軍司令官(東部を担当)によれば、クピャンスク方面でロシア軍が攻勢に転じた(УП)。またウクライナ軍東部部隊広報によれば、リマンからクピャンスクにかけてロシア軍は兵員10万人・戦車900両・大砲555門を集中させている。ウクライナ軍は防衛線を維持して敵がイニシアティヴを奪取するのを防いでいるという(УП

※些末なことだが、このように攻守は反転を繰り返し、また入り組んでいるのであって、だからこそウクライナが今やっていることは反転攻勢でなく領土解放(または奪還)作戦と呼ぶべきだと言っている。元凶は日本のメディアにおける「ロシアのウクライナ侵攻」という語へのこだわりである。今行われていることの全体はシンプルに戦争と呼ぶべきだ。戦争の中に多くの季節があり局所があり作戦がある。「今ウクライナで全体として行われていることは戦争であり(それを因数分解すればロシアの不正な侵略戦争とウクライナの正当な防衛戦争)、その2023年夏という季節には東部と南部でウクライナの領土解放作戦が行われており、特にその東部の一部ではロシアが防衛から攻勢に転じている」、こういう語用を私は推す。世間に行われてるのは「ロシアのウクライナ侵攻に対してこの夏ウクライナが『反転』攻勢をかけている」という整理で、そうすると今ロシアが東部でやっていることに対して「カウンター反転攻勢」by小泉悠みたいな無理な造語をしないといけなくなる。

7月15日

■戦況まとめ
NYT:ウクライナは領土解放作戦開始早々、前線に投入された装備(西側供与のもの含む)の20%を失った。そこでウクライナ軍は戦術を変更し、地雷原での戦闘よりも長距離弾による敵陣後方への攻撃を優先するようになり、それで装備の損失は10%レベルに低減された。一言で言えば、領土解放そのものの進展を遅らせる(場所によっては停滞させる)ことによって、損失を減速させた。結果、当初目標(アゾフ海まで進出してロシア軍を分断する)では96キロの前進が必要であったところ、現在の前進距離はわずか8キロに留まる。なお、一般に、攻撃側の勢力(人員・装備)は防御側の3倍必要であるとされており、その関係で(?)、最初の25キロの突破が最も困難と考えられる。УП

■ワグネル、ベラルーシへ
トラック・バスなど少なくとも60車両から成るワグネルの車列がベラルーシに入ったことが確認された。ウクライナ側は状況を注視するとしている。УПУП

7月14日

■スターウォーズ
13晩から14朝にかけてイラン製自爆ドローン「シャヘド」17機襲来、うち16機を撃墜(УП)。闇夜に稲光が瞬くなか敵機の青い航跡に向けて散る火花、「さながらスターウォーズ(Звездные войны отдыхают)」とУП(←記事内に動画)

■総司令官の1日は……
・ザルージヌィ総司令官がワシントンポストの取材に応じた。「どうしたら損失を減らせるか、そればかり考えている。総司令官の1日は自分の命令によって兵士が何人死に、何人負傷したかを知ることから始まる。携帯電話の連絡帳から死者の連絡先を消去するのが忍びない。だが哀しむのは後だ。今は大事な仕事に集中したい」УП

■越境して殺害する
同じインタビューでザルージヌィ、ロシア本土への攻撃には西側供与の兵器でなく飽くまでウクライナ製品を使っている(ただし「ウクライナ側が公式にそれ(越境攻撃の事実)を認めることは決してない」)。西側はプーチンの核兵器を恐れてロシア本土攻撃に難色を示すが「敵を殺害する方法は自分たちで決める。戦争において敵を敵地で殺害することは可能だし、また必要だ。パートナー諸国がそれに自分の兵器が使われることを恐れるなら、自前のもので殺すまでだ」УП
また情報総局のブダーノフ長官はロイター通信のインタビューで、「ウクライナにモサド(イスラエルの諜報機関、外的暗殺で知られる)は必要ない、それは既に存在するから」と語った。「我々は(暗殺を)してきたし、これからもする」УП

■ブダーノフという男
ウクライナの諜報機関のトップを務めるブダーノフは若干37歳。自ら表に出て発信するタイプだが、これは諜報の世界の「トレンド」なのだとか。「現代の情報機関トップは陰に引っ込んでいてはいけない。これからの戦争では、それ(イメージ戦略、情報発信)は避けて通れない」「2014年の情報戦争に我々は完敗した。それでメッセージ発信の必要性を結論づけたのだ。2022年に始まった今回の戦争では全く違う立ち回りをしている。今度はロシアが情報戦に敗北している」
ロイター記者によればブダーノフはミステリアスな雰囲気を身に纏っていて、執務室には情報総局のシンボルであるフクロウの絵が掲げられ、床には武器だの弾薬だのが散乱していたという。「ウクライナの完全勝利の日まで世界のあらゆる場所でロシア人を殺し続ける」と公言して憚らないブダーノフはロシアでは当然危険人物とされ、4月には欠席裁判で有罪判決を受けているし、5月には情報総局本部が攻撃され「ブダーノフ重傷説」も囁かれた。УП

↓ウクライナ国防省情報総局エンブレム。ロシアへの敵愾心を露骨に表現。

■ウクライナのクリスマスは12月25日
ウクライナ議会が国民の祝日の日付を変更した。降誕祭は従来の1月7日でなく12月25日に祝う。「ロシアの遺風からの脱却」が目的という。УП

7月13日

■「ウクライナは感謝が足りない」問題
NATOサミット場裏で英国のウォレス国防大臣が「ウクライナは次はこれくれ次はこれくれと要求してばかりいるのでなく既に行われた軍事支援についてパートナー各国にもっと感謝してほしい。我々はAmazonではない」といって釘を刺した問題。これに色んな人が色んなコメントを寄せている。ゼレンスキー「いや感謝してますがな」英スナク首相「ゼレはん感謝してはるよ」ダニーロフ国家安全保障会議「感情に任せて何か言ってしまって後で後悔することは誰にでもある、気にしなくていいと思う」УП論説委員「然り英国はアマゾンではない。だがウクライナもポリゴン(演習場)ではない」УПУП

■戦況①前線
全体的に(東はバフムート南北両翼、南はメリトポリおよびベルジャンスク正面ほか)少しずつ前進している(УП)。12日だけで「500人の侵略者をコブゾンのコンサートに送った(ヨシフ・コブゾン、ソ連・ロシアの歌謡王、権力に愛された。故人)」УП

■戦況②後方
後方への攻撃も続いており、トクマクの敵拠点を叩いて200人を殺害したとの報あり(УП)。敵は敵で12→13日の夜、シャヘド20機とカリブル2発を主としてキエフへ飛ばしてきたが、全て撃滅(УП)。また13日払暁、オデッサ沖の蛇島に敵機による空爆(УП

■プー珍語録
プーチンによれば民間軍事会社ワグネルはやっぱり存在しないのだそうだ。プリゴジン以下35人から成るワグネル代表団と会合を持ち戦争および反乱におけるワグネル兵らの行動に評定を与えた、かつ「複数の転職先」を提示した、だが改めて「民間軍事会社ワグネルは存在しません!民間軍事会社はロシアでは違法です。だからいないんです。法律がない。つまりは民間軍事会社もいないのです」УП

■社会①キエフ市でロシア文化排除条例
キエフ市議会が市域におけるロシア語の文化プロダクト(図書、楽曲、コンサート、舞台作品)の公然使用を禁止した。ただし罰則などの規定は未整備という。УП

■社会②ロシアでWikipedia海賊版が発足
ロシアで国家プロジェクトとしてWikipediaの海賊版「Ruwiki」が発足した。ウクライナ戦争に関する情報の検閲強化が狙いと見られる。プロジェクトを率いるのは本家Wikipediaのロシアにおける編集主幹を多年にわたり務めた人物で、同人はプーチン愛から本家を去りパクりを立ち上げることに決めた。その際、本家から190万件のロシア語記事をコピーしてきて、クレムリンの意向に沿う形に加工して海賊版へ移植したというから恐れ入る。「ロシアによるウクライナ侵攻」とか「ウクライナへの国際的な支援」とかが一行も書かれていない清浄なWikiの誕生、おめでとう。УП

7月12日

■NATOサミット総括 by ゼレンスキー①国民向け
ゼレンスキー、12日晩方のビデオメッセージで:民主主義世界における神セヴンことG7から具体的な安全保障を得たことは非常に重要だ。ウクライナは独立史上初めて安全保障の基礎を有するに至った。この基礎の上に新たな、法的拘束力のある二国間安全保障構造を、最強各国と取り結んでいく。また、この2日間のサミットで、ウクライナがNATOに入るかどうかについて、あらゆる疑義・二義性が除去された。然り、ウクライナはNATOに入る。史上初めてNATOの全メンバーがウクライナの加盟に同意しており、また多くのメンバーがそれを積極的に推進してくれている。NATOへの新規加盟に対し条件を設けようとするロシアの企図は今や歴史の彼方。ロシアは欧州の統一から、広くは自由な世界から隔絶された。УП

■NATOサミット総括 by ゼレンスキー②記者向け
サミット後の記者会見における一連の発言。
・次回NATOサミット(2024年半ば)までに戦争で勝利を収められると信じている。次回サミットは記念すべき第75回で、開催地はワシントン。このサミットまでにやらなければいけないことは沢山ある。УП
・バイデン米大統領との会談ではATACMSの供与について合意は得られなかった。これについては突っ込まないでほしい、市民や兵士を落胆させるだけだから。まずは成し遂げ、それから情報を共有する方が良い。クラスター弾についても実は数か月前から交渉は行われており、このほど成果を結んだ。だから待ってほしい、全部いちどきにはできない。УП
・(将来ロシアとの交渉が発生し、領土の放棄がNATO加盟の交換条件となったらどうするか?)加盟国というステータス欲しさに領土を手放すことはない。それが人口一名のひとつの村であったとしてもだ。NATO加盟のために領土の放棄や紛争の凍結という対価を支払うことは絶対にない。УП

7月11日

■オデッサにシャヘド群来
11日未明、一連の爆発。シャヘド(イラン製自爆ドローン)が飛んできたので防空システムが作動、無人機22機を撃墜。即ち深夜早朝の静寂を破り22回の爆発が上空で。これを近く聞く者には夜驚、だが中程度の遠さでは花火に聞こえ、遠くの者には全く聞こえない。
2機が港湾の管理施設に落下。また撃墜片で港湾に隣接の2つのターミナルで火災が引き起こされた(が速やかに消火)УП
シャヘドは黒海から放たれたもの。全部で28機、相当大規模な攻撃だ。南方作戦司令部グメニュク報道官「最近ロシアがイランから貨物を取得したことは関知しており近く大規模攻撃があることは予期していた」УПУП

(NATOサミットについては各種日本語報道でどうぞ)

7月10日

NATOヴィリニュスサミットが11日に開幕するのを前に、NATO関連の話題が目立った。

■NATOサミット間もなく
・トルコとスウェーデンの首脳会談が行われ、前者のエルドアン大統領がスウェーデンのNATO加盟に同意した。トルコ議会は早急に批准手続きに入るという。УП
・ゼレンスキーのサミット出席ほぼ確実と見られており、NATO側はストルテンベルク事務局長がゼレ氏来よるよと確言しているが、ウクライナ側は最後の瞬間までオフライン出席の実否を明かさない方針の模様。ただゼレンスキーは10日晩方のビデオメッセージで「欧州・米国・カナダ・日本との2国間会談が予定されている」とは述べており、また動画を「このような国民、このようなウクライナを代表できることを誇りに思う」との言葉で締めくくっていて、事実上出席を認めたものと見られている。УП

■ウクライナ国民はウクライナのNATO加盟を望むか
・キエフ国際社会学研究所の5月末~6月初旬の調査では、ウクライナ国民の89%がNATO加盟を望んでいる。地域別では例によって西部が最高で93%、東部が最低で79%(被占領地除く)。また、平和の樹立のためにはNATO加盟を断念するのもやむなしと考える人は18%に過ぎず、76%がそのような妥協は受け入れられないと答えている。УП
・社会学グループ「レイティング」の7月上旬の調査では、ウクライナ人がNATOサミットに期待するのは「ウクライナのNATO加盟への保証」。(УП

問い:NATOサミットでウクライナについてどんな決定が下されると思うか。
「近い将来においてウクライナはNATOに加盟する」との約束……29%
「遠い将来においてウクライナはNATOに加盟する」との約束……27%
NATO加盟について約束はなされないが、兵器の供与については約束がなされる……13%
具体的な決定は下されず、一般的な声明に終始する……27%

■戦争終結に関する内外ウクライナ人のヴィジョンの相違
「レイティング」の7月上旬の調査で戦争終結の展望についてウクライナ国内のウクライナ人と欧州域内のウクライナ人に同時に聞いたところ、後者の方が「戦争は長期化する」との見方が強いことがわかった。УП

問い:ロシアとの戦争に勝利するのにどれだけの時日が必要と思うか?
⑴ウクライナ国内のウクライナ人:半年~1年(32%)1年以上(30%)数か月以内(17%)勝てると思わない(1%)
⑵欧州域内のウクライナ人:1年以上(40%)半年~1年(23%)数か月以内(12%)勝てると思わない(3%)

空間的に遠ざかるほどに狂熱が冷めるのだとすれば本邦在住のウクライナ人の中に戦争の最早期終結を信じる人はいよいよ少ない?

■プーチン・セラピー
ナヴァリヌィの独房では毎晩毎晩プーチンの2023年2月21日付年次教書演説(1時間45分)音声が放送されていて、10日がその記念すべき100日目であったそうだ。と書いた瞬間読者の皆さんごめんなさいげろを噴き出してしまいました。ナヴァリヌィ「頭おかしいんじゃないですか?色んなプーチンを聞かせてくださいよ、まさかこれしか喋ってないわけじゃないでしょう」看守の答えがふるっている「これは23年の年次演説だ。だから23年のうちはこれを聞くのだ。次のが出たら次のを聞くことになる」。演説では例によってプーチンが「この戦争はウクライナがロシアに仕掛けたものでありロシアは自衛力を行使しているに過ぎない」等とうそぶいている。これを洗脳の試みと呼ぶべきだろうか、拷問、いやがらせ。いずれにしろ非人道的取り扱いには間違いない。本人テレグラム

■地名の脱ロシア化 in オデッサ
ウクライナの地図からソ連やロシアに因む名称を一掃しようというキャンペーン、当ブログでもたびたび取り上げたが、今も進行中であって。オデッサの最近の傾向では有識者グループがまとめた改称案の妥当性を市民がオンライン投票でチェックする。今回また検討中の50ほどの道路名が公開された。下はその一部(左が現行、右が改称案)

黄色でハイライトした部分、現行の「ドストエフスキー小路」を新名称「歴史小路」に。「作曲家グリンカ通り」を「音楽通り」に。「作曲家グリンカ横丁」を「メロディー横丁」に。こんな具合。ОЖ

7月8日

■500日(動画)
開戦500日。ゼレンスキーがテレグラムでまたエモい動画を公開、最高司令官・総司令官・各方面司令官が口々に「前進!」「前進!」とマントラ繋ぐ(УП

同日公開の別の動画では6月30日に解放1周年を祝ったズメイヌィ島(蛇島)にゼレンスキー自らボートで乗り込んで献花している。

この海上移動はあまりに無防備で、改めてゼレンスキーの勇気とバイタリティに驚かされた。「生を愛する」プーチンには到底マネできまい。開戦500日に合わせた動画ではあるが昨日撮影されたものではない。というのも6-7日の欧州4か国歴訪(最終訪問国はトルコ)からゼレンスキーはリヴォフに入っているから。これで合点がいった。2日のオデッサ来訪はこのロケハンだったのだ。

■500日(祈り)
8日夜、リヴォフで必勝を願う祈祷式が執り行われた。祭儀を司ったのは「各宗教団体の指導者」……ということはカトリック、グレコ・カトリック、ウクライナ正教会の合同か。ゼレンスキー大統領、イェルマーク大統領府長官、シュムィガリ首相らが参加。ウクライナへの加護と勝利への導きを「神」に祈った。УП

■500日(英雄たち)
500日間の戦争で、ウクライナ軍人5万人に国家勲章が授与され、298人が「ウクライナ英雄」の称号を賜った。「英雄」との称号は国家最高の勲章であるが一部の「英雄」の名は今は明かすことができず、戦後はじめて公表できるという。なお「英雄」の大部分は死後の受勲。УП

■500日(と50年)
開戦500日となった7月8日はザルージヌィ総司令官の50歳の誕生日でもあった。ウクライナを率いる「2つのЗ(ゼー)」(前の記事3/18参照)の一人。武運長久を。

ОЖによれば、ザルージヌィはオデッサ軍学校卒で、ロシアの軍学校に一度も在籍したことがない「純国産」の軍人。あと、無類の猫好き。

■主要都市の防空能力を軒並みキエフ並みに
レズニコフ国防相が開戦500日を機に現在の主要な課題として防空能力の向上を挙げた。いま最もよく守られているのはキエフで、プーチンご自慢の自称極超音速ミサイル「キンジャル」さえほぼ確で撃ち落とす。だがその水準でオデッサ、ハリコフ、リヴォフ、ドニェプルも守らなければならない、と。「ロシアが平和な都市をミサイルで攻撃するなど思ってもみなかった」との率直な述懐が痛々しい。「だからこそ、平和な空を守れるかどうかは、私自身への挑戦と感じる」ОЖ

■クラスター弾
レズニコフ国防相によれば、ウクライナはクラスター弾の使用について、5つの原則の順守を義務付けられている。①自国領土の脱占領の目的でのみ使用②ロシア本土攻撃には用いない③都市部には用いない④敵防衛線の突破のために露軍の集積地に対してのみ使用する⑤使用された場所については詳細な記録をつけ、脱占領および戦勝の暁には優先的に不発弾処理を行う。この原則はつとに米側にも書面で通知済みであるという。УП
なお、米国によるクラスター弾供与の決定に対しては、スペイン・英国(ともにクラスター爆弾禁止条約締約国)が反対の立場を表明している。УП

■原発
ウクライナの情報機関が爆発物が設置してあると思しい場所に印をつけた出所不肖のザポリージャ原発見取り図を公開。原発への爆発物の設置は続いているとして、その爆発物の型式まで詳細に明かした。УП

7月7日

■ゼレンスキー欧州歴訪
ルーマニア→チェコ→スロヴァキア→トルコ(※今ここ)。2日で4か国。呆れるほど元気だ。プーチンとルカシェンコとゼレンスキー、3者3様に呆れさせる。第一の者は終わってるぶりで、第二の者は終わりそうで終わらないぶりで、第三の者はその体力の無尽蔵ぶりで。
ゼレンスキーは来週行われるNATOサミット於ヴィリニュス(リトアニア)にも参加するそうだ。УП

■クラスター弾
米国が追加の軍事支援としてウクライナにクラスター弾を供与する。米側はこれを「通常砲弾の生産力整備までの中間措置」と位置付けている。国防総省によれば、同兵器の非人道性は認識しているが、反転攻勢のモメンタムを維持し、ロシアの勝利という最悪中の最悪を回避するためには必要な措置であると。なお供与に際してウクライナ側には同兵器の使用に伴うリスクの最小限化が義務付けられているという。УПУП
※筆者は事ここに至ってクラスター弾の非人道性などをガタガタ言うには及ばないと思う。米製品は不発弾の発生率がロシアが現に使っているクラスター弾よりよほど低いということだ。ウクライナはいずれにしろ既に地雷原である。そこにロシア軍しかいないと分かっている場所を面で制圧するのに有効な兵器として歓迎すべきものでしかないと思う。

■世論調査:ウクライナ人の7割は「幸せ」
キエフ国際社会学研究所が5月に行った調査では、戦時下でありながら、ウクライナ人の70%が自分のことを「幸せだ」と感じている。「不幸せ」は16%。なお2021年12月(侵攻前夜)は、「幸せ」71%、「不幸せ」15%であった。この数字上の恒常不変に一驚。

セグメント別で見ると、年齢別では若年層、経済力では富裕層、地域別では東部よりは西部の方が「幸せ」度が高い。戦災で移住を余儀なくされた国内避難民について見ると、自己評価「幸せ」な人は54%と半数にとどまった。

同研究所の別の調査では、ウクライナ人の実に78%が親類または友人の誰か一人以上を戦争で死傷させており、64%が戦争を機に収入を減じ、29%が失職している。さらに、64%が戦争により心の健康が悪化したと答えている。УП

困難の中でそれでも自分を「幸せだ」と言う人たちにある種の畏怖というか、感動を覚える。それが国民性・民族性みたいなものなのか、人類に共通する芯の部分の話なのかは知らない。ただ、幸せなら支援は要らないよねという話ではない。これは日本にいる避難者たちについても言える。読者の中には身近にウクライナからの避難者がいる人もいるかもしれない。快活に見えて、その苦しみは深いかもしれない。

■ウクライナで最も幸せな街
ウクライナ最西部のザカルパチア州はこの1年半で1度しかミサイルが飛んできていない。他の全ての州ではこの1年半ずっと夜間早朝外出禁止令が敷かれているが、ここにはそれもない。УП

ここはロシアおよびその支配地域からあまりに遠く、すぐ背後にはスロヴァキアやハンガリーというNATO加盟国がある。あまりに平和なのでオルバン(ハンガリー首相、親露)とプーチンの密約の噂さえ囁かれる。前線から遠いということはウクライナ側の戦略拠点にもなり得ないということで、攻撃される理由がない。山がちな地形であり、西側からの兵器供与の動線にもならない。

というわけで、いまウクライナで最も安全な場所といってよい。当然のことに富裕層が殺到し(VIP避難民)、地価は爆上がりして首都キエフを超えた。州都ウシゴロド(人口11.5万)の川岸通りは今、セリーヌやヴィトンやバレンシアガ着てチワワと散歩してるようなやつで溢れている。こんな世界があるんだ。

7月6日

■リヴォフ
西部の古都リヴォフ(リヴィウ)を6日未明、露の蛮ミサイルが襲った。空軍発表では「カリブル」10発中7発を撃滅、撃ち洩らした3発が重要インフラや集合住宅に着弾し、2棟が全壊・35棟が損傷、7人が死亡(現地時7日0時時点、УП

■ゼレンスキー、ルーマニアを訪問
事前の情報漏洩があったが(5日付)、予定通りルーマニアを訪問。キシニョフからブルガリアの政府専用機でソフィアというから(УП)多分陸路で(ヴィンニツャ経由)北国境からモルドヴァに入ったのだろう。

ブルガリア首相および大統領と会談をした。デンコフ首相との会談のトピックは国防部門における二国間協力の活発化、対ウ軍事支援、傷痍軍人の治療、ウクライナ復興へのブルガリア企業の参加、エネルギー安全保障など(УП)。ラデフ大統領との会談ではカメラの入った冒頭部で「紛争は軍事でなく外交的に解決されなければならない」として軍事支援に消極的な姿勢を見せた同氏に対しゼレンスキーが「もしもロシアがブルガリアに侵略してきたら大統領としてどうしますか。独立に関して妥協はしないはずだ。戦争があなた(の国)に及ぶよりはウクライナに軍事支援を提供するほうがましなはずだ」等と滔々とまくしたて、ラデフ氏側が「続きはカメラなしで」と撮影を制止する一幕があった(УП

今回の訪問の成果としては、まず、ウクライナのNATO加盟を支持する旨のウクライナ=ブルガリア共同宣言に調印がなされた(УП)。また、同日行われたルーマニア最高国防評議会の会合で、同国内にNATOおよびそのパートナー諸国(ウクライナ含む)が利用可能なF-16戦闘機の訓練施設が創設される見込みとなった。「ルーマニアは地域におけるF-16パイロット養成のリーダーとなる」УП

■ゼレンスキー、チェコを訪問
で、ここからが神出鬼没のゼレ氏の面目躍如。ルーマニアのあと予告なしにプラハ(チェコ)に入った。大統領・首相らとの一連の会談で下記のテーマを討議する:国防支援、欧州および環大西洋諸国とウクライナの統合、間もなく始まるNATOヴィリニュス・サミット、ザポロージエ原発の状況、「平和の公式」実現への道のり、ウクライナ復興。УП

■原発
ザポロージエ原発については下記8分動画における高橋氏の見解を認識のベースとしたい。①原発の半径30kmにロシア軍がいる間は少なくとも爆破は行われない②今後ウクライナ軍の南部前進が飛躍的に進んでロシア軍が原発からの撤退を余儀なくされたとき、「置き土産として」の原発破壊はあり得る③その際、原子炉の強固な構造をミサイルで破壊することは容易ではなく、攻撃の標的となるのは使用済み核燃料タンクや外部電源であろう④露ウ双方とも虚偽を言う可能性がある。IAEAの情報をまず信じる。それをベースにロシアとウクライナが言っていることを評価する

ウクライナメディアでは変わらず原発の話題が多いが、一時の加熱した声明/報道は冷却傾向にあるように見受ける。

УПは一連の記事で、現在もザポロージエ原発で作業に従事しているという原発職員(匿名)の証言を伝えた。「いずれの原子炉も1年近く冷却されており、そのため放射性物質の放出リスクは著しく低減されている」УП、「ロシアは原発を占拠して最初の数週間で爆発物の設置を完了した。何故今になってパニックが広がっているのか分からない。原発におけるロシア人どものふるまいに変化はない。常駐し、膨大な武器を保管し、軍用車が現れては消え、夥しいトラックが出入りし、その積み荷は不明。爆破のリスクは占拠の瞬間からずっと存在しているが、その後原発の稼働は停止し爾後ずっと冷却を受けているため、周辺環境の汚染リスクはむしろ下がっている」УП、「建屋の屋上や敷地の外周に沿って砲門の設置など軍事拠点化が続いており、戦闘準備を整えているようだ。彼らが原発を立ち去る気配はない」УП

ブダーノフ情報総局長官「我々は水面上また水面下で様々な働きかけを行っており、その甲斐あって、どうやら人為的技術災害の危険は少しずつ低減されつつあるようだ」УП

■ルカシェンコが最強すぎる
ルカシェンコはもう何でも仲介でき何でも受け入れることができ何でも使える気になっているようだ。「ウクライナよ今ならまだ交渉できる、いま停戦交渉に乗り出さないでそのまま反転攻勢とやらを続けるならもう望んでも交渉などできなくなるぞ。同じことをワグネルの乱の調停のときプリゴジンにも言いました」УП、「キエフ・ペチェルスカヤ大修道院の(モスクワ総主教庁系ウクライナ正教会の)聖職者は居場所がなくなったらベラルーシに来なさい、保護するから」УП、「ベラルーシ国内のワグネル兵部隊はもし国防上の必要があれば即刻ベラルーシが動員し、望みの方面へ派遣することができる」УП

■サアカシヴィリ
サアカシヴィリの一件がウクライナとグルジアの両国関係のくさびとなっている件(3日付)、ゼレンスキーが駐ウクライナのグルジア大使に対し「本国に一時帰還してサアカシヴィリの処遇について話し合う」よう異例の勧告、大使はこれを受けて実際に本国に帰還したが、グルジア外相は「話し合う気はない」と一蹴。УП

7月5日

■戦況点描
・スィルスキー陸軍司令官(特に東部戦線を統括)、ABC Newsのインタビューで、バフムート解放は可能だとの確信を示し、領土解放作戦は全体として「非常に困難かつ流血を伴うもの」になっているが、それでも「計画通りに進んでいる」と述べた。
また、南部戦線を統括するタルナフスキー作戦戦略司令官は、同じインタビューで、「状況は『安定的』であり、ウクライナはなお全ポテンシャルを解放してはいない」と述べた。УП
・ウクライナ参謀本部作戦総局副長官グロモフによれば、交戦が行われているホットラインはヘルソン・ザポロージエ・ドネツク・ルガンスク・ハリコフの各州にまたがり、1200kmに及んでいる。これは実際に戦闘が行われている前線の延長距離であって、これにもしもキエフ侵攻の脅威やオデッサ・ニコラエフへの上陸の脅威、さらに沿ドニエストルからの進軍の脅威(いずれも僅少とはいえ最低限の戦力を張り付けてケアせざるを得ず)を合わせれば、戦線の総延長は3800kmとなる。УП
・英国軍総司令官トニー・ラダキンによれば、ウクライナの戦略は①広く浅く突っかかって敵の防衛線を引き延ばし②敵を飢餓状態にしてから③本格攻勢をかけるというもので、現在見られるのはこの①。広大かつ高密度の地雷原、航空優勢の欠如、兵器・装備の欠如という条件下でそれでも解放作戦にかかったウクライナに「遅れ」を指摘するには当たらないと。УП

■ゼレンスキーのブルガリア訪問どうなる
ゼレンスキーの外国訪問(または外国首脳のウクライナ訪問)は事前にアナウンスされず電撃的に行われるのが既に恒例となっているが、ゼレンスキーが今週後半にブルガリアを訪問する予定であることが事前にブルガリアメディアによって報じられ、ブルガリア国防相が計画の存在を認めて情報漏洩に遺憾の意を述べた。「それでもウクライナ大統領が来訪することを望んでいる」というが、どうなるか。УП
ブルガリアでは新たに親欧議会が成立したばかりで、今度の議会はウクライナへの軍事支援に前向きということで、ゼレンスキーとしてはNATO加盟国である近隣国から即効性のある軍事支援を取り付けたい考えと見られる。

■富の収奪
ロシアの反体制派メディアが68億ルーブルするプーチン専用装甲鉄道車両(診察室、美容院、映画館、トレーニングジムを備える)について報じ(УП)、かと思えば、露プロパガンダメディアが「裏切者」プリゴジンの邸宅に捜索が入り「大量の武器、現金入り段ボール箱、かつら、『交渉用』ハンマー、多数のイコンが飾られた専用祈祷室が見つかった」と報じた(УП)。勝手にやってくれ。

7月4日

■原発テロ
ロシアがザポロージエ原発でテロを行うのではないかという話が相変わらずかまびすしい。ウクライナ軍参謀本部によれば、同原発の2原子炉の屋根に爆発物を思しき異物が設置されたことを確認しており、これを爆破しても原子炉が損傷することはないものの、これをもとに「ウクライナ側から砲撃を受けた」という画を作りだすことは可能であり、ロシアはこの虚偽情報をTVやSNSで発信する可能性があるという。УП
・・そこまで視えているのか、という驚き。逆にロシア側のこの動き(が事実だとすれば)は、ロシアとしても原子炉の爆破と放射線災害まではさすがに軽々には起こせないと認識していることの証左として、むしろ安心の材料である。私ら情報の受け手だけ、ロシアからの偽情報の発信に気を付けていればいい。
・・原発テロ起きる起きるといって起きないじゃないかといってウクライナ側のナラティヴの信頼性を疑うのは早計だ。諜報情報の積極開示によって敵の意図を挫く・思いとどまらせるという、侵攻前夜にアメリカがやっていた(やろうとした)ことをやっているのかもしれない。つまりウクライナはこうした情報発信によって現在進行形で世界を放射線災害から防衛している可能性がある。

■NATOとウクライナ
領土解放作戦(「反攻作戦」)の一つの目安になると早くから指摘されていたNATOサミット(7月11-12日)が目前に迫っている。このほど任期1年延長が決まったストルテンベルク事務局長とゼレンスキーが4日に電話会談、NATOサミットを念頭に立場の調整を行い、あわせて戦況やロシア国内情勢を討議した。УП
・・NATOサミットまでに西側供与の兵器である程度戦果をあげていないと追加の軍事支援をとりつけるのは厳しい、という話だったが、あと1週間足らずで戦況に大変化は望めない感。だが一方で、政治日程が優先されて軍事合理性が損なわれることこそ最悪だ、と識者ら言っていた。そういうこともまたなさそうな感じで、その点はほっとしている。

■オデッサの軍事委員会長官が新たに任命されました
ザルージヌィ総司令官が何某という人をオデッサ軍事委員会の長官に任命した。何の話かというと、新兵の採用を担当する軍事委員会というものが各地にあって、オデッサにおけるそれのトップが戦時下の不正蓄財でスペインに豪壮なヴィラを購入していたことがУП(ウクラインスカヤ・プラヴダ)の取材で分かり、ゼレンスキー直々に解雇命令が出され、実際に解雇されていた。УП

7月3日

■サアカシヴィリ
サアカシヴィリのことがグルジアとウクライナの二国間関係のくさびとなっている。サアカシヴィリはもともとグルジア人でグルジア大統領まで上り詰めたがその後ウクライナ人になってオデッサ州知事まで務めた。一昨年故国グルジアに戻って汚職容疑で拘束され、どうも拘置所で非人道的な扱いを受けているらしく、健康状態が目に見えて悪化している。3日の審理に久しぶりにオンライン参加してやつれ果てた姿を見せた(УП)。長期勾留について、本人は「政治的迫害」を訴えており、非政府系の司法医学検査によれば収監前まったくの健康体であった同人は今や20以上の疾患を抱え「病院に搬送されるのが適当」な状態、だが当局はこの診断を退けている。ウクライナ側はつとに同人のウクライナへの「返還」を求めてきたが、このほどゼレンスキーが声明、「本件はグルジア当局の手を借りたロシアによるウクライナ市民ミヘイル・サアカシヴィリの殺人である」とし、同人のウクライナ返還を改めて求めるとともに、駐ウクライナ・グルジア大使の本国帰還を要請する(※強制送還には非ず)意向を示した(УП

■オデッサの海は今
数日続いた南の風で岸辺の水が更新され今オデッサあたりの海は透明で冷たいそうだ。
(経緯:堕地獄奴どものダム破壊で「黒海の真珠」オデッサはヘドロの海に囲まれた)
この透明な水は深層から上昇してきたもので、外見上は清浄だが、微生物レベルでは汚染されているという。また、水面のゴミは地元有志が取り除いているのだけども、海底のゴミは長く同じ場所に留まる。海水温の上昇とともに伝染病の発生リスクはまた高まると(ОЖ
先にウクライナ国家海洋環境センター所長は「少なくとも1年はバカンスシーズンは訪れない」と述べていた。「毒性物質は生物濃縮されかつ海底に蓄積されていく。(今一時的な寛解が見えても)秋の時化で再び状況は悪化する。遊泳、漁獲、海産物消費は勧めない」ОЖ

なお、カホフカ貯水池は水深膝上になってしまった。УП

■ハリコフのタクシー(続)
例のタクシー運転手(7/1参照)の謝罪動画がSNSに上がった。「ウクライナは404国家」などと述べたことは詫びつつも、「自分は戦争反対の立場だ」と釈明。「車内でかけていたのはБи-2というバンドで、このグループは戦争反対の立場を表明しており、そのことでロシアでは『外国エージェント』に指定されている。だからこそ憤慨して、自分の本当の立場を反映していない言葉を述べてしまった。私はウクライナを支持している。私は愛国者であり、ロシアおよびその軍事侵略に強硬に反対の立場である。自分の放った言葉につき、心よりの謝罪を行う」УП
(思ってもいないことは言えないわけで、言ったということは思っていたのだ。「自分は戦争に反対の立場だ」と「ウクライナは存在しない国家だ」と、二種の主張があり得た中で、とっさに選んだのが後者であったということは、それだけ今のウクライナの「言語警察国家」ぶりに辟易していたということだ。この一群の人の中から、今の戦争における対敵協力者(колаборант)とか砲火誘導員(корректировщик)とかが出てくる。そして露プロパガンダに「ロシア世界擁護のための出兵」という口実を与えてしまう。本件は、ウクライナのこの10年の政策上の誤謬の所在を示唆する)

■プーシキン受難
オデッサにはプーシキンの家博物館というものがあってその壁面には「この家に1823-24年の間、偉大なるロシア詩人アレクサンドル・プーシキンが住みかつ働いた」と記されたプレートが飾られている。そのプレートに若い男がつかつか歩み寄ってスプレーでぐちゃぐちゃに汚して去る動画がSNSに(ОЖ
こういうのヴァンダリズムという。本人ご満悦だろう、同志諸君から喝采を受けるだろう、だから分からないだろうなこう言っても。お前はオデッサとウクライナの顔に泥を塗ったのであり、はっきりいってお前のやったことは利敵行為だよ。

■世論調査:オデッサは今もウクライナの中で際立って「親露」
ウクライナ各州行政庁と米共和党国際研究所(IRI)による調査(ОЖ
問い1:ウクライナが国際的な経済同盟に加盟するとしたら下記どれか、一つ選べ:EU(緑)、ロシア・ベラルーシ・カザフスタン関税同盟(赤)、その他(濃灰)、回答に窮する(淡灰)

上図は州別で、親欧を上位に、親露を下位に表示している。たとえば西部リヴォフは「EU」95%「ロシア率いる関税同盟」1%で最上位。この最下位に位置しているのがオデッサである。「EU」66%「ロシア率いる関税同盟」9%、「その他・回答困難」合わせて26%。こうなるともはや親欧圧倒的優勢とも即断しがたい。

問い2:もし今NATO加盟の是非を問う住民投票が行われたらどちらに票を投ずる?賛成(緑)反対(赤)投票しない(濃灰)、回答に窮する(淡灰)

こちらもトップはリヴォフで「賛成」92%「反対」2%。首都キエフは「賛成」80%「反対」5%。最下位はやはりオデッサで、「賛成」53%「反対」18%、その他29%であった。

7月2日

■ゼレンスキー来オ
ゼレンスキーがオデッサ州を訪れた。7月2日は海軍の日だそうで、海兵らに祝辞を述べつつ、①黒海情勢②海軍の防衛力の現状③戦中戦後の海軍の発展戦略④海洋ドローンやミサイル計画について、海軍司令官から報告を受けまた議論を交わした(УПУПОЖ
ゼレのオデ訪問は前回が1月30日というから半年ぶり。にしても内容が薄い気が。なぜ今? ⑴先日蛇島解放一周年だったので改めて祝いに⑵最近オデッサの軍事委員会で大きな汚職スキャンダルがあったので(←プリゴジンの一件にかかりきりで当記事で取り上げそびれた)タガを締めにきた⑶クリミアの敵拠点に対するオデッサ発のオペレーションが今後強化される?

■進捗
領土解放作戦の進捗状況、マリャル国防次官:過酷な戦闘、だが少しずつベルジャンスクおよびメリトポリに進んでいっている。東部は一進一退、相当に困難な状況。УП

■「ワグネル」デファクト国営説
露プロパガンダの巨魁ドミートリイ・キセリョフが自身のTV番組で述べたことには、ロシアは国として民間軍事会社ワグネルおよびプリゴジンが総裁を務めるコンコルドグループと総額8580億ルーブル(≒1.4兆円)の契約を結んでいた(УП)。「にも関わらず裏切った」ということを言いたいがための暴露。だが、存在そのものが憲法違反であり、プーチン自身またプーチンのメガフォンであるペスコフが、あるいはその国家との関係を言下に否定し、あるいはその存在そのものを否認していたワグネル。そのワグネルと国家が久しくずぶずぶの関係にあったことを、今やプーチン自身、またプーチンの第二のメガフォンであるキセリョフが、公然と認めている。終わってる!! 一番終わってるのは、このような詐欺強盗殺人児童誘拐犯を帝王に戴いて恬然としている、ロシアの民主主義だ。

7月1日

■ワグネル神話の解体
露プロパガンダがワグネルのイメージダウンを狙ったネガティブキャンペーンを展開し始めたようだ。国営テレビ「第1チャンネル」のとある番組でマリウポリとバフムートの事例をもとに正規軍とワグネル軍の働きぶりが比較対照された。まずマリウポリはウクライナが8年にわたり要塞化に努め強力な戦闘集団「アゾフ大隊」が本拠を置きウクライナの製鉄業の最重要中心地であり人口42万5000人を擁する大都市であったが正規軍が71日で落とした。一方のバフムートは戦略的に大した重要性もない人口7万2000人の小都であったがワグネルはこれを落とすのに7か月半を要した。「ワグネルは本当に強力だったのだろうか、考えてみる必要がある」。同じ第1チャンネルがつい先々月にはバフムート掌握を「歴史的な快挙」と讃えて喜んでいたのだから終わってる、何をかいわんやだ。УП

■原発テロ
ザポロージエ原発の爆破計画。ゼレンスキーがスペインメディアに語ったところによれば、原発爆破は既定路線であって、今ロシアは爆破の「フォーマットとタイミングを探る」段階まできている。ひとつのシナリオは、ウクライナに原発を明け渡したあとで遠隔操作で起爆する、というもの。ところで原発爆破によってロシアは何を得るか。敵の狙いは「戦争の凍結」であるとゼレンスキー。一帯を放射能汚染して、それを理由に停戦を持ち掛け、その間に軍を強化し、再びウクライナでの戦争に回帰する考えであるという。УП
・・おぞましさにふるえるが、考えそうなことだ、と言わざるを得ない。

■ハリコフのタクシーでУП
よくある話。「側面史」。
ハリコフのタクシー運転手(男性、50歳)と乗客(女性、24歳)の間で悶着。
①運転手が車内でロシア人アーティストの楽曲を流す
②乗客が「ロシアの音楽いやだから止めてくれ」という
③運転手、音楽を止めるが、「音楽と政治は別」と意見
④乗客、「ロシア人アーティストの楽曲を聴けばそのアーティストは収入を得てその収入の一部が税金として国庫に収められその国庫からミサイルが作られウクライナを攻撃する」と抗弁
⑤運転手、「ハリコフはロシア語の街であり自分は生涯ずっとロシア語で話してきたしこれからもロシア語で話し続ける何故ならラクだから」「ウクライナは久しく荒され奪われ売り叩かれた<404国家(存在しない国家)>である」等と持論を展開、果ては「言語をめぐるヒステリーには辟易した、そんなにロシア語が嫌なら西部にでも引っ越せば」と乗客を挑発
⑥乗客、「ここで降ろして」→下車
⑦全てのやり取りはウクライナ語で行われていた。運転手もウクライナ語で話していた
⑧乗客は一部始終をスマホで録画・録音していた
⑨のち乗客は動画をインスタグラムに公開
⑩タクシー会社が当該運転手を解雇

生活者レベルで注釈すると、まずあちらのタクシー事情として、車は基本的に運転手の自家用車でありタクシー業とは「自分の車に人を乗せて小金を稼ぐ」ビジネスである。したがって運転手が客に断りもなく自分の聴きたい音楽をかけるのは普通のこと。一方で、乗客の側が「ちょっとうるさいから音をしぼって」とか「暑いから窓あけていいか」とか頼んだり聞いたりすることも普通である。
この場合、運転手は乗客の求めに応じて音楽を切っているのだし、そもそも相手がウクライナ語話者であることに合わせて「ラクな」ロシア語でなくウクライナ語で会話に応じている。持論の展開中も特段声を荒らげたり放送禁止用語を使ったりもしていないので、まぁ紳士的な部類といっていい。
筆者(何丘)の立場は、地名をかたくなにハリコフ(ハルキウでなく)と表記している時点で自明と思う。「言語警察」に喝采は送らない。こんな動画をSNSに公開してライクを稼ぐ根性に嫌悪感を覚える。運転手は解雇されて気の毒だった。こういう世相だからこそ、客に断りもなくロシア語の楽曲を流すことだけは慎んだ方がよかった。落ち度はそのくらいだと思う。

6月30日

■北(ワグネル)
6月30日の最高司令部会合で北面強化が決定された由。つまり、ベラルーシのワグネル勢力が一定の脅威と認定されたということだ。УП
衛星写真によるとベラルーシでは8000人を収容可能な野営地の設営が既に完了しているという。УП

■ゼレンスキー語録
外国メディア複数によるインタビューでゼレンスキー、リトアニアで7月11日開幕のNATO首脳会議を前に戦果をあげたい希望を吐露した。「サミットまでに結果を出さねばならない。だが毎1メートルを命であがなっている」「反攻開始計画は直近数か月遅れをとっている。大雨が非常に長引き一部プロセスが遅れをきたしている」「2か月でいけるが1000人が死ぬ、というのと、3か月かかるが死者はより少ない、というのとでは、自分が選ぶのはむろん後者だ。時間と人とを比べるなら、一番重要なのは人だ」УП

■ザルージヌィ語録
ウクライナ軍総司令官ザルージヌィが米ワシントンポストのインタビューに応じた。
まず領土解放作戦の進度について「期待より遅い、と言われるのは苛立たしい。軍は毎日前進している。たとえ500mでもだ。見世物ではない。世界がこれを見て、何か賭け事をするような、見世物ではない。毎1mを血であがなっている」УП

プリゴジンの反乱については「前線には影響を与えなかった。敵の防衛線が弱まった感触はなかった」と断言。ベラルーシのワグネル軍が北からの新たな脅威になり得るかという指摘に対しては「懸念事項は多く、ワグネルはその一つだが、全てではない。なすべきことは、最も悪く、かつ最も起こりそうなシナリオに備えることだ。そうして起こりうる被害を最小化することに努めることだ」УП

必要な兵器について「航空優勢を得るために大量の弾薬とF-16戦闘機が必要だ。戦車と大砲と戦闘車両をあげたからこれで何とかして下さいというのは無体だ。竹槍で突っ込むようなものだ。いかなレオパルトも格好のマトに過ぎない」「司令部の画面には全てが映されている。ウクライナ東国境ではロシア戦闘機がウクライナ軍拠点を攻撃しているが、その二倍の数のNATO軍用機がウクライナ西国境で哨戒を行っている。その3分の1でもこちらに回してくれないのはどういうわけなのか」「戦闘機はごく少数でいい。だが必要だ。そして大量の弾薬」УП

■ブダーノフ語録
ウクライナ国防省情報総局のブダーノフ長官によれば、ワグネル兵らのベラルーシ滞在は一時的なもので、彼らは早晩アフリカに赴く。「ベラルーシにはワグネルのハブ(兵站拠点・事務所・リクルーティングセンターからなる)が創設されるが、これはワグネルが国外活動(主としてアフリカ)を行うためのものだ。ウクライナで戦闘に参加した兵員たちは段階的にアフリカへと配置換えされる。ベラルーシのプリゴジンはウクライナにとって何らの問題もこしらえることはない」УП
なお、ブダーノフによれば、FSB(ロシア連邦保安庁)は既にプリゴジン抹殺指令を出している。だが暗殺には準備もろもろ相当な時間がかかり、そもそも命令を実行できるかどうかも未知数、とのこと。УП

■原発テロ
ロシアが占領下のザポロージエ原発でテロを行う計画だとウクライナ側は依然として言い募っている。
情報総局によれば、ロシア占領軍はザポロージエ原発からの段階的避難を開始した。一部原発職員にも「7月5日までに」発電所を立ち去るよう指令が出ているという。一方、原発に残留する職員に対しては「いかなる事故の際にもウクライナを非難せよ」との命令が出ているそうだ。УП

起こりうる原発テロについてダニーロフ国家安全保障会議書記「仮にテロリストどもが核施設でテロを起こせば、全文明諸国はこれを『市民に対する核兵器の使用』と見なすべきだ。カホフカ水力発電所の爆破に対する世界の反応は、ウクライナが受けたテロ攻撃に相応しいものではなかった」「原発テロが起きないようウクライナは可能事不可能事を尽くしており、一部西側パートナー諸国もどうやら『ロシア自身にとって壊滅的な帰結がもたらされる』としてロシアを説得しているようだが、原発が今、全く予測不可能で、かつ国際規範度外視で行動するテロリストどもの手にあることを忘れるべきではない」УП

■力の維持(3者)
プリゴジン。露独立系調査会社レヴァダ・センターが6月22-28日(※プリゴジン反乱は23日晩に始まり24時間で終息)に行った調査によれば、武装蜂起の前後でプリゴジンの人気は半減したが、それでもなおロシア人の3分の1が同人を支持している。なお、対するショイグ国防相の人気も60%→48%と有意に低下(УП
プーチン。米軍のミリー統合参謀本部議長によれば「動乱を経てプーチンが弱体化したかどうか結論を出すのは時期尚早である。現時点では弱体化説と強大化説がともに存在している」。一方、米バイデン大統領は「明白に弱体化した」と述べており、独ショルツ首相も同様の見解を表している。УП
ゼレンスキー。キエフ国際社会学研究所が6月30日に発表した世論調査では、ゼレンスキー支持率は80%、ウクライナ軍支持率は95%。なお、ウクライナが全き民主主義国家となることは「大切だ」とする人は94%(21年12月時点では76%)、EU加盟を望む人は92%、NATO加盟を望む人は89%と、いずれも記録的な高水準。また、ロシアとの停戦交渉に前向きな人の割合は、22年5月時点では59%だったが、23年5月には33%まで低下、逆に「交渉に反対」の人は63%にまで増えている。УП

■英語
ゼレンスキーが上級公務員に一定程度の英語能力獲得を義務付ける法案を議会に提出した。国連・EU・NATOの公用語である英語を国家および地方自治体の要職を占める人間はすべからく習得すべしというわけ。戦時態勢の解除から2~4年後に発効、以後は一部上級公務員に対し年間最大3回受験可能な検定試験(無料)をパスすることが義務付けられる(УП
これにつき「言語オンブズマン」こと国語擁護全権タラス・クレメニは、英語の奨励や一部義務化はウクライナ語の圧迫につながる、ウクライナ語の圧迫はすなわち憲法違反であり国家安全保障上の脅威でありウクライナ国家そのものの存続に対する脅威である……ということで反対の立場を表明している。なんでも上記法案には外国語映画の上映の際には吹き替えよりも字幕を用いるべしとの項目があるそうで、これがウクライナ人がウクライナ語で芸術を鑑賞し娯楽を享受し情報を取得する権利に対する侵害にあたるとクレメニ氏は考えているようだ(УП
※ロシア人は外国映画は基本吹き替えで見る。ウクライナの映画館は入ったことはないが多分同じだと思う

6月29日

おおよそ今どんな感じか:領土解放への一歩一歩、そのための兵器・装備取得への一歩一歩、そしてEU・NATO加盟への一歩一歩。すべて容易ではない。あと、「プリゴジンの乱」のその後。

■プリゴジンの乱、その後
・ブダーノフ情報総局長官がУП取材に語った。「”ワグネルの乱”の重要な帰結は①プーチン政権が面目を失ったこと、そして②ウクライナでの戦闘行為に今後プリゴジンの兵ら(すなわちコスト度外視であらゆる戦果を追求しうるロシア最強の部隊)は参加しない、ということだ」「ワグネル兵はなおルガンスクの被占領地ほか南部各地の基地にいるが、もはや戦闘行為には参加していない」УПУП
・ベラルーシ国内にワグネル兵の駐屯地が形成されつつある(УП)。ダニーロフ国家安全保障会議書記「ワグネル兵がどこに、どれだけの規模で集まることになるのか、それがどのような脅威をもたらしうるかを直近の最高司令部会合で議論することになる。何のために集まるのか。リトアニアを刺激するためか、ポーランドを刺激するためか、わが軍を北側の国境に張り付けるためか。見極める必要がある」「ワグネルは飛行機で世界を飛び回るテロリスト集団だ。世界はこれをもっと強硬に取り締まるべきだった」УП
・バルト三国の国会議長らが共同声明、「ワグネルのベラルーシ集結はNATOおよびEUの東側国境の情勢を一層不安定化する恐れがある」とし、軍事力の追加展開、さらに侵略戦争支援・テロリスト擁護を続けるベラルーシへの制裁強化、ウクライナのNATO加盟手続き加速を呼び掛けた。УП
・EUのボレル外相によれば、これまでEUはウクライナに対し侵略戦争を行うロシアを脅威と見なしてきたが、ワグネルの反乱によって露呈または加速したロシア国内の不安定化もまた、新たな脅威となりうる。「今回の危機からプーチンがより弱った状態で出てくることは明らかだ。だが『弱いプーチン』は、それはそれで大いに危険なのだ。プーチンは暴力の独占を失った。不安定なロシアは大きなリスクだ」УП

■千客万来
ゼレンスキーは応接に暇なし、環境保護活動家グレタ・トゥーンベリが戦争による環境破壊に関する国際作業グループの一員としてキエフを訪問、ゼレンスキーと会談(УП)。米次期大統領候補(共和党)マイク・ペンス氏がキエフを電撃訪問、ゼレンスキーと会談し、ウクライナ兵の敢闘ぶりやロシアの侵略による被害を目の当たりにし、ウクライナ支援への決意を新たにしたとのこと(УП

■軍事支援
アメリカから長距離弾ATACMSが供与されそうとかされなそうとか(УПУП)。一方ドイツからはレーダーや架橋用車両が供与された(УП

■世論調査:ウクライナ国民の8割が戦争による死傷者を家族/友人に持つ
キエフ国際社会学研究所が先月末~今月頭に行った調査では、ウクライナ人の実に78%が「近しい親族または友人がロシアの侵攻によって死傷した」と答えている。学者「この共通体験によってウクライナ国民は連帯感を深め、敵の排撃と正義の樹立への協働を強化する。露プロパガンダのいう『ひとつの歴史』『ひとつの文化』が、ウクライナにおいていかに展望のないものかがよくわかる。侵略による近親者の喪失という共通体験により、むしろウクライナはモスクワからどんどん離反していく」УП

■この間なにがあったか
27日晩、ドネツク州クラマトルスクの人気ピッツェリアに露ミサイルが命中、12人が死亡、65人が負傷。УП

6月24日Ⅱ

УП(22:56)
ペスコフ露大統領報道官「プリゴジンに対する指名手配は解除された。同人はベラルーシへと去る」。ベラルーシに去ったあとプリゴジンが何をするのかは不明。蜂起に参加したワグネル兵も、戦場での功績に鑑み、おとがめなしという。あわせてペスコフ、プリゴジンと20年来の旧知というルカシェンコの仲裁を「高く評価」した。
プーチンが新たなビデオメッセージを出すことは予定されていないという。
「本件はウクライナに対するロシアの戦争の進展にいかなる影響も与えない」そして「プーチンは終日クレムリンで執務していた」という。

УП(20:31)
プリゴジンが突如声明、モスクワまで200kmまで達したところで「流血を避けるため」と称して「正義の行進」を停止し、ワグネルの車列は基地に帰還すると発表した。なんでも、ルカシェンコの仲裁があったらしい。プリゴジン「ワグネルの安全に関する絶対的に有利で受け入れ可能な提案が交渉のテーブルに乗っている」

6月24日

■ロシア動乱
本当はそれどころでないのだが余りのことに取るものも手につかぬ。可能な範囲でУПのタイムライン綴る。随時更新。(表示はウクライナ時間。プラス6で日本時間になる)

日本時間25日0時をもって更新ストップします。不眠更新できない理由は「ウラガワ日記」参照。

УП(17:20)
ロシアの政治エリートやオリガルヒが大挙してプライベートジェットでモスクワを脱出している。すでに国外に逃れた者もいるようだ。

УП(17:23)
ベラルーシ反体制派を率いるチハノフスカヤが、ロシア内部の権力闘争・武装闘争にベラルーシが巻き込まれないよう用心せよと呼び掛けた。またベラルーシ人義勇軍「カリノフスキー連隊」がシンパの軍人・市民に対して「(蜂起せよ、との)シグナルを待て」と呼びかけた。
これでベラルーシでまで独裁制打破のうねりが起きればまことに面白いが、実現可能性どうであろう。

УП(16:25)
ワグネル軍はモスクワまであと400kmのところまで進軍しているそうだ。露独立系メディア。

УП(16:15)
5月の越境攻撃で名を馳せた親ウクライナのロシア人武装勢力「ロシア義勇軍団(РДК)」 および「『ロシアに自由を』軍団」(ЛСР)が露政権打倒に向けかつての敵・ワグネル軍と共闘する意志を示し、また、自身のシンパに「積極的な行動」を呼び掛けた。

УП(15:46)
ペテルブルクのワグネル本社には現在当局の捜索が入っている。その一環で、本社近くのホテルの中庭に停まっていた不審な軽トラを調べてみると、段ボールに入った大量の現金が見つかった。その額40億ルーブル(≒68億円)。プリゴジンもこれを事実と認めている。いわく「軽トラだけでなく同様に現金を満載したバス2台も摘発された。これら(の金)は第200貨物(=死体。ワグネル兵の)その他の問題の代償として支払われたものだ」「ワグネルは10年間の活動において常に現金を使っていた」
(何丘:非合法犯罪集団というワグネルの出自を雄弁に物語るエピソード。これほど穢いカネもない。がんばれプリゴジンとか言って、これほど醜悪なものに浄化の使途の役が託されねばならないほど、ロシアという国はオワッテいるということだ。弾けろ、この10年の大国幻想。3等国からやり直せ)

УП(15:25)
CNN「ウクライナにとってこれ以上ないタイミングで露政権内の混乱が生じた。ロシア軍に壊滅的な打撃を与えるべく数か月にわたり反攻を準備していたウクライナにとって、ワグネルの武装蜂起は思いがけないプレゼントとなった。
(何丘:本当そう。今のところУПタイムラインに何かこれを機にウクライナ軍が大きな動きを仕掛けたとか戦果をあげたとかいうニュースは踊っていない。だが、この千載一遇のチャンスをものにして、何か突破的なことができなければ、絶対だめだろう。急いて事を仕損じてほしくはないが、急いでほしいと願わずにはいられない)

УП(14:43)
露独立系メディアによれば、露大統領府は数時間後にもワグネルの軍がモスクワに到着し、首都近郊で戦闘が勃発するのではないかと危惧している。
政権中枢に近い情報源によると、2週間ほど前、プーチンがワグネル兵に露国防省との契約を命じたころから、プリゴジンは何やら策動を開始していた。だが武装蜂起などという狂気の沙汰に及ぶとまでは誰も考えていなかった。ワグネルの反乱が鎮圧されることは疑いがないが、少なくとも一部傭兵がモスクワに入り込むことは回避しがたい。とはいえモスクワはすでに陸の孤島と化しており、都市間交通も遮断され、市内をナンバープレートのないバスが大量に巡回している。

УП(14:40)
ウクライナ情報当局によれば、プーチンはモスクワからヴァルダイ(ほぼモスクワとペテルブルクの中間地点、プーチンの別荘がある)へ緊急避難した。生を愛しているなぁ!一方ペスコフ露大統領府報道官はプーチンはクレムリンで執務中だとか言っているそうだ。

УП(14:37)
露メディアによれば、対テロ作戦態勢が敷かれているモスクワ市・州、ヴォロネジ州では一時的にインターネットの利用が制限される可能性がある。

УП(14:32)
ウクライナのクレバ外相Twitter「ロシアは敗北するには強すぎる、と言ってた人よ、今の状況を見てください。今こそ偽りの中立、エスカレーションへの恐怖をかなぐり捨て、ウクライナに必要な全ての武器を与えてほしい。ロシアとの友情だのビジネスだのは忘れてほしい。悪に終止符を打つときだ。誰もが唾棄し、けれども怖くて滅ぼせなかった悪を」

УП(13:00)
「プリゴジンの乱」についてゼレンスキーがコメント。「悪は自壊する。軍人を車列に積み込んで隣国の生活を根絶やしにきて、数多のミサイルでテロを行い、何十万もの人間を死に追いやった挙句、自らが武器を与えた人間たちから自分を守るために、モスクワに立てこもっている。ロシアは自らの弱さと愚かさを、永らくプロパガンダで塗り隠してきた。挙句に生じたこのカオスによって、今や馬脚は完全に暴かれた。ロシアは弱い。あまりにも弱い。ロシアから這い出る悪とカオスから、ウクライナは欧州を守ることができる。ウクライナ人よ、結束を、力を。ウクライナ軍の将軍たち兵士たちは、なすべきことを知っている」

УП(12:47)
露独立系メディアによれば、露リペツク州(下図参照)の道路を戦車数台を含む車列がモスクワ方面に走行中だそうだ。

УП(12:44)
ロシアの人権団体Gulagu.netによれば、「ショイグ、ゲラシモフ、弾薬はどこだ!」の名言で知られるプリゴジンだが、弾薬払底騒ぎは実は虚偽で、ワグネルは2か月にわたり弾薬を貯め込んでいた。

УП(12:29)
ロイターが露特務機関の情報として伝えたところによれば、ワグネル軍は露ヴォロネジの軍事施設を掌握した。ここからモスクワまでは500km。下図でロストフ・ナ・ドヌーとヴォロネジの位置関係を確認のこと

УП(12:28)
プリゴジンがプーチンにアンサーを返した。「裏切りとの指摘は当たらない。我々は祖国を愛するパトリオットだ。だから戦ったし、今も戦っている。ワグネル全員がだ。大統領であれ連邦保安庁であれ誰であれ、大人しく御縄にかかれと言われて従う者はいない。我々はただ、ロシアが汚職と虚偽と官僚主義にまみれることを望まないだけだ」

УП(12:26)
ワグネル軍はモスクワへの進撃を続けており、露軍が幹線道路を走行中のワグネル軍車両に航空攻撃を仕掛けたそうだ。

УП(12:12)
チェチェン共和国の首長カディロフが旗幟鮮明にした。プリゴジンの行為は「裏切り」「背信行為」「全き武装蜂起」であり、カディロフの軍はロシア国防省による反乱鎮圧に味方する、だそうだ。

УП(10:58)
ISW「ロストフ・ナ・ドヌーには露軍司令部の中枢が所在しており、プリゴジン率いるワグネル軍の反乱はウクライナ戦争の帰趨に著しい影響を及ぼす

УП(10:17)
プーチンが動画で声明を出した。プリゴジンの動きを「反乱」「反逆」「裏切り」「犯罪行為」と断定。「政権は厳粛な対応をとる。軍その他機関に必要な命令を出した」だそうだ。

УП(10:01)
モスクワでは対テロ作戦態勢が敷かれた。街頭での身分証確認、対テロ作戦指定地域への出入りの監視、この態勢のとき権力側は市民の強制退去、自動車のレッカー移動、電話の盗聴、インターネット上で交換される私信の閲覧、必要な場合には市民の自家用車の徴用や令状なしに家宅に立ち入ることさえ可能になる。

УП(08:23)
プリゴジン「ロストフ・ナ・ドヌーの軍事施設を制圧した。参謀総長とショイグに話がある。それが叶うまで、ロストフは封鎖する。我々はモスクワへ向かう」。なおワグネルは既に露軍のヘリ3機を撃墜している由。

УП(01:33)
露国防省「ウクライナ軍はプリゴジンの扇動に乗じるべくバフムート方面へ攻撃力を集中させている」

6月23日

■がんばれ!プリゴジン
プリゴジンがいよいよ一線を越えようとしている。がんばれプリゴジン。がんばれ。乱すだけ乱して消されろ。
・PMC「ワグネル」首魁プリゴジンが公式テレグラムで声明。「ロシア正規軍が後方にあるワグネル兵の駐屯地にミサイルを撃ち込んだ。多数の戦士が死亡した。どのような返報を行うか、決断を下す。抵抗はしないように。抵抗する者は脅威と見なして殲滅する。すでに国防大臣セルゲイ・ショイグは臆病風に吹かれてロストフ(※ウクライナに隣接)から逃げ出した。だが、畜生は退却を阻まれる。こちらは2万5000人だ。この2万5000人で秩序を取り戻す。これは軍事クーデターではない。正義の行進だ」。露国防省はプリゴジン説を否認して「扇動だ」と断定。УП(現地時23日21:56)
・プリゴジンのこの事実上の「ロシア正規軍に対する宣戦布告」を受け、ロストフ・ナ・ドヌーの街路には装甲車が出没し、ロストフからモスクワへ至る幹線道路上には検問所が設置されている。УП
・ペスコフによれば、本件は既にプーチン総統にも報告されているとのこと。УП
・連邦保安庁はプリゴジンの肩越しにワグネル兵らに対し、プリゴジンの命令を実行しないよう、またプリゴジンを拘束するよう呼びかけている。また、露軍のスロヴィキン将軍はワグネル兵向けにビデオメッセージを発信し、「思いとどまるよう」呼びかけた。「敵(ウクライナ)はロシアの内情緊迫化を待ち望んでいる。彼らを利するようなことはあってはならない。手遅れにならないうちに、全民衆の選挙した大統領の命令に服し、戦闘態勢を解除し、基地へ回帰せよ。あらゆる問題を、最高司令官の指導のもと、平和的に解決するように」УП

その「全民衆の選挙した大統領」兼「最高司令官」氏(珍老人)の命令とやらは現時点(日本時間24日朝9時)では発出されていない。珍はプリゴジンの尻尾切りに踏み切るか。即ち、ワグネル軍を「賊軍」と断定するか。そのときプリゴジンはいよいよ珍への忠誠を放棄するだろう。戦え。

■中期展望
ウクライナ国防省情報総局のスキビツキー副長官が領土解放作戦の中期的見通しを示した。①前線では今後2-3か月の間、活発な軍事行動が行われる②軍事行動の中には攻撃的性格のものと防衛的性格のものの両方がある③ことし1年のことは語る段階にない④ただし夏の中頃がひとつの目安になる。(その頃までに)敵が軍の近代化・再編成・新部隊の形成に成功するか、軍改革成るか⑤それ如何でロシアの秋~冬にかけてとる行動の性格が予測できるようになる(УП)……曖昧模糊

■飛び道具
22⇒23日の夜、13発の露ミサイルがウ後方を襲おうとしたが、全弾撃滅した。УП

■軍用イルカ
英情報当局によれば、ロシアはセヴァストーポリの黒海艦隊基地の防御強化の一環で軍用イルカを大量動員している。ウクライナのダイヴァーらへの対策のためと見られるという(УП)……ダイヴァー?

■指図するな
「ナチズムとユダヤ人」問題でイスラエルとロシアが舌戦。経緯:ウクライナ駐在イスラエル大使が「ウクライナがバンデラだのメリニクだの(※ともにウクライナ民族主義者、第二次世界大戦でナチスドイツに協力)を英雄視したりその名を道路に冠したりするのをやめればウクライナを支援する、というような条件付けは正しくない」と述べる→露外務省報道官「そのような英雄を奉じそこにアイデンティティを求める権利がキエフにあるなぞと言うのは、イスラエル外務省として問題ではないのか。そのような形でナチズムを賞賛する権利は誰にもないはずだ」→イスラエル外務省報道官「イスラエルおよびその外務省、またその外交官らに指図をする権利は誰にもない。ホロコーストの記憶の保存、歴史的真実の歪曲の阻止が重要であることは言うまでもない」УП

6月22日

■原発テロ(の恐れあり)
・ゼレンスキーは開戦以来毎日欠かさず国民向けビデオメッセージを発信しているのだが通例それは晩方行われその日一日を振り返るものとなっている。22日は真昼にその号外が出た。「ロシアは占拠しているザポロージエ原発でテロ行為を準備している」という衝撃的なもの。「たったいま諜報機関から報告を受けた。ロシアはザポロージエ原発でテロ行為を行うシナリオを検討している。放射線の飛散を伴うテロ行為だ。連中はその準備をすでに整えている」「ウクライナは持てる情報そして証拠の全てをパートナー諸国に――欧州、米国、中国、ブラジル、インド、アラブ諸国、アフリカに伝達する」「原子力発電所でのテロ行為など絶対にあってはならない。カホフカダムの再来を許してはならない。世界は警告を受けた。すなわち、世界は行動することができるし、またするべきだ」УП
・20日にはブダーノフ情報総局長官がロシア側がザポロージエ原発の冷却装置に爆弾を設置したと述べていた(本記事20日付参照)
・ウクライナ外務省は声明でG7・EUをはじめとする国際社会に原発テロを阻止する方策を緊急に講じるよう呼びかけ、併せて、ロシアをテロ国家と認定し、ロシアの軍事および原子力産業への制裁強化を訴えた。УП
・ウクライナ保健省はSNS「放射能災害における行動指針」を発表。①建物の中に入り、窓を閉め、なるべく壁や屋根から遠いところに留まること(あれば地下室へ避難すること)②政府、警察、地方当局などの公式発表のみを情報源とすること(あらかじめ警察・救急等の公式テレグラムまたはフェイスブックをフォローしておくこと推奨)③放射性物質を吸着している疑いのある外出着は密閉して遠ざけ、手・顔・髪をよく洗う(その際コンディショナーは不使用のこと)④水道水の安全が公式に確認されるまではボトル入りの飲料のみを飲用すること(沸騰しても放射性物質は無くならない)などなど、甚だ実践的な勧告集。УП
・IAEA(国際原子力機関)は(ブダーノフの言に反して)ザポロージエ原発の冷却用水への爆発物の設置は確認できていないとしているが、一方で、原発敷地の外周沿いおよび一部内部にも爆発物が設置されていることは関知している、と述べている。УП
・ゼレンスキーは22日晩方の定例ビデオメッセージでも改めて原発テロの可能性に触れた。「世界は知るべきだ、侵略者が何をしようとしているのかを。そして知った者は行動しなければならない。カホフカダムへのテロ行為のあとではロシアに対するいかなる幻想もあり得ない。ロシアこそが世界のシニシズム(価値・規範の抹殺)の淵源なのだ。あらゆる悪への、あらゆる実行命令が、そこから出てくる」「必要なのは、各国の情報機関がしかるべきシグナルを出し、(モスクワへ)圧力をかけることだ。そして、必要なのは、ザポロージエ原発の完全な脱占領だ」УП

■領土解放作戦の進捗
・BBCのインタビューでゼレンスキー「我々は反転攻勢を肯定的に評価している。なるほど長足の進展が欲しかったところではある、やや小幅にはなっているが、言うであろう、戦うものは勝利する、叩けば扉は開かれる」「昨秋の反転攻勢も進度が遅いように思われたが、ある瞬間、わが軍の目覚ましい前進を誰もが目撃することとなった。同じことがここでも起きる」УП
・マリャル国防次官「依然として南部で攻勢をかけており一部地域では前進している。東部では攻勢と防衛を同時に。全戦線にわたって戦闘が続いている」УП
・ISWによれば、ウクライナ軍の反攻は予期したよりも低調だが、これは地雷原そしてロシア側の防衛作戦の有効性を差し引いてもウクライナの攻撃ポテンシャルには似つかわしくなく、ウクライナ側は将来の本格攻勢に向けて好適な環境の整備に努めており、それに成功しつつあるものと見られる。УП

■後方への飛び道具攻撃
21⇒22日の夜、超音速ミサイル「キンジャル」3発を含むミサイル6発ならびにイラン製自爆ドローン「シャヘド」4機がウクライナ各地を襲った。ミサイルは目標を達成せず、また自爆ドローンは3機を撃墜したという。УП

■禁書法(続)
ロシア図書の輸入と流通を禁止する法律にゼレンスキーが署名した。大統領テレグラム「『侵略国(ロシア)、ベラルーシ、一時的に占領を受けているウクライナ領土に関わる出版物の輸入と流通に対する制限の設定に関する一部ウクライナ法の修正についての』法律に調印した。同法は正当であると考える」「法文はEUの関係機関に送付された。EU加盟への影響を評価するためだ」УП
※経緯については昨6/21付記述参照。急転直下であった

■世論調査:ゼレンスキーは最高司令官として有能か
キエフ国際社会学研究所が先月末~今月頭に行った調査によれば、ゼレンスキーを「有能な最高司令官」と考えるウクライナ国民は全体の86%に達している。開戦直前の2022年1月に同様の質問をしたときは僅か32%であった。УП

6月21日

■戦況
ゼレンスキー、21日晩の定例ビデオメッセージで「前線。激しい戦闘。南――敵を撃滅中。ドネツク州――敵を撃滅中。クピャンスク方面――ロシアのテロリストどもが何を企もうとも、敵を撃滅するのみ」「南部ではわが軍が前進している。東部では防衛している」УП

■ロンドンでウクライナ復興会議
ロンドンでウクライナ復興に関する国際会議が開幕した。英国とウクライナの共同開催、21・22日の2日間の日程。ウクライナの経済社会の安定化・戦争による被害からの復興のための国際的な支援のあり方について議論がなされる。УП

■BBCインタビュー
ロンドンでウクライナ復興会議が開かれたのに合わせ、英BBCがゼレンスキーにインタビューを行った。そこでの発言録。
・領土解放作戦の遅れについて(УП
ロシア軍はウクライナの土地20万平方キロにわたり地雷を埋設している。進軍は容易ではない。ハリウッド映画みたいに即時の成果を期待されても困る。
・プーチンの冒涜発言について(УП
16日に露サンクトペテルブルクの経済フォーラムでプーチンが行った「ゼレンスキーはユダヤ人ではない。ユダヤの民の恥さらしだ」発言について:(深くため息を吐き、頭を垂れて、数秒沈黙した後)自分が何を言ったのか本人も分かっていないのだと思う。自分こそアンチセミティズム(反ユダヤ主義)の第二の王、すなわち、二人目のヒトラーだというのに。
・プーチンは核兵器を使うか(УП
プーチンに核を使う覚悟はないと思う。命が惜しいから。生を愛しているから。……とはいえ、現実との接点を全く失ってしまった挙句に21世紀の世界で隣国に全面戦争を仕掛けるような人間について予断は持つべきではない。

■首都で政治闘争?
キエフ市長ヴィターリイ・クリチコが国家権力からの「政治的迫害」を受けているとか訴えている。声明「首都行政府そして私個人の信用失墜を図る一大キャンペーンが繰り広げられている。絶え間なく捜査が入り各部署の機能が麻痺させられ、戦時中だというのに首都経営が混沌に陥れられている。私の評判を失墜させようとあの手この手を尽くすのだが叩いても埃が立たないので側近を吊るし上げて市長の責任を問おうとする」「シェルター閉まってる問題(空襲警報のなか市民がシェルターに駆け込もうとしたところ閉まっており開かずの扉の前で立ち往生しているところへミサイル片が降ってきて3人が死亡した)についても、シェルター運用の直接の責任者であるキエフ市内各区の区長は一人もお咎めがなく、市の安全保障局長が逮捕された。政治的動機がないと言えるだろうか?」「何ものかが首都を乗っ取ろうとしている」УП

■ロシアからの図書の輸入を禁ずる法律
ゼレンスキーが「ロシアおよびベラルーシからの図書の輸入の禁止に関する法案」への署名をサボタージュしている問題で、読書界に戸惑いと憤懣が広まっている模様。
経緯:約1年前、上記法案がウクライナ最高議会に承認され、あとは大統領の調印を待つのみという段になって、ゼレは謎に調印を忌避した。ウクライナ憲法(94条3項)によれば大統領は議会の承認から15日以内に法案に調印するか、あるいは注文をつけて議会に差し戻さねばならないが、ゼレンスキーはそのどちらも行わず、ただ手元に法案を留め置いた。これを受け、ちまたでは「#図書法に署名を」と号するフラッシュモブが巻き起こり、名だたる作家・出版社がこれに賛同。その挙句、さる5月に大統領あてオンライン請願が起草され、これが必要な数の署名(2万5000筆)を集めて、大統領の検討にかけられる運びとなった。
んで20日、大統領がコメントを出した。「本法案は最高議会の承認を経たものではあるが、調印に際して複数の閣僚から異論が上がった。まず法務大臣より、本法案は憲法10条(外国語使用の自由)および24条(人種・政治信条・宗教・性別・民族・社会階層・言語間の平等)に抵触する恐れがある、との注意を受けた。また外務大臣より、本法案はEUの人権基準(表現の自由や民族的少数派の権利擁護、言語的特徴に関する差別の禁止)に適合せず、ウクライナのEU加盟交渉にとっての障害となりかねない、との声が寄せられた。以上を踏まえ、本件の再検討を内閣に命じた」
オンライン請願の起草者は大統領コメントにいたく失望しているそうだ。УПУП

■自由なウクライナの自由な個人
自分を「自由な人間」だと考えているウクライナ人の割合は2021年比で62%→84%と爆増しているそうだ。ラズムコフセンターが5月末に行った調査。なかなか興味深い。戦時下のウクライナ人の心性を知る上で大変示唆に富む。
まず、「自由と平等、どっちが大事?」との問いには、75%が「自由」と答えている(20年時点で64%、22年には71%)。
だが、「自由と安全、どっちが大事?」と問うと、安全54.5%、自由44%と前者が勝ちを占めた。とはいえ20年の安全66%に比べると、戦争にも関わらず「安全より自由が大事」と考える人の割合が目に見えて増大しているのが分かる。
また、「自由と富、どっちが大事?」との問いには、51%が自由、23%が富と答えた。2010年は両者がトントン(32%・30%)であった。УП

6月20日

■領土解放作戦
少なくとも解放また前進について華々しい発表はなし。報道も全体として抑制的。日本の分析番組では「作戦の進捗は遅れている」との論調が目立つ、筆者もその認識に染まりつつある。
・(遅い。が)計画通りである
マリャル国防次官「南部の複数の方面で攻勢が続いている。すべて計画通り。僅かずつ、小さな歩幅で、しかし確実に前進していっている」УП
・ウクライナは人命優先で戦っている(だから遅い)
ダニーロフ安全保障会議書記「ウクライナ軍の目下の最優先課題は敵砲兵隊の火力の減殺だ。『肉弾突撃』はプリゴジン=ゲラシモフの専売特許であって、ウクライナのそれではない。ウクライナは市民はもちろん軍人の命も尊ぶ。だからこそ、敵の後方火力(装備、司令部、弾薬庫…)を最大限減殺しながら進軍を続けている。その意味で、ウクライナ軍は目覚ましい成果を上げている」УП

■夜襲
19→20日の夜、キエフ他各地に向かって敵シャヘド(自爆ドローン)35機が発射されたが、うち32機を撃墜した。撃ち洩らした3機がリヴォフの重要インフラを破壊したが人的被害はなし(УПУПУП)。にしても35機とは。「無尽蔵」との印象。あとからあとから湧いてくる。
南方作戦司令部のグメニュク報道官によれば、間もなく第何次かのシャヘド納品が行われる見込みで、ロシアは近日中にカミカゼドローンによるオデッサ攻撃を増大させる可能性がある。ОЖ

■ブダーノフ
ウクライナ国防省情報総局長官キリル・ブダーノフが露ミサイルで重傷を負ったとの露プロパガンダが行われたが例によって糞フェイクであって、当人は松田邦紀駐ウ日本国大使と元気に会談する姿を公開(УП)、また、生放送のテレビ番組に出演した。以下、後者における発言。
・ロシア軍は少なくとも30分前の時点でダムの破壊について知っていた
カホフカダムの破壊がロシアのテロ行為でしかありえないことを示す夥しい傍証がある。中で最たるものは:爆破の半時間前、ダム駐屯部隊に対し無線で即時退避が呼びかけられていた。このとき現場にいたのは特殊部隊である。УП
・ロシア軍はザポロージエ原発に爆発物を設置している
ザポロージエ原発の爆破ないし爆発のリスクは一定程度存在すると言わざるを得ない。カホフカダムの破壊で冷却水の正常な取得が不可能になったし、この間ロシア軍は原発の冷却装置に爆発物を設置している。УП
・ベラルーシにロシアの核弾頭はまだ搬び込まれていない
(搬入完了とのプーチン声明に反して)ベラルーシにロシアの核弾頭はまだ一つも搬び込まれてはいない。移設・保管の準備はなるほど進められているが。УП

■オデッサと水
水質悪化で疫病蔓延の恐れが指摘されるオデッサ。専門家による水質および感染症蔓延状況のモニタリングが続いている。現時点で、特段の異常はなし。20日時点で直近一週間の急性腸炎患者は190人で前週比10%増だが患者の中にこの間海水浴をしたものはなく魚介を食べたという人も少なく、ひとまず水質悪化とは無関係と推定される。市内の水道水の水質も問題なし(飲用に適する)。むろん海水浴は厳禁、魚介も誰がどこで獲ったと知れないものは食べないようにと呼びかけがなされている。ОЖ

6月19日

■前線
マリャル国防次官「敵は戦力を東部に回してリマンスク・クピャンスク方面で攻勢をかけてきており、困難な状況となっている」「敵はドネツク・ルガンスク全域の掌握という計画を放棄してはいない」УП
※ウクライナにとって”主”作戦正面はザポロージエであって東部は”支”作戦正面に過ぎないのだから敵が戦力を東部に回してくれることはウクライナ側としては大歓迎だ、とちょっと前の動画で渡辺さんが言っていた(動画)。今を専らウクライナが攻めロシアが守るフェーズと見ればそうなのであろうが、攻守は入り組んでいるのであって、むしろウクライナ側の南部攻勢偏重こそロシア側から見れば東部の支配地域拡大のチャンスなのかも知れない。攻勢への「反転」は随所で・随時に・両陣営について起こり得る。だからこそウクライナの反転攻勢は、始まった以上はもう「領土解放作戦」と呼ぶのが適当だ、と思うのだが。

■後方
・18→19日の夜、黒海から「カリブル」ミサイル4発、アゾフ海から「シャヘド」ドローン4機が発射され、後方都市を襲おうとしたが、全て撃墜した。前者についてはオデッサ沖で迎撃に成功、撃墜片による被害も無し。УП
・ロシア製ミサイルに使用されている外国製品(半導体など)のうち、81%が米国製、8%がスイス製、3.5%がドイツ製、同じく3.5%が日本製。УП

■洪水
・被支配地域の情報収集・公開を行うウ国防省傘下の団体「ナショナルレジスタンスセンター」によれば、ドニエプル左岸ではロシア旅券の保持者しか避難を許されず、オレシキ市では少なくとも500人が死亡した。ロシア人にあらずば人間にあらずとばかり、ただ捨て置かれて死ぬるだけという。УП
・ロシアは左岸への国連人道使節(住民の避難支援のための)の受け入れを拒否している。ペスコフによれば「安全が保証できないため」だそうだ。УП

■世論調査:戦後のウクライナの指導者は誰であるべきかУП
キエフ国際社会学研究所が先月末~今月頭に行った調査。戦後、権力構造の刷新をどのくらい望むか。
国会議員が入れ替わってほしい・・69%
政府が交代してほしい・・47%
大統領が代わってほしい・・23%
今のままでいい・・19%

ある程度の刷新は多くの人が望んでいるが、大統領はゼレンスキーのままでよいと。個人的には勝利の暁にはゼレンスキーはもう政界引退してほしいが。3年くらい何もせずオデッサでぼーっと海を見ながらビール飲んで暮らしてもらって、その後コメディアンに復帰して、余人には到底不可能な際どすぎる政治ジョークで戦慄まじりの笑いを世界に届けてほしい。

6月18日

■今後一週間、大々的な攻勢は行われない?
エストニア国防省情報局長官の見立てでは、現在ウクライナは領土解放作戦の第一段階として戦線に広く圧力をかけて敵の防衛線の脆弱なポイントを探っている段階であり、だが敵が9か月かけて作った防護は思いの外堅く、敵は敵でウクライナの攻撃力を減殺しようと努めているので、人名および装備の損耗をきらうウクライナ側は、今後より組織的かつ慎重に作戦を遂行するものと見られる。従って、今後一週間は突破らしい突破は見られない可能性がある。УП

■洪水
ドニエプル下流域洪水による人的被害、ウクライナ側の中間報告、18日晩時点。死者17人(うち13人が水死、4人が避難の最中にロシア側の砲撃を受けて死亡)。消息不明31人。危険区域からこれまでに3614人が避難。なお家屋876棟が浸水している(ウクライナ内相、УП
オデッサの海は折からの気温上昇が海藻の異常繁茂に拍車をかけており、環境激変(急激な淡水化や毒物の混入など)で魚やエビ類の大量死滅が起こる恐れもあり、水質の本格的な悪化はこれからだと識者。ОЖ

6月17日

■アフリカとロシア
昨日キエフと訪れゼレンスキーと会談したアフリカ諸国の代表団が今度はロシアのサンクトペテルブルクを訪れプーチンと会談した。プーチンは例によってウクライナ・西側を悪魔化し自身の戦争を正当化した(УП
昨日はアフリカの皆さんがキエフを訪れていたまさにその白昼、ロシアの本気のミサイル攻撃(超音速ミサイル「キンジャール」6発を含む少なくとも12発)がキエフを襲ったのだった(Meduza
外交プロトコルとしては先ずウクライナを訪れその後でロシアという順番はプライオリティがウクライナにあるということを意味するのだろうが後攻には後攻の強みというか優位性があって最後に言われたことの方が印象に残るというのはあるだろうとか思ったりする。

■ウクライナの非ナチ化
プーチンの経済フォーラム演説におけるゼレンスキー侮辱の箇所の詳細がMeduzaにまとまってた。割愛。あまりに愚劣なので少し嬉しくなる。こんな耄碌爺が率いる軍に負ける筈がないと心を強くする。珍老人の歴史観など結局この3段――「ナチスは悪魔」「ウクライナは第二次大戦でナチスに協力した」「だからウクライナは悪魔」、に要約できる。で、本人いわく、今回の演説の前夜、就寝前に「明日はナチスウクライナを率いているのがユダヤ人大統領(ゼレンスキー)であるという矛盾を突っ込まれるだろうなぁ」と思ったから、急遽モスクワに電話して、ウクライナがナチスであることの傍証を送ってもらった。それで演説の中で、第二次大戦時のウクライナ人の反ユダヤ的発言とやらを二三読み上げて、憤慨してみせた。この老人はエコーチェンバーの中でさぞ快適で幸福であろう。

■ウクライナの非軍事化
ペスコフ大統領報道官によれば、ウクライナの非軍事化は相当程度達成されたのだそうだ。SVO(特別軍事作戦)開始前はウクライナは強度に軍事化していたのだが、それを解体することに成功した。もはやウクライナには自前の装備はほとんど残らず、残ったは西側の(より強力な――何丘注)兵器と装備ばかりである、と。УП

■戦争のさんすうУП
BBCが戦争でさんすうした。死亡が確認されている2万5000人のロシア人兵士の属性を調べあげ、各時期における「典型的なロシア兵」の像を割り出した。それによると、
戦争最初の3か月――21歳の職業軍人(一般兵卒)
2023年春夏――――34歳の元服役囚(階級不明)

■ヘドロの海
オデッサの海の水質が著しく悪化し数種の病原菌が発見されており「水浴厳禁」が呼びかけられている。今年こそは一部ビーチ解禁かと言われ、準備も進んでいた矢先。ОЖУП

オデッサには「黒海の真珠」の美称がある。真珠を強奪しようとして果たせず、ならばとうんこを塗ることにした卑劣堕地獄漢俱奴。

6月16日

■アフリカとウクライナ
アフリカ連合加盟諸国首脳(南アフリカ大統領をはじめとする)から成る代表団がキエフを訪れゼレンスキーと会談した。アフリカ連合は「戦争は調停されるべきであり、外交交渉を通じて和平が達成されるべきである」「紛争の烈度を低減すべきである」「国連憲章に則り、諸国・人民の主権を尊重しなければならない」等、10項目の「基本的な立場」をウクライナ側に伝えた(УП)。対するゼレンスキー「占領者が私たちの土地に居座っているこの今ロシアと交渉を行っても戦争を凍結するだけだ。それは痛みと苦しみを永続させることに外ならない。ロシアはミンスク合意によって長らく世界を欺いた。今また古なじみの戦術を用いようとしている。だが今度は世界も騙されない。少なくともウクライナは絶対に騙されない。もう一度いう:必要なのは実効的な和平だ。すなわち、私たちの土地からロシア軍が一人残らず引き上げることだ」УП

■プーチンとユダヤの民
露ペテルブルクで14-17日開催の経済フォーラムで頓風珍、「ユダヤ人の友人たちはウラジーミル・ゼレンスキーのことを『ユダヤの民の恥さらし』だと言っている」と放言。ウクライナの現政権は第二次世界大戦でナチスに与した勢力を英雄とまつりあげそのイデオロギーを護持しているからロシアとしては当然にこれを打倒すべきだしウクライナの非ナチ化こそ最重要課題のひとつとみなす権利をロシアは十全に保持しているのだそうだ(УП
これに対しウクライナ国内のユダヤ人共同体の長(チーフ・ラビ)モシェ・レウヴェン・アスマン氏「個人的に、ゼレンスキー大統領を誇りに思っている。彼は逃げ出さなかった。ウクライナの民のために身をなげうっている。私だけではなく、世界が彼を誇りに思っていると思う」「ウクライナにネオナチなどいない。ウクライナには義しき人たちがいて、彼らが祖国を守っている」。またウクライナの著名オリガルフであるヴィクトル・ピンチュク氏「私はウクライナ人でユダヤ人だ。世界中のユダヤ人とコンタクトをとっているが、この数年、ゼレンスキーについては肯定的な評価しか聞かない。ゼレンスキーのナショナリティなど問題ではない。彼が自由のために戦っていること、重要なのはそこだ。自由、それこそ、ユダヤの民の最も価値を置くものだ」「そもそもユダヤ人が大統領に選ばれたこと、それ自体が、自由で民主的なウクライナと、反ユダヤ主義ファシズム帝国の根本的な差異を物語っている」УП
※頓風珍はフォーラムで他にも一連の珍言を成したが割愛する

■前線
マリャル国防次官「火力および航空劣勢な中でも前進し戦術的な成功を収めている」УП。ゼレンスキー「前進していること、ウクライナの土地を1mずつ敵から取り戻して言っていること、今一番重要なのはそれだ」УП

■後方
白昼キエフ方面にミサイルが飛んだ。キンジャル6発とカリブル6発を撃滅したという(УП
ウクライナ空軍は新たな取り組みとして、公式テレグラムでミサイル/ドローン攻撃の予報を発信することを決めた。何がどこから飛んでくるかという予測を立て警報を出す私設アカウントが乱立しているが情報は公式から取ったほうがいい、ということで。私人アカウントが不用意に飛翔体など撮影してそれが敵に有益な情報をもたらすことを防ぐ、情報統制の意味もあるという(УП

■切手オブザイヤー
かの有名な「ロシアの軍艦ファックオフ」記念切手が「World Post & Parcel Awards 2023」やらいう祭典で2022年の世界最優秀切手に選ばれた。

詳しくは私の過去記事を「蛇島」「巡洋艦モスクワ」で検索してください。
ほか、国営郵便「ウクルポーチタ」は「郵便切手キャンペーンオブザイヤー」にも選ばれた。「ロシアの軍艦ファックオフ」切手は500万枚売れたとか。「2022年はウクライナの郵便切手文化のルネッサンスの年になった。ウクライナでどんな切手が発行されたかということを世界が注目した。CNN、ガーディアン、ワシントンポスト、世界の名だたるメディアがこぞって伝えた。『ロシアの軍艦ファックオフ』切手は今やワシントンのスミソニアン郵便博物館の展示品になり、ウクライナの一連の戦時切手は各国首脳のコレクション品になっている」
「ウクルポーチタ」は「郵便会社オブザイヤー」部門でも受賞した。「同社は全面戦争の中でも郵便会社が事業支援・年金配給・国内外ロジスティクス維持・国外からの人道支援の受け入れという形で国家社会に貢献できることを世界に示した」УП
※つい先日私らの小包がオデッサに届いた。戦争始まってから小包は3往復している。冬場に防寒具を届けることもできた。また、(こんな状況でも)届く、ということ、それ自体が、戦争の中でも「生活」が命脈を保っていることの触知として嬉しかった。戦前の生活者目線だと、国営のウクルポーチタはサービスの悪さも目立ち、国内郵便は専ら民間のノーヴァヤポーチタを利用していたが、今はどうなっているだろう。あと、個人的に、私もウクライナの戦時切手コレクション、欲しい……。

■ウクライナの反転攻勢はまだ始まっていない?(ものは言いよう)
ポドリャク大統領顧問「ウクライナの反転攻勢はまだ始まっていない。なのにロシアは『もう勝った、もう反攻を撃退した』とか言っている。いま軍が行われている活動は、第一に、なるべく多くの動員兵を殲滅し、露軍に心理的圧力をかけること。第二に、なるべく多くのロシアの兵器を破壊し、二度と使用できないようにすること。殲滅・破壊、殲滅破壊。そうしながら試験的に前進を進めている。つまり、どこが一番手薄かを見定めている」УП

■オデッサの海
ドニエプル下流洪水で大量の淡水が流れ込み黒海の塩分濃度が著しく減少、気温の上昇もあいまって海藻が異常繁茂、シアノバクテリアが大量発生、海水が緑に変色している。ОЖ

水質悪化を受け、オデッサ・ヘルソン・ニコラエフの各州では19日から水浴と漁獲が禁止される。感染症蔓延の兆候は現在のところ見られないという。ОЖ

■後衛の務め
ヘルソン州の浸水域からオデッサにすでに100人余りが避難してきている。国内避難者の受け入れ先となること、開戦以来一貫してオデッサの大事な務め。ОЖ

■14日未明のミサイル攻撃
住宅36棟が損傷、ゴミと瓦礫460トン(ОЖ)。改めて、衝撃波でぼろぼろになった複合商業施設の姿。

忘れることなどできない、許すことなどできるはずがない(ゼレンスキー年頭演説)。

6月15日

控えめに言うと「少なくとも赫々たる戦果の報はない」。前線では定めし夥しい死と損耗。後方でも、オデッサ(ほか各地)に連夜ミサイル/ドローン。ずかずか踏み込まれ、居座られて、追い出そうとしたら、まだこれだけの仕打ちを受けなければならない。それに対して誰も有効な手助けができない。

14→15日の夜、各地にシャヘド20機(うち20機撃墜)、巡行ミサイル4発(うち1発撃墜)。オデッサに飛来したシャヘド13機は全て撃墜。УПУП

15→16の夜もオデッサおよびニコラエフにシャヘド飛来。詳細不明。УП

「ウクライナ軍は反攻のために準備した12個旅団のうちまだ3個しか投入していない、本格的な戦いはこれから」ロイター、УП


・原発
IAEA(国際原子力機関)のグロッシ事務局長がロシア軍に占拠されているザポロージエ原発(決壊したカホフカダムのやや上流に位置する)を視察。冷却水の水量が現時点では十分であることを確認した。「IAEAは今後も注視を続ける」УП

・LGBT
キエフ国際社会学研究所の調査では、ウクライナ人の67%がLGBTとその他の市民は同権であるべきだとの考えである。2022年から2ポイントアップ。一方、反対派は26%で2022年から変わらず。
具体的には、同性婚(「登録可能なパートナーシップ」регистрируемое партнерство)に「賛成」ないし「どちらでもない」が合わせて54%で、社会として容認の方向。УП
これが日本と比較してどうなのかは知らん。私の肌感では、ウクライナは男は男らしく女は女らしくが強い社会だ。その良き発露としては男が女に席を譲る・荷物を持つ(見ず知らずであっても)・花を送る。だが子供が赤・ピンク・紫系の服を着てたりちょっと髪を伸ばすとすぐ「女の子」と断定されるのには閉口した。これらは多様性……というか曖昧性への許容度の低さを物語っている。

・キエフ市長
シェルター閉まってる問題で市民3人を死なせてしまった責任を問うてキエフ市長クリチコをキエフ国家行政市長官から解任し、シェルター点検の音頭を取ったカムィシン戦略産業大臣を後任に据える案が大統領府内で出ている。まだ決定ではない。ただ、その場合でもクリチコはキエフ市長に留まる。なんでも、よくわからんのだが、キエフ市の首長は選挙によって選ばれる市長と大統領の選任による国家行政市長官の二種があって、これまでは両役職をクリチコが兼任していた。少なくともクリチコは選挙によって選ばれた市長ではあるので、市長の任にはとどまると。(国家行政市長官に別の人が据わった場合に、役割分担はどうなる?)УП

6月14日

暗澹とする。オデッサにミサイル攻撃。3人死亡。

思い出の染みた場所の無残な姿。この3Fの食堂でよく食べた。下のカペイカ(スーパー)もちょくちょく使っていた。

詳細:14日未明、黒海上の戦艦から「カリブル」4発、3発を撃墜したが撃ち洩らした1発が市中心部の大手スーパー(Таврия В)倉庫に命中、衝撃波で四方1000㎡の建物に被害、3人死亡、13人負傷。УПОЖОЖОЖ

敵はウクライナ軍の領土解放作戦に対する防衛戦を戦う一方で各地にミサイルやドローンを飛ばしてきている(УП)。そのうちの一発が今回はオデッサに当たった。これが最後ではないだろう。

被弾した場所はオデッサ州庁の近傍である。(かつてニコラエフ州庁舎に風穴を開けたように)オデッサ州行政の中枢を狙ったものかもしれない。

なお、今回使用された「カリブル」には少なくとも40の外国製部品が使われていた。イェルマークとゼレンスキーが制裁強化を呼び掛け(УПУП)。カリブルは水上または水中発射式の巡航ミサイル、今後もオデッサ攻撃に主として使用されると思われる。侵略はじめて16か月、ロシアはミサイルを製造できている。部品の調達もできている。

私もいつかあらゆる外交交渉・経済制裁に失望して「戦って潰すしかない」という認識に染まってしまった。

■領土解放作戦
・マリャル国防次官「バフムートおよびザポロージエの二正面でそれぞれ200-500m程度前進している。敵は高密度で地雷を埋設しているうえに激しい抵抗を見せており、しかも火力/航空優勢を握っている。前進は非常に困難であり、数字だけ見ると進捗が遅いように感じられるかもしれないが、着実に前進しているということは確かだ」УПУП
・Sky newsが西側国防筋の情報として伝えたところでは、西側諸国は反攻劈頭における7km前進・少なくとも4集落解放という成果を次のように評価している。①今行われているのは威力偵察以上の本格的な攻勢である②露側は地雷や障害物の設置を含め反攻への備えを入念に取っており、また戦術も巧みであるため、ウクライナ側の進軍は困難で、多大な犠牲を強いられている③そのためウ軍の進軍速度は遅い。だが、そのことは我々も予測していた。進軍は続くであろう。УП
・NATO事務総長「ウクライナの反転攻勢が戦争の転換点になるかどうかまだ分からない」УП
・ウクライナ情報総局がクリミア市民に脱占領の早期実現のための情報提供(軍司令部や武器弾薬庫の位置など)を呼び掛けている。УП

■洪水
・ウクライナは左岸の避難民にドローンで支援物資を届けている(УП)。使用されているVampireというドローンはもともとロシア兵を撃滅するために使用されていたものだそうだ。乏しいリソースを割いて人道支援を行うウクライナ側と、洪水による環境変化を少しでも軍事的に利そうと砲撃を繰り返すロシア側。「誰がダムを壊したか」の傍証になるかどうか分からないが、その後の対応の誠実さは明白に差がついている。
・ダム破壊と洪水による漁業への損害は110億グリヴニャ(≒400億円)と見積もられるそうだ。УП

6月13日

・NATO事務総長、反攻最初の数日を肯定的に評価
ストルテンベルク「反攻が流血を伴う困難なものとなることを我々も覚悟するべきだ。ロシアには堅固な防衛線を構築する十分な時間があった。これを突破するのは容易なわざではない」УП
よく言われること:ウクライナは西側からさらなる支援を引き出すために7月のNATO首脳会合までに目に見える戦果をあげる必要がある、ただ一方で、政治日程を軍事合理性に優越させて碌な事にはならない。そんな中で今回NATOトップのこの声明は有難い。

・占領軍、洪水被災住民の避難を故意に妨害か
被占領地の住民からのタレコミを集めるウクライナ軍の付属機関ナショナル・レジスタンス・センター(Центр национального сопротивления)によれば、ドニエプル左岸においてロシア軍および占領当局は組織的な避難を行わず、むしろ避難を妨害している。たとえば左岸の中核都市オレシカに入る前には20日の検疫を経ねばならず、同市の外に出る際にはロシアのパスポートが必須とされている。避難を強行しようとする人が射殺されたケースもあるという。露軍はボートで市内のパトロールを行っているが、水没した自宅の屋根の上で座っている人や動物のことは素通りだという。УП

・大儀なき侵略戦争の大儀のなさを侵略軍の総統氏語るに落ちる
いわゆる特別軍事作戦が何を目指したものであるかについて理由をころころ変えてきた(まさにそのことによって正当な理由が皆無であることを言外に示し続けてきた)頓風珍、今般開かれた従軍記者らとの懇親会で「それ(侵攻の目的)はそのときどきに状況によって変わる。とはいえ全体としては、当然、何一つ我々は変えることはない」УП

★世論調査:ウクライナでロシア語は迫害されているかУП
キエフ国際社会学研究所が先月末~今月初頭に行った調査では、ウクライナ国民の84%が「ウクライナにロシア語使用をめぐる問題はない」「ロシア語話者は迫害や追跡を受けていない」との立場である。逆に、「ロシア語話者は組織的な迫害・追跡を受けている」と考える市民は8%。
・地域別でみると・・ロシア語話者が多い東部や南部でも前者(迫害などの事実なし)が8割を超えている。
・経時的変化・・・・2022年5月時点では前者93%、後者5%であった。こう見ると戦争の1年で「迫害」は強まっているのかなと思う。
・言語別・・・・・・家庭内の使用言語が主にロシア語という人に限って見ると、前者81%、後者13%であった。

意外な結果だった。分からなくなる。私の身近にはウクライナではロシア語は(従ってロシア語話者は)抑圧されている、と考える人が多かった。だが8%という数字はそう小さくもない。

6月12日

■戦況点描
点と点をつないで大きな絵を描くのは私の手に余る。その材料だけ提供する。ウクライナ側の報道から。

・7集落を解放
12日新たに3集落(ザポロージエ州Новодаровка、ドネツク州Сторожевое)の解放が発表された。直近一週間で7集落が解放されたことになる。УПУПУП

・集落の解放をどう評価すべきか
ISWによれば、ドネツク西部およびザポロージエ西部におけるウ軍の前進はウ・露双方の認めるところだが、それを報じるに際し、露側のコメンテーターは「ウ軍の前進は明白にロシアの支配下にある領域を侵しているものではなく、反転攻勢開始時点でどちらのものとも判じ難かった『グレーゾーン』を掌握していっているに過ぎない」とのレトリックをとり、ウ側の戦果の矮小化に努めている。ただし、幾つかの集落の解放に成功したことをもって、ウクライナ側が露側の防衛線を突破したとは即断しがたい、というのは確かにそう。УП

・ゼレンスキー、晩方の定例ビデオメッセージで
ゼレ「最高司令部会合で戦果の報告を受けた。戦闘は激しく、わが軍は前進しており、敵の損失はまさに我々が必要としている規模で起きている。悪天候に苦しんでいるが、それでも結果は出ている」УП

・The Economist戦況概説
英エコノミスト誌「ウクライナの反転攻勢始まって1週間、戦場からの報告の中には楽観的なものもあれば、悲観的なものもある。幾つかの村落の解放が宣言されたが、ザポーロジエのオレホヴォ=トクマクをつなぐ線上では激しい戦闘の結果、ウクライナ側が人員・装備の両面で甚大な損害を出している。トクマクという都市(↓下図中央↓)は鉄道の結節点にして、メリトポリ経由クリミアに向かう幹線道路の起点であり、ここがウクライナの反転攻勢の焦点になるのでは、と以前から指摘されていた」

(続き。エコノミスト記事要旨)
・ザポロージエ方面について:現時点ではウ側も露側も主力を投入してはおらず、双方とも敵方の予備軍をなるべく多く引き出そうと試みており、あたかも一局のチェスの観がある。ウ側の最優先課題は露側の火力の優越を低減することであり、そのために露側の砲兵部隊を長距離砲で攻撃している。戦場からの報告を見るに、これには一定程度成功しているようだ。対するロシア側はこの戦争でかつて見られなかった規模で航空機を動員しているが、ウクライナ側の対空防衛(西側供与)も強力なので、ロシア側もそうリスクはとれない状況。露側はドローン(偵察用/攻撃用)も大量投入している。
・バフムート方面について:露側の使用するドローンの数が激増している。露軍は中国製ドローンを大量取得したものと見られる。そんな中でもウ側のバフムート包囲は続いており、直近一週間で高地を取得、1日の前進距離は数百m~2kmにも及び、これは露軍が丸1年かけてなしとげたよりも遥かに速いスピードである。
・ドニエプル大洪水:ダム決壊と洪水でウクライナ側は軍事計画の変更を余儀なくされた。ダムの橋梁を伝って超重量兵器を対岸へ送ることは不可能になった。ただし、洪水でドニエプル下流の露軍防衛線が洗い流されたことにより、ウ側が高速艇で特殊部隊を送り込んで襲撃をかけるなどのことは新たに可能になった。УП

・露、化学工場で新たなテロを画策?
ウ情報総局によれば、露軍はクリミア半島の付け根に当たるアルミャンスクの化学工場「クリミアチタン」で今ふたつのことが起きている。まず、先のダム破壊によりクリミアへの水の供給が寸断し、同工場の稼働が非常に困難になっている。それと関係あるかあらぬか、露軍が同工場に爆発物を設置し、第二の人為災害を準備しているとの情報がある。同工場の冷却庫では200トンのアンモニアが使用されており、ここで爆発が起きれば風向き次第で周辺地域にアンモニア雲が発生する可能性がある(←するとどうなる?)。占領当局および住民は避難を準備しているという。УП

・病床逼迫で露兵士の死亡率が上がっている
直近一週間、露占領軍はバフムートで甚大な損害を出しており、露ロストフ州のひとつの病院だけで毎日50人の重傷者が運びこまれているが、病院はすでに負傷兵で一杯で、医療従事者の数が足りず、重傷者は高い確率で死亡している。УП

・母たちが黙っていない
ロシアでは動員兵の母たちが団結し、不満を募らせ、政権への圧力を高めている。彼らの不興を買うことを恐れ、露指導部は大規模な損失が予測される方面には(動員兵ではなく)囚人たちから成る部隊を派遣している。「彼らの死はロシア社会にさほどの動揺を与えないから」УП

・ほか、戦況をつぶさに知りたい方におすすめのチャンネル
Twitter→小泉悠氏高橋杉雄氏
YouTube→TBS NEWS DIG Powered by JNN(報道1930)、BSフジ プライムニュース

■洪水
・死者と不明者
右岸につき、ヘルソン州で8人、ニコラエフ州で2人が死亡。42人が消息不明、うち7人が子供。左岸については情報なし。(УП
・ダム破壊をめぐる各国の見解
クレバ外相によれば、ダム破壊をめぐるパートナー諸国の立場は①ウクライナがダム破壊に関与していないことについては一致②ロシアの直接責任についてはコンセンサスがとれていない、というのが現状である。「西側メディアの首鼠両端の記事タイトル(※朝日6/8朝刊「ダム決壊 1.6万人避難 双方が「破壊」非難」などがその好例であろう)は本件の真相を伝えるにあたって大いに有害であった。お陰で我々は本件をめぐる語りを真実の側に引き戻すことに多大な努力を払わなければならない」「いずれにせよダムの破壊はロシアのウクライナ侵略の結果であることは間違いないのだから、責任がロシアにあるのは確定だ。問題は、これほどの規模の爆破を予定していたものなのか、それとももっと小規模なことをやろうとして当てが外れたのかということで、この点については様々な意見がある」УП
・左岸:地獄の沙汰も金次第
左岸(被占領地)の某被災地では賄賂を支払ったウクライナ人にのみ避難を許しているそうだ。しかもその際、ウクライナのパスポートやウクライナ語の出生証明書の破棄を強要しているとか。ウクライナ軍参謀本部情報、УП
・クリミアへの給水復旧には1年かかる
ウクライナ水力発電社によれば、カホフカ水力発電所の崩壊により、クリミアへの水の供給は少なくとも1年停止する。流域3州(ザポロージエ、ヘルソン、ニコラエフ)も水とりわけ飲料水不足に苦しむことになる。現時点では蓄えがあるので問題がないが、地下水の採取量を緊急で増やす必要がある。УП
※クリミアがウクライナの施政権下に服してほしいのは無論だが、人心のキエフ離れは凄まじいと思うので、何か市民が「ロシアの一部であるよりウクライナの一部であるほうがましだ」と思うようになるための材料が必要だと考えていた。ダム破壊とそれによる長期断水がロシアの故意であることが明らかに証明されたら、どうであろうか。

■他
・オデッサ
ドニエプル川沿いに露軍が設置した爆発物が大量に漂流していると見られ、以前から時々露軍が海中に設置していた機雷がオデッサの岸辺に漂着することはあったが、これら爆発物は機雷ほど大きくなく見かけが分かりやすくもないので、いま水浴するのは非常に危険であると(УП
・シェルター
国内のシェルターの3分の1が有名無実であったとの調査結果にゼレンスキーが憂慮を示し、ウクライナの諸都市をよりよく守るための決定を金曜下すと公言(УП
・女性専用車両
ウクライナ鉄道の長距離寝台列車の2等車(クペー)で女性専用車両が初実装された(УП)。今頃になってそれを食えば羞恥を知るという禁断の果実でも食べたのか。
・戦勝記念日は5月8日
ゼレンスキーの法案調印をもって正式にウクライナの戦勝記念日(「1939年ー1945年の第二次世界大戦におけるナチズムに対する勝利および哀悼の日」)は5月8日ということになった(УП)。また一つソ連・ロシアの伝統から離れ欧州へ仲間入り。
・戦争でウクライナ国民の4割が収入減少
Rakuten Viberの調べでは、戦争が始まって以来、就労中のウクライナ国民の40%が収入の減少を訴えており、15%が戦前の水準を維持、5%はむしろ収入が増大したそうだ(УП)。私の知ってる人Aは花屋だったが戦争で誰も花を買わなくなり収入が減少した。また人Bは、ロシア人相手にオンラインでものを売る商売をしておりSwift除外でロシア人による購入が難しくなり収入が著しく減少した。

6月11日

■領土解放作戦
昨年秋ぶり、タイムラインに「解放(освобождение)」の字が躍った。ドネツク州の3集落(Благодатное、Нескучное、Макаровка)から占領軍を撃退(УПУП)。その軍事的意義などは専門家先生に解説してもらうとして、ひとまず下図にてその位置だけ。ここからさらに南下、マリウポリないしベルジャンスクまで達して露の支配地域を東部と南部に分断し、ベルジャンスクからクリミア大橋(下図で「ケルチ」とあるあたり、直線距離160km)をストームシャドーか何か長距離ミサイルで破壊して南部を孤立させ全取りするというのがウクライナの基本的なロードマップであろう。みたいなイメージで今後の展開を見守ってみる。

(本記事では反攻・反転攻勢とか呼んできたものを以後、「領土解放作戦」で統一しようと思う)

■敵軍の足並みの乱れ
・ウ軍によれば、露軍内では動員兵の命令無視・不履行・サボタージュが頻度を増している。軍務期限について法規が遵守されていないこと、目立った戦果が上がっていないこと、将来の展望に対する不安の蔓延などが理由という。露軍はこの問題を次の方法で解決するようだ:規律違反者を攻撃部隊に転属させて肉弾として使用する。УП
・露ショイグ国防相が露民間軍事会社兵員らを露国防省麾下の軍人として再雇用する命令を下した。この命令によりワグネル兵員も「志願兵」と見なされ、国防省との契約を義務付けられる。これにプリゴジンが牙をむき、「ワグネル社員は国防省と契約を結ばない」と宣言した。УП

■ダム破壊と洪水
水は引き始めている。ヘルソン州の冠水域の面積は半減した。村落間の道路も少しずつ姿を現し始めている。ウクライナ側は左岸(被占領地)側の住民にも可能な限り救助の手を差し伸べており、これまでに112人を避難させたが、まさにその左岸住民の救助活動の現場にロシア軍が砲撃を行い、3人が死亡、10人が負傷した。ゼレ「自らダムを破壊しこれだけの災害を引き起こした上でなお被災地の住民を見捨てて避難者を載せたボートを砲撃するとは。獣畜にも劣る所業というほかない」УПУПУПУП
またゼレンスキーによれば、ヘルソン州には既に国際刑事裁判所の捜査員が入っており、捜査を開始している。「(ダム決壊)第一日目に(ウクライナ)検事総局が国際刑事裁判所検事局に捜査を依頼した。作業は既に始まっている」УП。初動から公明正大、これでウクライナ側が故意に破壊したなどということがあり得るだろうか。

■戦争の算数
英国防省によれば、2022年2月に僅か10-14日でドンバス全域を掌握することを目指したロシアは、バフムートという一都市を掌握するためだけに2022年5月~2023年5月の1か年をかけ、その29kmにわたる前進の過程で、実に6万人の兵士を失った。言い換えると、バフムート方面でウクライナの国土を48㎝侵略するごとに、1人が死傷した計算。それでなおバフムート方面で戦闘は続いているという……(УП

■シェルター
国内のほぼ全てのシェルター(約6万3000か所)の点検が終わった。封鎖されている(登録はされているが実際には使用されていない)のが9.3%、開いてはいるが「利用に適さず」の状態のものが23.6%。合計すると、全体の実に3分の1が有名無実のシェルターであった(УП
こんなものを戦争始まって16か月の間ろくに調べもせずに「警報鳴ったらシェルターへ!」と叫び続けた当局。それを市民の側も特別問題にはしなかった、ということは、警報が鳴っても大して意に留めず日常生活を続けた人が大半であった、ということだ。結果として先のキエフ空襲で人が3人死んだが、逆にいうと、この16か月を通じて3人しか死ななかった。

■オデッサ
この戦争におけるオデッサの重要な役割の一つが国内避難者の受け入れ先となることである。だが死の手は長くここまで伸びてくる。9日晩のドローン攻撃で死亡した市民3人のうち2人はバフムートから避難してきた夫婦であった。新天地で「新しい人生を始めよう」と考えた矢先であったという(УП)。あれだけ恐ろしいことがあったのだものこれからの人生何かいいことがあるはずさ、と思ったことだろう。私ら程度だってウクライナから避難するときそう思った。
オデッサ絡みでもう一つ気になるニュース。露国防省が「黒海艦隊の船舶に対しウ軍の無人艇6艘が攻撃をしかけた(が撃退した)」と発表(УП)。かつて同様の攻撃が行われた際に「無人艇はオデッサ港から放たれたもの」と断定されたことがあり、今回はそのような明示はなかったが、これから同種の攻撃が頻発するとオデッサが策源と見なされ「報復」を受ける懸念がある。それでなくても、南部の戦闘がいよいよ激しくなれば、ウ軍の防空能力を分散させる目的でオデッサに飛び道具攻撃を仕掛けてくるようになるかもしれない。

番外編:5月のオデッサニュース

5月初旬は「側面史」の更新を休んでいた。その間УПは見てたが、ОЖは見てなかった。オデッサの状況は把握しておきたいので、5月のニュースを見出し全件閲覧、いくつかの話題を書き留めておく。

■市長が逮捕されて保釈された(5/4~5/5)
オデッサ市のゲンナージイ・トルハーノフ市長が汚職容疑により4日付で逮捕され、1300万グリヴニャ(約5000万円)の保釈金を払って勾留を解かれた。6年越し争っている公金横領事件。10日には同市長が訴追を恐れてロシアに逃亡したというフェイクニュースも出回った。同人はかねてロシアに融和的な立場であった(ある時期までロシア国籍も保持)が昨年の大規模侵攻でドラスティックに親ウ転向した。だがこの人物への不信はキエフに根強い(ОЖОЖОЖ

■市内2地区の改称(5/3)
まず前提としてオデッサ市は4つの地区から成る。港だの市庁舎だのポチョムキンの階段だの世界遺産に登録された歴史地区だのが集中してるのが下図でタツノオトシゴの胸部にあたるプリモルスキー(ПРИМОРСКИЙ、沿海)地区。その北に最大のベッドタウンであるスヴォーロフ地区(わが義父母もそこに住まう)があり、西にマリノフスキー地区があり、南にキエフ地区がある。このうちスヴォーロフとマリノフスキーの両地区をソ連臭のしないものに改称しようという話が持ち上がっていた。

結論からいうと、改称は成った。スヴォーロフ地区はペレスィプ地区に、マリノフスキー地区はハジベイ地区に改称された。先立って行われたオンライン住民投票ではスヴォーロフ→ペレスィプ案は反対が賛成をわずかに上回っていた(ネットではスヴォーロフ地区を改称して「ニコラエフ地区」とする案が人気を集めていた)が市議会はこれを考慮しなかった。ОЖОЖОЖ

■「オデッサ市歌をウクライナ語に」運動(5/10)
オデッサ市の歌はロシア語の歌である。ソ連時代に作られたロシア語オペレッタ(軽喜劇)の劇中歌「オデッサの歌」。これを、オデッサはウクライナの街なんだからその市歌がロシア語であるとはけしからん改めろ、という話は前からあって、今度また、オデッサ選出の国会議員の何某が同ソングのウクライナ語訳を公募してそれを公式な市歌とすることを唱道している。ОЖ

■オデッサの世界遺産登録、詰めの作業(5/11)
オデッサの世界遺産登録に際してUNESCOから受けた勧告を履行する作業が続いている。まず、市の玄関口たるオデッサ港は保護対象から外れて緩衝地帯に属することになった。また、今後、保護対象となっている建物群からプラスチックのバルコニーやエアコンの室外機が撤去されて美観を整える作業も行われる。ОЖ

■チェルノモルスクは海開きしないこと確定(5/24)
オデッサから少し西に行ったとこのチェルノモルスクはビーチリゾートとして人気であったが、オデッサと違い防波堤がないので漂着機雷を防ぐすべがなく、今年も海開きは100%訪れない。なおグメニューク南方作戦司令部報道官によれば、げんざい黒海を漂流している機雷の数は約400。機雷は1kmの距離で爆発しても人間にとって深刻な脅威となる。ОЖ

■ザトーカの死の沈黙(4/30)
チェルノモルスクからもう少し西に行ったところに黒海北岸随一のビーチリゾートであるザトーカがあるが、昨年の今頃執拗にミサイル攻撃が行われた結果、今では人影なく野犬のみ闊歩するアポカリプティックな景色であるということだ。ОЖ

6月10日

■洪水
ウクライナ内務省によれば、10日20時半現在、ヘルソン州では46集落が浸水、うち32がウクライナが有効に管轄している領域。2699人が被害、29人が消息不明。ニコラエフ州では31集落が浸水、982人が避難(УП

■反攻
カナダのトリュドー首相がキエフ電撃訪問、首脳会談後の記者会見でゼレンスキー、反転攻勢について問われて「各方面の司令官と毎日連絡を取り合っている。皆やる気に満ちている。プーチンに伝えてほしい。私の見るところ、反攻的防衛行動がウクライナで行われている。それがどの段階であるかは言わない」УП

■オデッサ
9→10の夜ロシアのミサイル・ドローンがオデッサ市・州を襲い、ドローンの方は8機中8機撃滅したが、その撃墜片、また撃ち洩らしたミサイルにより被害が出た。市郊外のベッドタウンで高層アパート3棟・学校・幼稚園が損傷、3人死亡、26人負傷(うち2人が子供。5歳・17歳)。また州西部の村落で一軒家7棟が全壊、15棟が損傷、6人負傷(うち2人が子供、5歳・12歳)УПУПОЖ

私事だが、これで我が家におけるひと夏オデッサに帰省したい問題は片が付いた。妻と義父母が強く望んでいたが私が強硬に反対していた。今回シャヘド片が落下して3人が死亡した「市郊外のベッドタウン」は外ならぬ義父母が住まう団地(посКот)である。また上掲写真の下段が「州西部の村落」だが、風景はまんま義父母のダーチャの村である。その5歳児がうちの子でもあり得た。以上、証明終わり。

■シェルター
キエフ市内の全シェルターの点検終わり。4655か所中、「ダメ出しなし」は15%。「技術的には利用に適するが改修が必要」が50%。また、自由に出入り可能なものは44%、防空警報が鳴ると係の人が5分以内に開錠し入れるようになるものが21%(УП
オデッサでもシェルターの点検は行われていて、7日の時点でオデッサ市・州2000か所ほどを調べたところ、3分の1が利用不適格ないし閉鎖中であった(ОЖ

6月9日

■ダム破壊・洪水
・ヘルソンの冠水域で水が徐々に引き始めている。ヘルソン州全体の平均で朝方の水位が5m38㎝、晩には5mまで低下した。右岸ではなお35集落3763戸が冠水しており、これまでに2588人が避難した。左岸も依然として危機的状況である(ヘルソン州報道官、УП、23:29
・ヘルソン州チャギンカ村で人道支援を受けていた住民に対しロシア軍の砲撃が加わり高齢男性一人が重体となった(УП
・クレバ外相が国連を猛批判。「国連は過ちを犯した。ダム破壊というテロ行為が行われた日、まる一日というもの『水を口に含み(=口をつぐみ)』、あまつさえ『ロシア語の日』を祝いなどした。彼らが口に含んだのが機械油と死んだ動物の血液が混じったドニエプルの川水だったならやることも違っただろうが、いかんせんニューヨークは遠く、そこには異なる水が流れていた。だから終日沈黙と無為を貫くこともできたのだ」УП
・NYTが米大統領府内の情報として伝えたところによれば、ダム決壊の直前に撮影された赤外線センサー搭載衛星の写真に、強力な爆発に特徴的な熱痕跡が認められた。米国の情報機関はダム破壊はロシアによるものとの見解に傾いているが、なお決定的な証拠は見いだせていない(УП
・はやオデッサの岸辺にも冷蔵庫など色んなものが流れ着いている(УП
・ゼレンスキーと岸田首相が電話会談(30分間)、日本は被災者支援のため国際機関経由で500万ドルの緊急人道支援が行う計画である由(УП)。一方のロシアでは上月大使が露外務省に呼び出され何か文句を言われたそうだ(NHK)。こういうのがどういう空気感で行われるのか積年の疑問。

■戦況(反転攻勢)
・ウ軍の9日朝の発表では、先立つ一昼夜で敵兵1010人と戦車10両を殲滅したとのこと。4桁とは。戦闘が激化しているということ。自陣の被害は発表されないが相当なものと思わなければならない(УП
・ISW「先週日曜(6/4)開始の反転攻勢は8日の時点で少なくとも3方面で行われている。バフムートでは防衛から攻勢に転じ市周辺で200m~2km前進。ザポロージエ州西部でも限定的だが大規模な攻勢、これをロシア軍が撃退、ウクライナ軍は西側供与の輸送手段を失った。概してウクライナの反攻は規模の異なる多くのイベントから構成されるであろう(УП
・エストニア国防省「バフムート含むいくつかの方面で戦闘が行われているが、とりわけ顕著に戦闘が激化しているのはザポロージエ州である。今なお反転攻勢の本番というよりは形成作戦が行われているといった方が近い。つまり、ウクライナ側は注力すべきポイント(敵防衛線の突破口)を模索している段階だ。場合によっては、昨秋ハリコフで見られたような大規模攻勢は見られないかも知れない。ロシア軍の方も9か月にわたり準備を整えていたのであり、突破口の模索には相当長い時間がかかるかも知れない」УП
・プーチンも「ウクライナの反転攻勢は始まった」との認識を示した。「攻勢は開始されたと断定できる。ウクライナ軍の戦略予備軍が投入されていることがその証拠だ」УП
・各地に飛び道具も飛ばしてきている。8→9の夜、ミサイル6発と攻撃用ドローン16機。うち4発・10機撃滅(УП)。9日晩にはオデッサとニコラエフをイラン製自爆ドローン「シャヘド」が襲い、対空防衛兵器が作動、落下した撃墜片で火事が起きるなどした(УП

■他
・シェルター開いてない問題、キエフ市内でシェルターとして登録されている場所の9割(4200か所)の点検が完了、3分の2が使用に適する状態であることが分かった。残り3分の1のうち半数強が「少し手を加えればシェルターとして使用可」、残りが「要件に合致せず」УП
・キエフ国際社会学研究所が先月末~今月頭にかけて行った調査では、「たとえ戦争が長引き、さらなる脅威が生まれようとも、いかなる領土的情報もあり得ない」と考えているウクライナ国民は、全体の84%にも上っている。「和平の達成と独立の維持のためには一部領土を手放すこともやむなし」との立場の人は全体の10%。同様の調査が昨年5月から定期的に行われているが結果に大きな揺らぎはない(УП

6月8日

ダム決壊そして洪水。「生活の破壊」の余りの凄まじさに衝撃を受けている。誰がやったのか、何が起こったのか、今もって明らかでない。①ロシアが壊した②ウクライナが壊した③自然に壊れた。②の場合のみウクライナは責められる。だがそれはないと思う。手段、動機、その後の対応の3点から。⑴手段。自爆ドローン程度では破壊は不可能、工作員が入り込む余地もなかった、では遠距離からミサイルを飛ばすしかなかったわけだが、英米諜報機関はその痕跡を見いだせていないし、ロシア側も何一つ証拠らしきものを提示できていない。⑵動機。ウクライナ側にとって露見した場合のリスクが余りに大きい。ロシア側にとってはそんなに大きくない(自国民だけ騙せればいい)。軍事的な目論見としては、左岸の露軍防衛線を洗い流すとか上流または東部で攻勢を仕掛けるための陽動ということが考えられるが、現にいま戦闘が激化してるのは一番作戦本丸と遠そうな東部であるし、それよりはむしろ、つとに本丸と見なされていた南部における攻勢を遅延させるというロシア側のメリットの方が大きそうだ⑶ウクライナメディアの報道を見る限り、ウクライナの災害対応は誠実である。反対に、ロシア側の対応は不誠実極まる。

■対応
・ゼレンスキーがヘルソンを訪れ住民の避難状況や生活支援ほか対応策、災害が戦況に与える影響、また生態系回復の展望などについて協議した。その足でやはり増水による被害が及んでいるニコラエフも訪れ、キム知事から状況報告を受けた(УП
・国際的な環境団体・活動家ら(含むグレタ・トゥーンベリ)が参加するオンライン会合が開かれた。基調演説でゼレンスキー、ダム破壊と洪水による生態系破壊の克服のための支援を呼びかけ、今次の環境破壊についてロシアを処罰するための専門家グループの創設を提唱した。「約10集落が冠水した被占領域では避難が全く行われていない。住民は二日二晩屋根の上で過ごし、飲み水もない、食べ物もない、薬もない。何人が死傷したかすら我々には分からない」УП
・露軍は洪水被害にあえぐヘルソンにさえ砲撃を行っている模様。非常事態庁によれば、救助活動が行われている現場に集中砲火が行われ、救助隊員2名が負傷。ヘルソン州広報によれば、これに医師1名、ドイツ人ヴォランティア1名などが加わって、砲撃による負傷者は9人に上っている(УП
・参謀本部「露軍は自らの身を守るべく被災地からの避難民をあえて自分たち(軍人たち)の収容施設に移住させている」УП


■被害
・カホフカ貯水池は8日夕の時点で最低水位(一番低い位置にある取水口の高さ)=12.7mを下回っており、もはやクリミア含む南部一帯に飲料水と灌漑用水を供給する水甕としての機能を失っている。最低水位以下の水は利用の道のないただそこにあるだけの水ということで死水と呼ばれる。水位は1日1mの速度で低下しており、これが1週間ほど続いたのち、水位3mの水準で止まるだろうと「ウクライナ水力発電」社のイーゴリ・シロタ社長(シロタは孤児の意味。「孤児のイーゴリ」→珍名五輪УП
・ゼレ、環境団体とのビデオカンファレンス(上記)にて「洪水で燃料・化学物質・肥料・死骸が流された。5万ヘクタールの森林が冠水し、うち半量が死滅する。数万羽の鳥、少なくとも2万頭の動物が命の危険に晒されている。カホフカ貯水池が数百万の生物の墓場となることは疑いがない。この極めて危機的な状況が、自然災害や地球温暖化と無関係に、プーチンという災害によって引き起こされたのだ。この災害がロシアに利益をもたらすからだ。被災地域のうち、ウクライナが管理している領域については、国際的な団体がすでに支援を開始している。だが被占領地においても支援を行う必要がある」УП
・オデッサの岸辺にもゴミだの爆発物だの動物の死骸だのが出現しているらしく、海水浴は控えるよう住民に呼びかけがなされている(УП)。そもそもオデッサのビーチが今夏公式にオープンするかの決定は5日以降にとられることになっていたのだが、雲行きは大分怪しくなってきた。
・冠水そして灌漑用水がなくなることにより右岸だけで収穫物10万トン(全体では数百万トン)が失われ、世界的な食糧危機が引き起こされる可能性がある(УП

■報道の中立性
・米国の歴史家ティモシー・スナイダーの寄稿。人道と環境、マルチな側面を持つ今次のダム破壊と洪水をどう報道するべきか「10の提言」、その一部を抜粋する:「今次の人為的人道・環境災害を『両サイドの視点を考慮した上で』語り始めることへの誘惑を避けること。そんなものはジャーナリズムとは呼べない」「ロシア側のスピーカーによる『ダム破壊にウクライナが関与している』との声明は現実世界における現実の事象について語ったものではない」「ロシア側の声明をウクライナ側のそれと併記することは公正ではない。この戦争においてロシア側スピーカーが語ったことのほとんど全ては虚偽であった。一方、ウクライナ側スピーカーのそれは、大方が真実であった」「ロシア側のスポークスマン(たとえばドミートリイ・ペスコフ)の発言を引用する際は、その人物がそもそもの初めから、この戦争のあらゆるアスペクトについて虚偽を述べ立ててきたことを明記するべきだ」「客観性への志向というのは、何も、あらゆる事象をあたかもコイントスのように『二つの公式声明のどちらかがフィフティ・フィフティで正しい』というふうに眺める必要があるということではない」УП
※私は日本における一般報道のサンプルとして朝日新聞(紙版)を見ているが今次の事象に関する報道の在り方に強い疑問を持っている。両論併記が過ぎる。こんなものは「ジャーナリズムとは呼べない」。「非難の応酬」という言い方は中立かも知れないが公正ではない。

■効果と余波
・ISW「洪水で左岸のロシア軍拠点の多くが破壊された」УП
・ザポロージエ州およびヘルソン州の被占領地に住む住民は、占領当局には住民の生活水準を維持する能力が皆無であることを悟り、当局命令を公然と無視するようになり、親ウクライナに立場を変えつつある(УП
・特国連および国際赤十字委員会の消極性(特に左岸における救助活動への)に対してウクライナ政府および市民が不満を募らせている。キエフの国連代表部前では抗議行動が行われた。国連が6日のダム決壊当日にいち早くロシアを非難する声明を出さず、むしろ「ロシア語の日」を祝ったことに抗議するもの(УП

■その他戦況
・東部4方面(バフムート含む)でロシア軍が攻勢をかけており、激戦が行われている(УП
・CNN「ウ軍はバフムートで戦果をあげているが損失も出している――ロシア側の防衛が思の他手強い」(УП
・ABC Newsによれば、現在行われているのがウクライナの反攻のアクティヴなフェーズであることをウクライナ政府内の匿名の消息筋2人(うち1人はゼレ側近)が認めている。つまり、領土奪還作戦の本番はもう始まった、と(УП
・中部のウマニにミサイル、2発が着弾、8人負傷(УП
・ヘルソンのドニエプル中州では主導権巡り右岸(ウ陣営)と左岸(露陣営)の特殊部隊による「静かな戦闘」が行われてきた(УП

■世論調査:戦争はあと1年以上つづく
https://www.pravda.com.ua/rus/news/2023/06/8/7405920/
■世論調査:国外避難民の2割が「ウクライナに戻る計画ない」
https://www.pravda.com.ua/rus/news/2023/06/8/7405946/

■情報総局ユソフ報道官インタビュー
・プーチンの本物と影武者をどう見分けているか
https://www.pravda.com.ua/rus/news/2023/06/8/7406013/
・ロシアは首都攻撃に十分な量のミサイルを保有/生産できている
https://www.pravda.com.ua/rus/news/2023/06/8/7405987/

■教会歴の改訂
https://life.pravda.com.ua/society/2023/06/8/254736/
https://life.pravda.com.ua/society/2023/06/8/254747/(6割が支持)

6月7日

■被害の規模
・ドニエプル下流域では今も水位は上昇し続けているがその上昇スピードは緩やかになっている。右岸の冠水域から1900人超が避難した(非常事態庁、УП、8日00:52)
・右岸だけで1万ヘクタールの農地が水没(左岸はその数倍と見られる)。同じ場所に新たな水力発電所を建設する費用は10億ドルと見積もられる。ダム破壊の結果、ウクライナ唯一の国営チョウザメ養魚場がほぼ水没した(УП、21:00)
↓チョウザメ養魚場(УП

・一方の左岸(ロシアが占領している)については、ウクライナ側は救助活動を行うことはおろか、被害の規模を把握することさえできていない。ゼレンスキーによれば、左岸では人々が屋根の上に取り残されており、救助の手は差し伸べられず、何人死んだかわからない中で、ロシア軍はただ砲撃を繰り返すのみである。ウクライナ側には不可能な左岸の救助活動について国連・赤十字に要請を行ったがゼロ回答。ゼレ「今この現場にいないのなら赤十字のごとき国際人道団体はそもそも存在しないも同然である」(晩方のビデオメッセージ、УП、22:58)
・洪水によって墓地や堆肥・廃棄物集積所が水没し、そこから諸々の穢いものが流れ出しており、広範囲の水質汚染が発生していると見られる。保健省が「飲料水はボトル入りの水のみ」「魚を釣って食べない」「川の水に浸かった食品を食べない(缶詰すらNG)」など一連の勧告を出している(УП

■誰がやったのか
・トルコのエルドアン大統領がまずゼレンスキー、次いでプーチンに電話し、カホフカダムの一件に関する合同調査委員会(穀物輸出交渉を範にとり、露ウ双方、国連、トルコを含む数か国が参加)の設置を提案した(УПУП
・ウ軍参謀本部「ロシアのテロリストどもが新たな犯罪行為を行った。わが軍の侵攻を阻止する目的でカホフカ水力発電所の内部構造を爆破した」УП(07:05)
・ISW「状況証拠から見てダムはロシアが意図的に破壊した可能性が高い。ロシア側はウクライナが渡河を強行することに対して強い懸念を表明していた。ロシア側の従軍記者が公開した6日付動画には、洪水によってドニエプル川岸のウクライナ軍拠点が洗い流され、ウクライナ軍部隊がロシアの砲火を浴びながら避難していく様子が映されている。損傷したダムが自壊したとの説もあるが、爆発音に関する報告と整合性がつかない」УП(05:42)

■反攻
・ダニーロフ国家安全保障会議書記「ウクライナはまだ領土解放作戦を開始していない。始まればそれは誰の目にも明らかなものとなる」УП
・7日、ウクライナ軍は敵兵880人・戦車13両・航空機1機を殲滅したそうだ(УП)。880人というのはバフムートがいわゆる肉挽き機となっていた頃と同じ水準だ。洪水への対処の一方で、やることやっている、ということか。


筆者の立場を明らかにしておく。①ロシアが故意に壊した②ウクライナが故意に壊した③自然に壊れたの3択だが、①か③であろう、①であってほしい、②ではないだろう、②であってはほしくない、③であってもロシアによる人的災害であることには変わりない。
なぜ①であってほしいか。これが、ロシアの欺瞞、ロシアの「特別軍事作戦」の非人道性、モスクワが「新領土」住民の命を鴻毛より軽く見ているということのこの上ない証明となり、国際社会、またロシア国内社会においてさえ、プーチンロシア打倒せずんばならずという大きなうねりが起きる。その発端となり得ると思うから。招いた結果が同じなら、むしろ故意の破壊であることが立証されてほしい。
ウクライナが故意にやったことだとすれば、「それすらもロシアの侵略が招いたことだ」という正当化に、私は与しない。だが、それは正直、ないと思う。ウクライナがダムを故意に破壊するためには高精度ミサイルを飛ばすしか方法がなかったはずだが、ワンチャン露見しないことを当て込んでそんなアヴァンチュールに出るなど、ちょっと無理な想定だと思う。性善説というよりは、合理性の問題。

■他
・シェルター閉まってる問題、キエフでは75%のシェルターの点検が完了、うち3割が使用不適格であった(УП
・УП砲。夜間早朝(0時~5時)外出禁止のキエフで2軒の飲食店が密かに終夜営業しておりそこが行政官やスポーツ選手ら上級国民の溜まり場になっている(УП←動画)

6月6日

カホフカ水力発電所ダムが決壊しドニエプル川の下流域が未曾有の大洪水となっている。左岸(ロシア側が支配)でとりわけ被害が甚大である由。ポイントは①誰が壊したのか(あるいは壊れたのか)②被害の規模はいかほどか③反攻への影響。

①については、個人的には、ウクライナの反攻の阻止または遅延のため、ロシアがやったと思っている。早くその証拠が上がってほしい。現時点(7日朝)ではウクライナ側が反攻の一環として、つまり陽動など何らかの戦術的な利があって、行った可能性も一応留保しておく必要がある。仮にウクライナ側がやったことだとすれば、「それすらもロシアの侵略の結果だ」とは、さすがに言えないと思う。これほど卑劣な行為は肯定できない。(だからこそ、ウクライナ側の犯行ではないと思う。自国民また国際社会に対してより強く”義”を必要としているのはウクライナの側だから)(ロシアは外国で行われている”作戦”について自国民(牙なき)のみをオーディエンスにどんなウソでもつける。夥しい先例がある)(仮に故意の爆破でなく、もともと損傷していたものが自壊したとするならば、その責任は当然、同ダムを占拠していたロシア側にある)

②については、すでに色々な報告があるが、被害の規模が正確に評価できるようになるのは一週間後のことだという。後述する。

③軍事専門家でないので一般論だが:ダム決壊によって出現した新たな状況がウクライナの反攻を促進したように見えることはウクライナにはマイナスである。露プロパガンダはすわウクライナが軍事目的のために流域市民を犠牲にしたぞと騒ぎ立てるだろうし、国際社会も「もしや?」と疑念を抱く。あらぬ嫌疑を避けるためには、ダム破壊がロシアの犯行であることを示す確たる証拠が早期に上がる、ないしその旨米国のお墨付きが得られるまでは、大々的な反攻作戦は控えたい。それでなくても道義的には直近一週間は被災者の救助を優先すべきである。というわけで、ダムの破壊と洪水は、ウクライナの反転攻勢を遅延させる(⑴反攻の立証⑵救助の完了まで)効果は少なくとももつ。また、ウクライナが一連の越境攻撃や情報キャンペーンによって5月を通じてコツコツ作り上げたある種の雰囲気が、今回の一件で一気にちゃぶ台返しされた感じもある。だが、それでも、結果として生じた新たな状況が純軍事的観点からウクライナの反転攻勢にとって余りに好適なものとなったなら、ウクライナ側は反攻を強行するだろう。立証を待たずに、また救助活動と並行して。


【УП報道まとめ(時刻は現地時=日本時間-6時間)】

①誰がやったのか
・УПは第一報から「露占領軍による爆破」と明記。典拠は南方作戦司令部発表(УП、06:45)
・露ペスコフ「ウクライナ側の意図的破壊工作であると現時点で断言できる。流域住民数万人そして自然環境に深刻な被害をもたらす破壊工作だ。ウクライナ側の狙いはクリミアから水を奪うことだ。また、2日前に始まった大規模攻勢で期待したほどの成果を上げられていないこととも関係があるだろう」(УП、13:30)
・ダニーロフ国家安全保障会議書記「ダム爆破にウクライナは全く関与していない。ダムは昨年3月からロシア人テロリストどもに占拠されている。ウクライナ人は一人もいない。髭の男(ペスコフ)が意味不明なことを叫んでいるが、この男が侵略の正当化のためにでたらめを言うことには我々も慣れ切っている。昨年9-10月にダムに爆発物が仕掛けられたことは分かっている。我々の反攻を阻止するために、それを今になって作動させたのだ」УП(15:17)
・ポドリャク大統領府長官顧問「ダム爆破は(長らく同ダムに駐屯していた)露軍第205自動車化狙撃旅団の犯行だとする情報がある」УП(12:18)
・ゼレ「昨年時点で露がダムに爆発物を設置したとの情報は情報局から入っており、パートナー諸国とも共有していた」УП(18:25)
・ウ国防省情報総局広報「(先の攻撃で損傷していたダムが自然に決壊したとは考えられないか、との問いに)現段階では考えにくい。爆薬が使用された証拠はある」УП(19:45)
・FT、WPなど西側大手メディア記者複数が衛星写真をもとに「ダムは爆破されたのでなく、先の損傷によって自壊した」との説を唱えている(УП、13:29)
・米大統領府「ダム爆破につきロシアが有責であるとの情報を評価するべく努めている。ウクライナと共同して情報収集を行っている。一体何が起きたのか、現時点では言うことができない」УП(21:43)
・欧州委員会広報「EUは深刻な人道/環境災害を伴うおぞましく野蛮な重要インフラ攻撃を断固として非難する。本件が、飢餓・電力・冬・原発を武器として使用することを躊躇わないプーチンロシアの不法な侵略という文脈のもとで起きた事象であることは明らかだ」УП(13:44)
・独ショルツ首相「ダム爆破はプーチンの戦争遂行様態によく適合する。ロシアは常に民間施設を攻撃している。街を、村を、病院を、学校を、インフラ施設を」УП(13:19)

②被害の規模
ゼレ、国家安全保障会議の緊急会合後に「80ほどの自治体が冠水域に入っている。ドニエプル市では150トンの機械油が流出、今後さらに300トンが流出する恐れがある。現時点では民間人・軍人ともに死傷者はいない」УП(11:57)
・IAEA「ザポロージエ原発への直接的脅威はなし」УП(14:24)
・ゼレ「1週間後、水が引いて初めて被害の規模は分かる。今の時点で分かっていることとしては、35~70自治体が冠水すること、冠水域内外で飲料水危機が生じるということ」УП(18:25)
・ウ軍広報/非常事態庁「右岸は被害僅少の見込み、とはいえ水位上昇にともない、15時時点で1300人が避難。海抜がより低い左岸(ロシア側が占領している)の方がよほど被害が大きい」УП(15:33)
・ヘルソン州知事「右岸では家屋1335棟が水没」УП(20:52)
・ウ軍広報「キンブルン砂嘴(ニコラエフ州で唯一被占領地に留まっている長い半島、露軍の射撃拠点として利用されてきた)は一時的に大陸から切り離され離島化する可能性がある。無論これにより敵軍の補給は困難になる」УП(15:42)
・ウ国防省「ロシアの地雷が洪水で流され冠水域に漂着する危険がある。露側は夥しい数の地雷を設置していた可能性がある」УП(15:00)
・ドニェプル下流域の自然公園や文化遺産(スキタイ人の墳墓、14-15世紀の要塞、リトアニア大公国時代の塔など)が冠水または水没している由(УП

③反攻への影響
・ウ軍広報「ウクライナは渡河手段を十分に備えており敵の蛮行は社会経済危機を創出するものではあるがそれによってウ軍の占領地解放を阻止することはできない。露軍指導部がダムを破壊したのはウクライナ軍に対する恐怖心の表れである」УП(11:12)
・ゼレ「最高司令部会合が開かれ、カホフカ水力発電所の状況について情報局より報告を受けた。結論:爆破は意図的なものだ。だが敵の行為は混乱に満ちたもので、洪水によって自らの装備を水没させてしまった。一方ウクライナの領土解放戦力は、ダム破壊の影響を受けなかった。準備はできている。完全に」УП(19:55)
・ゼレ、晩方恒例の国民向けビデオメッセージで「今次の災害でウクライナを止めることはできない。必ずや全土を解放する。ロシアのテロ行為は将来の賠償金を増大させるだけである。ロシアが占領を続ける見込みが増大することはない。クリミア半島の水甕を自ら破壊するとは、ロシアは間もなくクリミアからも逃げ出さざるを得なくなるということを自覚している、ということの証左でしかない。ウクライナはウクライナのものを全て取り返す。そうしてロシアに、しでかしたことの対価を支払わせる」УП(22:36)

■他
・6日未明首都他を35発のミサイルが襲ったが全弾撃ち落とした(УП
・ダム破壊について国連がロシア非難を行わず、むしろ「ロシア語の日」(プーシキンの誕生日である6月6日は6つある国連の公用語の一つであるロシア語の記念日とされている)を祝う声明を出したことにウクライナ側が憤慨、国連総会ホールに洪水を起こしてみせた(УП

私も千度目、自分がロシア語の使い手であることを恥ずかしく思った。

6月5日

■心理戦①偽プーチン勅語
ウクライナ東部と国境を接するロシアのロストフ・ベルゴロド・ヴォロネジの各州でラジオ放送にて、プーチンの声でプーチンが使いそうな言葉で次のように語られた。「ウクライナ軍が本日朝4時、NATOの装備と米国の賛同を得て、ロシアのクルスク・ベルゴロド・ブリャンスクの各州に侵攻した。わが軍は圧倒的な戦力で侵略者に反撃している。当該3州では既に戒厳令が敷かれた。本日中に国家総動員令もかける。3州市民は安全な場所に退避を。ロシア軍がルーシの大地をナチスウクライナから守る。敵は粉砕される。勝利は我らの手に」。のち露ペスコフ大統領府報道官、当該放送は「フェイクだ」と断定(УП

↓赤枠のベルゴロド州(ひしゃげた埼玉県)を起点にウクライナとの国境に沿って、時計回りにヴォロネジ・ロストフ、同じく反時計回りにクルスク・ブリャンスク。

■心理戦②米「ウクライナは準備万端」
米軍のミリー統合参謀本部議長はウクライナの反転攻勢について「非常によく準備を整えている」と評価、ただし「結果について話すのは尚早」とも(УП
※ウクライナが大統領以下政府・軍高官声明や電波ジャック・偽勅語の発出といったИПСО(情報心理特別作戦)によって敵の軍・体制・市民をビビらせ反攻の物理フェーズのお膳立てをしているのは明らか。これに呼応して、米国をはじめとする西側からも反攻への期待を煽るような声明が相次いでいる。ウクライナ側の意図を汲んだ/ウクライナ側と協調しての援護射撃か。……というような印象をウ露字報道ウォッチャーの自分などは受けているのだが、そう感じさせるような報じ方をしているだけ?(あるいは単に自分が期待に目を曇らせている)

■心理戦③露「反攻はすでに始まったが撃退した」
露国防省発表では4日朝ドネツク・ザポロージエ州境あたりでウクライナ軍が大規模な攻勢を仕掛けたが、これを露軍が撃退したのだそうだ。ウクライナ側は「ロシアの情報作戦に過ぎない。ありもしない反転攻勢について戦果を鼓吹している」と一蹴。ただ、ウクライナ軍が当該地域に攻撃を仕掛け、一部損失を被ったのは事実と見られる。識者によればウクライナ側の目論見はこうした小規模の攻撃を各所で仕掛け、敵の防衛線を引き伸ばすことにある。少なくともウクライナ軍が反攻のために特別に用意した部隊だの兵器だのが使用された形跡は現在のところ見られなく、逆にこれらの使用が確認できれば、それをもって反攻は開始されたものとみなすことが可能だ(Meduza
※さっきの伝でいけば、猛烈な反攻が今日明日にも始まるぞ始まるぞといってなかなか始まらないことで心理的圧力をかけたいウクライナ側の狙いに対して、ロシア側は「すでに始まったが撃退した」と繰り返すことでアンチドートとしている、ということになる。

■ウ「バフムート方面でウクライナ軍が前進中」
ウクライナ国防省「我々は2022年2月24日より国家の防衛を行っている。防衛作戦には反転攻勢も含まれる。ゆえに一部方面で我々が反攻に転ずることもあり得る。その一例として、バフムート方面は今もって軍事行動の中心地であり、そこでウクライナ軍は幅広い前線で前進し、戦果を収めている。我々は高地を占めている。敵は拠点防衛を試みている」「ロシアはバフムート郊外で劣勢になったからこそ『ウクライナの反転攻勢』について情報を出したのだ。なお、南部では局地的意義をもつ戦闘が続いている」УП

やめようか。「側面史」だものな。「オデッサを中心に」だものな。

■オデッサのビーチの安全はロボットが守る
昨夏完全閉鎖されていたオデッサのビーチが今年は一部オープンする(かも)という中で、米国から海底探査用ロボットが届いた。海底から重いものを持ち上げたり爆発物を無害化したりするらしい。別途ドイツからも小型の無人カタマランボートが届いていて、こいつが水面から海底をスキャニングして危険物を見つけるらしい。ОЖ

なお、ビーチ行楽のオフィシャルな解禁を待たず、市民はすでにビーチに出ている。かつて当記事でもまま取り上げたオデッサ日録チャンネル5/24付↓

hh

↓反転攻勢について、またロシアの窮境について、この動画が(いつもながら)大変勉強になった。

【note】
・形成作戦(shaping operation)は5月10日に始まり、これが30-40日続くと見られる
・本格攻勢の開始は来週後半~再来週くらい?
・前線(war front)は1200kmだったが明らかにウクライナ軍の支援を受けたロシア人武装勢力の越境攻撃により露ベルゴロド~ブリャンスクまで延伸したものとすると、今や前線は2000kmである。国境警備と占領地防衛は両立できない、大変なジレンマ
・露の報道ではРДКなど一切出てこない、ウクライナがやっているとしかいわない
・戦争は双方向のものであり、仮にウクライナがロシアを攻撃しても国際法違反にはならない
・英(既)供与ストームシャドー:射程300km、貫通力・破壊力に優れる
・米(未)供与ATACMS:射程300km、クラスター式、面で制圧、敵部隊をまるごと殲滅する
・米は遠くない将来ATACMSを供与するであろう。英が道筋をつけ、米がそれに従うという、双方納得済みの一種の職掌分担
・いまウクライナがドローンやストームシャドーでアゾフ海沿岸の港湾部(マリウポリ~ベルジャンスク)を叩いているのは①そこに敵司令部があるから②海路の兵站をくじく
・作戦の後半でストームシャドーによるクリミア橋の破壊も行われるだろう。その破壊は同兵器を供与した英も事実上容認している
・ロシアが総動員令を出さないのは国内混乱という政治的要因もさることながら、いざ人間だけ増やしてもその手に握らせる武器がなく、その口にのりする食糧もない、という物理的要因もある
・ウクライナ軍発表によれば露軍はすでに3800両の戦車を失っており、高性能半導体の払底により月あたりの新規生産力は僅か1両
・食糧不足もばかにならない、食糧は「兵士という兵器を動かすための燃料」、専用・特別なものが必要
・ロシアは攻撃力が枯渇し、今に敵(ウクライナ)の反転攻勢が始まると分かっているのに首都キエフに対してドローンやミサイルを飛ばすという「軍事的には無意味な攻撃」しかできていない
・ナゴルノ・カラバフ紛争(アルメニア・アゼルバイジャン間)の調停を今やEUや米国が担っている
・どの国も「戦争が終わった時に勝った方についていたい」。ロシアの伝統的同盟国も非ロシア連帯を模索中
・堤伸輔氏「潮目が変わった」

こういう良い番組、またYouTubeチャンネルがあるのなら、何丘ブログなんか無用の長物以外の何ものでもない。と分かった上で明日も更新する。

今日取り上げようと思ってやめたやつ
・キエフのシェルター開いてない問題は深刻(УП
・ウクライナはロシア内部にエージェントネットワークを構築し、裏ルートでドローンを提供して、ロシア深部攻撃に使っている(УП
・NYT:ウクライナは反転攻勢を開始したものと見られる、ただしロシアの防衛線は堅牢である(УП

6月4日

■恐怖のビデオメッセージ①ひみつだよ
反転攻勢の始まりについてウ国防省がまた意味深極まりない動画を公開。武装した軍人が次々画面に登場して人差し指を口に当てる。追って「計画は静寂を好む。開始についての宣言はなされない」との文字。で、占領下のクリミアの一部ケーブルテレビチャンネルがジャックされ、この動画が放送されたらしい。こわ。こわ。指摘されるようにロシアに対する心理作戦なのだろう(УПУП

■恐怖のビデオメッセージ②会って話そや
ロシア志願兵団(РДК)と「ロシアに自由を」軍団(ЛСР)がまたしても露ベルゴロド州に侵入しロシア人兵士(複数)を人質にとり、SNSでビデオメッセージを表して州知事との面会を要めた。「グラトコフ(州知事)閣下!きょう6/4は正教会の大祭、トロイツァ=聖三位一体祭だ。我々はロシア人兵卒らを明け渡す用意がある。いわゆる「善意志の発露」というやつだ(露政府の口ぶりを借りるならば)。ただし、引き換えに、あなたと直接面会したい。地域の現況、なかんずく、地域の将来について、また一般にロシアの将来について、話し合いたい。〇〇村の聖堂まで一人で来られたし。武器を持たず、運転手一人を伴って、救急車で。こちらはРДКおよびЛСРの代表者各一名、そして捕虜たちで迎える」УП
当のベルゴロド州知事はやはりSNS上でビデオメッセージを発表してこれに応じた。「卑怯者・ろくでなし・殺人者・ファシストどものメッセージを見た。当該地域では現在РДК掃討作戦が行われている。きゃつらが根絶やしにされることを願っている。基本的にそれ以外の解決はあり得ぬが、唯一連中との交渉に乗り出さざるを得なくなるとすれば、それは連中の手に落ちた捕虜たちが存命である場合だ。だが恐らくもう殺されているだろう(そう言うのは忍びないが)。万一生きているならば、17~18時、××町。安全は保障する」УП

↓赤線内が××町、黄色い道挟んで向こう側の集落が〇〇村

■シェルター閉まってる問題
例のシェルター閉まってる問題で、キエフ市内のシェルターひとまず1000か所を点検したところ、半数が閉まっているor利用に適さずの状態であった。カムィシン戦略産業相(この問題を所管?)はテレグラムに「シェルター開けろ」と題するチャンネルを設け首都市民にシェルターに関するタレコミの募集を開始した(УП)感想:侵攻始まって16か月目にやることではない。

6月3日

■ゼレ「反転攻勢の準備はできている」
ウォールストリートジャーナルのインタビューでゼレンスキー、現時点でウクライナは既に反攻の準備を整えている、と語った。「これを持っていたかったというものはあるが、それを何か月も待つことはできない。我々は成功を固く信じている。どれだけの時間を要するかは分からない」УП

■ゼレ「パトリオットのお陰でロシアは数千万市民を脅迫できなくなった」
同じWSJのインタビューでゼレンスキー、米国製地対空防衛システム「パトリオット」はロシアがウクライナ攻撃に用いるある種のミサイルを撃墜できる唯一無二の兵器だ、と語った。「この戦争の教訓:ロシアによる数千万市民に対する脅迫を阻止することができる兵器は存在するのだ」УП

■国内のシェルター5000か所のうち2割が使用不可
首都がミサイル攻撃を受ける中で頼みの綱のシェルターが閉まっていたせいで市民が死傷した一件(6/1)を受け警察・救急・役人5300人を動員して国内のシェルターの一斉点検が行われている。3日朝時点で4800か所の点検が終わったが、うち252が閉まっており、893が「使用に適さない」状態であった(УП
そんな状態で「空襲警報無視するな、自分の身は自分で守れ」とか言っていたのか。人が死んで初めて動き出すのか。呆れる。
オデッサでも1日付で市内全シェルターの状態を評価するよう市長命令が出たが、8月20日までに報告書をまとめて国家非常事態庁に提出するとのことだ(ОЖ)。それまで一度もオデッサにミサイルだのドローンだの飛んでこないと思ってるのだろうか(※一番最近オデッサがシャヘド攻撃を受けたのは5月29日)

■オデッサの人気ビーチで深刻な水質汚染
オデッサの人気ビーチ「アトラーダ」の海水に見てから明らかに石油とわかる黒ずみ・テカりが見られ、現在汚染の規模の測定が行われている。アトラーダはオデッサ住んでたとき私らの最寄りのビーチで私などは週8で降りていた。戦時中また機雷漂着・ミサイルやドローン飛来のリスクにも関わらずオデッサでビーチ行楽が許可されるかどうか(去年は厳禁だった)の決定は5日以降下されることになっているが、ここへきてこの問題か(УПОЖ

■オデッサでまた発砲
中年男性が集合住宅6階のベランダから空へ向けて4度発砲したとかで逮捕。負傷者なし(ОЖ)。6/1「オデッサで銃撃事件」の項参照

■ウクライナでも女性専用車両を設けてはという議論
大統領あてのオンライン請願で「夜行列車に女性(男性)専用車両を設けてほしい」とのイニシアチヴが所定の数(2万5000筆)の賛同を集めた。「6時間を超える長距離寝台列車には少なくとも一つの女性専用車両(平等のために、男性専用車両も)を設けてほしい。異性と寝台が隣り合うことがよくあり、しばしば執拗な声がけや痴漢行為が発生している。稀には強姦事件さえある」УП
※いくつか注釈する。まず、ウクライナには高速鉄道がない。たとえばオデッサ=キエフは直線距離430kmだが電車だと8時間かけて行くしかなく、たしか昼行便もあった思うが、夜行乗って寝てれば朝つくというのがポピュラーである(ちなみにモスクワ=サンクトペテルブルクは直線距離630kmだがサプサンちゅう特急列車で僅か4時間、これなら昼行できる)。で、寝台列車は庶民はふつう2等(クペー。4人一部屋)ないし3等(プラッツカルタ。ひと車両まるまる仕切りなし)に乗る。たとえば2等において、異性の同室を避けるなどの配慮は、鉄道会社側には皆無である。快適な旅となるかどうかは一にかかって乗客の良心しだい。とはいえ、ふつうは、何事もなく済む。女性が寝間着に着替えるときなどは男性はいったん室外に出るのがマナーである。

6月2日

■夜襲
連夜の襲撃。1→2日の夜も首都ほか各地を多数のミサイルとドローンが襲った。空軍発表によれば巡航ミサイル15発と攻撃ドローン21機が飛来、そのすべてを撃ち落とした(УП)。なおシェルター閉まってる問題については最高司令部会合でゼレンスキーが首都および全国のシェルターの総点検を内相らに厳命した(УП

★以下、いろいろな人がいろいろなことを言う、一言ずつ紹介する★

■ゼレンスキー:反攻は目に視え・触知できるものとなる
「反転攻勢がどのような姿をとるかは言えないがそれが目に見え・感触できる(ロシアに。とりわけ占領地の軍人たちに)ものとなることは確かだ。それが起きればそれが起きていることをあなたも知るだろう。結果として領土の解放は行われるので」УП

■WP:ウクライナ軍は反攻に向けて地雷の除去を始めた
米ワシントンポスト「ロシアと同様ウクライナ自身も前線に沿って数千もの地雷を埋設している。領土解放作戦の進路上の地雷は撤去せねばならないが、爆発させるとロシア側も気付いてしまうので、工兵が夜間こっそり戦場へ出て手作業で撤去している。こうしたことがすでに数週間行われている」УП

■プリゴジン:露軍は地雷によってワグネルのバフムート撤退を阻んでいる
「撤退直前に我々の進路上で不審な活動が行われており、調べてみると対戦車地雷ほか爆発物が10か所以上で発見された。設置したのはロシア軍であり、後方でこんなことをしても敵の抑止には役に立たない。ワグネル軍を迎えるために設置したものと考えられる。捜査を進める」УП

■露プロパガンダ「ウクライナ軍は米供与の軍用イナゴでロシア農業の壊滅を目論んでいる」
RIA「ウクライナ軍は米国の某ラボラトリーから取得した軍用イナゴを飼育・繁殖させている!イナゴは徒歩で格納庫を出てルガンスク州およびロシア本土の作物を攻撃している!」УП

■ポーランド首相:今こそ欧州に100年の平和を樹立する歴史的チャンス
「西側はグルジアやコーカサスにおける一連の出来事・露政権による自国民抑圧・ウクライナ分割計画を看過し、ロシアに武器を販売し続けた。ロシアがウクライナに侵攻してやっと状況が変わった。今こそ、ウクライナが主権と自由を回復し、ポーランドが国境の安全を確立し、欧州がロシア帝国主義の脅威を除かれ世紀の平和を獲得する、歴史的チャンスだ」УП

■パシニャン「アルメニアはロシアの同盟国ではない」ペスコフ「重大な声明」
アルメニアのパシニャン首相「アルメニアはウクライナ紛争においてロシアの同盟国ではない」УП。これにつき露大統領府ペスコフ報道官「留意する。重大な声明だ」「ウクライナ紛争に対するアルメニアのアプローチに一定のニュアンスがあることは承知している。むろんアルメニアとの理念的同盟関係の発展は続けていく」УП

6月1日

■モルドヴァで欧州政治共同体サミット、ゼレンスキーも参加
オデッサからすぐの隣国モルドヴァで1日、欧州政治共同体サミットというものが開かれ、これにゼレンスキーが対面参加した(なんだ、それでオデッサに立ち寄ったわけか)。欧州政治共同体サミットはウクライナ戦争を受けて昨2022年に仏マクロン大統領主導で発足した欧州域内(EU加盟国も非加盟国も含まれる。ロシア・ベラルーシは含まれず)政府間対話の枠組み。第1回は昨年10月プラハ、第2回が今回のモルドヴァ。ゼレンスキーの対面参加は安全上の理由から直前まで明かされなかった(УП
約50か国の首脳を前に登壇したゼレンスキーは「ロシアの侵略に対する3つのステップ」を描いてみせた。第1が「ロシアのテロルからの完全な防護」だとして、戦闘機や地対空防衛システムのさらなる供与を呼び掛け。第2が「ウクライナ以外でもロシアの侵略を認定すること」、これはサミット開催国モルドヴァの東部一帯がここ30年「沿ドニエストル共和国」と称するロシアの飛び地になっていることを指している。そして第3が「ウクライナのNATOおよびEU加盟」。この3段階で欧州はいわばロシアの侵略から浄化される、と(УП

↓沿ドニエストル(臙脂色)

沿ドニエストルはモルドヴァの国土の一部をロシアが不法に占拠しているものであり将来的に同「共和国」はモルドヴァの施政権下に復帰するべきであるというのがウクライナのヴィジョンである。欧州政治共同体サミット閉会後の記者会見でゼレンスキー「沿ドニエストル地域の帰属をめぐる問題について話し合う国際的枠組みとして唯一現存するのが「5+2」というフォーマット(モルドヴァ・沿ドニエストルの両当事者に加え、仲介役としてロシア・ウクライナ・OSCE、オブザーバーとしてEU・米国)だが、侵略国ロシアが仲介役を務める時点でこの枠組みは無効であり、ウクライナ戦勝の暁には全く新しいフォーマットが創設される必要である。その枠組みの中で、当該地域と境界を接し、かつ占領者から領土を奪い返した戦勝国であるウクライナは、間違いなく重要な役割を占めるであろう」(УП
なおウクライナ軍が沿ドニエストルに対して軍事行動を行う可能性については、ゼレンスキーは「モルドヴァ政府からの要請がない限り、ウクライナにはそのようなことをする権利がない」と言明。ウクライナは沿ドニエストルに対する領土的野心を持たず、沿ドニエストルはモルドヴァと統一されるべきだ、と強調した(УП

(沿ドニエストルの帰趨はオデッサの安全保障に直結するので厚めに紹介した。なお、現在のところ、沿ドニエストルはオデッサまたはウクライナに対して軍事的脅威となってはいない。沿ドニエストルにロシア軍部隊は駐留しているがウクライナにとって何か意味があることができるほどの装備・兵力はなく、またロシア本土からの補給も事実上不可能になっている。ロシアとしてはせっかくの支配地域を持ち腐れしている形)

■夜間のミサイル攻撃toキエフ
31→1日の夜、キエフを10発の「イスカンデル」が襲い、全弾撃墜したものの、撃墜片で3人が死亡、うち1人は9歳の子供(УП

■シェルタースキャンダル
その3人はしかし失われずに済んだ命だったかもしれない。昨晩のキエフ空襲では警報が鳴ってから最初の爆発音が鳴るまで6分しかなかった(УП)らしく、その間に人たちは最寄りのシェルターへと急いだわけだが、どうも当てにしていたシェルターが閉まっており、立ち往生しているところへ――時間にして空襲警報発令から4分後に、ミサイルの撃墜片が落ちてきたらしい(死亡した女性の夫が語った、УП)。これを受け外遊先のモルドヴァでゼレンスキー、もしもシェルターが開いていなかったせいで市民が死亡したというのが事実なら「責任は取らせる。決然たる対処をする」(УП)。首都の対応として、まず当該シェルターの管理責任者である役人1人と市民3人が業務上過失致死の疑いで拘束された(УП)ほか、クリチコ市長は「警報が鳴ったら警官を巡回させて市内のシェルターが開いているかどうか確認させる」と発表(УП

■オデッサで銃撃事件
オデッサで1日白昼、市民間で銃撃戦があり、2人が死亡した(УП)。筆者の疑問:どっから銃が。開戦初期に敵侵入に備え市民社会を武装する(警察が有志市民に火器を配布する)動きがあった。その後自主返納が呼びかけられたが、その回収率はいかほど。私は2年半で3回ほど剥き出しの暴力みたいなものとニアミスしたが(ウクライナに2年住んでて怖かった体験3選)、これからはピストルも恐れなければいけないのか?

■バフムート
英Sky Newsが匿名の西側高官の言として伝えたところでは、戦略的に重要でないバフムートという街ひとつ制圧するのに、ロシア軍は少なく見積もって6万人の死傷者を出した(うち3分の1が死亡。УП)。「もう街とは呼べない。灰と廃墟だけが残った。侵略者はバフムートという街を地上から消し去ってしまった」とバフムート市長(それでも行政単位として市は存在し、市長という人がいる。УП)。スィルスキー陸軍司令官「バフムート方面は今静かだがこれはワグネル部隊の撤退に伴う作戦形式の変更が進行しているためで、静穏は一時的なものに過ぎない」УП

【5月あった主なできごと】
・ゼレンスキーの欧州歴訪→サウジアラビア→広島サミット出席
・ロシアがどうやらバフムート制圧を完了し、ワグネルが引き上げを開始
・ルカシェンコ体調不良説
・親ウクライナのロシア人武装勢力がロシア領内へ侵入(→撤退)
・キエフを標的とした連夜のミサイル/ドローン攻撃
・モスクワ周辺へのドローン攻撃
・いよいよ始まるか、大規模反転攻勢?

とはいえ、こうしたことを伝えるのは本分ではない。本記事はリアルタイムで綴るウクライナ戦争「側面史」それも「オデッサを中心に」ということでやっている。
それでいうと、下記の話題などは、わりと面目を果たせたかなと思う。つまり、示唆に富むが、必ずしも日本語でよく紹介されているとはいえない話題を、よく紹介し得ていると思う。

・5月15日付、世論調査「ウクライナ人にとっての『内なる敵』No.1は汚職」。ウクライナ国民は対敵協力者にも増して汚職役人の存在を「脅威」と認識している。折しも三権の長である最高裁長官が収賄容疑で罷免・逮捕されたことが話題となった。
・5月27日付、世論調査「ロシアとの和解は可能か/ロシア国民をどう思う?」。いずれの質問項目でも嫌露と主戦論が主調であることは確認できるが、逆の意見も常にそれなりの厚みを持っている。和平はできても和解は不可能だと考える人、在ロシアまたは在ベラルーシの親類と今も「交流はあるが、戦争や政治に話は避けている」人、いろいろな個人の姿が見えてくる。

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5月31日

■ゼレンスキー、オデッサへ
ゼレンスキーが新任のオデッサ州知事(オレグ・キペル氏)を連れてオデッサに来て軍・治安機関指導部と会合を持ちオデッサ州の現況――具体的には①ロシアの攻撃によって破壊されたインフラの復旧・安定化②戦時体制下における重要企業の再始動③国内避難者のニーズをいかに満たすか④軍人のリハビリテーション、こういったテーマについて話し合った(УПОЖ
※この今、なんでオデッサに。州知事ひとりの着任にわざわざ付き添うだろうか。③④に着目したい。ウクライナ軍の本格反攻が始まり南部が激戦地となった場合にオデッサの重要な役割の一つがヘルソン・ザポロージエで大量に発生する避難民の受け入れ先となることだ。また、開戦1年3か月、モチベーション維持のために兵士たちにも休暇を与えねばならぬ、オデッサには軍立病院があり海辺には軍の保養施設がある。

■新知事の妻は「ロシア人」
新たにオデッサ州知事に着任したオレグ・キペル氏だが、奥方がロシア国籍者であることが問題視されている。夫人がウクライナ国籍のほかロシア国籍を有していることはつとに知られていたが、キペル氏は23年2月に「ロシアのウクライナ侵攻を受け妻はロシア国籍を放棄した」と証言していた。ところが調べてみると、どうも露内務省サイトの「失効パスポート」一覧の中にキペル夫人の名は見当たらず、同人のロシア旅券は現在も有効であるらしい(ОЖ
※二重国籍者に対しては特に2014年以降ロシア国籍の放棄が勧められたが、密かに棚の奥にロシア旅券を蔵っているという人は少なくないと思われる(私の狭い交友範囲の中にもそういう人はいた)。公人でそれが発覚して問題になるケースもままあり、我らがオデッサ市長ゲンナージイ・トルハーノフも指摘されてやっとロシア国籍を放棄した。新知事夫人については、前知事退任からこの2か月の間に候補者の身元の洗い出しが行われていないはずがないのであるが、よほどそれがザルだったのか、本人じゃなきゃ別にいいじゃんという話なのか。

■ロシアへの越境攻撃を西側は許容するか
ロシア本土への攻撃について西側の声明が相次いだ。米国家安全保障会議カービー報道官「米国はロシア本土への攻撃を支持しない、とりわけ米国製兵器を使用してのそれは。ただし(米国に)与えられ今やウクライナの所有となった装備を使って何をするかはウクライナ自身が決めることだ。何を攻撃し何を攻撃しないかについて米国はウクライナに指図をしない」(УП)。ドイツ首相府報道官「ドイツ政府の立場は『国際法はウクライナが自衛目的で侵略国領土を攻撃することは許容される』というものだ。とはいえドイツ政府は、こうした攻撃にドイツ製兵器が使われることには反対する」(УП)。欧州議会議長ロベルタ・メツォラ氏「ウクライナがモスクワをドローン攻撃したというロシアの非難が事実だったとしても、ウクライナに供与された兵器が潜在的にロシア本土への攻撃に使用される可能性があるとしても、ウクライナ支援の必要性は揺るがない。次の事実を忘れるべきでない:ロシアこそがウクライナに侵略したのだ。ある国が他の国の一部領土を強奪した。ロシアがウクライナから引き揚げない限り、我々はウクライナ支援を止めない」(УП

■戦場の理髪師
美容師・理髪師たちがザポロージエの前線付近を訪れて軍人たちのために青空バーバーショップを開いた。

ある軍人「ヘアスタイルは士気に多大な影響を与える。(髪型がキマっていると)全てにおいて自信が持てる。戦場に行くのも怖くなくなる」別の軍人「今や軍人は皆の注目の的であり、模範となっている。だからこそ『最大限カッコよくある』ことが重要なのだ」。前線ではしばしば髪を切り髭を剃ることもままならない。久しぶりにサッパリできて兵士たちも満足、美容師・理髪師も思わぬ形で戦争に貢献できてハッピー(УП
※ウクライナの男性は短髪を非常に好む。若ハゲも多いので、毛髪量の国際比較というものがもしあれば、とりわけ男性部門で日本はウクライナを圧倒しているだろう。

5月30日

■ドローン攻撃toキエフ
29→30日の夜もキエフに自爆ドローン群が飛来した。空軍発表では31機中29機を撃墜(УП)、撃墜片で住宅が損傷し1人が死亡、4人が負傷(УП)。何しろ今敵は①夜間に②キエフへ③大量のミサイルまたは自爆ドローンを送り込んでくる。

■ドローン攻撃toモスクワ
かと思えば30日、30機ほどのドローンがモスクワに飛来、その全部またはほとんどが撃墜され、住宅等に軽微な損傷をもたらした(УП)。下掲は露独立系メディア「ヴョールストカ」作成の地図(Вёрстка)、青丸は住宅に命中した場所、赤丸は爆発/撃墜/墜落があったとされる場所。黒丸はプーチン別邸。

ロシア側は当然「ウクライナ軍によるテロ」と断定、ウクライナ側は関与を否定。ISWの分析によればプーチンは今次の事象を既にロシア側がウクライナ側に対して行っている攻撃に対する報復であると規定し、逆に今次の事象に対して新たにロシアが限りある攻撃力を費消して報復を行わねばらならない責任を回避した。いわば今次の事象を矮小化した/せざるを得なかった(УП

■反攻(形成作戦)
英フィナンシャルタイムズ紙は今月4日のクレムリン上空でのドローン爆破事件・22日のロシア人パルチザン部隊による露ベルゴロド州への侵入・30日のモスクワ周辺へのドローン大量発生を一列に並べ、これは大規模反攻前にモスクワの思わぬ脆弱性・国境防備の手薄さを剔抉して敵司令部の注意を攪乱する、一種の心理作戦である。象徴的あるいは実質的な意義をもつ一連の攻撃によって自軍の本格攻勢に有利な状況・環境を作り出すこうした行動は「形成作戦」と呼ばれる。「敵の戦意はもともと高くない。よき反攻はよき心理攻撃から」とウクライナ政府高官。また米国の専門家「欺瞞は戦争につきものだが今はSNSがその効力を高めている。ウクライナによるグレーゾーンの攻撃によってロシアはリアルな軍事リソースもさることながら手品師よろしく観客の注意を(思わしくない事象から何か別のものへと)向け変えるための情報作戦を行うリソースも費やさざるを得なくなる」(УП

■反攻(本番)
領土奪還に向けた物理的な進軍がどの方面にどのように行われ得るか。5分の動画で高橋さんが超分かりやすく語っているのでこれを見るにしくはない。メリトポリが本丸、だが大部隊で真っすぐ南下しメリトポリ奪取と見せかけてそれより上流または下流から攻め入ることがあり得る。だが南部と見せかけて東部ということは恐らくないであろう、と。

■新オデッサ知事にキエフ市検察長官
オデッサ州軍政当局長官(以下「知事」)職は3月にマルチェンコ前知事が更迭されて以来空位であったが30日の閣議でキエフ市検察長官オレグ・キペル氏のオデッサ州知事就任が決定された(УПОЖ

オレグ・キペル(43)オデッサ州生まれ、長くオデッサ州検察に勤め、大統領府のイェルマーク長官の補佐官を務めたのち、キエフ市検察へ。

■ウクライナ語の強要
よくある話だ。たまにはこういうのも取り上げる。オデッサのとあるコーヒースタンドで男性店員が女性客の求めを無視してロシア語での接客を続け、「オデッサはロシア語の街だ、何語でしゃべったっていいじゃないか、ウクライナは自由な国だろう、違うか?」とのたまい、のちイカツイ系「活動家」氏が当該男性店員を捕まえきて、カメラに向かってウクライナ語でこう言わせた:「すいませんでした、二度と繰り返しません、オデッサはウクライナの街です、オデッサは首尾よくウクライナ語の街へと移行しつつあります、ウクライナに栄光あれ」(ОЖ←記事内に動画)

たしかに2021年に法律で役所・商店等の接客にはウクライナ語を用いることが義務付けられた。この「活動家」もまさか街で聞こえる私的な会話にまでは容喙しないだろう(オデッサ市内の私的会話に占めるロシア語の比率は戦前で9割、今も大半はロシア語と思われる)。にしても、こんなこと言わすなよ。気分が悪い。こういう経験が人をコラボラント(対敵協力者)にしてしまうんだよ。

5月29日

■キエフに大規模ミサイル・ドローン攻撃
28→29日の夜、またしても大規模ミサイル・ドローン攻撃。空軍発表ではミサイル40発中37発、「シャヘド」35機中29機を撃墜した。重要インフラおよび軍事拠点を狙った攻撃で、深刻な被害・死傷者は出ていないという(УП)。首都上空で40以上の目標を撃滅というから標的は主としてキエフか(УП)。キエフに対しては29日午前に第2次(今月通算第16次)のミサイル攻撃があり、弾道・巡行合わせて11発が飛来したが全弾撃ち落とした(УПУП)。参考:キエフ中心部、列をなしてシェルターに避難する途中で爆発音が鳴り響き、叫び声をあげて走り出す子供ら(УП。下記画像クリックでインスタ動画へ)↓

これがウクライナの非ナチ化・非軍事化「特別作戦」とか称してロシアがやっていること。首都上空で夜間に40白昼11の撃墜が行われたということは一昼夜に51回の爆発音をこの子らは聞いたということだ。私らは、この子らのために、想像・共感・怒りを絶やすな。一方で、この動画の撮影者が撮影しながら朝のコーヒーを飲み続けたらしいこと、子供らの叫喚と狂奔を眺めながら笑い声を漏らしていること、も一応認識しておけ。

■ミサイルを写すな・公開するな・拡散するな
撃墜率100%というキエフの対空防衛チームの華々しい成果に舞い上がったか同市のクリチコ市長が撃墜したミサイルの写真をSNSに公開し、それがウクライナ大統領府の批判を浴びることになった。ポドリャク大統領顧問「他人の命を犠牲にしてまでバズりたいのか?全面戦争15か月めにして未だに州・市行政当局者一人一人に『防空装備の仕事ぶり・ミサイルの着弾地・攻撃の標的について写真を撮ったり情報公開してはいけません』と説明して回らなければならないのか?」「戦時とはいえ国家は表現の自由を規制せず、検閲も行っていない。だが公人がその職権上(ex officio)知り得た重大な情報を拡散するなど犯罪に等しい過失である」。またイェルマーク大統領府長官「閲覧数稼ぎたさに防空装備の仕事ぶりを写真や動画で伝える無責任な人たちの存在に驚いている」(УП)。ミサイルの撃墜片の写真などをみだりに公開してはいけないわけは、そうした写真によってロシアはウクライナ側がどの種類の地対空兵器をどのあたりに展開しているかを判別・推測することができるからだとイグナート空軍報道官(УП)。むろん私人に対してもこうしたことは厳しく戒められていて、警察は今回の攻撃の際に防空兵器を撮影していた若い男性2人を拘束、またそうした情報を拡散した人6人の身元を確認した。「沈黙こそは後衛の大事な務め」(УП

■(反攻の)「期限」が切られた
ゼレンスキーによれば、29日の最高司令部会合で、進軍の期限に関して決定が下った(приняты решения о сроках движения войск)。いわく、①全体また各方面の戦況について②新たな攻撃部隊の加入や高速補給の確保について③ミサイル・地対空兵器の追加供給契約や最近の対空防衛・与えた損失の分析・評価、これら重大問題について報告を受け、重大な決定が下された。最重要なのは期限であり、期限には責任が伴うということだ。期限。それこそが最大限に重要なこと。なんの期限か。我々が動きだす期限だ。動くぞ。決定は下された(УП

■ウクライナの戦勝記念日は「5月8日」で決定
ウクライナ最高会議の採決で5月8日をウクライナにおける「ナチズムに対する戦勝および哀悼の日」とし、公休日とすることが決まった。5月9日に対独戦勝記念日を祝うソ連・ロシアからの決別と、もともと5月8日を終戦記念日としている西側への仲間入り(УП

■ウクライナの人口変動
戦争で人口の大量流出が起き青壮年男性の多数が戦場で死亡しているウクライナの人口動態は今どうなってる・今後どうなるか、人口統計学社会研究所のリバノワ所長へのインタビュー記事がУПに(縮約版→УП)。それによると、女性一人当たりの出生数は2021年で1.2人であったところ、2022年は0.9人に減った。2023年はさらに壊滅的なレベル(おそらく0.7人水準)まで出生数が減少する見込み。戦前の死亡率の水準に照らすと、ウクライナの世代再生産(人口維持)のためには女性一人当たり2.15人の出生が必要で、ただでさえ人口は減少傾向にあった。戦後はちょっとしたベビーブームが起きるだろうが、それでも女性一人当たり1.5人、よくて1.6人の水準だろう。
※私が知ってるウクライナ避難民30人ほどの中に単身日本にやってきた若い未婚女性は3人いるがいずれも日本人のカレシを見つけている。われらがジョニーは相変わらずあぶれてるが。恋(発情)するは人の性、「ウクライナ人との混血」が世界的に増大する。もう一つの人口動態。

5月28日

■大規模ドローン攻撃
またしても夜間にドローン攻撃、ただし今回は空前の規模で。だがウクライナの対空防衛網もさるもの、ウクライナ軍参謀本部によれば飛来した「シャヘド」59機中、実に58機を撃墜(УП)。主たる標的は首都キエフ、5時間にわたる防空警報と爆発音・振動でキエフ市民は眠れぬ夜を過ごしたそうだ(УП)。幸いキエフを襲った40機あまりのドローンは全て撃墜に成功(УП)、ただし撃墜片で一人が死亡したほか、住宅や民生インフラに被害が出た(УП)。折しも28日はキエフの創建記念日で、駐ウEU大使は「倒錯的な祝砲」と今次の攻撃を評している(УП

■ドニェプル、死者4人に
26日朝の凶弾で破壊されたドニェプル(ドニプロ)市の病院で捜索・救助活動の結果、不明であった3人の死亡が確認され、死者数は都合4人となった(УП

■オデッサ市に集中豪雨
局所的な大雨でオデッサ旧市街が冠水し目抜き通りのデリバーソフスカヤが「川」になった(ОЖ)。リンク先に動画多数。
オデッサは降水量というよりは街・道路の排水がなってないのが原因でしばしば道路が川になる。

■平和な感じのオデッサ
オデッサ旧市街のドイツ教会(通称キルハ)でサマーマーケットが始まった。グリルした肉や野菜の量り売りとか、あと花とか甘いものとか子供向けのちょっとしたワークショップとか。平和な感じ(ОЖ

■レーベジェフ「オデッサはロシアの街」
アルテーミイ・レーベジェフがインタビューで述べた:オデッサは絶対的にロシアの街である。その創始者はエカテリーナ(女帝)であり、ウクライナ人がそこにいたことはなかった。だがオデッサの人たちはいろいろ吹聴されて狂わされ、人工的な理念のために殺人をもいとわなくなっている(ОЖ
本ブログにも何度か登場してるがレーベジェフ属性①ヤンデックスのロゴやモスクワメトロ路線図をデザインした有力デザイン事務所を率いるデザイナーかつ人気YouTuber……だったが今見たら登録者1230人?一度BANされて4月に再開したくさいが再生回数ふるわない。そうかそうか。②ハート(❤)と錨(⚓)を組み合わせたオデッサのシンボルマークの考案者③プーチンロシアとその戦争を礼賛するプロパガンディスト、明らかな戦犯④作家タチヤーナ・トルスタヤの子、作家アレクセイ・トルストイの曾孫

5月27日

■反転攻勢について
ダニーロフ安全保障会議書記が「ウクライナ軍の領土奪還作戦は既に始まっている」説を否定した。一方で「ウクライナ軍は攻撃の準備ができている」とも。「それは明日かも知れないし明後日かも知れないし、一週間後のことかもしれない。ある事象がいつどの日に始まるかを私が言うのはおかしいだろう。我々は国家に対し非常に責任重大な任務を帯びている。過ちは許されない」(УП)。一方ザルージヌィ総司令官は反攻に向けて士気を鼓舞する動画をSNS上で発表、「自分のものを取り返すときが来た」と記した(УП)。いよいよ、の感。

■脳漿が完全に蒸発してしまっている人の空言
全く取るに足りない話だがたまには取り上げておく。露外務省のガルージン副大臣がタスのインタビューで語った:包括的・公正・堅固な和平の達成のためにウクライナは1990年の国家主権宣言に規定された中立・ブロック外の地位に復帰しNATOおよびEUへの加盟を放棄すべきだ。民族自決権の結果として形成された新たな領土的現実を認めるべきだ。非ナチ化・非脱軍事化。ウクライナ軍が軍事行動を停止するという条件下でのみ正常化は可能となる。これに対しウクライナ大統領府長官イェルマーク「わが領土にロシア軍がいる限りロシアと交渉の余地はない」УП

★世論調査:ウクライナ国民の6~7割が「全土解放まで戦う」「ロシアとの和解は次世代まで不可能」「ロシア人はほぼ全員嫌い」
ラズムコフセンターが4月末~5月頭にかけて行った調査(УП

問い:ロシアとの直接和平交渉を支持するか
回答:支持しない・・63.9%
   支持する・・・23.1%

問い:1991年の国境でなく2022年2月24日時点の境界線(つまりクリミアとドンバスがロシアに奪われた状態)への復帰が和平の条件となった場合にこれを支持するか
回答:支持しない・・66.8%
   支持する・・・17.2%

問い:ロシアとの和解は可能か
回答:不可能。決して・・36.3%
   不可能。現世代の存命中は・・32.2%
   可能。ただし戦争犯罪への裁きと賠償の支払いが終わった暁にのみ・・11.9%
   可能。ただしロシアが改悛した暁にのみ・・5.6%
   可能。軍事行動が終結すればすぐにでも・・4.1%

問い:ロシア国民をどう思う
回答:ロシア国民全員が嫌い・・34.6%
   ロシア国民全員が嫌い、ただし戦争や露政権に積極的に反対している人を除く・・26.1%
   ウクライナに対するロシアの侵略を支持するロシア国民が嫌い・・23.3%
   プーチンその他ロシア国家指導部のみ嫌い・・9.2%
   ロシア国民全員が例外なく好き・・1.9%

問い:ロシアまたはベラルーシにいる親類との関係は大規模侵攻以後どう変化したか
回答:ロシアにもベラルーシにも親類はいない・・53.4%
   口論し、交流が途絶した・・19.6%
   交流はあるが、戦争や政治に話は避けている・・13.8%
   親類はウクライナ側であり、立場を同じくしていえる・・7.1%
   親類はロシアとベラルーシの行為を支持しており自分も彼らの立場に近い、関係に問題はない・・1.2%

5月26日

■ミサイル・ドローン攻撃
25日夜~26日早朝にかけてミサイル17発とカミカゼドローン31機がウクライナを襲い、うち10発・23機のみ撃墜に成功(ウクライナ空軍、УП)。被害が深刻なのは中東部の都市ドニェプル(ドニプロ)で、夜間~昼にかけてのミサイル攻撃で複数の医療機関が被弾、2人死亡・30人負傷(УПУП)。病院への攻撃は明白な国際人道法違反。

■米「ロシア本土への攻撃は支持しない」
米大統領府はロシア本土への攻撃を支持しない旨ウクライナ側に伝えた、と米国家安全保障会議のカービー報道官。「我々は米国製のいかなる装備がロシア本土攻撃に用いられることも望まない」「こうした希望を尊重する旨、ウクライナ側から言質を得た」「(とはいえ)攻撃を受け、侵略にさらされているのはウクライナの方であり、彼らには自衛の権利があるのであって、ウクライナが自らの領土を防衛できることを我々は望んでいる、という立場も明確に伝えた」(УП

■名前の話①「グルジア」か「ジョージア」か(はたまた)
ウクライナはグルジアという国をその正式かつ歴史的名称である「サカルトヴェロ」の名で呼ぼうではないかという話がウクライナ最高会議で出ている。グルジア政府が「グルジア」というロシア的呼称の廃止を国際社会に呼びかけて早や15年、リトアニア、イスラエル、韓国、日本といった国がこれに従ったが、旧ソ連諸国を中心とした20か国が今も「グルジア」で通している。ところで、上記改称国のうち、2021年より「サカルトヴェロ」呼称をとっているリトアニア以外の国は、かの国を「ジョージア」と呼んでいる。しかし「ジョージア」は帝国主義的呼称である「グルジア」の単なる翻訳に過ぎない。ウ・グ二国間関係のさらなる深化のために、我々も「サカルトヴェロ」の呼称をとってはどうか(УП
※筆者(何丘)は世の風潮に逆らって長らくグルジア呼びを通してきた。理由は上に述べられている。まるこ呼びは屈辱だからまるおと呼んでくれませんかと言われたってクラスに丸尾は他に存在しているしそもそもお前の本当の名はももこじゃねえかというわけである。だがウクライナが本当にサカルトヴェロ呼びを始めたら、僕も考えないといけなくなる。かも。ももこがももこと呼んでほしいというならももこと呼ぶのにやぶさかではな……い。が、「ももこ(まるこ)」と併記する形にはどうしたってなるだろう。

■名前の話②オデッサについに「ヨコハマ通り」出現か
この種の話をするときつい言い落とすのだが大前提、欧州(含むウクライナ、ロシア)は原則的に横丁一本に至るまで全ての道に名前がついている。で、2014年以降とりわけ今次の全面戦争始まってから、道路名称の中でソ連・ロシアにちなむものをウクライナ・欧州にちなむものに改称する動きが全国的に加速していて、オデッサもその例外ではない。レーニン通りとかモスクワ広場みたいな明らかなやつはとっくに一掃されて、今はより地味なやつがしらみつぶしにされてる感じ。さて本題:オデッサ市ペレスィプ(旧スヴォーロフ)地区のボチャロフ通りをヨコハマ通りに改称しようという話が市議会で出ている。まだ決定ではない。現行のボチャロフ通りはソ連軍人レオニード・ボチャロフ(1909-1964、1941年の対独オデッサ防衛戦における沿海軍政治部長官)の名にちなむ。ボチャロフ通りはオデッサで最も人口密度が高いエリア(わが義父母もそこに住む)の幹線道路の一つで、これがヨコハマ通りになるインパクトは大きい。付近にマルセリスカヤ通りがあり、これは横浜同様オデッサの姉妹都市である仏マルセイユにちなむが、これと同様、ヨコハマ通りは横浜がオデッサの姉妹都市であることを住民に思い出し続ける役割を果たすだろう。横浜市がロビー活動をがんばったのかどうか知らんが、うまくいくといいよな(ОЖ

■名前の話③「プーシキン通り」廃止?
同じ流れでオデッサ中心部のプーシキン通りの名を廃してはという話も出ている。地元著名ジャーナリストの何某がフェイスブックに「プーシキンは<ロシア世界>の代表格だ。というとあなた方は反論するだろう、『でも彼はいい詩を書いたじゃないか』と。だがその詩、その創作、その人物像そのものがウクライナに対する武器なのだ。文化的な意味でオデッサのプーシキンはセヴァストーポリにおけるロシア黒海艦隊と同じだ」とか書いた。これに対し歴史家の何某が「プーシキンが書いたのは反帝国・欧州都市としてのオデッサへの讃歌であり、露助どもが自らの犯罪行為の片棒をプーシキンに担がせたからといってオデッサの文化や歴史に対する詩人の態度までを帳消しにすることはない」と反論、そこに市民らが参加してコメント欄が湧いたという話(ОЖ
※平然とロシア語を話し平然とロシア文学を愛することこそが<ロシア世界>という帝国主義的イデオロギーを真に超克するみちであろうとかねて考えている→何丘マニフェスト

■切手
ウクライナ国営郵便が6月1日の「国際子どもの日」に向けて新たな記念切手を発行する。「戦勝チルドレン、ウクライナの未来を描く」と題されている。

「未来」をテーマに子供たちが描いた絵が使われている。平和な空の一日も早い回復をという願い、そして、この子たちから平和の空を奪う者たちへの怒りを新たにする。УП

5月25日

■シャヘド36機襲来、全機撃滅
25日未明、ウクライナを36機のイラン製カミカゼドローンが襲ったが、全てを撃墜した。悲願の「撃墜率100%」を大統領も空軍も喜んでいる(УП)。装備の充実と練度の向上のたまものであろう。

■ポドリャク「反転攻勢は数日前に始まっている」
ポドリャク大統領顧問によれば、ウクライナの反転攻勢はある日ある瞬間に赤いテープを切って始まるものではなく、それは実はもう数日前に始まっている。反攻の内実は「様々な方面における露占領軍の殲滅に関する様々な行動」であり「敵の補給路の集中的な破壊」であって、それは昨日も行われたし今日も行われるし、明日も行われるであろう、と(УП)。ただしУПの戦場特派員の観察では、現在のところウクライナの大規模反攻が始まる兆候は見られない。ウ軍はバフムート近郊でピンポイントな進軍を成功させているがその他の方面――ハリコフからヘルソンに至る――で特に前線は動いていない。

■ワグネル軍撤退開始か
プリゴジンによればワグネル軍は25日にバフムートからの撤退・露正規軍への拠点の明け渡しを開始した。このプロセスは6月1日まで続くという(УП

■不法出国者は処罰される?
クリメンコ内相によれば、戦時体制下でウクライナから不法に出国した男性は処罰される。「戦争終結の際に国家は国民一人一人に対し、自分が戦争のときに何をしていたのかを思い出させる。不法に越境した者のことを言っている。おそらく法律ができるだろう。内閣と議会の共同イニシアチブで事が行われるだろう」。逆に現時点では不法に出国してのちウクライナに帰還した者に対して特段の罰則は規定されていないという。内相発言をひとしきり引用したあとにУП記事はただ一行「参照:ウクライナ憲法58条によればある行為が行われた時点で法律によって違法と認められていない行為に対しては何者も責任を負わない」(УП)。あまりにも正しい。内相大丈夫か。

■ウクライナ国内観光の現状
オデッサのビーチが観光シーズンのオープンに向けて着々準備を進めていることが全国メディアでも連日報じられていて注目度の高さが伺えるが戦時下のウクライナの国内観光はどうなっているか。夏の行楽シーズンを前に観光推進庁が勧告・禁止事項一覧を発表した(УП
【勧告】
・旅行先/移動経路上の防空壕の場所を確認しておくこと
・各州の外出禁止時間を確認しておくこと
【禁止事項】
・重要インフラ/軍事/戦略施設周辺の観光
・ベラルーシ/ロシア国境周辺の観光
・前線付近、被占領地の観光
このほか、州によって森林/緑地/貯水池への立ち入りが禁止されていたり(たとえばキエフ市/キエフ州)、あるいは容認されていたり(たとえばリヴォフ州)する。何しろ州ごとの取り決めを守って安全に旅を楽しんでくださいということ。※日本人のウクライナ渡航はNG。日本外務省の区分でウクライナは依然として全土で危険度レベル4(最強)

■ウクライナの図書事情
ウクライナには現在130軒の書店があり、1万2000ある公立図書館のうち正常に開館しているのは3-4000だという(文化省ウクライナ図書研究所、УП)。戦前は全国に200の書店があり、人口20万人あたり1軒本屋がある計算(対して欧州平均は2万人に1軒)であった。もともと少ないのがもっと少なくなった形。図書館については戦争で500館ほどが破壊・損傷・解体された由。また図書館の蔵書の52%が1991年以前に発行されたもので、新刊の購入費の拠出は停止しているという。ウクライナでは新刊の刊行点数自体が2021~22年で激減している。

【ウクライナの図書事情について乏しい見聞】
日本の本屋も随分減ったがそれでもウクライナ全国に書店が200軒しかなかった(そして今130軒しかない)というのは驚く。オデッサ中心部にはぱっと思い出せる限りで4軒本屋があった(デリバーソフスカヤに1軒、その脇道(ガンブリヌス斜向い)に1軒、リシェリエフスカヤに1軒、TZ「アテネ」内に1軒)。だがそれはオデッサが大都市だからで、農村部はひどいものだと思う。義父母のダーチャのあるオデッサ北郊の某村は周辺10集落のハブ村(土曜市が開かれる)だが書店も図書館も皆無であった。
常設でない露天の図書販売スタンドみたいなのが各所にあって、これは上記の数には入ってないと思う。あと、うちはロシア語でしかものを読まない家庭で、ロシア語図書はふつうの本屋にはあまり置いてないので(ロシア語図書の棚占有率の上限が法令で定められている)、大体オンラインで注文して買っていた。こうしたことも可能なので、ウクライナが特別、図書にアクセスしにくい環境であるとも思わない。ただし、これらは戦前の話。
図書館については、オデッサ市内は図書館もわりに多かったように思う。私らは2年半で市内4か所に住んだがいずれの住まいも徒歩5分以内に図書館があった。ただ、日本の図書館ほど市民に開かれた存在(使いやすい存在)ではないと思う。私らは使ったことがないし、使っているという人の話を聞いたこともない。よく知らない。
ウクライナの国民性として、特別、本をよく読む人たちだなという印象を持ったことはない。2012年にモスクワ住み始めたときは地下鉄とか乗っててそこそこ読んでる人多いなと思ったが、時代もかわったし(今は皆スマホ)、よくわからない。

ウクライナがこんなに行けない国になり、戦争前のウクライナを知ってる人間のヴォイスがこんなに貴重になると知っていたなら、もっと研究的によく見ておいたのに、とつくづく思う。こうなったら大事なのは、人が知る由もないことに乗じてウソいつわりを述べないよう、重々自制をきかせることだ。そのうえで、確実に自分が知ってること(あるいは自分が現地で抱いた印象)については、出し惜しみなく語っていく。

5月24日

■ベルゴロドどうなってる
反プーチンロシア人武装勢力「ロシア志願兵部隊(РДК)」「ロシア自由軍(ЛСР)」がハリコフ郊外でウ露国境を露側へ越え出て露ベルゴロド州の一部村落を占拠した件(22日)、露側によれば、23日時点で速やかに越境部隊の鎮圧に成功し同日中に「対テロ作戦」は終結、安全保障会議の緊急会合も開かれなかった。ISW(米戦争研究所)も上記親ウ武装勢力がウクライナ国境まで追いやられたとの見方を示している(УП)。当のРДКおよびЛСРは記者らに対し、自陣に合計十数名の死傷者が出ているとしながらも、露ベルゴロド州において「軍事的・政治的目的を達した」と話している。「我々のロシア領内への侵入がより強力に行われれば行われるほど、彼ら(ロシア軍)が対抗手段を講ずるのにかかる時間は増大する。戦車を大量に運び込むまで彼らはほとんど全く我々に対抗できなかった。今回全領域を支配し十全に管理できなかったのはただ我々の側に十分な力がなかっただけだ。今回のことは我々にとって、単なる力試しに過ぎない」(УП

■語録①プリゴジン「ロシアのウクライナ侵攻には大義がない/ウクライナ軍は世界最強クラス」
骨子:「特別作戦」の名目はウクライナの非ナチ化と非軍事化だったはずだ。だが、まず前者について、我々はむしろウクライナを世界に冠たる民族に押し上げてしまった。ウクライナは今や世界の誰もが知る国だ。あたかも古代ギリシャ全盛時のギリシャ人を見ているかのよう。我々はウクライナを合法化(легитимизировать)してしまったのだ。次に「非軍事化」についてだが、開戦前500両だった戦車は今や5000両。開戦前2万人だった軍人は今や20万人。とんだ「非軍事化」だ。いま世界最強の軍隊はわが「ワグネル」であり、それに続くものとしてロシアの名を挙げたいところではあるが……ウクライナ軍は世界最強の軍隊の一つである。高い組織力、練度、装備、諜報能力。ソ連式の装備もNATO式の装備も同じように使いこなす。崇高な目的を達成するために犠牲を覚悟の上で戦う点では第二次大戦時の我々と同じだが、よりハイテクに、より正確に事を行っている。翻ってわがロシア軍は、大統領が「弾薬はある」と言ったのに、ショイグ(国防相)とゲラシモフ(総司令官)がワグネルへの弾薬の供給を阻止した。この二人を更迭して正常な状態にする必要がある。自分の政治信条を端的にいうとこうだ:祖国を愛する、プーチンには従う、ショイグは失せろ、戦闘は続ける。(というようなことをだいぶ粗野な口調で述べた、УП

■語録③ゼレンスキー、シャヘドをロシアに供与しないようイラン国民に呼びかけ
骨子:どうして皆さんはロシアのテロルの片棒を担ぐのか?どうして悪の国家の側に立つのか?世界が目にしている、皆さん自身も目撃している、イランが悪を支持していることは否定しようがない。なるほどカミカゼドローンの撃墜率は上がっているが、それでも撃ち漏らし、犠牲を産むことがないではない。イラン製ドローンがウクライナの妊婦を殺害する、夫やその住む家とともに。イランのお母さんお父さんたちよ、こんなことに何の意味がある?皆さんの作った「シャヘド」がウクライナ人学生たちの住む寮を襲った、人たちが死んだ、火の手が上がった、現場に救助隊が駆けつける、そこへ「シャヘド」の第2波がくる、今度は他の命を救いに来た人たちの命が奪われる……。これほど酷薄な殺人が、イランにどうして必要なのか。なるほどロシアの手によるものだ。だがあなたがたの作った武器なのだ。侵略を支援することであなたがたが出るものは、国際社会でのさらなる孤立だけ。皆さんの「シャヘド」が連夜ウクライナにテロルを行う、そのことでイランの人たちはますます深く、歴史の暗黒面に嵌りこんでいく。だが、あなたがたはまるで違うふうに生きることもできる。イランの人たちは歴史の光の側にいるべきなのだ(УП

■オデッサのビーチが海水浴シーズンに向けて準備を整えつつある
オデッサらへんを管轄してる軍事行政庁から夏期のビーチのオープンに向けてこれこれの条件を整えよとの命令が発出された。それに基づき一連の安全上の措置が講じられ、うまくいけばオデッサ市のプリモルスキー・キエフスキー両地区の全ビーチ(ランジェロンから16-ая станция Большого Фонтанаまで)がオープンする。これはすごいことだ。実際にビーチをオープンさせるかどうかは6月5日以降に決定が下る由(УП

5月23日

■バフムートどうなってる
バフムート市の全部または大部分をロシアが支配しているのは確かで、現在はその周辺でウクライナ軍の反攻含む戦闘が行われている(米国防総省ISW)。プリゴジンはワグネル軍のバフムートからの撤退を予告しまた希望しているが現在のところ配置換えの動きは見られずむしろ人員が増大している(ウクライナ軍

↓NYTによるバフムート空撮

原爆資料館に展示の写真と今日の広島を見比べて「あの惨状からここまで復興した」ということに希望を見出していたゼレンスキー。once destroyed cityとして語られる日を手繰り寄せなければならない。

■ロシアの侵攻による被害目録が8月始動する
ウクライナ法務省によれば、ロシアの侵略によってウクライナにもたらされた損害の国際的な目録が今年8月から始動する。十分な証拠とともに提出された被害届を登録していき、のち設置される賠償委員会の決定に基づき損失に見合った補償を得る(УП

■反転攻勢
プリゴジンは次のように公言している:ワグネル軍は224日間にわたり攻勢をかけ続けたバフムートをついに完全掌握したことにつき、5月25日まで様子を見た後、同市を露正規軍に明け渡す形で撤退し、「6月1日から少なくとも2か月間、ワグネル軍はウクライナの全前線からいなくなる」。まさにその間にウクライナの反転攻勢が行われるのではないか、とISW(УП)。ウクライナ国防省情報総局のブダーノフ長官はNHKの取材に「必要最低限の武器はもうある。(反攻は)間もなく始まるだろう」と述べている(УП

5月22日

■ベルゴロド
この戦争をウクライナ側で戦うロシア人義勇兵らがウクライナに隣接するロシア・ベルゴロド州の村落複数を掌握したらしい。ロシア志願兵部隊(Русский добровольческий корпус)と自由ロシア軍(легион “Свобода России”)の2団体が声明を出している(УП)。このことはプーチン大統領にも報告され(ペスコフ、УП)、同州では「対テロ作戦体制」が敷かれた(УП)。州内の核弾頭が保管庫から運び出されたとの報も(ウクライナ諜報機関、УП)。ウクライナ側は「本事象とは直接的な関係はない」として関与を否定(ポドリャク、УП

↓ハリコフの右上の埼玉県みたいな形の領域がベルゴロド州

↓赤ピンの辺りの2村落(КозинкаおよびГора-Подол)が反プーチン武装勢力に占拠されている由

■オデッサのビーチを機雷から守れ
オデッサが海水浴シーズンの到来に向けて準備を進めている。今年の夏は漂着機雷への備えが十分であることを条件の一つにビーチのオープンが許容される見通し。そこで突堤と突堤を二重のネットで結んで機雷が岸まで漂い来ないようにする。ほか、ブイを浮かべてその内側で遊ぶように注意したりとか、ビーチの営業時間を7時から21時までに限るなど、色々策を講じるようだ(ОЖ

■ピンクフラミンゴが群来
オデッサ州南西部の国立自然公園「トゥズロフスキー潟湖群」にピンクフラミンゴが500羽ほど飛来して営巣を始めた。数年前にヘルソン州に飛来して営巣したことはあったがオデッサ州に来るのは初。だが人里に近すぎ野次馬が見に来て騒いだりシャッター切ったり平穏を乱すのと、あと人里あるところ必ず存在する野犬が彼らの生存を脅かすのとで、あまりフラミンゴにとってはいい環境ではないかもしれないとのこと(ОЖ

5月21日

■バフムート陥落?
20日晩に露国防省とワグネルが相次いでバフムート制圧を宣言、プーチンが軍およびワグネルに祝意を表した(УП)。ISW:たとえこれが事実だったとしても疲弊した露軍・ワグネル軍がここに橋頭保を築いてさらなる進軍を行うことは不可能であり、市制圧の意義は純粋に象徴的なものにとどまる(УП)。21日昼の時点でゼレンスキー@広島は「現時点でバフムートはロシアによって完全に掌握されてはいない」としていた(УП

■ゼレンスキー帰途に就く
ゼレンスキーの21日の国民向けビデオメッセージは帰りの飛行機の中で:「非常に困難かつ非常に大事な一週間――金曜はアラブ連盟、土日はG7+ウクライナ+グローバルサウス――を終えて帰るところ。安全保障、領土奪還、国民奪還、正義、『平和の公式』の実現……すべての本質事項について世界の多数派と相互理解が得られている」УП

■オデッサのレフ・トルストイ像撤去
オデッサ中心部にレフ・トルストイ広場がありそこにレフ・トルストイ像が立っているのだが、これが撤去されるらしい。例の脱露脱ソ景観クリーンアップキャンペーンの一環。トルストイは若き日にクリミア戦争従軍で一度オデッサを訪れている(1854)がほぼ通過しただけっぽい(ОЖ

5月20日

ゼレンスキーが今わが日本にいる。と思うと不思議な感動がある。自分がそのために長らくこれほど胸を痛めているもの、まぁウクライナとそれを呼ぼうか、の象徴が、私のいるここから地続きの場所に今いる。おかしな話だ、地続きな場所にはかつていた。オデッサからキエフの方が西東京から広島までよりよほど距離が近かった(前者400km、後者650km)。だがオデッサにいたとき自分にとってゼレンスキーなど何でもなかった。

本人テレグラムのタイムラインを見ても「誰と会った・何を話した」しか書かれていない。日本に来たというより、G7サミットが行われている場所に・各国首脳のいる場所に来たのだ。カーキ色の服を脱いで(一度脱いだらもう一生着ないだろう)いつかまた来てほしい。

5月19日

きょうの一枚。

突然やってきた緑ずくめの男たち(Зел. человечки)

■ゼレンスキー、東へ
19日午前の時点ではG7広島サミットへのゼレンスキーの参加はオンラインであると言わていたが(ダニーロフ安全保障会議書記、УП)昼過ぎには「ゼレンスキーがサウジアラビア入りした」との報(УП)。ゼ氏はアラブ連盟サミットに参加して「ロシアの影響に屈せずウクライナ支援を」と呼び掛け(УПУП)、どうやらその足で日本に飛んだ。夕刻になってイェルマーク・ウ大統領府長官がようやく「ゼレンスキーはG7広島サミットに対面参加する」とアナウンスした(УП)。相変わらずの神出鬼没ぶり。

■ロシアの現在のミサイル生産能力は月67発
ウクライナ国防省情報総局によれば、ロシアは保有ミサイルの大部分を費消したが、国際的な制裁にもかかわらずミサイル生産体制は維持できており、たとえば最近のキエフ攻撃に用いられている超速弾道弾「キンジャル」なら月2発、オデッサ攻撃によく用いられる巡航弾「カリブル」なら月25発、その他合計67発を毎月生産する能力を有している。先日撃墜したミサイルの残骸を分析したところ、そのミサイルが2023年第1四半期に製造されたものだと分かった。ロシアはコンベアーから下ろすなりその武器をウクライナに向けて発射している(УП

■オデッサにビーチシーズンは訪れ……るかも?
オデッサ市当局が軍から「ビーチシーズンを安全に送るためのガイダンス」を受け取った。去年は「戦勝の日までバカンスシーズンなどあり得ない」の一点張りで、昨日は「キエフに今年ビーチシーズンは訪れません」と宣言があったばかりだが、比較的攻撃が間遠なオデッサで、今年はビーチ利用の一部緩和が望めそうだ。条件がいくつかあり、まず人が大勢集まり過ぎないようにすること(入場制限?効く?)それから機雷・ミサイル攻撃から身を守るための安全地帯およびシェルターを設置すること(どこに?どうやって?)(ОЖ

5月18日

■ミサイル攻撃、ほぼ全弾撃墜もオデッサで死者
連夜の空爆。17日晩~18日早朝にかけて数次にわたりミサイル攻撃。使用された巡航ミサイル30発のうち29発が撃墜に成功(ウクライナ空軍発表、УП)。オデッサ上空では8発を撃墜したが撃墜片が工場に落ちて1人死亡・2人負傷(УПУП

■キエフにビーチシーズンは訪れない
キエフ市民の夏の楽しみ、ドニエプル川での水浴・日光浴が、今年は禁止。ビーチにはシェルターがないため敵の攻撃があった際に安全を保証できないから、という。УП

5月17日

■オデッサにミサイル攻撃
17日晩、オデッサにミサイルが飛来した。詳細不明。晩の10時に市上空で爆発、市域隈なく爆発音が聞かれたという(ОЖ

■キンジャルとパトリオット
露国防省によれば16日未明のキエフ攻撃で超音速ミサイル「キンジャル」により「パトリオット」を一挙5基「完全に破壊」することに成功したそうだ(УП)。ウクライナ側によれば話は全く逆で、攻撃に使用されたキンジャル6発全部がパトリオットによって撃墜されたのである。米国防総省筋の情報としてAFPが伝えたところでは、パトリオットが1基損傷したのは事実だが、動作可能な状態は保っている(УП)。また英国防省のインテリジェンスレポートによれば、ロシアがウクライナでキンジャル数発を失ったのは事実であると見られ、このことは、キンジャルは「迎撃不能」だと考えていたロシアにとっては悪いサプライズであり、困惑のタネとなっている(УП

■ロシアは大規模ミサイル攻撃によってウクライナの反転攻勢の遅延を図っている?
CNNが米政権内の消息筋の情報として伝えたところでは、ロシアは通常より多くの弾薬を用いてより大規模な空爆を同時多発的に行い、ウクライナにとっては待望の反転攻勢の開始を強制的に遅らせようと努めている。だがウクライナは西側供与の多層的な防空防衛網によりミサイルや無人機の大部分を迎撃できており、むしろロシアの大規模攻撃は、弾数に限りのある高精度ミサイルをロシアが消尽するという意味で、ウクライナを利する可能性すらある(УП

5月16日

■キエフに大規模ミサイル攻撃→全弾撃墜
16日未明、北東南の三方から各種ミサイル計18発とイラン製自爆ドローンがウクライナを襲ったが、全て撃ち落とした。かつてウクライナ軍自身が迎撃不可能と認めていた超速ミサイル「キンジャル」も6発含まれていたが、これも全て撃墜した(УП)。ウクライナが異次元の防空能力を獲得しつつある。その中核を担う米供与の「パトリオット」だが、ロシア側は「破壊した」と主張、米側は「現在のところ確認ない」(УПУП)。なおУПによれば、今次の攻撃にかかった費用は1億2000万ドル(≒163億円)。使用された攻撃手段を「キンジャルは一発1000万ドルだから6発で6000万、カリブルは650万ドルで今回9発使用されたから5850万ドル……」という具合に足し合わせる。大規模攻撃があるたびにこんな計算をしてみせて、ロシアのカネが全く無意味なことに空費されていると分かりやすく示して読者を喜ばす(УП

■プリゴジン①ISWレポート
ISWレポートによれば、プリゴジンとウクライナ諜報機関の接触を国家に対する反逆であると非難する声も露政権内にはあるが、プリゴジンを追放することは現実的でない。理由は①バフムート方面でワグネル軍に頼るところ大である情勢(ワグネル軍を失えばバフムート攻略・防衛が瓦解する)②プリゴジンは政府内にいかなる役職も持っておらずワグネルは民間企業であり、プリゴジンをワグネル指導者の地位から追いやることは容易ではない③プリゴジンを追放してワグネル兵らが軍の直接指揮下に入れば、非合法の存在である傭兵らと軍・国防省・最高指揮官プーチンとの関係性の説明に窮する④プリゴジンは露国防省と対立関係にあるもののプーチンに対しては今のところ忠誠を保っている(УП
②には説得力を感じない。ワグネルは違法行為の総合商社なのでプリゴジンを逮捕する理由などいくらでもある。結局のところプリゴジンがこれほどあからさまな国防省侮辱あまつさえ敵諜報機関との接触にもかかわらずぶりっぶりに命脈を保っていられるのは、ひとえにウクライナ侵略戦争とりわけバフムート攻略においてワグネルが必要不可欠だからだ。裏を返せば、もしワグネルがバフムートから撤退すれば、プリゴジンの生命は危うい。⑴バフムートにとどまればワグネル兵らはミンチになるがプリゴジンは安泰である⑵バフムートから撤退すればワグネル兵らは生還の期待が高まるがプリゴジンは危殆に瀕する。であれば選択されるのは当然⑴であろう。

■プリゴジン②ブダーノフ評
ウクライナ諜報機関トップのキリル・ブダーノフによれば、プリゴジンの発言の80%は真実である。たとえばプリゴジンがショイグ露国防相やゲラシモフ露軍総司令官を批判するときそれはいわゆるIPSO(情報心理特別作戦)ではなく赤心から出たものである(УП

■ウクライナ最高裁判所長、収賄容疑で拘束
ウクライナの内なる敵No,1は汚職であるという話があったが(昨5/15付)、いまウクライナ最高裁判所長に270万ドル(3億円超)の巨額の収賄容疑がかけられており、既に同裁判所の不信任決議を受け裁判所長の任を解かれている。とある富豪の財産権をめぐる裁判で同人に有利な判決を下す見返りとして賄賂を受け取ったとみられる。(УПУП

5月15日

■ゼレンスキー
ゼレンスキーが3日間の英仏独伊4か国歴訪を終えた。「前線を強化し国民を保護するより新しく・より強力な兵器の供給に関する約束を取り付けて帰途に就いている」だそうだ。УП

■プリゴジン
ワシントンポストの興味深い報道。先般漏洩した米軍の機密文書によれば、「ワグネル」の首魁プリゴジンはウクライナの諜報機関と秘密裡に交渉を持ち、バフムートに関してとある取引を持ち掛けたという。なんでも、ウクライナ軍がワグネル軍との抗戦地帯から撤退すれば、見返りにロシア正規軍の拠点に関する情報をウクライナ側に提供する、と(УП)。露大統領府ペスコフ報道官は否認(УП)。ウクライナ側はプリゴジンのアプローチを怪しみ誘いに乗ってはいないらしいがウクライナの諜報機関は「国益追及・占領地解放のためさまざまな手段を用いている」(ウ国防省情報総局報道官、УП)と意味深。

■ルカシェンコ
プーチンの盟友・ベラルーシの独裁者ルカシェンコ(68歳)の健康状態が悪化しているらしく、数日ぶりにメディアに登場したルカシェンコの手に巻いた包帯・声のかすれ・蝋人形のような表情(↓)が話題になっている(УПУП

この関連でチハノフスカヤ(ベラルーシ民主化運動リーダー)「我々はあらゆるシナリオに対しよくよく備えておく必要がある。ベラルーシに民主主義を取り戻すために、ロシアの介入を阻止するために」(УП)。確かにルカシェンコが死ぬ等して後継者問題が浮上すればロシアが傀儡の擁立のために介入してくること必至である。

■世論調査(ウクライナの「内なる敵」の中で最も恐るべきものは……)
ラズムコフセンターが4月末~5月頭にかけて行った調査によれば、ウクライナ人が考える、国内の各種「敵」の中で最も恐るべきものは、汚職政治家・腐敗役人の類である。次点は政権内に潜むロシアの手先ども、3位は親露プロパガンディスト。
問い:あなたにとって「内なる敵」とは?
答え:政権内の汚職(53%)、ウクライナの情報機関や省庁内に広がるロシアのエージェントネットワーク(47%)、ウクライナはロシアと統合すべきだなどと主張する政治家・プロパガンディスト(46.8%)УП

■世論調査(時勢に鑑み、汚職の問題を追及すべきか否か……)
ラズムコフセンターの同じ調査で「汚職に関する事実を公表すべきか」と問うたところ、84%が「公表すべき」との立場だった。理由は「汚職のせいで国内の統一が損なわれ、パートナー諸国からの支持を失い、果ては勝利から見放される恐れがあるから」。7%が「公表すべきでない」との立場。理由は「戦争が続く限り、汚職問題の公表は時宜を得ない。むしろ公表することによって国内の統一が乱れ、戦争に勝利する見込みが減じる」。
なお、戦争前と比べて贈収賄の頻度および金額が増大したか否かを自分自身の体験を根拠に答えよとの問いに対し、各部門で「増大した」との回答。多くは徴兵(忌避)に関わるものと見られ、軍事委員会職員への贈賄は戦前比20.7%増、医師への贈賄(偽健康診断書を作成させるための)は16%増、地方役人への贈賄は14%増。УП

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