続々々・オデッサ(ウクライナ)現地報道まとめ

オデッサ/ウクライナ/ロシア

ウクライナ戦争の個人的な記録。①ウ全国メディア「ウクラインスカヤ・プラヴダ(УП)」②オデッサローカル紙「オデッスカヤ・ジーズニ(ОЖ)」③露反体制メディア「Meduza」を巡回して録すべきと思われたものを取り上げる。筆者はモスクワに4年半、オデッサに2年半住んだ。望むものは平和と正義、それだけ。平和。ロシアは侵略をやめろ。正義。ロシアはウクライナにもたらした全ての損失を完全に弁済しろ。

※この記事はオデッサ(ウクライナ)情勢、現地報道まとめ(2022年3/15~6/28)続・オデッサ(ウクライナ)現地報道まとめ(6/30~9/22)続々・オデッサ(ウクライナ)現地報道まとめ(9/23~12/31)の続きです

4月27日

レズニコフ国防相「反転攻勢への期待はやや過熱している」УП
某メディアの取材で「世論における反攻への期待はやや過熱しているのではないか」「加熱しているのは誰か:ウクライナ社会か、政治か、それとも西側か?」と問われてレズニコフ、「(過熱に)同意。(加熱には)誰もが加担している。誰もが勝利を望んでいる。かつては勝利を信じていなかった。かつてはウクライナがただ極小部分に局限されてでも生存することのみが望まれていた。だがウクライナ軍の躍進を受け、誰もが勝利を信じ始めている。蛇島、キエフ、ハリコフ、ヘルソンに次ぐ、新たな勝利を望んでいる。当前のことだ」「アンナ・マリャル(国防次官)も言っている:皆さん、期待を高めすぎないでください、あとでがっかりしないように。そんな簡単なことではないんです、これは戦争ですから」
3月末にはクレバ外相が「ウクライナは春季反攻が戦争の天王山であるかのように語るナラティヴを打ち消すべく努めるべきだ」と述べていた。このような語り方は危険であると。なんとなれば、もし反攻が不首尾に終わった場合に、西側における「ロシアと妥協すべきだ」勢の立場を強めてしまうから、と。

ニコラエフにミサイル攻撃(4か月ぶりの)УПОЖ
27日未明、ニコラエフに「カリブル」ミサイル4発が撃ち込まれ、23人が負傷、1人が死亡。爆発ならびに破片の飛散で複数の住宅・歴史建造物が損傷した。ニコラエフ市長によれば同市にこうした攻撃が加わるのは昨年12月末以降、実に4か月ぶり。「人たちは砲撃のない新たな日常に慣れてしまっており、少々パニックが生じた」「着弾地付近に軍事施設は何一つない。ニコラエフ市内には久しく軍人はいない。全員が前線付近に移動している。ニコラエフはとうにウクライナ軍にとってトランジット(通過)都市になりおおせている」。また本件につきゼレンスキー「侵略国はこの戦争の主たる目的がテロルでありまたウクライナ人およびウクライナ的なものの全てを根絶やしにすることにあることを一日も休まず証明し続けている」

更新100日、本記事の更新はここでストップします。別に記事を立てます。

本記事は元日に始まった。インフラ破壊弾が降り注ぐなかウクライナがブラックアウトせず「史上最も困難な冬」を耐え凌げるのか→耐え凌いだ。バフムートは持ちこたえるのか→今も持ちこたえている。恐れられたロシアの「一周年記念大攻勢」は不発に終わった。あるいは、バフムートがそれを一身に浴びた(浴びて、なお立ちはだかっている)。他、以下のようなトピックがあった。

・オデッサの世界遺産登録
・「幻影旅団」さわぎ
・国民アプリДия(ウクライナ全土LED化計画)
・ロシア人選手のパリ五輪参加の是非
・オデッサのマクドナルド店舗が再オープン
・オデッサ州知事更迭
・国際刑事裁判所(ICC)、プーチンに逮捕状
・教会対立

また、本記事では、世論調査をなるべく多く取り上げた。政治経済また戦況についてはそれを語る資格のある人(専門家先生たち)によって多くが語られている。ならば私の持ち分はさしずめ、メディアで語られることが少ないウクライナの文化とか社会の変化を取り上げることだろう。さしあたり、ウクライナ社会の変化について定点観測し、日本語で報告しているものとしては、当記事が一番詳しく網羅的であると思う。
なお、本記事の更新過程で、レイアウトのマイナーチェンジを試みた。ひと話題あたりの文字数をなるべく短く切り詰めることを心がけ、今ある形に落ち着いている。脱皮に成功した感触がある。

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4月26日

習近平とゼレンスキーが電話会談した。

ゼレンスキー:習氏と「ウクライナにとって公正かつ堅固な和平について」話したУП
ゼレ「1時間に及ぶ会話で二国間関係におけるアクチュアルな問題万般にわたって話し合った。中でも特別な注意が払われたがのが、ウクライナにとって公正かつ堅固な和平の樹立を目ざした共同行動の可能性だ」「ウクライナ国民以上に平和を望んでいる人は誰もいない。我々は自分の土地にいて、自分たちの未来のために戦っている。その際に行使しているのは自衛に対する固有の権利である。和平は公正かつ堅固なもの、国際法の諸原則ならびに国連憲章の尊重を基礎としたものでなければならない」「領土的妥協を代償とした和平などあり得ない。ウクライナの領土完全性は1991年の境界において復興されねばならない」

オデッサの旧ロシア領事館が学校または保育園に?ОЖ
オデッサの旧ロシア領事館を接収して学校ないし保育園を開こうという話がある。接収には政府レベルの決定が必要で、手続きとしては、来月3日のオデッサ市議会で決議案を審議にかけ、のち閣議に諮る。ちょうど先週キエフ市議会が在キエフロシア大使館の接収について閣議に諮ったということで、それに追随した形。音頭を取っているのはピョートル・オブーホフ市議、この人は脱露改革派の急先鋒でこれ系の話は大体この人が起点である。
オデッサにはかつてロシア領事館があった。それだけロシア人の滞在者・観光客が多くいたということだ。2022年2月22日に館内の機密文書を焼却する煙が領事館敷地から上がった。翌23日にロシア人外交官どもは退避し領事館はもぬけの殻となった。翌24日にロシアの全面軍事侵攻が始まった。
ロシア領事館はアルカディアと呼ばれる遊興・商業・居住エリアの入り口にあたるガガーリン台地に建っている。正直、めちゃめちゃいいとこにある。жирный кусок Одессы(オデッサの一番美味しい部分)。近年アルカディアの人気を当て込んでガガーリン台地は乱開発されており、膨れ上がる住戸数に文教施設などのインフラ整備が全然追い付いていなかった(オブーホフ氏によれば新規住戸5万人分に対し学校・保育園はゼロ)。この間の事情を肉眼で見て知ってる私としては当然、市議のイニシアティヴに全面的に賛成する。

オデッサ市の2地区の名称の変更についてОЖ
本記事3/2付で少し触れたのだが地名の脱露/脱ソの一環でオデッサ市の2地区の名称の変更が検討されており、いま市民のオンライン投票が行われている。妻の実家がある(義父母が今も居住している)スヴォーロフ地区がペレースィプ地区になるかもしれず、マリノフスキー地区がハジベイ地区になるかもしれない。正直、穏当な改称なので、別にいいと思う。ソ連軍人の名を冠する地名を、もっと古層の地名(ペレースィプは帝政時代に今のプリモールスキー地区とスヴォーロフ地区の間くらいのエリアを指した名称、ハジベイは今のオデッサ港のあたりがトルコの漁村であったころの地名)に変更するという話で、ペレースィプおよびハジベイはともに現在のオデッサ市民の人口にも十分膾炙した名称なので、むしろいいと思う。だがなじみの名を変えたくないという人が大勢を占めるのであればそれはそれでいいと思う。そもそも地元の人はあまりスヴォーロフだのマリノフスキーだの正式名称で呼ばない。ポスコット(посёлок Котовского)とかチェリョームシキ(Черёмушки)とか俗称で呼ぶ。という誰にも興味ない超ローカルな話。

4月25日

ロシア軍はセヴァストーポリ港の防衛に軍用イルカを使ってるУП
ロシア海軍の基地があるセヴァストーポリ湾を24日、ウクライナの水中ドローン(無人艇?)複数が襲い、爆発を起こした。湾内には侵入できなかったそうだが。この一件を受け、ロシア軍が防備を強化している。セヴァストーポリ湾は少なくとも6重の物理障壁で守られていて、そこには舟艇、ヘリのほか軍用イルカも動員されているということだ。

露:セヴァストーポリ攻撃はオデッサから行われているОЖ
露国防省によれば、セヴァストーポリにあるロシア黒海艦隊基地に対する3月23日および4月24日の攻撃はオデッサ港周辺の海域から出発した無人艇によるものであるとのこと。つまりウクライナ産穀物の積み出しに関する国際合意で保護されているオデッサ港がロシアへの攻撃のために軍事利用されていることで、これにより「穀物イニシアティヴ」の5月18日以降の延長に疑義が生じる、と露。
どうであろう。事実であれ言いがかりであれ、ロシア国防省(こと侵略破壊殺人省)がこう言っているということは、オデッサへの「報復」攻撃が近く行われることが心配される。また、ウクライナの反攻フェーズ(徐々に始まりつつある?)では、穀物合意の破断は覚悟の上で、実際にオデッサ港からクリミアへ無人兵器その他が差し向けられるということはあるかもしれない。一応地図置いておこう↓

NYT:ウクライナの反攻は5月に始まるУП
ニューヨークタイムズが米政府高官の証言として伝えたところによれば①ウクライナは反転攻勢を5月に開始すべく準備を進めている②リスクは非常に高い③もしそれで決定的な勝利を収めることができなければ西側からの支援は弱まりウクライナは停戦ないし紛争凍結をめざした交渉の本格化を強いられる可能性がある④ウクライナ側は作戦の詳細を米側に明かしていないが作戦は南部(アゾフ海沿岸、クリミア近傍を含む)において展開する可能性が高い⑤ウクライナ政府高官はロシアの防衛線を突破しロシア軍を大規模壊滅させることを目標に置いている⑥ただし米政府高官の評価では反攻により戦況がウクライナ有利に大きく傾くことは望み薄である。こうした報道についてウクライナ軍国防省スポークスマンは「反攻について多くのシナリオが書かれまた公表されている。それで映画でも作ったらいい。だがそれらは私たちのストーリーではない。自分たちのそれは自分たちで描く」

4月24日

WP:ウクライナは一周年記念モスクワ攻勢を計画していたが米の要請で延期したУП
先般流出した米国家安全保障局の機密文書の内容としてワシントンポストが伝えたところによれば、ウクライナの情報機関はロシアの大規模侵攻開始から1年となる今年2月24日にモスクワに対する大規模攻撃を計画していたが、米国の懇請を受けて自粛した。併せて黒海沿岸のノヴォロシースク市(ロシア)への攻撃も計画されていたという。米側はウクライナ側の計画を秘密裡に観察していたが、ロシア本土への攻撃(とりわけ米供与の兵器を用いた攻撃)はロシアからの猛烈な反撃(戦術核の使用を含む)を誘発しかねないとしてウクライナを慰留、1周年の2日前となる2月22日にはCIAが「ウクライナ情報総局はワシントンの懇請を受けモスクワ攻撃延期に同意した」とする新たな秘密報告書を発出した。
文書は米側がウクライナ国防省情報総局長官ブダーノフの通信を傍受していることを示している。ブダーノフ自身もそのことは知っているらしい(?)。ブダーノフ率いる情報総局はこれまでにもマリの「ワグネル」軍やシリアのロシア軍を叩くことを計画しており、米欧はウクライナ域外での攻撃は自制するよう呼びかけているという。米欧の高官はブダーノフを高く評価する一方、その余りの大胆さに懸念を持っているそう。

ウ大統領府、「一周年記念モスクワ攻勢」を報じた西側メディアを批判УП
上記の件につき、ポドリャク大統領顧問がWPのような報道の在り方を批判した。いわく、意識的か否かはともかく、この種の報道はたったひとつの破滅的機能を果たすばかりである。すなわち、ウクライナは非理性的・幼稚・衝動的な国であり大人が本物の武器を信託するのは危険な相手である、という世論を西側諸国に形成させる(という機能を)。実際には、ウクライナは「鋼鉄の数学的論理」をもって戦争にアプローチしている、と。「我々に必要なのは占領地においてロシアの物流を破壊するための長距離射程のミサイルであり、また防空ならびにロシアの構築した防塁を破壊するための各種の航空機である。これらが反転攻勢の成功ならびに損失の最小化の最重要要件だ」とポドリャク。

ウクライナの夜空にオーロラ出現УПУПОЖ
23日→24日にかけての夜、ウクライナの西部から東部にかけて広い範囲にオーロラと見られる怪しき光が出現したということだ。

「地磁気嵐の関係でオーロラがウクライナの緯度にまで降りてくることは稀にある」と学者。オデッサでも目撃されたとかだ。※ウクライナの最南端付近に位置するオデッサの緯度は北海道の最北端とほぼ同じ

4月22・23日

ゼレ:後方の「静穏な一日」は前線における激戦のお陰である、そのことに敬意をУП
ゼレンスキーが定例のビデオメッセージで後方(戦闘が行われず攻撃の対象となることが稀な)諸州(この中にはオデッサも含まれるであろう)の市民に対し、前線における戦士たちの奮闘を敬い、彼らを支援するよう呼びかけた。「いま比較的静穏を保ちうららかな春の一日を謳歌しているすべての都市・村落が、『この静穏な一日一日が、前線における同胞たちの激しい戦闘のお陰なのだ』ということを理解すること。それが非常に大事だ。戦闘は毎日行われている。このことに敬意を持ってください」

続・ロシアにちなんだ地名が違法にУП
21日付で紹介したやつの詳細。ゼレンスキーが「ウクライナにおけるロシアの帝国主義政策のプロパガンダの禁止および非難、ならびに地名の脱植民地化」に関する法案に署名を施した。公布3か月後に発効する。この法律により諸々の「露帝国主義政策のシンボル」(具体的には下記)の作成・拡散・公然使用が禁止される。

■ロシアの政治・軍事リーダーの記念碑
■ロシアの帝国主義政策を公然と支持・賛美・正当化した人物の記念碑
■上記人物にちなむ、またロシアの地名・ロシアの歴史または文化施設にちなむ地名
■ロシアの国旗・国歌

この法律に基づき記念碑の撤去、地名の改称などが行われる。また同法に抵触する名称をもつ法人・政党・市民団体は同法発効から1か月以内に名称その他を修正しなければならない。

戦争始まってから何人のウクライナ人が地雷で死亡したかУП
ウクライナ国防省環境安全保障・対地雷活動局長によれば、ロシアの全面侵攻始まって以来ウクライナでは爆発物の起爆により市民124人(うち6人が子供)が死亡、286人(うち33人が子供)が負傷している。特に被害が集中しているのがハリコフ、ニコラエフ、ヘルソン(※いずれも長期にわたりロシア軍の占領を受けた)の各州。全体でウクライナの国土・海域17万4000平方キロメートル(!)が爆発物汚染を受けているという。
何丘カウントでは昨夏オデッサの浜辺で禁止を破って海水浴を楽しんで機雷に触れて死亡した人は8人。これも上記の数に含まれているであろう。

去年のパスハに凶弾で家族全員を失ったオデッサ男性、今は軍人にОЖ
2022年のパスハ(復活祭)は4月24日だった。その前日の23日にオデッサの市街地がミサイル攻撃を受け、集合住宅が被弾して8人が死亡した。うちの一人は生後3か月の女児であった。本件はロシアの侵攻を代表する蛮事として年越しのゼレンスキー演説でも言及されている(本記事元日付け参照)。その日から丸一年が経った。一日にして3か月の女児、愛する妻、母、住む家を失った、元菓子職人の男性は、いまは軍服を着ているそうだ。

カミカゼドローンを漁網で捕獲する計画?ОЖ
創意あふれるオデッサ市民ゲンナージイ・スルディン氏(前の記事でお伝えしたePVO=市民参加型対空防衛アプリの開発者)がイラン製自爆ドローンへのユニークな対抗策を提唱している。無線基地や地対空ミサイル発射装置などの重要施設の周囲に漁業用のネットを設置して安全な距離で爆発させるというもの。重量12㎏、時速100kmで飛ぶイラン製ドローンは脆弱な作りで、頑丈な樹脂ネットに接触すれば簡単に壊れる。要するに、最も安価なドローン対策として漁網が期待できる、ということで、同氏はすでに軍の南方司令部用に漁網を10セット集めている。いま軍部に対し必要な量や大きさを照会中という。「この情報を拡散してください、皆さん。漁網持ってる人、送ってください。兵士の命や対空防衛装備を直接的な意味で守ることができます」というから私も拡散に努めよう。日本の漁業組合も一枚噛んだらどうか。詳細が明らかになったら追って伝える。

4月21日

こちらの動画、ウクライナの反転攻勢のレイアウトが素晴らしくよく分かった。おすすめ。

戦時下のヒット商品は睡眠薬と鎮静剤УП
保健相によれば、ウクライナでは戦争始まってから睡眠薬や鎮静剤などの販売量が伸びている。「こうした薬剤に性急に手を出さずかかりつけ医やカウンセラーに相談するように」と保健相。戦争最初期に払底し義父母がその不足を嘆いたのがワレリアンカと呼ばれる市販の鎮静剤であった。

75歳の日本人ボランティアがハリコフに無料カフェを開設УП
なんでも75歳の日本人男性フミノリ・ツチコという人がハリコフにカフェを開いたそうだ。スープ、ボルシチ、カーシャ(粥)、マカロニ、肉、ピロシキ、パン、ドーナツ、茶などを無償で供すという。同人は22年1月に旅行者としてウクライナを訪れ、第二次大戦の爪痕を見て回り、同年2月24日時点でポーランドのワルシャワにいたが、そこで大量のウクライナ避難民を目撃し、支援を決意、キエフに立ち戻り、5月にはハリコフに入った。そこで地下鉄駅での生活も経験し、自らの年金を使ってハリコフ市民のために食品や物品を購入し、子供のためのイベントなども開催していたという。すごい人もいたもの。

ロシアにちなんだ地名が違法にУП
ゼレンスキーが21日付で「地理的名称に関する」法律に署名を施した。地理的施設(道路等?)にロシアおよびその事跡を象徴しあるいは顕彰するような名称を付与することを禁ずるもの。

オデッサの春ОЖ
オデッサ今こんな感じ。春の雨の一日のフォトルポルタージュ。

北国の春。まだ始まったばかりという感じ。寒そう。ダーチャの義父母からも写真が送られてくるがまだチューリップとかヒヤシンスとか春の最初期の花が咲いているところ。左上の写真はパスハの卵がぶら下がってるところ(毎年やってる)

5月はもっとよくなる。6月にかけて一年で一番いい季節。

ハート+錨のロゴチップは当面存置ОЖ
ハートと錨を組み合わせたオデッサのロゴチップがもとをただせば著名ロシア人デザイナー=プロパガンディストのアルテーミイ・レーベジェフ考案だということが問題視されて当該ロゴチップを撤廃してはという話が持ち上がっていたが、この意匠は今やあまりに陳腐化しておりいたるところで再生産されているため撤廃は非経済的との考えをオデッサ市議会文化局長が示した。

5月2日と9日、終日の外出禁止令は今のところ予定されておらずОЖ
オデッサは5月上旬に2つの重要な日付を迎える。5月2日は2014年「オデッサの悲劇」(オデッサ労働組合会館焼き討ち(?)事件)の日、9日は言わずと知れた対独戦勝記念日である。昨年はこれら日付は終日の外出禁止令が敷かれたが、今年は情勢はさほど緊迫しておらず、今のところ終日の外出禁止は予定されていないという。

4月20日

NATO事務総長がキエフ訪問УП
NATOのストルテンベルク事務総長がロシアのウクライナ侵攻始まって以来初めてキエフを訪問し、ゼレンスキーと会談した。ゼレ「今回の訪問を我々はこう解釈する:NATOはウクライナとの関係において新たな一章――野心的な決断、と題するそれ――を開始する用意がある、と」

ゼレ:ウクライナには今や強力な対空防衛網があり、今後なお強化されるУП
だそうだ。そう願いたい。

キエフ上空で謎の爆発УП
20日未明キエフ上空に謎の高輝度火球が出現してあれは何だったのかとざわついている。

衛星墜落説はNASAが否定。隕石説あり。ともかく何らかの天体が大気圏突入時に燃焼したものと見られる。ウクライナ宇宙局は本事象を「高エネルギー音響事象(высокоэнергетическое акустическое событие)」と表現している。

クレムリンには多くの微細な亀裂が入っているУП
ウクライナ国防省情報総局広報によれば、クレムリンの方針と不協和なプリゴジンの声明は自身の意見表明であると同時にクレムリン内部のパートナーないしパトロンの考えを代表している。軍事・政治・ビジネスエリートの中にはロシアの戦略的敗北・所期の目標を何一つ達成できていないことに起因する抑鬱的な気分が広がっており、最早期停戦を望む声も強まっている。クレムリン内部には微細な亀裂が多数走っている。この傾向は今後強まるばかりである。

4月19日

ダニーロフ「ヘルソンを訪れたのはプーチンの影武者」УП
ウクライナ国家安全保障会議のダニーロフ書記によれば、ヘルソン州とルガンスク州を訪れたのはプーチン本人でなく、その影武者である。「プーチン本人が訪問していないのは周知の事実である。本物のプーチンに会うには最低10-14日の隔離が必要だ。そこにいたのはプーチンではない。いつもの影武者である。なおプーチンの影武者一人でないこと、これも周知の事実だ」。日本の報道ではあまりこの種のことは言われないのだが、ウクライナ側の高官は常套的にこの種のことを言う。

プーチン、側近らに対し「昨日ヘルソン行ってきた」УП
当のプーチンは閣僚との会合でヘルソン・ルガンスク両州を訪れたと言い張っているそうだ。訪問の目的の一つは兵士らとの交流だったとか。

ISW:プーチンの占領地訪問の目的は……УП
ISW(米シンクタンク「戦争研究所」)によればプーチンの占領地訪問は複数の目的を持つ。①ウクライナの反転攻勢を前に軍事的リーダーとして自らを描き出そうと努めている②ゼレンスキーの18日の前線視察のインパクトを打ち消すためにあえてプーチンの「前線視察」についても18日に公表された可能性がある③仮にウクライナの反転攻勢が成功した場合に責任をなすりつける相手を公知化する目的があった④ルガンスク方面軍の司令官を改めて指名することで「ワグネル」の影響力を相対化する狙いがあった。

オデッサにシャヘド襲来УПУП
19日未明、オデッサ市・州を自爆ドローン群が襲った。01:48~03:00の間空襲警報が発令され、一連の射撃音・爆発音が鳴り響いた。12機中10機が撃墜に成功、残りが遊興施設に命中して火の手が上がった。人的犠牲はなし。

オデッサに今年もバカンスシーズンは訪れませんУПОЖ
今度の自爆ドローン攻撃を受け、オデッサ州広報からアナウンスがあった。2023年夏、オデッサにバカンスシーズンは訪れない。ビーチの封鎖は解かれず、海水浴は原則禁止。

ロシアは自爆ドローンを追加取得したОЖ
ウクライナ軍南部防衛部隊広報によれば今回オデッサ攻撃に使用されたドローンはロシアが比較的最近新たに取得したものである。イラン製自爆ドローンは段階納入であり今次の納入分を使って再度オデッサを攻撃してくることも十分あり得るという。

4月18日

ゼレンスキー前線視察УП
ゼレンスキーがドネツク州を訪れアドヴェーエフカの前線基地を視察、現地司令官から報告を聞き、兵士たちと交流・慰労した。「今日ここにいられることを誇りに思う。皆さんがウクライナの国土を守ってくれていることに心から感謝を申し上げる。パスハ(復活祭)おめでとう」

プーチンも前線視察?УПУПУП
露プロパガンダによればプーチンがルガンスク州およびヘルソン州の占領地を訪問したということだ。動画も作られているが特定班の検証によれば少なくともヘルソン州についてはクリミアとの境界部をちょこっと訪れたのは事実のようで、しかし17日訪問説(ペスコフ)に対し実際の訪問はパスハ(16日)以前と見られ、その証拠に動画でプーチンは「もうすぐパスハですね」と言っている。騒動を受け動画の露大統領府サイト掲載版には「もうすぐパスハですね」のところの音声をぼかす処理が入ったそうだ。杜撰すぎ。何がしたいのか。「プーチンはゼレンスキーのマネをしたがっている」byリトアニア首相。だがそれをするには余りにプーチンは「生を愛しすぎている」(前の記事12/12)ということだろう。

УП創刊23周年記念チャリティオークションУП
皆さんも間接的にその読者であるところのУПことウクラインスカヤ・プラヴダが創刊23周年を迎えるだか迎えたかで、それを記念して美術品の慈善オークションが開かれている。収益は全額(軍用?)ドローンの購入に充てられるという。それはいいのだが、この際知った、УПのシンボルマークはドン・キホーテであるらしい。

この原画も今回売りに出ている。メディアのロゴチップにドン・キホーテとは、いいじゃないですか。気骨があって。たしかにУПサイトの最下部にはドン・キホーテがいつもいた。

ちなみに、けっこう前だが、朝日にУПの編集長ムサーエワ氏のインタビューが載ったことがあった。30代の若い女性、私より年下。

オデッサのタクシーは地獄の教誨室ОЖОЖ
別に驚かない。いろいろな人がいて、中にはこういう人もいる。オデッサのタクシー運転手が車内で嫌がる乗客に対し一方的に親露プロパガンダを浴びせ聞かせ(「世界観ハラスメント」)、その様子が盗撮されてSNS上に拡散した。車内でしゃべってたらしい内容は左のごとし:

・ロシアは歴史上戦争で負けたことがない
・ウクライナは経済でも生活でも西側よりロシアとともにいた方がよい
・西側では我々は三等人種だ
・我々はメンタリティその他万般においてロシア人と同質的だ
・(少なくともウクライナ人は捕虜を斬首しそれを動画に撮ったりしませんよ、との反論に対し)ウクライナのマスメディアを信じてはいけない。やったのはウクライナ兵で、やられた方がロシア人かも知れないじゃないか?
・プーチンは現代で最も偉大な政治家の一人だ
・ロシア国民の80%もが彼を支持し、彼のためならすべてを捧げる覚悟でいる

男は特定され、即日逮捕された。本件は「ロシア連邦のウクライナに対する軍事侵攻を正当化し、それを正当なものと認め、あるいは否認すること、またはその参加者を賛美すること」を禁ずる刑法典436条2項に該当。2年以上の懲役もしくは8年以下の禁固が科される恐れありとて運転手は一日のうちに華麗に転向してみせた。治安機関職員撮影の動画(←これも妙な慣行であるが)の中でウクライナ語で「私は政治的な立場を改めました」とのたまう。「信じられるわけないだろ!」とSNSは囂々。

オデッサのタクシー運転手について同様の事例は散発的に報告されている。「ウクライナは存在しない、ロシアの一部がウクライナを自称して分離しようとしたのだから侵攻を受けても仕方ない。またウクライナ正教会は偽りの教会であり、そこでは聖なる水も緑に濁っている」と車内で乗客にうそぶいたやつ(ОЖ)、「ミサイルはロシアからでなくアメリカから飛んできているんだ、もし出国が禁じられてなかったら俺かてとっくにロシアに移住してるさ」と爆弾発言をばっちり録音されてたやつ(ОЖ

オデッサは世界中にあるОЖ
世界に22あるオデッサの姉妹都市をはじめ、ウクライナ国外の多くの街にオデッサと名の付く通りや区画がある。ハンガリーのセゲド市にオデッサ地区あり。イタリアのジェノヴァにオデッサ通りあり。エジプトのラルナカにオデッサ公園あり。ベルリンにオデッサ広場あり↓

ベルリンのオデッサ広場は今年1月に出現したものらしく世界最新の在外オデッサ。オデッサをOdessaでなくOdesaとウクライナ語式に表記してるところがポイントだそうだ。他、パリ14区にオデッサ通りあり、米テキサス州にオデッサ市あり、ブラジルに新オデッサ市あり。他にも山だの小惑星だのクレーターだのにオデッサの名を冠するものがある由。

なお、かのBee Geesが1969年に出した最後のアルバムが『オデッサ』と題するもので、その劈頭を飾るのが「オデッサ(黒海のほとりの街)」という曲である。

4月16日

パスハ(復活祭)だった。我が家もタマゴ飾り作った。

捕虜交換УП
パスハを記念して?100人規模の捕虜交換が行われた。バフムート、ソレダール、ザポロージエ、ヘルソンなど各地で捕虜となったウクライナ兵がウクライナへ返された。

ゼレンスキー、ラヴラで「パスハおめでとう」УП
キエフのラヴラでゼレンスキーがパスハおめでとう動画を作成した。一陽来復(復活)のイメージにウクライナ全土の奪還を重ねた。「ともに曙光を迎えよう、ウクライナ全土に日が昇る日を。青と黄色の旗が翻る日を。日は射す、南で、日は射す、東で。日は射す、クリミアに。橙色の太陽が青い平和の空に。正義の光が明るく照らす」

アルテーミイ・レーベジェフ「ロシア軍よオデッサを占領してください」ОЖ
ロシアの著名デザイナーで錨とハート型を合体させたオデッサのロゴチップの創案者でもあるアルテーミイ・レーベジェフが自身のYouTubeでロシア軍に対し「もう少しだけ全身してオデッサを掌握してほしい」と懇願してみせた。この糞プロパガンディストによればオデッサは歴史的にロシアの街でありそこではロシア式にすべてが行われるべきでありモスクワとオデッサの直行便がないのはウクライナの「悪い大統領たち」のせいであり、そのくせ平和主義者を気取るこの夢想家はオデッサ掌握に際してロシア兵が「一人も殺さず」「権力だけをすげかえる」ことを自分は望むとうそぶく。「現実のロシア軍(デザイナーの頭に棲みついたそれでなく)が1年余りにわたりオデッサを砲撃し子供たちを殺害し家々を破壊しているという事実にはレーベジェフ氏は見て見ぬふりをすることにしているらしい」とОЖ辛辣。だがその通り。

4月10~14日

4月14日

ゼレンスキー「敵戦力を削減しながら反攻の準備を進めている」УП
14日のビデオメッセージでゼレンスキー「重要なのは被占領地において恒常的に敵戦力を削減していることで、これがわが軍の積極行動(反転攻勢)の準備をなしている」

プーチン、電子召集令状を合法化、徴兵忌避者の国外逃亡を不可能にУП
紙の召集令状と電子的それを同等のものとする法案にプーチンが署名した。徴兵対象者のデータベースが作成され、徴兵忌避者の国外逃亡が不可能になる。召集令状はメールボックスに受信されるや否や手渡されたと見なされる。(聞いたこともないおぞましい話。)召集令状が手渡されたと見なされると、以降、対象者は、軍事委員会に出頭するまで国外への脱出が禁止される。徴兵忌避者は運転免許証が剥奪され、不動産の登記やクレジットの利用が禁止される可能性がある。同法案は11日に議会下院で採択され、翌日には上院でも採択された。未聞のスピード成立。

プリゴジン論文「SVO終了宣言が理想的ではある」УП原文
「ワグネル」のプリゴジンが論文なるものを発表し情勢に対する見方を示した。それにいわく、ロシア政権および社会にはSVO(特別軍事作戦)にピリオドが打たれることが必要だ。そのピリオドは十分に脂っこい(жирная)ものである必要がある。ロシアはある意味で所期の目的をすでに達成したといえる。ウクライナの人口における青・壮年男性の大部分を根絶やしにし、ウクライナ国内の親欧成分にも脅威を与えることができた。また、ウクライナからアゾフ海を奪い取り、黒海の大部分も奪い取り、ウクライナ領土の脂っこい部分を掌握し、クリミアへの回廊を築くことができた。これらをもってロシアはすでに脂っこい成果を得たと言い得る。(外食ビジネスで成り上がった「プーチンのシェフ」の使う、脂=жирという語の気色悪さ)(「脂っこい」は「旨味のある」みたいなニュアンス。脂という字にまさに「旨」が含まれてるが)

モスクワ撃沈1周年ОЖ
14日は巡洋艦モスクワが撃沈してちょうど1周年の日だった。

4月13日

ボリス・ヴォロシェンコフ氏がオデッサ州知事代行にОЖ
オデッサ州軍政当局の長官(以下「知事」)にボリス・ヴォロシェンコフ氏が臨時就任した。マルチェンコ前知事の更迭によりオデッサ州知事は空位であり、大統領府の選任も未だ行われていないため、第一副長官であったヴォロシェンコフ氏が繰り上げで知事代行となった。ヴォロシェンコフ氏は退役将校で2005-2008年には経済安全保障分野の国益保護防諜総局長官を務めた。

セルゲイ・ブラチュクに女児誕生ОЖ
オデッサ州の前知事マルチェンコと並んで何丘ブログ当記事で頻出であったオデッサ州のスポークスマン、セルゲイ・ブラチュク兄(こちらは現役)に女児が生まれた。エカテリーナ女帝像のオデッサ市からの追放を積極支持していた同人のお嬢ちゃんの名はカテリーナ(ロシア語でエカテリーナ)だそうだ。

4月11日

キエフでサクラが開花УП
キエフ各地でサクラだのモクレンだの咲きだしてるそうだ。サクラという語は皆さんご存じだ。一般に桃色の発色の強いものと観念され、ソメイヨシノの淡さに肉眼で触れたジョニーも驚いていた。日本からの写真を見た義父母も「本物は白っぽいのね」と困惑していた。

オデッサの犬浜に巨大な三叉鉾ОЖ
オデッサに無数にある小ビーチの一つがヌーディストビーチとして一部で有名な犬浜(Собачий пляж)なのだが、そこの名物おっさんが公共の浜の隅っこを私物化して長年かけてこつこつと石の庭を作っていて(筆者も何度か言葉を交わしたことあり)、そいつが4月10日のオデッサ解放記念日に向けて巨大な石積み三叉鉾バードを浜に描いた。「ウクライナの復活」を象徴するものだそうだ。

作業風景↓

4月10日

モスクワ総主教庁系ウクライナ正教会→ウクライナ正教会への転籍は今年で63件УП
ウクライナ正教会にはモスクワの息がかかったの(モスクワ総主教庁系ウクライナ正教会)とそうでないの(ウクライナ正教会)の2流あり、前者から後者への転籍が逐次行われている。昨年2月24日以降だと277件、今年に入ってからだけでも63件(キエフ州で20件、ヴィンニツァおよびフメニツキー州で各10件)。実際いまウクライナ国内にモスクワ総主教庁系の宗教団体がいくつあるのか把握するのは困難で、唯一の手掛かりは名称となるところ、侵攻前夜に発効した改正「良心および宗教結社の自由に関する」法律では「宗教団体はその名称にロシアとの関係を反映しなければならない」と規定されており、それをしない団体は宗教団体の国家統一目録において「ロシア正教会への帰属について不明」と特記される。ともかくモスクワのそれと類縁性をもつ宗教団体がなお数千ウクライナ国内に存在しているそう。なお、今年1月半ばに行われた調査では、ウクライナ人の69%が正教信徒、うち41%がウクライナ正教会への帰属意識をもち、4%がモスクワ総主教庁系のそれに帰属意識をもち、24%はいかなる総主教庁にも帰属意識を持たない。

4月9日

9日オデッサに雹が降り、その後オデッサ湾に大きく春の虹が出た。ОЖ

10日はご用心ОЖ
4月10日のオデッサ解放記念日は治安措置が強化される。記念的場所(4月10日広場など)での集会は控えるよう呼びかけられ、500人余りの警官が巡回を行う。あと禁止事項の中には「人民社会主義および全体主義体制のシンボルの掲示」が含まれる(鎌と槌、ゲオルギーリボン等)がこれは戦前から。

オデッサの現状まとめ

識者の何某がОЖに対しロシアにとってのオデッサの意義とかオデッサを取り巻く軍事的状況について語った。ОЖ。以下に抄訳す。

ロシアにとってオデッサとは何か
ロシアの狙いは基本的にアゾフ海・黒海の支配であってそのためにハリコフからオデッサにかけては歴史的にロシアの土地であるとかいうナラティヴを繰り返すが、一言のもとに断じれば、ただのフェティッシュだ。むやみやたらにオデッサに言及する。その際、早期にオデッサからロシアに逃げた対敵協力者だの分離主義者だのの妄言を引用するのが常套手段。

オデッサの「例外性」神話
「プーチンはオデッサが好きなんだ(путин любит Одессу)」「オデッサだけはノータッチで済む(Одессу не тронут)」「クレムリンにはオデッサについて特別な計画がある(у кремля особые планы на Одессу)」これらはオデッサ市民の愛唱句だが、ロシアは戦争第一日目から大好きなオデッサにミサイルを撃ちこんできた。ロシアには聖なるものなど何もない。ハイ皆さんご一緒に、ロシアには(五)聖なるものは(七)何もない(五)。ロシアはモスクワ総主教庁系の修道院にさえミサイルを撃ち込んできた。一度はヘルソンをロシアの街だとうそぶきロシアに編入までしておきながら、後になると砲撃を加えたりなどしている。

オデッサ攻略は無理ゲーになった①砲撃できない
ある意味で海のために狙われているオデッサであるが、また海のお陰で守られてもいる。オデッサの近傍に敵は大砲だのロケットランチャーだの設置できない。一番近いロシア軍はヘルソンのドニエプル左岸だが、そこからオデッサまでの間にはドニエプル川、ヘルソン右岸、ニコラエフという防塁があり、敵はオデッサを砲撃できない。攻撃したければ、航空機からの空対地だの巡行ミサイルだの、高価な手段を使うしかない。これは愛とか聖性の問題ではない。単に攻撃手段が不足しているために攻撃してこないのだ。

オデッサ攻略は無理ゲーになった②上陸できない
海からの上陸については、それが可能なタイミングが一度だけあった。昨年2月24日だ。人員最低4000人で不意打ち。ミサイルの備蓄も豊富であり、上陸部隊を掩護射撃できた。だがロシアは、それを完全な形では実現できなかった。というのも、ロシアは初手でウクライナの対空防衛網ならびに対艦ミサイル「ネプトゥーン」発射装置を壊滅させたかったが、その成否を確認できなかった。「ネプトゥーン」なら一発で船舶を撃沈することができたところ、それが健在かもしれない状態で海兵600人を載せた大型揚陸艦を送り込むことは余りにリスキーであった。

いまオデッサが直面している脅威とは
昨年2月24、25、26日までは上陸もあり得たが、27日にはもう怪しくなり、3月はますます可能性が狭まり、今日では全く不可能になっている。いまオデッサで一番危いのは沿ドニエストルとオデッサ州の境界部分だがウクライナ軍のコントロールは利いているし、脅威は撃退できるだろう。空からオデッサを襲ってくるものとしてはミサイルとドローン。海なら漂着機雷。内側からの脅威としては、親ロシア的思想をもつ分離主義者。その無害化に軍が取り組んでいる。

穀物合意はだいじだ
穀物合意もオデッサ防衛にはプラスだ。外国船に命中すれば責任を問われるからロシアも砲撃には踏み切れない。穀物合意は経済面での利益が大きいが、防衛の観点からも少なくない意義をもつ。

4月8日

ロシアはウクライナのエネルギーシステムに対する「冬の戦争」に敗れたУП
英国防省の定例インテリジェンスレポート(8日付)によれば、ロシアは秋冬にかけてウクライナの統合エネルギーシステムを壊滅させることに失敗し、今ではこのキャンペーンは事実上撤回されている。

ドネツクに不穏なビルボード出現――「待ってろ、オデッサ」ОЖ
4月10日はオデッサの(ナチスドイツからの)解放記念日である。去年の今頃はオデッサも騒がしかった。ミサイルはオデッサへ今よりはかなり頻繁に飛んできていたし、安心していい理由は何もなかった(ただし4月14日に巡洋艦モスクワが轟沈して潮目が変わった――このあたり、最初の記事を参照のこと)。この日付に合わせてドネツクの被占領地ではこんなビルボード(街角看板)が出現した。

ポチョムキン階段とデューク(リシュリュー伯)像を港から望んでいる格好。大文字で「オデッサ、待ってろ」下部には「4月10日 オデッサのナチスからの解放の日」とロシア語で書いてある。むろん、今度はSVO(特別軍事作戦)でナチス・ウクライナからオデッサを解放するというのである。だが、これも言うまでもなく、まぁ言うまでもないか。でも言うか。今日の世界でロシアこそナチスでありファシストであり侵略者であり占領者であり占領から解放されるべきはドネツクの方である。

なお、現実には、4月10日に「待って」も誰もオデッサを「解放」しになど来ない。戦力も装備も格段に多かった去年ですら敵はニコラエフの防衛を突破できずオデッサに上陸もできなかった。巡洋艦モスクワを失い、蛇島を失い、ヘルソンさえ失った侵略軍にこの日特別なことが可能だなどと誰も思っていない。象徴的な一発を撃ち込んでくるかも知れないが、当日空襲警報が鳴れば粛々と避難するのみ。

4月7日

ウクライナの反攻計画に関わる米国の機密文書がSNSに流出した模様。NHK。のちロイターが米政権内の証言として伝えたところでは、本件にはロシアないし親ロシア勢力の関与があるとみられるが、どのようにして情報漏洩(※ただし米国防総省は文書の真正性を確認してはいない)が生じたかについて調査が進められているとのこと(УП)。なおウクライナ国防省情報総局広報は「ウクライナ軍の計画に関する機密軍事文書なるものはロシアの特務機関による捏造に過ぎない」としている(УП)。一方でゼレンスキーを筆頭とする最高司令部定例会合(7日)では情報漏洩対策について改めて確認が行われたということだ(УП

ウクライナ、再び電力輸出国にУП
出力超過状態が2か月続いていることを受けてウクライナから欧州への電力輸出が再開される。言うまでもなく「最優先は国内需要のカバーであり状況の変化によって輸出が止まることもあり得る」

4月6日

ダニーロフ:反攻計画を知っている人は多くて5人УП
ウクライナ国家安全保障会議のダニーロフ書記によれば、ウクライナ軍の反攻がいつ・どこで・どのように始まるかの情報は秘中の秘であり、地球上で3-5人しかその詳細は知らない。また、もろもろの声明は、必ずしも実際の通りではない可能性があることを心がけておくべきだ。

ダニーロフ:敵は今もゼレンスキーの首を狙っているУП
敵は昨年2月末~3月頭にゼレンスキーの物理的殺害を試みたが失敗し、今はその政治的抹殺を目論んでいる。大統領への脅威は常に存在し、しかるべき機関がしかるべき対策をとっている。

寒波、降雪УПОЖ
ウクライナを寒波が襲っておりキエフで4月初旬として記録的な降雪、オデッサでも5・6日と雪が降った。

オデッサ国際映画祭、今年はウクライナ西部でОЖ
オデッサでは毎夏(8月)国際映画祭が開かれるのだが世界からのゲストが陸路でオデッサくんだりまで入ってくるのは大変だろうということで、今年は西部の街チェルノフツィ(下図赤ピン)で出張開催される。昨年はそもそもウクライナで開催困難ということでコソヴォで開催された。

エイゼンシュテイン「戦艦ポチョムキン」のポチョムキン大階段を擁するオデッサ、またソ連文化の清華たる名作映画の数々が撮られた映画スタジオを有するオデッサは、一応映画都市ということで売っている。

4月5日

ゼレンスキー、ポーランド入り。ドゥダ大統領と会談。割愛

露国防省でボヤ騒ぎ
モスクワ中心部の露国防省建物でボヤ騒ぎがあった。5等級のうちレベル2の火事ですぐに消し止められたそうだが(УПУП)。以下駄論:露国防省はもちろんプリゴジン軍の参謀も当然読んでるはずのISWレポートで露プロパガンディストの爆殺事件はクレムリンからプリゴジンへの牽制である可能性があるとされていた、武闘派のプリゴジンはこれを無視できず、仕返しに今度は国防省に対し破壊工作を仕掛けた? とか一瞬期待した。トッドによればISW(米シンクタンク「戦争研究所」)所長はキンバリー・ケーガンというネオコンで同研究所は明白に反ロ親ウクライナである。であればISWは、客観的現状分析との装いで恣意的状況創出に勤しむこともあり得る、この場合は、あえてプリゴジンに「あなたがもと所有していたカフェで主戦派ブロガーが爆殺された一件はあなた個人に対する『調子乗るな』というクレムリンからのメッセージである可能性がありますよ」と解釈の方向を与えることで露内部の相克を煽ろうとした――という可能性も頭の片隅に入れておかないといけないのかな、と思いました(素人)

ウ・ベラルーシ国境に巨大スクリーン設置
ウクライナとベラルーシの国境に巨大スクリーンが設置された。ここに戦争についての動画(ブチャの惨劇、ベラルーシ国内から発射されたミサイルで破壊されるウクライナの街々の様子、ゼレンスキーのビデオメッセージなど)を投影する(УП)。正直分らん。リーチめちゃめちゃ狭いだろうし、北朝鮮じゃないんだから、ベラルーシ国民そこまで情弱でもないだろう。

チェルニーゴフ、世界遺産への道
先日ゼレンスキーとUNESCOのアズレ事務局長の会談の舞台となったチェルニーゴフ州のチェルニーゴフ市が世界遺産に名乗りを上げた。同市の文化的景観の世界遺産登録をめざし自薦書類の準備が進められているという。オデッサに続け。УП

ロシアに対し「反感」94%УП
ラズムコフセンターが2-3月の調査でウクライナ市民に対し各国への好悪を問うたところ、ロシアに反感を持つと答えた人は94%に上った。地域別では東部の90%が最小で中央部(キエフ含む)の97%が最高。言語別では家庭内使用言語がウクライナ語である回答者のうちロシアに反感を持つ人は95.5%、同じくロシア語話者では88%であった。今のウクライナでは、10人捕まえてロシアが好きか嫌いかと問えば、そこがハリコフであれオデッサであれ、またその人がロシア語を話す人たちであったとしても、9人までが「嫌いだ」と答えるということだ。ただし、ロシアがいま占領している領域を除く。

ほか、ウクライナ人に反感を持たれてる国:ベラルーシ(81%)イラン(73.5%)中国(60%)ハンガリー(46.5%)

好感を持たれてる国:ポーランド(94%)英国(91%)リトアニア(91%)エストニア・ラトヴィア・カナダ(90%)チェコ・米国(88%)オランダ・フランス(86%)ドイツ(85%)モルドヴァ・スロヴァキア(82.5%)イスラエル(75%)日本(74%)

4月4日

オデッサにドローン攻撃УПУПОЖ
4日未明オデッサを無人機が襲った。イラン製自爆ドローン「シャヘド」17機が飛来、うち14機を撃墜したが、撃ち洩らした1機がオデッサ州内の企業敷地を攻撃し爆発が起きた。のち火の手は消し止められ、どうやら人的犠牲もなし。ウクライナ軍発表では、ウクライナ側のドローン撃墜精度が高いので、敵は今回新たな戦術としてアゾフ海東岸から海岸線沿いを低い高度で飛ばしてきた。現に爆発が起きた時点で空襲警報は鳴っていなかったという。だがそれでも撃墜率は8割を超えている。

オデッサに世界遺産登録に関するパネルが設置されるУП
3日にチェルニーゴフでゼレンスキーと会談したUNESCO事務局長はその足でオデッサに向かい、4日、その立ち合いのもと、オデッサ旧市街の世界文化遺産登録に関するパネルの除幕式が行われた。

「ロシアもロシアらしく17機のシャヘドを送り込んでお祝いしてくれた」とウクライナ外務省首席次官。

4月3日

ゼレ

ロシア軍のキエフ撤退から1年になる。昨年3月末~4月頭にかけて北部の諸都市・村落が次々解放されていった。そんな一つ、チェルニーゴフ州のヤーゴドノエ村をゼレンスキーが訪れた。

村はベラルーシからキエフへの通り道にあたる。たまたまたキエフへの通り道に位置していたこと、そのことをすべての理由に、村人全員が地下の一室に押し込められ、そこで2022年3月の一か月を過ごさなければならなかった。1か月半の赤ちゃんから93歳のおばあちゃんまで350人、息苦しい狭隘な空間、完全な暗闇、飢えと渇き、不衛生、相次ぐ発狂者。10人が死亡した。別に、ロシア兵の発砲による死者17人。УПУП
この「死の地下室」を訪れた後でゼレンスキー「もはや一つの願いしか持ちえない:ロシア大統領が残りの人生を同じ地下室で過ごすこと。バケツで用を足す日々を」УП

ゼレンスキー、UNESCO事務局長と会談、オデッサのための証明書を受領УП
同じチェルニーゴフでゼレンスキーはウクライナを訪問していたUNESCO(国連教育科学文化機関)のアズレ事務局長と会談、前者は後者にロシア軍の攻撃によって損傷したウクライナの文化財は1190件に上ると報告、後者は前者にオデッサ旧市街の世界文化遺産および危機遺産への登録証書を手渡した。

ゼレンスキー、ポーランド訪問計画УП
ゼレンスキーが5日にポーランドを訪問するそう。首脳会談、在ポーランドウクライナ難民との面会、また同時期にブリュッセルで開催されているNATO外相協議(ブリンケン米国務長官も参加)に合わせた可能性もある由。珍しいのはこのことが3日朝の時点で報道されている点で、これまで外遊(どころか国内各所訪問さえ)は電撃訪問が通例だったが。

(以下、ほぼ自分用のメモ:疑問①そもそも何故戦時下における首脳の要地訪問は電撃・隠密である必要があるのか。たとえば岸田のキエフ訪問予定が事前に周知されていたら露軍はそこを狙ったのか?岸田を殺害するメリットよりは、それによる国際の非難と制裁の強化・孤立の深化というデメリットの方がよほど大きいと思うが。そんならバイデンのときみたいに「今からこれこれの人物がキエフを訪問するので間違っても攻撃しないように」と露側に事前に通告しておく方がよくないか。ゼレンスキー自身の移動についても、ゼレが敵の殺害目標筆頭であることは疑いないが、基本的にゼレの平生の居所は判明しているではないか(キエフのバンコヴァヤ通り)。有無を言わさずゼレンスキーを殺害するならここへウクライナの対空防衛力を凌駕する圧倒的数量のドローンだのミサイルだの撃ち込めばよい。あるいはウクライナ側が迎撃能力の欠如を自認する極超音速ミサイル。疑問②私が無知なだけでやはり安全確保に決定的に重要だからこそ要地訪問は原則厳秘なのであろうが、ほんじゃなぜ、今回のポーランド訪問は2日も前にアナウンスされたのか。ひとつの希望的想像――陽動なのではないか。ウクライナの春季反攻が今日明日にも始まるのではないか?)

爆殺の件

昨日書いた件のその後の報道まとめ。

まずロシアのプロパガンダメディアは本件をウクライナの特務機関およびナヴァーリヌィ財団と結びつけて報じる方針をとった。2日サンクトペテルブルクで行われた「テロ」はナヴァーリヌィ財団と協力関係にある人物との共謀のもとウクライナの特務機関が計画したものだそうだ。ペスコフ露大統領報道官「キエフ政権はテロを支援している。ダリヤ・ドゥーギナ殺害の背後にもこの政権があった。今度の殺人の背後にも大方キエフ政権が立っているだろう。2014年以降人々の殺害の背後にはいつもこの政権の影があった」УП

一方のゼレンスキー「サンクトペテルブルクだのモスクワで起こっていることについては考えない。それについてはロシアが考えるべきだ。私は自分の国のことを考える」УП

なおISW(戦争研究所)のレポートでは、今度の事件がむしろロシア側の特務機関による謀殺である可能性が示唆されている。いわく、露高官およびメディアは性急にもウクライナ非難に勤しんでいるが、今度の事件はPMC「ワグネル」のプリゴジンをめぐるロシア内部の闘争の一環をなすものである可能性がある。今やウクライナ戦争をめぐるクレムリンの方針に公然と疑義を呈し、露大統領の座をめぐってプーチンの競争者ないし後継者となる意欲すらほのめかすプリゴジンに対し、クレムリンが「警告」を出したものでは、と。УП

日本、ロシア、石油

がっかりな話。「ロシア産石油を上限超えで購入 足並み乱す日本」WSJ 日本語版

4月1~2日

ロシアが安保理議長国にBBC JAPAN ←日本語)
4月1日~30日の1か月間、ロシアが国連安全保障理事会の議長国を務める。「エイプリルフール史上最悪のジョーク」とはよく言ったもの。安保理の意義がこれほど下落したことはかつてない。国際の平和と秩序の番人が聞いて呆れる。安保理の改革もしくは解体を、ロシアの常任理事国からの除名を、と叫ぶのは簡単だが、「この現実を変えるための実行可能な国際的な法的手段は存在しない」(米大統領府)。人類は善良で正当な人たちに領導されてはいないし、我々の安全を守る庇護の傘はぼろぼろに穴が開いているし、世界史はなお完成からはほど遠い……ということに改めて思いをいたす。

ISW:ロシアは3月末までにドネツク・ルガンスク両州全域を掌握するという目標を達成できなかったУП
ISW(米戦争研究所)によれば、ロシアの冬季「大」攻勢はついに失敗に終わったということで、ウクライナ・ロシア・西側の消息筋の意見は一致している。クレムリンが設定した「3月31日までにドネツク・ルガンスク両州全域を制圧する」という目標は達成できなかった。ロシアの軍事ブロガーらは冬季の戦闘でロシアが決定的な戦果を収められなかったことに失望を深めており、今後一週間でバフムートとアドヴェーエフカを制圧できないのであれば今後大規模な攻勢を続けることは不可能と見て、それよりは4月16日~5月9日の間に予想されているウクライナ側の反攻への備えを整えるべきだとしている。

ユモリーナ 50th AnniversaryОЖОЖОЖ
4月1日のエイプリルフールにオデッサでは毎年「ユモリーナ」(ユーモア祭)と呼ばれる祭典が開かれている。去年と今年は戦時下ということで規模を大幅縮小したが、何かしらのことは行われた。昨年については前の前の前の記事4/3付「戦時下のユーモア」の項を参照。50周年の今年は本来なら盛大に祝いたかったであろうが、代名詞である仮装行列・大道芸等の公式の催行は取りやめ、記念切手の発行、コンサート、展覧会程度にとどめた。
大道芸の方は姉妹都市である横浜市が代行した。主催は大恩ある大島幹雄さん(サーカス学会会長)。神奈川芸術劇場に日本国内のclownたちが集まり「クラウンパレード」が行われた。オデッサのクラウン劇場「マスキ」の芸術監督であるデリーエフらのビデオメッセージも紹介された。

ゴーゴリ in OdessaОЖ
4月1日はまたウクライナ生まれのロシア語作家ニコライ・ゴーゴリの誕生日でもある。ゴーゴリはオデッサにも一時居住した。それがため、過去のユモリーナの仮装行列ではしばしば「鼻」その他作中人物やゴーゴリ本人が登場したということだ。ОЖに特集記事が出たのでこの際ゴーゴリとオデッサの関わりを紹介しとく。ニコライ・ゴーゴリ(1809-1852)は1848年および1850~51年の2度にわたりオデッサに住んだ。2度とも現在ゴーゴリ通りの名がつけられている同じ通りに住んだ。二度目の住居の現状については何丘ブログ「半壊の『ゴーゴリの家』」参照。1度目のときは折悪しくオデッサがコレラ禍に見舞われていて検疫で現在のシェフチェンコ公園のところに少なくとも2週間留め置かれたあと数日だけ上記の家に住んだが感染を恐れて早々に退散した。2度目のときは1850年10月~1851年3月のひと冬を過ごし「死せる魂」第2部の執筆に取り組んだ。温暖な気候を好むゴーゴリはオデッサの穏やかな冬がいたく気に入り、書簡の中でオデッサを仏ニースにすら比した。当時オデッサに住んでいたレフ・プーシキン(詩聖アレクサンドル・プーシキンの弟)と親交をもち、「検察官」を上演する劇場に足繫く通い俳優たちと交流するなど、充実した日々を過ごしたようだ。次の冬また戻ってくるよと友人らに言い残して立ち去った。「ここでなら私も息ができる」とてんちむみたいなこと言って。次の冬、52年3月に、モスクワで没した。

春の到来~オデッサ市内各所で噴水がオープン~ОЖ
欧州の街らしくオデッサは市内各所に噴水がある。冬季はフタされるのだが、4月1日付で噴水が再稼働した。いよいよ春だ。下に掲げるのは何丘撮、左上から時計回りにオペラ劇場脇広場、горсад(都市庭園)、イスタンブール公園、горсад

ダーチャの義父母からも花の便りが届いている。

水仙、ヒヤシンス、チューリップ。

サンクトペテルブルクの飲食店で有力プロパガンディスト爆殺MeduzaУПОЖ
ロシアの北都サンクトペテルブルクの飲食店で2日、爆発があり、ウクライナ侵攻を支持する有力ブロガー(テレグラムのフォロワー56万人)マクシム・フォミンが死亡した。いろいろきな臭い。まず、当該飲食店はPMC「ワグネル」のプリゴジンがもともと所有していた店だった。また、その店では毎週末「サイバーフロントZ」と称する討論クラブが開かれていた。2日はフォミンを囲む「創造の夕べ」と称するイベントが開かれており、参加者の女性が同人をかたどった石膏像をプレゼントした5分後にその胸像が爆発して登壇者は死亡、参加30人が負傷した。当該女性は昨年2月に反戦デモに参加して拘束された経歴をもつロシア女性であり、すでに拘束されている。

ОЖによれば、フォミンはロシアの最有力プロパガンディストの一人で、SNSで好戦的言辞を繰り返して人気を博し、オデッサについても度々発言していた。本人テレグラムスクショ↓

↑22年10月11日(ウクライナの電力インフラに対する大規模ミサイル攻撃が始まったころ):よい一日のはじまり。ザポロージエ、オデッサ、ヴィニツァの火力発電所への攻撃。足りないぞ、もっとやれ!

↑オデッサから寄せられたメッセージ:私たちは火をかぶることを恐れません。発電所でも鉄道駅でも何でも爆破してください、地下壕で耐え抜きます、死んだら死んだで構いません、ロシアがこの人非人どもを打倒し、オデッサを解放してさえくれればそれでよい!電気も水も暖房もなくて構いません。ファシストどもとここへ残ること、怖いのはそれだけです。

このように「オデッサ市民の声」を捏造、あるいは例外的「ロシア世界」狂信者の声をさも全体の意見であるかのように紹介して「特殊軍事作戦」の正当性を鼓吹していた。

今度の爆殺はテロであり、あらゆるテロは非難されるべきであるはずだが、肯定……を越えて、賞賛したい自分がいる。率直に言って、この死は応報である。ロシアの世論形成にブロガーだの文化人が果たしている役割は大きい。ステレオタイプとして主戦派の中核を占めているのはTV視聴者層=中高年と考えられている(相対的には事実。Levadaの最新の調査でも――УП)が、絶対数で見れば若い世代にも少なくない戦争支持者がおり、彼らの思想形成に直接的に影響を与えているのは今回爆殺されたフォミンのようなSNSスターたちである。これら一群のインフルエンサーは、本心であれ人気取りであれ、国営テレビの共鳴版の役を果たし、戦争を推し進めている以上、”戦犯”と呼ぶしかない。ゲッベルスとは時代がちがう。

死者がターゲット一人というのもよくやったし、負傷30人というのも、そもそもこの種のイベントに集まっていた人たちのことだから、正直心が痛まない。場所が戦争の匂いの希薄な文化首都サンクトペテルブルクというのもインパクトが大きいだろう。自身の起こした軍事的冒険によってロシアに(とりわけ戦争支持者にとって)安全な場所がなくなっている、という強烈なメッセージを与える。何より、これがウクライナの特務機関の工作でなく、ロシア国内の反戦活動家によるものと早期に報じられていることが好ましい。「蜘蛛どもが壜の中で共食いを始めた。対内テロが対内政治闘争に発展するのは時間の問題だ。スムータ(大動乱)2.0のはじまりだ。我々も我々でなすべきことをしよう」ウクライナ大統領府顧問ポドリャク(УП

3月30日

キエヴォ・ペチェールスカヤ・ラヴラУПУПУПУП
キエフ郊外にあるラヴラと呼ばれる大修道院は長らく「モスクワ総主教庁系ウクライナ正教会」の管轄下にあったが同宗派の敵性認定により対立宗派たる「ウクライナ正教会」への転籍が決められ、前者は3月29日付で立ち退きを命じられていた。前者の宗派トップはこれを不服とし文化省役人の立ち入りを拒否して勤行を決行したり取材記者を攻撃したりイコンを院外へ運び出そうとしたり、まぁ泥仕合が行われている。ダニーロフ国家安全保障会議書記「これは”追放”ではない。既存の法規に基づき、国有資産からの立ち退きが粛々と行われるまでだ」(УП)、ゼレンスキー「我が国の精神的独立の強化に向けた一歩だ。モスクワによる古き悪しき宗教支配から我々の社会がよりよく守られるようになる」(УП

ラヴラについて何丘妄語:キエフのラヴラは未訪である。だが憧れの地であった。オデッサ滞在中キエフには二度訪れたがいずれも大使館に用があり夜行で行って夜行で帰る弾丸旅行で郊外のラヴラまではついに足が伸びなかった。そのうち行く機会があるだろうと思ったがこのようなことになってしまった。日本でも神宮とか大社とかつく神社は数少ないがラヴラというのは極めて格式の高い称号で、妻の話ではルーシ広しといえどもラヴラと名のつく修道院は3つ――モスクワ郊外のセルギエフ・ポサードのラヴラ、聖ペテルブルクのアレクサンドル・ネフスキーラヴラ、そしてキエフのペチェールスカヤラヴラ――のみの由だった。なんかロマンを感じた。その3つを全部訪れたいと思った。Lavraというその音にも魅せられた。この話をしたとき私たちはまさにセルギエフ・ポサードにいた。のち私たちはペテルブルクのラヴラも訪れた。若さと愛と幸福と平和。今や各程度に翳りを帯びたそれらすべてのものが即座に連想されるLavraの語。

社会調査:ウクライナ人の5人に1人が民族的ロシア人たるウクライナ市民に対し排外感情を持っているУП
キエフ国際社会学研究が先月末~今月頭に行った調査。あるカテゴリーに属するウクライナ人(A)をどの程度近しい距離(B)に置くことを許容するか。下表でAは、左から「国外避難者」「国内避難者」「22年2月24日以降被占領地に居住したウクライナ人」「ロシア語話者たるウクライナ市民」「民族的ロシア人たるウクライナ市民」。Bは、上から「家族、友人、隣人、同僚」「ウクライナ居住者」「ウクライナ逗留者」「ウクライナには入れたくない」。

さしあたり最右列の4段目に着目すると、「民族的ロシア人たるウクライナ市民」の新規入来拒否を是とする人は22.5%に及び、これに比べれば「ロシア語話者たるウクライナ市民」に対してはまだ寛容(6.6%)である。だが「民族的ロシア人たるウクライナ市民」とは。外見・行動で見分けがつかないのであればパーセプション(認識)の問題でしかない。ロシアと名の付くすべてのものに対してアレルギーが強化されている。戦争の自然だ。

3月29日

レズニコフ国防相:4-5月をめどに複数方面で同時に展開УП
ウクライナ側の大規模反攻はいつになるか、どのように行われるか。レズニコフ国防相がエストニアメディアのインタビューであらましを語った。いわく、反攻は複数方面において計画されており、その実施時期は気象条件に左右される。ウクライナ軍は「しかるべき時」を待っており、その日は4月ー5月に訪れる。
また、前線の兵士たちは疲労が蓄積している、とも。「心身ともに困難なときを迎えている。兵士のローテーションに努めてはいるが、戦争の現実は厳しい。私とて1日3-4時間しか眠っていない。もうこれが日常になった」。むろん敵側にも疲労が蓄積している。

プリゴジンは大統領選をにらみプーチンのイメージに自分を寄せに行っている?УП
ISW(戦争研究所)のレポートによれば、PMC「ワグネル」のプリゴジンは露メディアを使って自己のイメージアップ・露エスタブリッシュメントのイメージダウンをはかり、次期大統領立候補の布石としようとしている可能性がある。先日発表されたインタビュー動画で同人はプーチンのこれまでのインタビューを彷彿とさせるヴィジュアルで自己を演出しているという。こういう内容をISWが発信することそのものに意味がある(ISWレポートはむろん露中枢も読んでいる)。相互不信によって自壊しろ。

バフムート

ISW:ロシア軍はバフムートの何%を掌握したかУП
ロシア軍は最近7日でさらにバフムートの5%を掌握し、現時点で市のおよそ65%を掌握している。

ゼレンスキー:バフムート防衛がなぜ重要なのかУП
「プーチンは我々が少しでも弱みを見せれば圧して・圧して・圧しまくる。バフムートが陥ちればプーチンはその勝利を西側に、国内に、中国に、イランに鼓吹する。バフムートをめぐる戦いにもし我々が敗れれば、ウクライナ社会は疲労を感じ、妥協へとうながされる」だからバフムート防衛は重要なのだ、とゼレンスキー。要するに、象徴的な意義。

レズニコフ国防相:バフムート防衛がなぜ重要なのかУП
「ロシアはバフムートを全力で攻撃してきているがウクライナ軍の防衛によって急速に侵攻ポテンシャルを消尽しつつある。敵側の損失は甚大で、1日平均500人の死傷者を出している。自軍の相当な損失を覚悟でバフムート防衛に努めている根拠はここにある。バフムート防衛によってこそ敵のポテンシャルは制限され、他の全戦線を安定させることができ、来るべき反攻への準備を整えることができている」。逆に敵にとってバフムートとは?「敵の計画はバフムート突破後に航空機・火砲・装甲車両を用いて大規模攻撃を展開しドネツク・ルガンスク両州を全面制圧することだ。敵にとっては補給(兵站)の観点からバフムートは重要なのだ」。またバフムートは高台に位置しており守りやすい地形、これを手放すと別のより守りにくい地形の街で防衛線を戦うことになる、とも。

3月28日

オデッサで暴風→停電УПОЖОЖОЖ
28日、オデッサ州を強風が吹き荒れ、倒木による断線などで大規模な停電があった。最大瞬間風速20m毎秒というから相当な風だ。とはいえ、人災の側面もある。オデッサは緑が多いのは結構なことだが、あまりに伸び放題で、ちょっとの風雪でアカシアとかばたばた倒れる。街路樹の剪定とかその健康状態・強風耐性のチェックとか絶対ちゃんとやってない。倒れた樹木は50本ほど、停電は一時41自治体に及んだという。

マックが開いたよ(∩´∀`)∩ワーイОЖОЖ
28日、オデッサ市民待望の、マクド店舗再オープン。昨年2月24日、ロシアの大規模軍事侵攻始まってすぐ、市内の全店舗がクローズした。このかん加害国ロシアの方ではフクースナ・トーチカ(おいしい。その一語に尽きる)とかいう偽マックがオープンしたり、ウクライナでもキエフとか北また西のほうでは結構早い段階で稼働再開していたが、オデッサら南部諸都市は長らく待ったをかけられていた。1年1か月と3日。ブライアン・マックナイトみたいに(マックを)待ち焦がれていた。強風が吹き雨もぱらつき寒い日だったが、基本テイクアウト利用で、車列も人の列も各店舗長蛇をなしたということだ。

わっちもその列に連なった。28日ひるめしマック。てりやきのハンバーガーとポテトの小さいの。一瞬で食べた。「入れる」という感じだ。口から入れて、お腹まで刺し込んだ。ファストフード(быстрое питание)とはよく言ったものだ。驚きの速さで席を立った。向こう1年は食わなくてよい。うまいもん色々ある日本でわざわざ好き好んで食べるようなものではない。

教会対立УП
モスクワ総主教庁系ウクライナ正教会からウクライナ正教会へ転籍したイワノ・フランコフスク(ウクライナ西部)のとある正教寺院にウクライナ正教会の聖職者が入ろうとするのをモスクワ総主教庁系ウクライナ正教会の信徒らが実力で阻止した。催涙ガスなども使用された。結果的に聖職者らは入堂を果たし最初の勤行を行ったということだ。

宗教の話題には関心と苦手意識をともに持つ、後者のゆえに基本取り上げないが、戦争によるオデッサ/ウクライナの社会・文化・生活の変化を観察することを旨とする当記事(「ウクライナ戦争側面史」をうたう)としては当然取り上げるべきテーマではある。大枠だけ言っとくと(瑕疵は大いにあり得る)、ウクライナには「ウクライナ正教会」と「モスクワ総主教庁系ウクライナ正教会」の2派閥があり、前者は国家の庇護を受け、後者は迫害を受けている。なんで後者が迫害を受けているかというと、がんらい東方正教会は(ロシア正教であれウクライナ正教であれ)国家との結びつきが強く祈祷で国家・国軍・国家元首の安泰またその政策の成功を祈るということがわりとふつうに行われるなかで、「モスクワ総主教庁系ウクライナ正教会」はプーチンとその軍および軍事作戦を支持し祝福するものとされ、要はウクライナにあだなす裏切者ということで、寺院への管轄権その他権限を続々剝がされていっている。この傾向は14年以降すでに存在し、オデッサでも両派閥の寺院が混在している由だったが、どれがどっちに属するものなのか正直把握はしていなかった。名前の違いと、あとは「何に祈りを捧げるか」の違いしかないわけだから、その違いが先鋭化していなかった22年以前は、信徒としてはどっちでもよかった、籍(所属)がどうあれ、ただ通いなれた会堂へと通い続けた、ということだろう。以上がざっと現時点の筆者の認識、これから勉強を深めていきたい。

3月27日

この日曜でウクライナは夏時間に移行した。日本との時差は6時間(日本の正午がウクライナの朝6時)となる。時節を合して暖房シーズンも終わりを迎えつつある(※ウクライナの都市部はセントラルヒーティングというやつで市中のプラントからパイプラインを通じて各戸へ熱水が配給され暖房となる)。ウクライナ石油ガス社総裁「もう数日寒さが続くがそのあと暖房シーズンは(オデッサ、ニコラエフなど南部から)順次終わっていく。私たちは史上最も厳しい冬を越えた。私たちは自信を深めた――今後何があっても耐え抜ける、と」ОЖУП

オデッサの10日間予報↓

読み方:左端が「3月28日火曜曇りときどき晴れときどき雨、最高気温9度、最低気温3度」。まだ最高気温が一桁だったり最低気温が零下だったりすることに注目。これでは桜も咲かない。

同、キエフ↓


ニコラエフいまどうなってる?ОЖ
オデッサをその背中に隠して開戦以来ぼこぼこに殴られ続けた兄弟都市ニコラエフは昨年11月のヘルソン解放でかなり静穏になった。戦禍の爪痕なおありありと残るが、街は日常を取り戻しつつある。「その姿は大患の病後を思わせる。少しずつではあるが、回復へ向かっている」。ОЖルポ。

・オデッサとニコラエフを結ぶ車道は生きており、自動車の往還はそれなりに激しい。バスも出ている
・文化施設(ミュージアム、動物園、劇場)は営業している、公園には遊ぶ子供たち、ベンチには恋人たちの姿
・とはいえ目抜き通りにかつての活気はなく、銀行、オフィス、飲食店の半分ほどが閉まったまま
・「空き家あり」の張り紙が目立つ
・多くの窓ガラスが板を打ち付けられたまま(爆発の衝撃波で割れないよう)

・「脱露・脱ソ」の波は無論ここにも。かつての「モスクワ通り」は「マリウポリ通り」に改称され、プーシキン像は撤去された
・とはいえロシア語で書かれた看板や張り紙はむしろオデッサより多く目につく↓

・電気はあるが水がない。この冬の電力逼迫はむしろオデッサより軽微だった。だから秋以前にニコラエフからオデッサに疎開してきた人の多くが、冬季オデッサからニコラエフへ帰還した。だが蛇口から浄水が出ない状況は今も続いていて(ロシア軍の攻撃で水道網が壊滅し早くからニコラエフは水不足に苦しめられていた。横浜市から姉妹都市オデッサへ送られた携帯用浄水器もニコラエフへ転送されている)、復旧のめどは今も立たない。だが下図のような設備が街路に仮設され、これで市民は浄水を得ているという。利用は無料、特に行列もできていなかった。つまり、市民は一応、十分に浄水にアクセスでいているということだろう。だが不便には違いない。

・食事に困っている人も多くキッチンカーの炊き出しが今も行われている。ボランティアセンターも多数設置されている。とある若者「マクドナルドの再オープンが待ち遠しい。オデッサの店舗に続いてニコラエフのそれも4月頭に再開することになっている」

・攻撃の脅威が消滅したわけではない。キンブルン砂嘴(ニコラエフ州で唯一今も敵の占領下にある)から今にミサイルが飛んでくるかもしれない。倒壊した家屋、外壁の弾痕、黒焦げの立木、これらが戦争の記憶を生々しく呼び覚ます。

・アスファルトに残ったクラスター爆弾の破裂痕。人呼んで「たんぽぽ」↓

3月23~25日

ゼ「ウクライナは武器不足のため反攻に転じられない」УП
読売新聞によるゼレンスキーへのインタビューがウクライナメディアでも報じられている。いわく、ウクライナ軍は春に予定されていた反攻を開始できない、なぜなら武器が十分でないから。もっと武器が――弾薬や戦闘機が必要で、軍はその到着を待っている、とのこと。

国防省:反攻については聞かないでほしいУП
国防次官「反攻はいつになるのかと聞くことでその実現を邪魔しないでほしい」「ハリコフにおける反攻についてそれが始まるまで議論が行われなかったことはよいことだった」「静寂のお陰で軍は準備を整えることができた」「ありうべき関係は①大統領・国防相・軍総司令官が戦略プランを公表する→②それ以外の人がそれを引用する、これだけだ」「公開の場で専門家に対し『反攻の件どうなってますか』など質問しなくてよい。これについてブログで論じたりSNSで呟いたりしなくてよい。わが軍の軍事計画を公開の場であげつらうこと自体がNG」

露は侵攻の進捗思わしくなく防戦に転じている?УП
英国防省の定例インテリジェンス・リポート。ロシア軍は侵攻の不振を受け防衛的な作戦計画に回帰し前線の安定化を試みている。バフムート攻撃は大幅に減速した。深刻な戦力消耗によるものと見られる。また露正規軍とワグネル軍の関係緊張も露軍にとっての状況悪化の一因となったと思しい。

海賊国家ロシアУПУП
「ネットフリックスその他西側コンテンツ産業がロシア市場から撤退した。では我らは海賊版を探そう。全部ダウンロードしよう。無料で利用してやろう。私なら自ら進んであらゆるコンテンツをネットにアップロードする。そうして向こうさんに最大限の損失を出し、彼らを破産させてやる」これがロシアの前大統領にして現安全保障会議副議長の要職を占めるD.メドヴェージェフの言うことである。これに呼応して露大統領府のペスコフ報道官「メドヴェージェフ氏に同意する。トレント(ユーザー間で直接ファイルを交換する仕組み)を利用したことがあるか?やり方は分からないが、トレントで映画をダウンロードしてもらってはいる」
(cf. 擁護民:戦争と文化は別!ロシアのすばらしい芸術や文化を守らなくっちゃ!)

世論調査:戦争でウクライナ人の文化生活はどう変化したかУП
キエフ国際社会学研究が1月末~2月頭に行った調査では、戦争による影響なしと答えた人は全体の4分の1にとどまり、多くが嗜好の変化(ウクライナ語/国産コンテンツをより多く消費するようになった、新たな表現活動を始めた)を証言した。

「ウクライナの音楽をより多く聞くようになった」56%
「ウクライナの作家をより多く読むようになった」22%
「歌を始めた」3%
「絵を描き始めた」2%
「詩や物語を書くようになった」2%

また、同じコンテンツでも、かつてロシア語で楽しんでいたものを、かわりにウクライナ語で楽しむようになった、と答えた人も多い。

【映画、ドラマ】
「ウクライナの映画/ドラマをより多く見るようになった」42%
「ロシアの映画をある程度/全く見なくなった」46%
「全然見なくなった」9%
「変化なし」15%

【音楽】
「ウクライナの楽曲をより多く聴くようになった」53%
「ロシアの楽曲をある程度/全く聴かなくなった」41%
「全然聴かなくなった」6%
「変化なし」14%

【本、雑誌】
「ウクライナの本をより多く読むようになった」38%
「ロシアの本を読まなくなった」31%
「全然読まなくなった」8%
「変化なし」28%

【YouTube】
「ウクライナのコンテンツをより多く見るようになった」39%
「ロシアのそれを見なくなった」31%
「全然見なくなった」6%
「変化なし」27%

【ブログ、SNS】
「ウクライナ人の発信をより多く聞く/読むようになった」34%
「ロシア人のそれを聞く/読むことをやめた」26%
「全く聞かなく/読まなくなった」10%
「変化なし」30%

世論調査:戦争でウクライナ人の歴史観はどう変化したかУП
キエフ国際社会学研究の調査(同上)では、国民の間で自国の歴史への関心が高まっている。ウクライナ史への興味がこの10年で高まったと感じる人、またこの1年の間に高まったと感じている人は、ともに69%であった。自国史への関心を満足させる手段としては、YouTube動画視聴53%、SNS情報摂取37%、テレビ見る35%、本を読む29%。

面白いのは、歴史上の人物に対する評価を個別に聞いたところ、「ウクライナの民族また国家の形成に貢献した」人物は肯定的な評価、「ロシアおよびソビエトのリーダーら」には否定的な声が集まった。例:ボグダン・フメリニツキー肯定89%否定7%、ステパン・バンデラ肯定83%否定11%、ニキータ・フルシチョフ肯定23%否定67%、ピョートル大帝18:71、エカテリーナ女帝13:80、レーニン8:86、スターリン6:90、等々。

歴史的事象に対する評価も個別に聞いていて、ウクライナに肯定的な影響を与えた事象の筆頭はソ連崩壊やマイダン革命(ともに肯定83%)、逆に否定的な影響を与えた事象としてソ連樹立73%、第二次世界大戦87%、ホロコースト91%、アフガン侵攻92%、現在のロシア・ウクライナ戦争81%などが挙げられている。

切手「忘れない、許さない。ブチャ、イルペン、ゴストメリ」УП
31日のキエフ州解放(昨年、ロシア軍の同州からの撤退)記念日に合わせて国営郵便が新たな戦中切手を発行する。「忘れない、許さない。ブチャ、イルペン、ゴストメリ」と銘打たれたもの。

世論調査:ほぼ全国民が勝利を信じているУП
棒研究所が先月頭に行った調査。ウクライナが戦争に勝利することを信じていますか?――Yes(82%)どちらかというとYes(15%)No(1%)。2022年4月からほぼ変化なしという。

世論調査:ウクライナ人の3分の1で親族・友人が死傷しているУП
ラズムコフセンターが先月末~今月頭に行った調査では、ロシアの大規模侵攻の結果死亡しあるいは負傷した親族・近しい知人(平民・軍属を問わず)を持つウクライナ人は全体の37%に及んでいる。調査地からはロシアが占領している地域および戦闘が行われているい地域は外されている。

グッバイ・ガガーリンУП
地名・道路名の脱ソビエト/脱ロシア化はなお進行中。キエフ市議会がさらに16件を改称した。「レフ・トルストイ通り」「レフ・トルストイ広場」「ユーリイ・ガガーリン広小路」「マリーナ・ツヴェターエワ通り」他がキエフから一掃され、それぞれ新たな名をつけられた。

敵機からオデッサ州にミサイル2発(ともに撃墜)УП
23日晩、黒海上の敵機からオデッサ州へミサイル2発が発射された。ともに撃墜に成功した。21日に次いで2度目。

3月22日

もう貴様らの人生に逮捕されるより良いことは起こらないУП
ゼレンスキー:ロシアの戦敗はすでに明白である。ロシアの殺人者一人一人がこう心得ておくことだ。逮捕状(ордер на арест、ハーグ国際司法裁判所のプーチン宛て令状を念頭)こそ自分の身に起こりることの中で最良のものであると。

キエフ州にシャヘド襲来、寮が破壊され4人死亡УП
22日未明、キエフ南郊のルジシチェフ市を夜間イラン製自爆ドローンが襲い、専門学校の寮が損傷、4人死亡、7人が負傷した。この夜ウクライナを襲ったドローンは21機、うち16機を撃墜。キエフ上空に出現した8機は全て撃墜した由。(3/24追記:死者は9人に上った。УП

21日のオデッサ攻撃はジャンコイの意趣返し?ОЖ
ウクライナ軍南部防衛隊広報によれば、珍しくオデッサ市が撃たれた21日の男子修道院破壊の一件は、それに先立つ20日にクリミア北部のジャンコイで鉄道結節点および輸送中のミサイルが破壊された一件の、一種の「報復」である可能性が高い。「南部の情勢が緊迫化するとき敵は決まってオデッサを撃ってくる」
(私は春以降ザポロージエ以下南部が続々解放されていくことを望むが南部で戦闘が激化すると後背地オデッサへもミサイルが頻々と飛ぶようになるのか・・)

水のまほろばオデッサ州ОЖ
岸田がゼレとの共同会見で「ウクライナの美しい大地」との言葉を使った。ちょうどОЖに「オデッサ州:25の川と200の湖」と題する記事が。日本がほとんど失った手つかずの自然というものがウクライナにはふんだんにある。

手つかずだけに写真で見ると代わり映えしないかもしれないが。左上から時計回りにドナウ川・ドニエストル川・白湖・ヤルプーク湖(Ялпуг)

ウィーンやブラチスラヴァやブダペストを潤す欧州を代表する大河であるドナウがオデッサ州にて黒海に注いでいることは意外に知られていない。
ヤルプーク湖はウクライナ最大の湖で面積149км²というのは琵琶湖よりだいぶ小さく猪苗代湖より大きい。リマンと呼ばれるものの一つで、リマンとはたぶん潟湖の一種、河川の河口部が陸地に閉ざされて湖と化したもの。オデッサ州におびただしくある。たとえば

オデッサ市を2時の方角に顎を上向けたタツノオトシゴに見立てたとき体躯に不釣り合いにでかい鹿角がにょきにょき二本生えている、この右がクヤリニク、左がハジベイ。これらリマンは私らにはまことに身近な存在だった。

I ♡ OdessaやめませんかОЖ
碇(⚓)とハート(💛)を組み合わせたロゴチップが長らくオデッサ市のシンボルみたいに使われていたのだがこれを考案したのがロシアのプロパガンディスト、アルテーミイ・レーベジェフであることが問題視され、この意匠を市内から一掃しようという話が出ている。

この問題について(またレーベジェフという人について)は前の前の記事7/14付けで伝えた。

3月21日

岸田のキエフ電撃訪問については割愛。

習プー共同記者会見УП
児童誘拐犯プーチンが中国の習近平国家主席との共同記者会見で述べた。「中国の和平案は多くの点でロシアのアプローチと合致しており、(ウクライナ戦争の)平和的解決の基礎になり得るものだ。もっとも現時点では西側・キエフは和平に前向きな姿勢を見せていないが」。ごく単純化していうと、人んちに土足で乗り込んで主人をたこ殴りにしているやつに対して隣人が暴力やめよう、話し合いで解決しよう!と言う、だが殴ってる奴は「相手が話し合いに前向きな姿勢を見せてくれない」とか言いながらなお殴り続けている。言うべきことはひとつ:お前がまず殴るのをやめろ。

オデッサ市に敵戦闘機から攻撃、負傷者ありУПУПОЖ
21日晩、黒海上の敵戦闘機(Su-35)から4発のミサイルが発射され、うち3発を撃墜、残り1発でオデッサ国際空港近くの男子修道院敷地内の建物が損傷し、4人が中軽傷を負った。不意に撃ってくる。意図はもちろん不明。

ジャンコイの爆発でハブ駅が損傷し使用不可にУП
クリミア北部の街ジャンコイで鉄道輸送中の露ミサイルが爆発した一件(20日)につきウクライナ軍南部防衛隊統合調整報道室長「ハブ駅の使用は現在不可能になっている。早期復旧を試みることであろうが――それもそのはず、鉄道は重火器・人員の輸送手段だから――我々はそうした努力を無効化する作業を続ける」「今度の攻撃は、積極行動(春の大反攻)の先ぶれをなす要素の一つである」。なお、ゼレンスキー「ロシア人の中でも特にめはしの利く連中はすでにクリミアからの移住を始めている」УП

3月20日

中国の習近平国家主席がモスクワを訪問中である。詳報が待たれる。

全部ウソだ、ただの芝居だ!Meduza
マリウポリ訪問の際にプーチンが地元住人とやらと会話しているところへ誰かが遠くから「全部ウソだ、ただの芝居だ!」と叫んだとかで、その音声がしっかり拾われた状態の動画が一時ロシア大統領府のサイトに掲載され・露プロパガンダメディアで拡散されていた由。私もそれ聞いてみたが音かぶりと反響で何言ってるか正直わからない。だがその叫びが鳴り響いた瞬間プーの取り巻きがきょどりだす様はばっちり映っている。大統領府サイト掲載版では当該箇所確認できず(削除されたか)

マリウポリを訪問したのはプーチンの影武者だった?УП
ウクライナ国防省情報総局広報によれば、例のマリウポリ訪問者がウラジーミル・プーチンその人であった確証はない。「酷似した人物が動画に映っているが、そもそもプーチンが存命かどうか専門家の間では議論が行われている。夜のマリウポリを散策してアパートの中庭で市民と懇談するなど本物には似つかわしくない。本物のプーチンなら巨大なテーブルごしに人らと大きく距離をとって会話し、片手が震えている。その他多くの特徴が動画中の人物には見られない」

ワグネル「ウクライナ軍が攻めてくる、ロシア正規軍助けてくれ」УП
ワグネルの首魁プリゴジンが露侵略相ショイグに公開書簡:3月末~4月頭にウクライナ軍が大規模攻勢に出てワグネルと露正規軍の分断を図るという情報がある。実現すればSVO(特別軍事作戦)にとって障害となるこの企図を予防すべく必要なあらゆる措置をとるよう懇請す」

クリミア北部ジャンコイで一連の爆発、露ミサイル「カリブル」爆破かУП
ウクライナ国防省情報総局によれば、クリミア北部のジャンコイ市で爆発があり、鉄道で輸送中であったロシアの巡行ミサイル「カリブル」複数が撃滅された。「ロシアの非軍事化とクリミアの脱占領への一歩」。露ミサイル/弾薬が使用される前に台無しになる系の報は手放しで喜べる。

ウクライナは世界で92番目に幸せな国УПWHR
国連の専門機関が出してる世界幸福度レポートとかいうやつで、ウクライナは109か国中92位だった。めちゃめちゃ低いなオイ。21年110位、22年98位と、じりじり上がってはいるそうだが。
直近3年間の客観/主観的評価で順位付けするそうで、激動の2022年単年での評価ではない。単年の成果としては2022年、「人々の善意」という項目が、ウクライナでは大幅アップ、ロシアではダウンしているということだ。とはいえ2021年より2022年の方が全体として幸せだったというのは相当に倒錯した意見であろう。
なお、上位はスカンジナビアほか北欧勢で固められている。首位は6年連続でフィンランド。米国15位、日本47位、中国64位、ロシア70位。

3月19日

プーチン、マリウポリ訪問УПУПMeduza
クリミアを訪ねたその足で頓風珍、自らの軍が破壊し占拠し「編入」したマリウポリを訪問。これについてウクライナ大統領府のポドリャク顧問「犯人は必ず現場に戻る(Преступника всегда тянет на место преступления)。戦争の総合監督(プーチン)め、文明世界に一歩足を踏み入れるや否や逮捕せずばやまず、と宣せられているなかで、マリウポリ数千世帯の殺人者が廃墟の街を見てご満悦。悔悟なき冷笑主義とはこのこと」
その流れで頓風珍、さらにロストフ・ナ・ドヌーにある司令拠点とされる場所を訪問した。露プロパガンダメディア発表の動画にはゲラシモフ総司令官・スロヴィキン副司令官の姿も。スーツ姿(平時コスチューム)にこだわるプーチン、ゼレンスキーと好対照をなす。

オデッサのマクドナルドが今月末いよよオープンしますОЖ
「奪われた日常」の象徴であったオデッサのマクドナルド店舗が1年ぶりに再オープンする。オデッサとマクドナルドについては本記事「マクドナルド」で語句検索を。3月28日に駅前広場やデリバーソフスカヤ通りの店舗が再稼働、4月1日に残り全店舗がオープン。

これを記念して3月28日に何丘は昼飯マクドナルドを食おうと思います。もともとあまり食べる人でなく、日本帰ってからこの1年は一度も食べてない。オデッサいた2年半の間に5回くらい食べた。だから私にはマクドナルドはさしあたりオデッサの味だ。これを食して(食ったらうまいに決まってる)、オデッサの人らと口福をともにする。皆さんもよかったら、3月28日、マクド食ご一緒に。「この一食をオデッサに捧げる」とかいって。

なお、オープン当日超長蛇の列が予想される中で、めはしのきくやつが場所取りビジネスで小銭を稼ごうとしている。

「デリバーソフスカヤのマックに朝5時から開店まで並びます、一人200グリヴニャ(800円)」。SNSにこんな広告出す。詐取するだけ(振り込ませておいて実際には並ばない。※携帯番号を介して市民間でカジュアルに少額の金銭授受が可能な社会です)の可能性も全然ある。こういうとこ、いかにもオデッサらしい。предпринимательство、エンタープライズ精神というのか、オスタップ・ベンデル(『12の椅子』)の末裔たち。なお、フョードル・カラマーゾフ(カラマーゾフ3兄弟の父)が商才を開花させ一財をなしたのもオデッサということになってます。

3月18日

ドローン攻撃(撃退)УПУП
17日晩にイラン製自爆ドローン「シャヘド136/131」16機がキエフならびにリヴォフを襲った。うち11機撃墜、特段の被害の報告なし。

「穀物合意」120日延長УП
国連・トルコの仲介による黒海北岸のウクライナ諸港(オデッサ含む)からの穀物の輸出の安全に関する合意が4か月(120日)延長された。

プーチン、クリミア訪問УП
3月18日はクリミア併合9周年の日。それに合わせてプーチンが3年ぶりにクリミアを訪問した。

オデッサ市長、横浜訪問(↓)

人に言われてはじめて知った(Oさん感謝です)。私のモニタリングがいかにザルかということだ。一応言い訳しとくと、遡って確認したが、毎日見出し全件閲覧してるОЖに本件取り扱いなし。Думскаяには取り上げられていた。Oさんに書いた私の返信文:トゥルハーノフが!知りませんでした。世界遺産登録のためのロビイングでイタリア・フランスなどは訪れていましたが、侵攻始まってから外遊じたい珍しい中で、これほど遠方へよく来てくれたものです。これを機に両都市の交流が深まってくれたらいいのですが。

オデッサには今年もバカンスシーズンは到来しないОЖ
悲報。次の夏もオデッサはビーチリゾートとしてオープンはしない。市民も観光客もビーチへの立ち入り禁止、日光浴・海水浴禁止。海には今も機雷がぷかぷか浮いているし、沿岸部へのミサイル攻撃の脅威も依然として大きい(3/15参照)

今夏スイカはヘルソンでなくオデッサで作りますОЖ
伝統的にウクライナのスイカ首都はヘルソンであったがヘルソン州の畑は地雷原と化していてこの無害化にも手間と時間がかかるので、かわりにオデッサ州の畑でスイカを作るそうだ。一時的にオデッサがウクライナのスイカ首都になります。

【きょうのロシア語】
А борщевые овощи — буряк, морковь и картошку будут выращивать в Центральной и Западной Украине.
訳:ボルシチ野菜(ビーツ、にんじん、じゃがいも)はウクライナ中央部および西部で栽培する。
(「ボルシチ野菜」という概念があるらしい。なおбурякは一般的にはсвёкла)

2つのЗУП
「2つのЗ」と題する論考がУПに。

2つのЗと書いて「ふたつのさん」でなく「ふたつのぜー」と読む。キリル文字の「З」(ゼー)から始まる2人の人物がいまウクライナを牽引している。ゼレンスキー大統領と、ザルージヌィ総司令官。いみじくも敵軍はラテン文字の「Z」の字を戴いている。Zの軍勢の侵略に立ち向かう2つのЗ、という整理に畜生うまいこと言うなと思った(ちょっと口惜しい)

2人は対照的な経歴を持ちながら今は共通して絶大な人気と信頼・知名度を誇るリーダーである。ゼレンスキーは生涯軍務経験が一度もないコメディアン出身の政治リーダーで、ザルージヌィは生え抜きの軍人、2月24日以前は知る人ぞ知る存在だった。ゼレンスキーには昔も今も一定のヘイターがいて、彼らは常態的にゼレンスキーの後継(対抗馬)を探している。一時はポロシェンコ前大統領を反ゼレの旗頭にかつぐ動きがあったがゼレの人気に到底太刀打ちできないと見て、代わりに期待を集めたのが同等の人気を誇るザルージヌィであった。ザルージヌィ総司令官こそ次期大統領に相応しいのでは。ということで春以降、政治トップと軍トップの反目のうわさが定期的に囁かれており、その最新版がバフムート防衛をめぐる立場の不一致という風聞である(※ゼレンスキーはバフムート防衛について最高司令部会合における立場の全会一致を再三強調している)。

「ロシアの『Z』への勝利はウクライナの2つの『З』の一致にかかっている」の一文で論考は結ばれる。

3月17日

国際刑事裁判所(ICC)がプーチンに逮捕状を出した。NHK

実際に逮捕される見込みはなくても、これによりロシアの認知領域オペレーションは相当程度弱体化するのではと期待。①プーチンのICC参加123か国への訪問が物理的に困難になった。この中にはボリビア、ベネズエラといったロシアの準同盟国も含まれている(УП)。要は、御大自ら訪問して影響力を行使できる国の数が一挙に123個減ったわけだ。②各国要人がプーチンと会うことのコストが上昇した。権威ある国際機関から戦争犯罪の容疑をかけられた人物と会うことには相当なレピュテーションリスクが伴う。折しも中国の習近平国家主席が3月20-22日の日程でロシアを公式訪問することが発表された(УП)が、ダニーロフ安全保障会議書記「習氏のモスクワ訪問はICCの逮捕状によって困難な課題となった」(УП)。中国はICC参加国ではないが。

ロシアの進軍速度が今年最低水準にУП
英国防省の定例リポートによれば、ウクライナに展開中の戦力を一時的に使い尽くしており、全前線にわたって進軍スピードは今年最低の水準に陥っている。ロシア指導部は人員・弾薬の補給を待って進軍能力の再構築を図るとみられる。だそうだ。

3月16日

ロシアのミサイル攻撃の頻度は月イチ程度になる?УП
ウクライナ国防省情報総局によれば、ロシアのミサイル需給は逼迫しており、ミサイルは製造されるや否やウクライナ攻撃に使用されている。前回攻撃に用いられた巡航ミサイルは30発。これを生産するのにロシアは約1月を要する。というわけで、もし彼らが大規模ミサイル攻撃を続けるとすれば、その頻度は1か月に1度、将来的にはさらに低減される可能性がある。(※前回攻撃は9日、81発)

ロシア軍の黒海における活動が活発化УП
ロシア軍の黒海における活動が活発化している。敵船は20隻(うち4隻がミサイル搭載艦)に及び、補助艦隊の船艇も多数展開している。海中に没した米国の無人機の回収を試みている可能性もあるという。「敵は海上行動において欺瞞の最大化に努めているが、ウクライナ側は綿密な観察によって敵の目論見を看破している」と南部防衛軍広報。

ウクライナ人って英語どのくらいできるの?УП
キエフ国際社会学研究所の調査では、ウクライナ人の68%が一つ以上の外国語(ロシア語除く)について一定の知識を有する。うち51%が英語(ただし日常会話~実務レベルで読み書き・会話ができる人は23%)、ポーランド語22%、ドイツ語14%、フランス語7%。全く外国語ができないという人は全体の31.8%に上った。世代で見ると若い世代、地域で見ると都市部に外国語でできる人が多い。

英語か。私の感じだとできる人はできるしできない人はできない。できる人の絶対数は(特に若い世代)日本より確実に多いと思う。だがおじさんおばさん世代は全くできない人もふつうに多い。うちでいうとキエフ工科大卒の義父母とモスクワ国立大卒の妻は日本で言ったら京大卒の両親の娘が東大卒みたいな格好だがこの誰よりも私の方が英語ができる。だが高卒の義兄は私よりも遥かに英語ができる。あと、今自分が世話してるジョニー少年(17歳)の英語の実力は日本の普通の高校2年生と同等レベルと言われる。私が接する避難者の方々だとそうさな3人に1人くらいが英語できる感じか。そのできかたは凄まじいが、できない人は全くできない。

3月15日

黒海上空における米無人機と露軍機の衝突の話は割愛(気になる人これらワードで検索を)

ゼレンスキー:バフムートについて結論はУП
14日の最高司令部会合でバフムート防衛問題が討議され、今後も同市の防衛に努めることについて全会一致の立場が確認された。

オデッサ州沿岸部にミサイル4発УПУП
14日朝、オデッサ州の沿岸部に敵機から4発の対レーダーミサイルが発射され、海上で撃墜に成功したものの、撃墜片や衝撃波で海岸沿いの幼稚園や民家数軒が損傷した。死傷者なし。「海岸線は前線である、と心得よ。極めて危険な前線であると」。南部防衛軍広報によると、敵の狙いは続く大規模攻撃を念頭にウクライナ側の対空防衛網を破壊することにあった、という。

信頼度ランキング、最高は軍、大統領は6位УПОЖ
ラズムコフ・センターが2月末~今月頭にかけて行った調査によれば、ウクライナ国民が最も信頼を寄せる機関はウクライナ軍で、「信頼する」と答えた人が実に95.8%に上った。トップ5を占めているのはヴォランティア組織(87.9%)、志願兵部隊(87.2%)、国家親衛隊(85.7%)、救助隊(85.4%)など戦争遂行の直接主体となっている人・団体。その最高指揮者たる大統領は第6位(82.9%)だった。なお、対象を「人」に限ると、ゼレンスキーは次点と大差をつけて首位。

オデッサ州軍政長官マルチェンコ更迭ОЖОЖОЖ
戦争初期から長くオデッサ州の行政庁トップを務めたマクシム・マルチェンコ知事(オデッサ州軍政長官=Руководитель Одесской областной военной администрации)の更迭が14日の閣議で承認された。ルガンスクのガイダイ知事も同時に任を解かれる。

更迭の理由は明らかにされていない。これについて識者:理由として考えられるのはまず①オデッサ州行政府の一連の汚職スキャンダルの引責。とりわけ今年に入ってから二人の副長官が相次いで汚職容疑で拘束されたことが響いた。②軍人出身のマルチェンコは軍事・国防以外の問題については強いリーダーシップを発揮できなかった。
続けて識者:にしても政府は地方行政トップ更迭の理由くらいはきちんと示すべきだ。マルチェンコが知事に不適格だというなら、その任命者にも責任がある。更迭するなというのではないが、するならするで最低限説明するのが社会に対する礼儀ではないか。
後任について識者:現時点で軍人3人の名が候補に挙がっているが、「オデッサは事実上、後衛の州である。治安や国防を担う組織は別に存在するのだから、州庁は経済・社会の問題を担うべきだ。その意味で、またぞろ軍だの治安機関上がりの人間を任命するのは理屈に合わないと思う」

マルチェンコ当人の弁「オデッサ州の全ての人に、信じてもらいたい。信じがたいことではあろうが、この世には、人のために働く指導者というものが本当にいるんだと」「(今後について)戦争は続いている。自分が一番得意なことをやることが自分の義務だと心得る。すなわち、敵を殺し、我が国の未来のために戦うこと」「私の一番好きな仕事に早期に復帰できることを願っている。だが私の心と魂は、いつだってオデッサとともにある。オデッサに栄光あれ」

3月13日

ゼレンスキーと習近平の首脳会談成るか?УП
米大統領府によれば、近く行われるとされる中国の習近平国家主席のモスクワ訪問・中ロ首脳会談に合わせて、中ウ首脳会談withゼレンスキーも実現する可能性がある。米側はそのように中国側を説得しており、実現すれば大規模戦争始まって以来初のこととなる。なお、習近平氏はこのほど改選が成り未聞の3期目に突入したばかり。仲介役への期待がかかる。

ウクライナ人の3分の2がクリミア含むウクライナ全土の解放を望んでいるУП
キエフ国際社会学研究所が先月末~今月頭にかけて行った調査によれば、ウクライナ人の64%が「クリミアを含むウクライナの全領土の解放を試みるべきだ、たとえそれで戦争が長引き、西側の支援が減少するとしても」との立場である。一方24%が「ドンバス全域(クリミアは含まれない)の解放・保護と引き換えにウクライナはクリミアにおける軍事行動を自制してもやむなし」との立場。

3月12日

ゼレンスキー:バフムートにおける敵の損失は甚大УП
敵はバフムート方面において1週間足らずで1100人が死亡、1500人が負傷(戦場に復帰できないレベルの)、十指に余る弾薬庫が灰燼に帰した。

損失の国内格差がロシアの最大の問題となるУП
英国防省の定例インテリジェンス・リポートによれば、ロシアは戦場で甚大な損害を出しているが、戦死者の圧倒的多数を地方出身者が占めていて、モスクワ・サンクトペテルブルクという二大都市はほぼ戦争を知らずに済んでいる。21日のプーチン演説(本記事2/21の項)で客席の最前列・2列目までを占めていた役人たちの中にその子弟が戦場に送られている者は一人もいなかったことが分かっている。「東部諸地域の死亡率(人口比)はモスクワと30倍の開きがある。ロシアは兵員不足が常態化しており、その解消に努める限り、最富裕層・最有力層の孤立は深まるばかりである。これがロシアの抱える最大の問題となる」

LED化計画進行中УП
家庭の白熱電球を最寄りの郵便局でLEDランプと無償交換できるプログラム(ランプはEU提供)で、すでに1200万個のLEDランプがハケた。これで国内の消費電力が600メガワット(1原子炉の出力の半分あまり)節約されるそうだ。ウクライナの電力システムのさらなる強靭化。

ロシアのことはもうモスコヴィヤと呼んでやりましょうУП
かの国から広大にして偉大という連想を剥奪し格下げ・矮小化するために呼称を「ロシア」から「モスコヴィヤ」に改めてはという市民請願に2万5000筆の賛同が集まり大統領の検討にかけられ(そういう制度がある)、大統領は政府に再度検討を命じた。さすがに無理筋な話と思うが、オデッサのエカテリーナ像撤去もこの大統領あて請願から始まったので(その時点ではまさかと思ったが数か月後実現した)、一応メモしておく。なおロシア側はこの報を「ウクライナを反ロシア化するいつもの試み」と一蹴(УП

3月10日

ロシアのミサイル攻撃のインターバルが広がっているのはなぜかУП
英国防省の定例インテリジェンス・リポートによれば、ロシアの大規模ミサイル攻撃の間隔が広がっているのは、弾数が欠乏し、生産したてのミサイルを投入しないと、ウクライナの対空防衛網を圧伏するのに十分な攻撃を行えなくなっているからだ。
(3月9日のそれは2月16日以来22日ぶりであった。これまでは10日~2週間の間隔で撃っていた)

世論調査

「民主イニシアティブ」財団が昨年12月に行った調査。

①1年でウクライナ語話者はどのくらい増えたかУП
2022年の1年で、日常会話でウクライナ語を使うウクライナ人が増えた。

Q1:家庭で主として何語で話しているか?
ウクライナ語・・70.7%(21年は64.1%)
ロシア語・・23.2%(32.6%)

地域別で見るとこう。

濃い青、左から西、中央、南、東。上段がウクライナ語、中段がロシア語、下段が「それ以外/どちらともいえない」。オデッサを中心とする南部ではウクライナ語34.6%、ロシア語54.8%。

社会学者解説:家庭内言語の変動は①シンボリックなみぶりとしてのロシア語拒否の効果と②南部・東部の被占領地が調査対象地から外れていることによる。また、家庭内でロシア語を話す人の中にも、パブリックな場面、または相手がウクライナ語話者である場合には、ウクライナ語を使うという人が相当数いる(これに対する何丘蛇足:従前はともにバイリンガルだが片方はロシア語の方がより心に近くもう片方はウクライナ語の方が心に近い二人が話すとき前者がロシア語・後者がウクライナ語を話して平然と会話が進行する、ということがあり得た。ラジオ等でも普通に聞かれた光景。だがウクライナ語・ウクライナ語話者を尊重する気運が高まり、ロシア語寄りのバイリンガルでも相手がウクライナ語ならこちらもウクライナ語で応じようという心の努力を用いる人が増えた。とこう想像される)

なお、上の表には反映されていないが、地域による差のほかに、都市部か農村部かでも違いがある。都市部はロシア語が強く、農村部ではウクライナ語が強い。これは何丘の実感にも合致(農村部ではほかにスルジュクと呼ばれる混淆語も強い)

Q2:あなたの母語は何語ですか?
ウクライナ語・・87.7%(21年は77.4%)
ロシア語・・9.9%(19.7%)

地域別↓

ウクライナ人の言語アイデンティティの地殻変動が如実に示されている。言語実践(языковая практика)と言語アイデンティティ(языковая идентичность)。両者は必ずしも常に一致しない。つまり、母語はウクライナ語だ(そうありたい)と思いながらロシア語の方が得意でロシア語を使用することの方が多い(あるいは専らロシア語を使う)人。このような矛盾は全然あり得ると思う。南部や東部におけるQ1とQ2の結果の不整合はそれで説明できる。

②学校でロシア文学を教えるべきかУП
教えるべき7%、教えるべきでない38%。

天気

現地の今の天気こんな感じ。オデッサ10日間予報。

読み方:左端が3月11日土曜曇りときどき雨、最高気温11度最低気温7度。

キエフ。

まだ最低気温がマイナスだったり平均気温一桁前半の日があったりして気が休まらない。早く暖かくなってほしい。花が咲きだしてほしい。中也「こう寒くてはやりきれぬ。/お行儀のよい人々が、/笑おうとなんとかまはない/わめいて春を呼びましょう……」

3月9日

ウクライナ各地にミサイルが飛んだ。オデッサにも。朝日10日朝刊。

「リビウから東に約40キロの村の住宅地にミサイルが着弾」にドキリ。中核都市との位置関係が私たちの村(オデッサから北に約40キロ)を想起させる。ロシアのミサイルの撃墜片による被害だそうだ(УП)。5人死亡。私たちの村、私たちのダーチャでもあり得た。ウクライナに確証的に安全な場所など存在しない、という思いを新たにする。現地空撮↓

攻撃の概要は次のように報じられている:総計81発、様々なタイプのミサイルが使用された。①空中発射式巡航ミサイルХ-101/Х-555(28発)②海上発射式巡航ミサイル「カリブル」(20発)③空中発射式巡航ミサイルX-22(6発)④空中発射式巡航ミサイルХ-47「キンジャル」(6発)⑤誘導航空ミサイルХ-31П/X-59(8発)⑥地上発射式誘導ミサイルС-300(13発)。加えて⑦イラン製自爆ドローンShahed-136/1(8発)も用いられた。

このうち③④⑥についてはウクライナ側の対空防衛装備ではそもそも撃墜が不可能。①②については計48発中34発を撃墜。⑦は8機中4機を撃墜、⑤は8発全てが「所期の目標に到達せず」だそうだ(以上ウクライナ空軍発表、УП

今回の大規模攻撃の特徴は攻撃手段の多様性および波状性で、無人機を先遣してウクライナの対空防衛システムを攪乱したあと各種のミサイルを撃ち込んできた(南部防衛軍広報、УП)。稀少な極超音ミサイル「キンジャル」が一度の攻撃で6発も使用されるのは初(УП

攻撃の主たる目標は電力系統の破壊であったが「ウクライナのエネルギーシステムは完全性を保った」(シュムィガリ首相、УП/ゼレンスキー、УП)。とはいえ局所的には停電が発生している。被害が最も深刻なのはハリコフ州とジトミル州(УП)。オデッサ州も送電線が損傷し一部で停電(УП

なお、今回の攻撃でロシアが使ったミサイルの総額は4億3800万~5億8100万ドルと見積もられるそうだ。敵が得るより多く失っていると考えるのは快いことだから大規模攻撃のあとには決まってこの一報がある。ウクライナの電力インフラへの大規模攻撃が始まった10月から総計するとロシアは821発のミサイルを飛ばし、その総額は75億ドルと見積もられるそうだ。УП

シェフチェンコ

3月9日はウクライナの国民詩人タラス・シェフチェンコの誕生日(生誕209年)で、オデッサでも記念式典が行われた(ОЖ)。いまウクライナ議会で祝日の見直しが行われていることを先日来お伝えしているが、その中で、この3月9日を新たに国民の祝日とすることも検討されている。

私はシェフチェンコをちゃんと読んだことがない。まったく恥ずべきことである。というわけで、いま買った。

岩波文庫の赤帯、858円。皆さんもどうでしょう、一緒に読みませんか。→Amazon

うちの子に学校でロシア語を教えないで

キエフ国際社会学研究所が2月半ばに行った調査(УП)。学校(小中高)でロシア語を教えるべきか。どのくらい教えるべきか。

・教えなくてよい……52%
・他の外国語(英語など)と同じくらい、もしくはそれ以下の時間数で教える……33%
・他の外国語よりは多く、しかしウクライナ語よりは少なく教える……6%
・ウクライナ語と同等に教える……3%

経時的変化を見ると、実に印象的である。25年、ひと世代でここまで変わるか。もちろんこの1年の出来事が大きな契機となったろう。

地域別。左から西部(リヴォフを中心とする)、中央部(キエフ)、南部(オデッサ)、東部(ハリコフ)

南部でも49%がロシア語教育不要論者。住んでた者としては驚くばかりだ。もう住んでたマウントは不可能ということだ。

3月8日

国際婦人デーであった。ロシアとかウクライナではこの日婦人方に花を贈る。家庭で、職場で。私はロシアにいたときこの日の存在を知り、はじめ面白がって花とか贈っていたが、そのうち嫌いになった。西欧では知らないが、少なくとも(私に見えた範囲の)ロシアとかウクライナでは、男は男らしく女は女らしくという固定的な性概念に捧げられた、すごい保守的な、社会を挙げて催行してる祭りに見えてきもかった。女性のための祝祭という外皮に反して内実は男性のためのそれなんじゃないかと思う。「女性をうやまい大切にする男らしい男」たちの社会であることを自己確認してうっとりする日。

3/8の祝日を2/25に移す説についてオデッサ市民の意見はОЖ
オデッサライフ(ОЖ)紙の街頭インタビュー。3月8日を祝日として祝うことについてどう思いますか。それはソ連時代の遺風だしテロ国家ロシアがあんなに好きで祝うものをウクライナが同じように好んで祝うというのはおかしくないか、ということで祝日を2月25日のレーシャ・ウクラインカ(作家)の誕生日に移すという議論も国会で出てますけども、どう思いますか。動画↓

こう見ると皆さんやはり国際婦人デーのことは好きで人生ずっとこの日を祝ってきたし女性は祝われるべきであるとの考えだが同じ口が2月25日に移すというならそれはそれでいいんじゃない、それがむしろ正しいんじゃない、とも言っていて、こういう意見がロシア語を話し3月8日への愛着を公言する人々から聞かれるところに今次の戦争を契機とする社会の変化を感じる。

オデッサの人ロシア語使いすぎ問題ОЖ
役所の窓口や商店で接客に使う言語、ないしウェブサイト・ECサイトや路面の掲示物・看板の表記言語は国語(ウクライナ語)であるべきことと定める法律があり、その違反事例を国語保護全権(通称:言語オンブズマン)タラス・クレメニの事務所に密告するシステムがある。そこへ、今年1・2月を通じて455件の通報が入り、うち15%がオデッサ州からのものであった。件数では上からキエフ159件、オデッサ66件、ハリコフ47件。

オデッサの送電網、今月半ばに回復УП
ロシアの攻撃というよりは(それとむろん無関係ではないが)事故により一番最後まで計画停電が敷かれたオデッサ州だが、これも2月28日以降は停電なしで済んでおり、復旧作業の根幹部については今月半ばに完了する見込みだという。

3月7日

ノルドストリームの話題とグルジアのデモの話題、割愛(気になる人はこれらワードで検索を)

成人男性の出国要件がさらに厳格化される?УП
近日行われる総司令部会合で男性の国外越境の要件厳格化が議論される、と安全保障会議ダニーロフ書記。きっかけの一つになった事件:スタンダップコメディアンのアンドレイ・シチェゲリ氏が外国公演のためという名目で文化省から出国許可を得てトルコに渡ったあと、一連の声明で帰国の意思がないこと、自分が「自由な人間」であること、戦場で同国人が死んでも良心は痛まない、なぜなら「彼らは死ぬことを自分で選んだのだから」等と述べた。ダニーロフ「遺憾ながら外国出張が帰国の義務を伴うことを理解していない人がいる。大統領令で次回総司令部会合が招集された際には各省庁がこれまで行った出国許可について審議がなされ、結果が各省庁に送られる」
(何丘個人としては、帰りたくない人は帰らなくていいと思う。戦場で殺し殺されることを望まない人が、合法/非合法の手段を用いて出国し、そのまま帰国しないことは、人間的に十分に正当化されると思う。ただし①その人はその後相当な長期にわたって故郷に帰れないことを覚悟しなければならない②落ち延びた先でSNS等で公然と自分の武勇伝を誇ったり国内残留の同胞をクサしたりするには及ばないであろう)
(先日私のよく知る避難者の女性が日本で旦那さんと再会した。1か月の出張許可を得てドイツへ、その中で1週間を捻出して自腹で日本へ。1週間きっかりでドイツへ戻っていった。10か月ぶりの再会であった。行かなければいいのに、このままここにいればいいのに、と思わないではいられなかった)


戦争と平和(sense of wonder)Meduza
独ミュンヘンのバイエルン国立歌劇場でオペラ「戦争と平和」が新解釈で上演されるとかで。いいな、面白そう。トレーラー英語字幕付き、6分。

ロシア人演出家ドミートリイ・チェルニャコフ演出、バイエルン国立歌劇場音楽監督ウラジーミル・ユロフスキー指揮。モスクワ中心部に建つ組合会館「円柱の間」を舞台に、今まさに現実世界で行われているひとつの戦争を描く。
「通例だと古典を現代化し新解釈を提示するか否かについては演出家ないし劇場に選択の自由がある。だが時が2023年春であり、作品が第二次世界大戦中にセルゲイ・プロコフィエフによって書かれた傑作オペラ『戦争と平和』である以上は、選択の余地はないも同然だった。劇場の上にはウクライナ国旗がはためき、主役のアンドレイ・ボルコンスキイを演じるのがモルドヴァ人バリトンで、ヒロインのナターシャ・ロストワを演じるのがウクライナ人歌手であり、アンコールで演者が黄・青の三叉鉾がプリントされたTシャツを着ているときに、描かれているのが何の戦争であるかは明らかだ。レフ・トルストイが描いた1812年の祖国戦争でもなければ、プロコフィエフが念頭に置いていたヒットラーとの戦争でもない」

3月6日

ゼレンスキー:バフムートはこの戦争で最大級の戦果をもたらしているУП
バフムートをめぐってはロシア側が包囲したと言ったり西側分析機関がいや包囲まだだと言ったりウクライナ側が抗戦を続けていると述べたりしている。そんな中でゼレンスキー:バフムートはこの戦争・ドンバスをめぐる全戦闘を通じて最大級の戦果をあげてきたし、またあげている。総司令部会合にてウクライナ軍総司令官ザルージヌィおよび陸軍司令官シルスキイにバフムートから撤退すべきかと問うたところ、両人「撤退しない、増強する」と口をそろえた。これが総司令部の総意だ。

あとは社会の話題。

クリミアでローマ字看板撲滅運動、「西側の悪しき影響」排除УП
街の看板はことごとくキリル文字であるべし。はは、文化の庇護者ロシア。たとえばこんなふうに屋号にローマ字用いているのはけしからん↓

戦争初期に市民に配った銃火器の回収の問題УП
ウクライナ中東部ドネプロペトロフスク州市民に対し、戦争初期に配布した銃火器の返納が呼びかけられている。同州知事「大規模侵攻開始期に家族と家屋を守るため武器を供与した。地域の情勢が落ち着いたいま、一部の人は武器を返却したが、多くは手元に残したままだ。対象の市民はリストアップされている。10日待つので自主返納してほしい」

やはり3月8日は祝日がいいОЖ
国民アプリДіяを通じて3月8日(国際婦人デー)を祝日のまま残すか労働日に格下げするかアンケートを行った。結果は、62%が祝日派。33%が労働日派。投票には1週間で213万8838人が参加した。法的拘束力のない、アプリで気軽にできる国政参加。一種の娯楽。3月8日だの5月1日だの5月9日だのを祝日とするのはソビエト時代の遺風なのでこれを脱しては、という議論があって、だが市民としちゃ長年の習慣だし、休みの日は一日でも多いほうがいいよな。

世論調査:ウクライナ国民が一番好きな祝日はУПКМИС
キエフ国際社会学研究所が先月半ばに行った調査でウクライナ市民に「あなたにとって最も大切な・最も好きな祝日は何ですか」と問うたところ、復活祭(イースター)ないし降誕祭(クリスマス)と答えた人が全体の7割に上った。次点はウクライナ独立記念日(63%)、ウクライナ防衛者記念日(54%)。
際立っているのは後者すなわち世俗的(非宗教的、愛国的)記念日の人気の伸長で、独立記念日については戦前(21年)37%→現在63%、防衛者記念日は戦前29%→54%。ともに新年祭(52%)の人気を上回った。
なお、くだんの3月8日国際婦人デーは戦前34%→現在25%。5月1日メーデーは12%→5%、5月9日戦勝記念日は30%→13%と、たしかにアクチュアリティを失っている。21年と23年の比較表(露語)↓

3月5日

オデッサ、エカテリーナ広場の再開発ОЖ
エカテリーナ2世女帝像が撤去されたあとのエカテリーナ広場の再開発についてオデッサ市当局がコンペの実施を発表した。応募期間は3月31日から8月1日。これに姉妹都市である横浜市の建築事務所も参加したらいいんじゃないかと思ったが応募資格に「歴史的景観に属する施設設計について豊富な経験を有すること」というのがあるようなので無理か。世界文化遺産に登録された歴史地区のど真ん中だものな。

たたき台としてすでに一つ開発案が示されている。

大小噴水のコンポジション。歩道が右奥へずーっと伸びていてこの先のポチョムキン階段とつながっている。これまでエカ像は車道に囲まれた小島に立っていて熊谷駅の熊谷次郎直実状態だった。市民に愛される銅像たるもの歩行者が容易にアクセスできてその下で待ち合わせができるような立地でなければならない。その意味でこの処理は正しい。なお、かつて↓

現在(基部のみ残る)↓

この広場が開かれた当初(19世紀)は、それこそただの噴水広場であった。

ここに1900年エカテリーナ像が設置され、1920年撤去、同じ場所にカール・マルクス像が立ったりもして、2007年にもとのエカテリーナ像が再設置された。「幾時代かがありまして、茶色い戦争ありました」。

この広場の名「エカテリーナ広場」およびここから鉄道駅まで伸びる「エカテリーナ通り」の名も改称される見込みだそうだ。

何がオデッサの新たなアイデンティティとなるか

この戦争の経験で、オデッサ市民の自己イメージ、「オデッサは何をもってオデッサか」という認識が更新され(つつあ)るであろう、と識者(ОЖ)。オデッサのアイデンティティを構成する3つの要素、海・穀物・ニコラエフ。

まずは変わらず、海。オデッサは黒海のほとりの街である、と。

次に、穀物。昨年8月、ロシアのガッデム黒海艦隊による海上封鎖が国連・トルコの仲介で解除され、実に5か月ぶりに穀物輸出が再開したとき、最初の汽笛を耳にしてオデッサ市民は喜びの涙を流したという。こういう体験が街を・共同体をつくる。オデッサは黒海のほとりの街であり、誇るべきウクライナの穀物が世界へ出ていく港である、と。

そしてニコラエフ。笑い話がある。車のナンバープレートで元来オデッサナンバーはBH(ヴェー・エヌでなく、ビー・エイチ)の記号から始まるのだが(ちなみにキエフナンバーはAA)、このBHはВозле Николаеваすなわち「ニコラエフの隣」の意味である、という。開戦以来比較的無事を保ったオデッサとは対照的に、すぐ隣接する兄弟都市ニコラエフは、そのもうひとつ隣のヘルソンまできていたロシア軍から文字通り猛火を浴びた。11月のヘルソン解放まで、実に9か月ものあいだ。それを耐え抜き、ニコラエフは南部戦線における全き英雄都市となった。ニコラエフへの後方支援を通じてオデッサとニコラエフの精神的紐帯はいやがうえにも強まった。Thus、

オデッサは、黒海のほとり、誇るべきウクライナの穀物が世界へと出ていく港街であり、英雄都市ニコラエフの兄弟都市である。

3月4日

エネルギー相:ウクライナは出力に余力を残して暖房シーズンを終えるУП
ロシアの31次にわたる空爆(14次のミサイル攻撃、17次の自爆ドローン攻撃)にもかかわらず、ウクライナのエネルギーシステムは完全性を保った、「敵があれほど願った破局は、ついに起きなかった」。早や21日間にわたり需給バランスは保たれている。各発電所の燃料備蓄も十分な状態で、我々は困難な冬を出る。
(我々は銘記しておこう、冬の終わりとともにきれいにこの攻撃が止んだことを。ロシアでは対内的に、ウクライナの電力破壊は脱軍事化すなわち軍および軍需産業を窒息させるためと説明されていたはずだ。真の目的が外ならぬウクライナ国民の生活の破壊、3000万市民を暗い冷凍庫の中に閉じ込めることにあったことが明らかに示された。かつての自分の言葉を引く:厚顔無恥という語の説明には以後もう困らない)

英国防省:バフムート包囲網が狭まっているУП
英国防省の定例インテリジェンスリポートによれば、ロシア正規軍とワグネルによる圧力がいよいよ高まっている。バフムートと他の街をつなぐ死活的に重要な橋が新たに2本破壊され、補給はいよいよ困難になっている。

ウクライナはロシアのごとき隣人と今後どう共存していけるのかУП
ゼレンスキーが訪問先のリヴォフで欧州議会のロベルタ・メツォラ議長とともに地元大学の学生たちの前で講演し、学生から上記のように問われて:EUおよびNATOの正規メンバーとなることで文明の庇護と安全保障が得られる。我々は戦勝国となり、長く続いたパラダイムが終わる。我々は欧州の有力構成主体となり、もはや『ウクライナ?ああ、ロシアらへんの国』などとは言われない。『ロシア?ああ、ウクライナらへんの国』と言われるようになる」

ウクライナ人とロシア人が協力してスペインのウクライナ避難民から金品を盗んでる話УП
スペインに落ち延びたウクライナ避難民の住居に空き巣に入って総額125万ユーロに上る金品を盗み出していた犯罪集団が摘発された。ウクライナ人7人とロシア人3人が逮捕されている。スペイン警察によれば、ターゲットを避難民に絞っていたのはこれら人々が財産一切合切をもって避難してきていることを当て込んでのこと。現在明らかになっている7件の犯行で、価額50万ユーロと見積もられる切手コレクション、宝飾品、コンピューターなどが盗難にあっている。手口は、ターゲットの自家用車を追尾して日中の行動を把握し、自宅が不在となる時間を特定して犯行に及んでいたものと見られる。なお、スペインに暮らすウクライナ避難民は16万人(ちな日本2300人)

3月3日

ダニーロフ:バフムートの状況は深刻だがコントロール下にあるУП
ダニーロフ安全保障会議書記「4か月もの長きにわたりホットスポットになっているバフムート。激越な戦闘が続いており、極めて困難な状況ではあるが、制御不能な状況ではない」。先に英情報当局は気温上昇による泥濘化で移動が困難になり、防衛者側に一定の軍事的優位がもたらされる可能性がある、と指摘していた(УП

500万ヘクタールが戦争で耕作不能にУП
地雷その他爆発性物質による汚染のため、現時点でウクライナの農地500万ヘクタール(5万平方キロ)が利用に不適となっている。ウクライナとロシア両軍の死傷者数また装備の損耗を比較するときに、戦闘は何も中立的空閑地で行われているのではない、まさにウクライナの国土(農地、道路、街…)で行われているのだということを忘れるべきでない。戦闘行為そのものによって国土・景観・生産力がぼろぼろに傷ついていく。
(なお日本の耕地面積は432万ヘクタール。昨年7月、農林水産省

木星と金星の大接近УП
この記事読んであああれはそれだったのかと心づいたのですが昨日晴れた夜空にひときわ明るい天体が2つ並んでいて奇観であった。木星と金星の接近。宇宙好きの義父がこのイベントを見逃すはずもなかった。ダーチャで撮った写真。

村の夜は暗いので星がとてもよく見える。懐かしいな。

3月2日

ウクライナの工作員がロシア国内に侵入しテロを行っている?

ホットな話題はДРГ(工作偵察集団、Диверсионно-разведывательная группа)。敵後方で情報収集や破壊工作を行う少数精鋭の特殊部隊のこと。

ウクライナと国境を接するロシア西部のブリャンスク州(下図)にウクライナのДРГが侵入し発砲するやら市民を人質をとって立てこもるやら凶行に及んでいるとか。まず2日朝ブリャンスク州知事が発表し、それに背びれ尾ひれをつけて露プロパガンダメディアが盛んに拡散した(УП

これに対しウクライナ国防省参謀総局報道官「プーチンと戦うことを決めたロシア国民自身の行動だ。自らの国のプーチン体制からの解放、プーチン政権の犯罪に対する贖罪が始まったのだ。こうした『蜂起』は今後頻繁に起こるだろう」「(ウクライナへの)大規模侵攻によってロシア連邦の内部問題は深刻化した。ロシアは元来、地域間・民族間・宗教間・社会的政治的その他、おびただしい未解決問題・対立・紛争を抱える不安定な構成体である。一部地域でプーチン体制転覆を目指した蜂起が生じることはウクライナ侵攻の自然な帰結といえる」УП

またダニーロフ・ウクライナ安全保障会議書記「ロシア国内で反ファシズム抵抗運動が始まっている。無人機も装甲車もモスクワの武器取引所でふつうに買えますよ。スローガンはДРГ――Деколонизация Российского Государства(ロシア国家の脱植民地化)」УП

ダニーロフ語録

バフムートにおける露ウの死傷者数比率は1:7УП
ウクライナ国家国防安全保障会議のアレクセイ・ダニーロフ書記によれば、バフムートにおける敵の損失はわが軍の7倍に上っている。

ウクライナはクリミア解放戦略を改めるУП
またダニーロフによれば、クリミア解放問題については2021年3月24日にクリミア自治共和国およびセヴァストーポリ解放戦略に関する大統領令第17号というものが出て、政治・外交的解決を目指す旨が規定されたが、今日の情勢に鑑みれば、この戦略に見直しをかけることは必須である。しかるべく修正を施し、安全保障会議の会合で投票にかけて、新たな大統領令を発出する必要がある。

全然関係ないけどこのダニーロフという人を見るといつもスティーヴン・セガールを思い出す。並べてみようか。

どうであろうか。

オデッサ

侵攻始まって以来ずっと閉まっていたオデッサ市内のマクドナルド店舗がやっぱりオープンするみたいだ(本記事2/20の項)。好きな人からしたら、1年ぶりに食うマックはおいしいだろうな。3月末オープン予定。УП

ちなみにキエフ他では早々にオープンしていた。記憶では昨年秋。ブチャ店舗ですら12月には稼働再開。南部はやたら待たされた。もひとつちなみに、オデッサにはマクドナルドはいくつもあるが、スターバックスはない。だがキエフと、リヴォフにも確かスタバはあった。ついでにいうと、オデッサには地下鉄はない。地下鉄はキエフとハリコフにしかないという話だった気がする。リヴォフにもない。あと、オデッサには中国領事館やドイツ、ポーランド等の領事館はあるが日本領事館はない(日本領事館はどこにもない。キエフの大使館しかない)

オデッサ市の2地区名「脱ロシア化」かУП
地元の人には(のみ)大きな話題。地名の脱ロシア化の一環で、поселок Катовский (поскот)ことСуворовский районがПересыпскийに、ЧеремушкиことМалиновский районがХаджибейскийに改名されるかも。有識者委員会から市議会への勧告が出た。俗称と旧称と新称の三層になって各所で混乱が生じること必至。

ホッカイロ

何丘が「何かやる」の記事でうだうだ言ってた(そして結局何もしなかった)ホッカイロ、「山形市と福島市に拠点を置く市民団体、『ウクライナに「使い捨てカイロ」を送ろう』会」が送ったやつが無事届いたらしいじゃ。おめでとう。NHK

3月1日

ロシアとかウクライナの人は(風趣のないことに)季節をわりと月割りで観念する。それでいうと3月1日は「春の最初の日」であった。(345月が春、678月が夏、91011月が秋、1212が冬。〇の最後の日/最初の日という言い方はよくする)

ゼレンスキー、エネルギー会合にて:冬は越えた、だが脅威は残っているУП
ゼレ晩方ビデオメッセージ:電力の安定供給に関わる全当事者(電力会社や省庁、軍など)の参加のもと3時間に及ぶエネルギー会合が開かれた。この冬は越えた。非常に困難な冬であり、その困難さに誇張なしに全てのウクライナ人が直面した。ついに我々はウクライナに電気と暖房を保障することができた。脅威はなお残存しているし、復旧作業はなお継続中であるが。
出力が需要を全量カバーできている状態がこれで18日づついている。(УП

南部

東部の要衝バフムートをめぐり変わらず激しい攻防が行われている一方、南部ではウクライナ側の攻撃が活発化しているようだ。

ロシア国防省:クリミアに無人機10機が飛来(УП)。「全機撃墜した」そう。
クリミアで複数の爆発УП)。クリミア南部で1日夕方、複数の爆発があったそうだ。こちらはクリミア現地メディア(複数)
メリトポリの飛行場で爆発УП)。占領下のザポロージエ州のメリトポリの飛行場およびポローギで爆発があった。メリトポリ市長のSNS投稿。

なお、先日来のロシア本土における飛行物体出現に関してはポドリャク大統領顧問「ウクライナはロシア本土には攻撃していない。ウクライナは自国領土の完全解放を目指した自衛戦争を行っている。これが公理だ」「ロシアで恐慌と分裂が加速している。未確認飛行物体によるインフラに対する内部攻撃の増加はその表れの一つだ」УП(なお、これに対して露ペスコフ「信じない」УП

中国

ルカシェンコ、習近平に対し「中国の和平案を全面的に支持します」УП
中国訪問中のベラルーシ大統領ルカシェンコが習近平国家主席に対し「中国の和平案を全面的に支持」すると述べた。「本日(3/1)の会談は新たな、非標準的なアプローチおよび責任ある政治的解決が求められる非常に困難な時節において行われる。そうしたアプローチおよび解決策は勝利者なきグローバルな対立への傾斜を容認しないことを目指したものであるべきだ。あなたがた(中国)はそれを明確に、一義的に、正確に、このほど国際社会に対するメッセージとして宣言した(※侵攻1周年を機にあらわした12か条からなる和平の提案のこと)。まさにこの理由によって、ベラルーシは和平に関する提案を行っており、国際安全保障に関するあなたがたのイニシアチブを全面的に支持する」
※なお、12か条の和平提案の第1条は「全ての国の主権の尊重」

なおその中国は親露プロパガンダの拡散に数十億ドルを投下しているそうだ(УП)。米国務省外国プロパガンダおよび偽情報摘発および対策グローバル協力センターのジェームス・ルービン調整官の言葉として英紙ガーディアンが伝えたところでは。で息切れ。「井戸に毒が混入されている。中露の偽情報によって。致死的な毒が」だそうだ。何しろ露と中は情報操作に数十億ドルを費やしており、むしろグローバル規模で活動しより多くの資本を投下しているのは中国の側である。中国は「戦争を始めたのはNATOの側だ」というロシアの主張を拡散している。「我々がは非常に重大な脅威に直面している。コミュニケーション空間における中露の同調は完成に近づいている」

ドローン攻撃

英諜報当局:ロシアはキエフ攻撃拡大のためドローン攻撃の策源地をブリャンスク州に移したУП
先月15日を最後にしばらくドローンによる攻撃は見られずロシアはシャヘド(イラン製自爆ドローン)を使い尽くしたかと見られていたが、この26日にシャヘド14機による攻撃(うち11機を撃墜)の報があった。この攻撃のヴェクトルを分析するに、どうもドローンの出発地点は露ブリャンスク州(下図)であるらしい。

昨年12月半ば以降の全ドローン攻撃はクラスノダール地方(下図)を発射地点とし、アゾフ海を超えて飛来していた。第二の発射場によってロシアはキエフにより近い第二の攻撃軸を持つことができる。これによりウクライナ領空への到達時間が短縮され、ウクライナの対空防衛をより長く延長させることができる。

幻影旅団

キエフで旅団チャンネル主がまた2人拘束されて動画で改悛&解散呼びかけ(УП)。15歳少女と14才少年。広告目的でテレグラム(というSNS)上にチャンネルを開設し未成年者らに乱闘を呼び掛けた。「キエフに旅団は存在しません、乱闘の扇動はロシアのプロパガンダでございました、皆さん自分のこともっと大事にしましょう」

2月28日

ウクライナ総司令部会合:バフムート激戦と「絶対正義」の実現УП
ゼレンスキーが晩方のビデオメッセージで28日開かれた大本営の定例会合のあらましを語った:情報総局、国防省、各方面の軍司令部の報告を聞いた。依然として最も過酷な戦闘が行われているのはバフムートだ。ロシアは人間の数を一切カウントしていない。バフムートのわが軍拠点に狂おしく圧力をかけてくる。現在我々は相当な高頻度で、週に2回は大本営の会合を開いている。前回は木曜(23日)であった。この間にひとつの方面だけで敵800人を殺害している。我々が目指すのはウクライナの全土解放という絶対正義の実現で、それに日々近づいている。

敵側の損失

英国防省:マチュリシの航空機損失でロシア軍の航空作戦はより一層制限されるУП
ロシア軍が戦闘機基地として利用しているベラルーシのマチュリシ飛行場(ミンスク南郊)で26日、ベラルーシ国内のパルチザンのドローン攻撃によるものとされる爆発があり、ロシア軍の「A-50」機が破壊された。A-50は早期警戒管制機と呼ばれるもので、その任務は特定空域の状況を描画し近隣の戦闘機の行動を調整することにあるとかで、ロシア軍の航空作戦の実行にとっては死活的に重要な役割を果たしており、損失は痛打である由。同種の航空機はなお6機残るが、「ロシア軍の航空作戦はより一層制限される」と英国防省。
(巡洋艦モスクワがオデッサ攻略のための軍事アセットの急所中の急所であったことを思い出す。これによってキエフ再侵攻が現実に相当程度遠のいた……のだと嬉しいが。しかも、これをベラルーシ国内のシンパサイザーが実行してくれたのが嬉しい。やったのがウクライナの特殊部隊だったとしたらまたややこしいことになっていた)

ロシア本土に飛行物体あいついで飛来?
28日、ロシアの黒海沿岸のトゥアプセいう街(地図赤ピン)の石油工場で爆発が起き、火災が発生した。ロシア側は無人機による攻撃の可能性がある、としている。УП

同じ28日、今度は北の都サンクトペテルブルクで未確認飛行物体の出現により一時指定区域の領空が閉鎖されるという騒ぎがあった。露大統領府のペスコフ報道官は領空閉鎖の原因をつまびらかにせずただ「プーチンはこれについて完全な情報を有している」とのみ。УП

♥幻影旅団♦

民間軍事会社「幻影旅団」(PMCレダン)の件、未成年感の乱闘を誘発することを目的とした同運動に連なるSNSチャンネル18件が閉鎖された。警察発表ではこの2日間で30もの集会が開かれようとしていた。警察署に招かれた人数は700人に上り、その大多数が未成年であった。УП

↑拘束された首謀者による改悛&解散呼びかけメッセージ動画。そこはかとなく漂う言わされてる感。「私は参加者2500人の(テレグラム)グループの創設者です。広告収入目的で始めました。いまレダン(旅団)というテーマはSNSでポピュラーだからです。レダンという概念はウクライナにはありません。それは(ウクライナ社会を)不安定化させる目的でロシアから入ってきたものです。すべての人に呼びかけます:集会を開いたりレダン仲間を探したりなどしないように。そんなものは我が国にはないのですから。それよりウクライナ軍の兵士たちを支援しましょう。私は自分のグループを削除し、並びに、このようなものを作らないよう皆さんに呼びかけます。ウクライナに栄光あれ」УП

「Z」を砂時計に

クリミアの親ウクライナ活動家らが街中の「Z」を「砂時計」に変身させて回っている。

対角線一本ひいて青黄二色に塗り分けて。

「自由のときは近づいている」と題するアクションで、主体となっているのは2022年春にヘルソンで結成されたイエローリボンと呼ばれる市民運動。占領者に対し「ウクライナの領土を立ち去るべきときはもうすぐ」とのメッセージを送るものだそう。

世論調査:EU域内のウクライナ避難民の3割が帰還を望んでいるУП
欧州基本権機関(FRA)が欧州10か国のウクライナ避難民1万5000人を対象に昨年8~9月に行った調査では、避難民の3割は自分を受入国の社会の一部と感じているが、同数が我が家への帰還を望んでいる。

Діяでアンケート:3月8日УП
3月8日の国際婦人デーを祝日とすることの是非、を問う世論調査が国民アプリДіяで行われる。現行では祝日となっているが、このソ連くさいロシア人の大好きな祝日を新生独立ウクライナとして存置すべきか否か。調査は2/28~3/6とのことだから今年の3/8はとりあえず祝日で来年以降のことを決めるということだろう。ウクライナはいま3/8、5/1、5/9を祝日とするのを止めようかと思案中(→本記事2/14の項)

オデッサの外出禁止時間が1時間短縮されるУП
いまウクライナでは地域ごとに深夜早朝の外出禁止というものが設定されており、オデッサはこれまで長らく夜11時から早朝5時までがそれにあたっていたが、3月1日からはこれが1時間短縮されて、深夜0時~早朝5時のみとなる。

2月27日

♥電力

オデッサで大停電、でも夕刻にはインフラ回復УП
高圧電線で自己がありオデッサ全域が一時停電した。夕刻時点で重要インフラへの供給は全面回復、徐々に一般消費者にも供給が届き始めている由。

IT屋の6割が電力危機の中でも収入を維持したУП
ウクライナ国内のIT屋(айтишники)1万人超に行った調査によると、IT屋の75%が停電の影響を受けた(内訳:強い/非常に強い影響34%、軽度の不便41%)。逆に25%は停電の影響を受けなかった(内訳:電気なしでも通常稼働19%、全く停電なし6%)。ゴリゴリのIT屋であるわが義兄@オデッサ中心部はこの最後者に該当。一方、収入ベースや受注量ベースだと、停電による減少は「なかった」と答えた人が60%の上っている。逆に9%がプロジェクトの件数および収入の減少を訴え、2%が停電を理由に失業したと答えている。


♣戦況

神風ドローン飛来、特段の被害なしУПУП
16日深夜~27日未明にかけて首都方面にイラン製自爆ドローン14機が飛来、うち11機を撃墜した。人的犠牲なし、インフラへの着弾なし。敵の狙いはウクライナの対空防衛力についてデータを集め、かつ消耗させることで、攻撃の間隔をわざとあけてダラダラ長時間攻撃してきた。キエフでは夜間5時間半にわたり空襲警報が鳴り続けた。

ロシアのミサイル状況УП
ウクライナ国防省情報総局のチェルニャク報道官によれば、ロシアのミサイルは枯渇しつつある。高精度巡航ミサイルは残り100発を切っており、残存ミサイルの総数はなお数千発だが、①旧式のものはあるいは使用に耐えず、あるいは射程が限られており、②新式のものは生産量を大幅に上回るペースで消費している。対するウクライナ軍の対空防衛力は日に日に向上している。ただし注意:ロシアはウクライナのエネルギーシステムの破壊をなお諦めてはいない。

マリウポリに懸念を募らせるロシアУП
久しくロシアに支配されている東部の要衝マリウポリにおける一連の爆発について英国防省レポート:マリウポリの親ロシア当局によれば今月21日以降市内の弾薬庫や燃料庫、空港、製鉄工場などで少なくとも14回の爆発があった。マリウポリは前線から最短でも80kmの距離があり、これまでロシア側は「ウクライナの通常攻撃手段はマリウポリには到達不可能」と考えていた。しかし一連の「説明不能な事象」に、ロシア側が懸念を募らせる可能性がある。
なお、ロシアとってマリウポリの重要性は①2022年にロシアが掌握した最大の都市である②物流(兵站)の大動脈に位置していることにある。


♦中国

中国外務省、中ウ首脳会談を排除せず(歓迎もせず)УП
ゼレンスキーの「習近平に会いたい」発言に中国外務省報道官がコメント:中国は貫して対話を通じた紛争の政治的解決を呼び掛けており、ウクライナ紛争の全当事者、ウクライナを含め、とつながりを維持している。

露:さしあたり和平よりもSVO続けたいですУП
ロシア大統領府のペスコフ報道官:ロシアは中国の和平案を検討中だが現時点では和平への道に就く前提条件は整っていないと見ている。SVO(特別軍事作戦)は続く、所期の目的を遂行する方向で。


♠幻影旅団

「民間軍事会社リョダン」がウクライナ各地で乱闘騒ぎУП
ちょっといろいろ意味わかんないのですけど書いてあるまま訳します:キエフ、ハリコフ、リヴォフを含むウクライナの複数の都市で27日、ロシアのサブカルチャー「民間軍事会社リョダン(”ЧВК Редан”)」メンバーを名乗るティーンエイジャーらが乱闘騒ぎを演じようと大人数で集まったところを一挙拘束された。ハリコフだけで245人。30人を除き全員が未成年(18歳未満)。149人が男子、66人が女子。
このアクションは先行してロシア国内で今月24日に始まったという。漫画「ハンターハンター」に霊感を得た少年少女がSNS上で「民間軍事会社」こと未成年結社を結び、なんや①黒い服②蜘蛛③数字の4、をシンボルにリアルで集会を開く。リョダンに対抗する別の組織も存在していて、その組織間で今回みたいな乱闘騒ぎが持ち上がったりする由。暇やな、というか、病んでるな、というか。

2月26日

♠待たれる春のヤマザキパン祭。

ウクライナの春季反攻、戦略目標のひとつは「南部のロシア前線に楔を打ち込む」ことУП
ウクライナ国防省情報総局のスキビツキイ副長官によれば、ウクライナは春に反転攻勢の準備を整える。ただし具体的な日付は西側からの兵器供与など一連のファクターにより変動する。春季反攻の戦略目標の一つが「南部のロシア前線、クリミアとロシア本土の間に楔を打ち込むこと」だ。最終目標はクリミアを含むウクライナ全土の解放である。「1991年の国境を回復するまで我々は止まらない」

♣2月26日は「クリミアおよびセヴァストーポリ占領への抵抗」記念日だそう(2020年制定)。クリミアの語が頻出したタイムラインだった。

ゼレンスキー:クリミアを取り戻し平和を回復するУП
ゼレンスキーのテレグラム投稿:ロシアの侵略は9年前、クリミアから始まった。クリミアを取り戻し、平和を回復する。

ゼレンスキー:クリミア解放によってロシアの欧州・アジアへの野心に終止符が打たれるУП
ゼレンスキー、晩方の国民向け定例ビデオメッセージで:ロシアの侵略は2014年、まさにクリミア占領から始まった。従って、クリミア解放をもって、ウクライナ人および欧州・アジアの全民衆の人生を屈曲させようとするロシアの試みは歴史的終止符を打たれる。

ロシア軍、クリミア防御態勢強化УП
ロシア占領軍がクリミアで防塁構築を進めている。


♦トップがなんか不吉なことばっか言い出してる。滅びの兆候であることを望む。

プーチン:ロシア連邦が崩壊したらロシア人はいなくなるУП
西側がロシア連邦の解体に成功しその残骸を管理下に置いたならば「ロシア人」(Русский народ)はもはや存続できず、残るは「モスクワ人」「ウラル人」etc.のみ、ということになりかねない。

メドヴェージェフ:ロシアのない世界など滅びた方がいいУП
ロシアの存続について疑義が呈されるならば、その問題の解決の場はウクライナの戦場などでは全くない。全人類の文明の存続の問題と抱き合わせだ。ここにはいかなる二義性もない。ロシアなき世界など我々には無用だ(Мир без России нам не нужен)

2月25日

ISW:なぜロシアは侵攻1周年を黙殺したのか?УП
掲げた目標を何一つ達成できていないのでここ3日ヤアヤア言ってたわりに肝心の1周年当日になってプーチンも取り巻きどもも何ら1周年という事実に言及しなかった。

英情報当局:ロシアはイラン製ドローンを使い尽くしたとみられるУП
2月15日を最後にイラン製ドローンが使用された形跡がない。ロシアはこれを使いつくした可能性がある。

ルカシェンコ、来週中国を公式訪問УП
ベラルーシのルカシェンコ大統領が2月28日から2日間の日程で中国を訪問し、習近平国家主席らと会談する。3月にはテヘランを公式訪問する計画もあるそうだ。

バイデン:中国の和平案はロシアを利するのみУП
中国の「和平案」にウクライナ側はわりと好意的な反応を示したが、米国はかなり強く否定的な反応を示した。「プーチンがこれに喝采を送っている。ということは即ち、(和平案は)ろくなものではないということだ」

なお1877自治体を解放せねばならぬУП
ゼレンスキー:ロシアは今なお1877もの都市・村落を占拠しており、この数をさらに押し増やし、破壊された人生たちの上にさらに百万もの破壊された人生を付け加えようとしている。

ISWは「ウクライナの勝利を確信している」そうだУП
ウクライナのクレバ外相がブリュッセル・ハーグ・ニューヨーク歴訪のなかでISW(戦争研究所(米国のシンクタンク))の所長と会談した。「あと何が、またどのようにできるかについて意見を交換した。ほかならぬISWの所長から『ウクライナの勝利を確信している』との言葉を聴けて嬉しかった」

電力は足りている。だから輸出するУП
ガルシチェンコ・エネルギー相によれば、電力生産が消費を全量まかなえている状況がもう3週間続いており、当分このまま安定供給を続けられそう。どころか、余剰分の貯蓄もできてきている。すでに電力輸出の再開についても議論が行われている(したたか!)ウクライナはもともと電力輸出国だった。同じ送電線を使ってこの間しばらくは隣国スロヴァキアあたりから「輸入」していたわけだが、また「輸出」に転じられそうであると。「ウクライナは史上最も困難な冬をほぼ越えた」。ただし送電網の損傷はげしいオデッサでは今なお時間単位の計画停電が行われている。

ゼレンスキーのワードローブ初公開УП
人はカーキ色しばりでどれだけおしゃれに1年を過ごせるのかを実演してみせてくれたゼレ公のマル秘ワードローブが初公開された。ドキュメンタリー番組。

22年2月24日より住処となっている大統領府内の小部屋。あまりに質素な大統領公邸。

スーパーマンに扮したゼレンスキーと家族。一人の男が何によって支えられているか。

2月24日

ゼレンスキー:年内戦勝のため全力を尽くすУП)。侵攻1年にあわせて行われたビデオメッセージでゼレンスキー:あらゆる脅威、砲撃、ミサイル、カミカゼドローン、ブラックアウト、寒さに負けず、我々がこうして今なお立っていること。それこそが最大の戦果だ。凌ぎきった、今なお立っている、まさにそのこと。この1年を名付けるなら、さしずめ「不屈の1年」であった。新しい一年は「勝利の1年」としよう。そのためにできるすべてのことをしよう。……そうして、失せし人のことを忘れずに。この1年でほとんどすべてのウクライナ人が誰かを失った。彼らの名前をスマホからも記憶からも消してしまわないように。決して彼らのことを忘れないように。

中国の和平案

中国、12項目からなる和平案を提出УП)。中国外務省が12か条からなる和平案、正式名称を「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」、を提示した。実に具体性に乏しい、ぽえむと言っていいもの。

⑴全ての国の主権の尊重
⑵「冷戦思考」の放棄
⑶戦闘行為の停止
⑷和平交渉の再開
⑸人道危機の解消
⑹民間人および捕虜の保護
⑺原子力発電所の安全確保
⑻戦略的リスクの低減
⑼穀物輸出の共同実施
⑽「一方的制裁」の停止
⑾産業チェーンおよびサプライチェーンの安定性維持
⑿戦後復興の共同推進

こう並べてみると意外なほど穏当というか。

これについてクレバ外相:ウクライナは中国の「和平案」の少なくとも1つのポイントにつき不同意УП)。賛成できる点もあるが、少なくとも1つの点につき不賛成。「⑽一方的制裁」のところだ。ただ、全体としては興味深い文書である。最初から最後までよく検討して、我々としての結論を出したい。ウクライナ外務省としては、中国がこの戦争に関する包括的な立場を示したこと自体を肯定的に評価する。ただ重要なのは、つい昨日、国連総会において、141か国もの賛成で、この戦争の終わらせかたについての原理原則ならびに重要要素を規定した決議が採択され、今やこの決議の外部で提案されるあらゆるものが、これとの照応を問われる、ということだ。

なんで「今」、そして「こんな」立場表明を中国が行ったのかについては戦争の最大の受益者は中国(和平案の目的はロシアと距離をとり、ウクライナ紛争を長引かせること)Meduza)が興味深かった。カーネギー財団研究員で中国専門家のなんとか氏によると、和平案を提示した直接の動機は、最近、米国を中心に「中国がロシアに殺傷・非殺傷装備を供与してウクライナへの軍事侵攻を支援している」という非難が繰り返されており、こうした非難によるイメージダウンを避けるために「モスクワから距離をとってみせる」必要があった。とはいえ現に中国が有形無形の支援をモスクワに対して行っているそのわけは、中国としては今の戦争が長く続いてくれれば続いてくれるほどよい。20-30年後に国力いよいよ充実の状態で米国と本格的に対峙することを考えている中国には、国際社会の全注目がロシアに集まっている状態は都合がよいし、ロシアに新たな政権が成立して新たにそれと関係を結ぶのも面倒な話だから、現政権にはなるべく長く持続してほしいと。「この抽象的な平和マニフェストが戦争の帰趨に影響を与えること、ないし、中国がこの紛争において何らかの新しい役割を負うことなどは、期待すべきでない」。

ゼレンスキー記者会見

2月24日、外国メディアの記者たちを交えた記者会見が行われた。「NHKを含む国内外のメディアの記者やカメラマンなど100人以上が参加」「ときおりユーモアも交えながら合わせておよそ2時間半にわたって質問に答え」た。NHK

「もしすべてのパートナーが約束を守るなら、勝利は必然」УП
2023年中に勝利が納められることを強く願っている。もしもパートナー諸国が口先だけでなくきちんと約束を守るなら、きっと勝利を収められると信じている。我々全員が宿題をやってくるなら、むしろ勝利は必然だ。勝利を確信している。それが今年であることを望む。そのためのすべてがある。モチベーション、自信、仲間、外交、そして皆さん(マスメディア)。敵の侵攻に立ち向かうための力をすべて結集したのだ。

クリミアと勝利について:1年後今と同じ状態だなどとは考えたくもないУП
(では2023年中にクリミアを物理的に取り戻す公算は、と問われて)
ウクライナにいるすべての人が、次の一手こそ決定的な・最後の・勝利の一手であれかしと、強く望んでいる。プレスの前に自制を忘れて感情的に(全領土の奪還期日など)語ってしまうことも多々ある。時としてそれだと誤る。それはあってはならないことであるが、気持ちはわかる。あまりに強く願われるからこそなのだ、勝利が、戦争の終結が、「すべてを取り戻す」ことが、兵士たちが生きて家へと帰還することが、ふつうの生活が戻ってくることが。だがそのためには、感情だけでは足りない。望むだけ、語るだけでは足りない。手を動かさなければならない。時期、そして方法については、ひとつだけ言う。「すべては我々次第だ」と。
(24年2月24日までに勝利を収めるのに障害となり得るものとは?)
もし武器弾薬が十分でなければ、当然、負けることもあり得る。だが起こりうる最悪の問題は、国内が弱気になることだ。来年の2月24日に我々が今と同じような状況であるなど考えたくもない。それは最悪だ。そんなことは考えたくない。皆さんも忘れてください。確信を持たなくちゃいけない。我々は勝つ。

習近平に会いたいУП
(地政学的にウクライナと距離がある国を自陣に引き寄せる計画が何かあるかと問われ)
まず計画してるのは習近平と会うことだ。これは我が国および世界の利益にかなう。我が国と中国は貿易量も大きい。中国は領土一体性を尊重するということだから、ロシアのウクライナ領土からの撤退に関しても、可能なすべてを行うべきだ。

中国の「和平案」について:これは和平案ではない、だが何事かではあるУП
和平案と呼べるほどのものでもない。決議でも宣言もなく、何かの基盤(インフラ)になるようなものでもない。ただ中国が自分の考えを示したもの。
中国がウクライナについて何かを話し始めたこと、それ自体が「とても悪くない」。問題は、これら言葉に何が隠されているのか、どんな行動がこれに伴うのかということだ。

戦時中にがっかりさせられた人たちУП
(誰にがっかりさせられたか?と問われ)
2月24日に逃げた人、皆。キエフから逃げた人、皆。国によって統治され・守護されるべきだった、またそのために戦わねばならなかった都市・村落から逃げ出した人。これらの人々が私を失望させた。(※ここで意味しているのが上級公務員や企業トップのことでなく、市井の人のことをも含んでいるとしたら、ずいぶん酷なことをいうなぁと思う。オデッサの何丘とかいう日本人も外国人部隊に入ってオデッサのために戦うべきであったか。安全な日本でキーボードかたかた叩いて「俺には俺の前線(キリッ」とかちゃんちゃら可笑しい、か)

妻と子供たちがウクライナにいること、それが何より大事УП
(戦争で家族との関係はどう変化したか?……)
一番難しい質問だ。言うまでもなく、家族を愛している。妻と子供たち。一番大切な人たちだ。あまり会えない。両親には全然会わない。妻のことはとても誇らしい。子供と国家のためにすべてのことをやっていると思う。少しは私のことも気にかけてほしいくらいだ――と、これは冗談。心の中に皆いる。大事なのは、彼らの期待に背かないこと、子供たちが私を誇らしく思ってくれることだ。彼らがウクライナにいること、ウクライナの大学で学んでいることが、私はうれしい。
(これをもってロシア侵攻1年に際しての記者会見は終了した。家族について語るゼレンスキーの瞳は涙でうるんでいた)

エネルギー絶滅戦争には少なくとも勝利した

シュムィガリ首相が24日の閣議でエネルギー戦争への「勝利」を寿いだ。侵攻第1日目からサイバー攻撃・砲撃・原発の占拠・火力発電所や水力発電所、また変電所への攻撃……こうした苦難に遭いつつも、民間企業とも協力の上、春の燃料危機を克服したし、この冬を乗り切るためのリソースを十分に蓄えることにも成功した。「我々は耐え抜いた。我々は冬を越えた」と首相(УП

ポーランドと「レオパルド」

盟友ポーランドのモラヴィエツキ首相が24日、キエフを訪問した(УП)。同日、待望の「レオパルド2」戦車の最初の4台がウクライナ入りした(УП

まとめると、
・ゼレンスキーが昨1年は「不屈の一年」であったとするビデオメッセージを出した
・中国が「和平案」を提示した
・ゼレンスキーが記者会見を開いて外国人記者らのいろいろな質問に答えた
・シュムィガリ首相がエネルギー戦争へのひとまずの勝利という状況認識を示した
・ポーランド首相と「レオパルド2」がウクライナに来た
2023年2月24日はこのような日であった。

世論調査:ウクライナ人はロシアへの攻撃を望んでいる

キエフ国際社会学研究所の2月11-22日の調査によれば、ウクライナ国民の90%がロシア本土への攻撃が必要であると考えている。УП

・軍事施設に限り、攻撃の必要性を認める(38%)
・軍事施設およびエネルギーインフラ施設に対して攻撃の必要性を認める(39%)
・ロシアがやっているのと同様、民間を含めて、あらゆる施設に対して攻撃すべき(13%)
・ロシアへの攻撃を支持しない(7%)

前3者合計で9割が程度の差はあれロシア領に攻撃を行う必要ありと考えている、と。憎悪と破壊の終わりなき連鎖。

2月23日

1周年前夜、国連総会の緊急特別会合が開かれ、国連加盟193か国中141か国の賛成で、ウクライナが昨秋提案した「平和の公式」の重要条項を包含する決議案採択された(УП)。ロシア軍の撤退やウクライナへの賠償など10か条から成る「平和の公式」は既に米国やEUなど主要国の支持を取り付けていたがこれに”数”のお墨付きがついた形。10か条の細目についてはさしあたり本記事2/21の項。また国連決議の詳細はさしあたり→NHK

電力、暖房

電気は今も基本、足りている。23日は寒波が襲ったが、それでも出力は需要を全量カバーできていた(УП)。ただ23日夕刻、南部のヘルソンがロシア軍の攻撃を受け、中央暖房が止まっている。厳しいイヴとなった(УП

ブダーノフ語録

УПがウクライナ国防省情報総局のブダーノフ長官にインタビューを行った。

■ロシアは短期決戦を望んでいるУП
ロシアはウクライナでの戦争を年単位に長引かせることを意図していない。むしろ何でもいいから戦果を挙げて、可能な限り早く戦争を終わらせようとしている。「ぶっちゃけ露助どもは全員大嫌いだが、あちらにもバカでない人たちはいる。その人たちにははっきり分かっている、どちらの側にも時間はないと。これが長く続けば続くほど、軍および経済の完全崩壊が大規模にかつ急速に引き起こされると」

■「裏切者」メドヴェチュクは今度はモスクワで「ウクライナ問題のスーパーエキスパート」として成り上がろうとしているУП
9月の捕虜交換でロシア側に身柄を引き渡されていたウクライナのもと親露派国会議員ヴィクトル・メドヴェチュクは今、ウクライナ問題に関するスーパーエキスパートとの触れ込みでロシアの権力構造に入り込むことを企てている。同人は同じくウクライナからロシアへ逃亡したかつての知人たちを糾合して一大チームを作っているとか。

■プーチンの取り巻きの中にエージェントを見つけるのはどんどん容易になっているУП
プーチンの取り巻きの中にはウクライナの諜報機関と協力関係にあるエージェント(協力者)が複数いる。ロシアの状況は実際のところ日に日に悪くなっており、それと比例して、新たな協力者を見つけるのはどんどん容易になっていっている。むろんエージェントらの情報には慎重に接しているが。信頼は(人にではなく)事実に置いている。

「中国がウクライナ問題に関与姿勢を示していること自体は悪いことではない」ゼ

ゼレンスキー、スペインのサンチェス首相とキエフで会談した後の会見で「(中国が24日に発表するとされる和平案について)全体的なことは知っている。文書そのものは見ていない。文書について診断を下すのは尚早だ。だが一般的に、中国がウクライナについて語り始めたこと、これは決して悪いことではない。これは最初の一歩だ。悪いことではない」УП

話は前後するが、スペイン首相がキエフを訪れていた(УП)。各国首脳のキエフ詣でが止まらない。この種のニュースに接するたびに岸田は肩身の狭い思いをするのだろう。だが無理なものは無理なのだから、そこは想像力とあと勉強で、G7議長として議場でも堂々と振る舞ってほしい。アリバイ作りのために変な感じに訪問を捩じ込むのは迎える方も迷惑だと思うので、ここはもう頭を切り替えてほしい。

マリウポリ

しばらく聞かなかったマリウポリの名を頃日よく目にする。爆発に次ぐ爆発。ウクライナ軍の奪還作戦が行われているらしい。

ウクライナ東部、アゾフ海を望む同市は、激越な攻防の末、昨年5月にロシア軍に占領され、いまや「ロシア連邦に編入」されている。地図(NHKより拝借)

こう見るとけっこう敵地奥深いが、「ウクライナ軍にとって距離はもはや重要ではない。100kmだろうと150kmだろうと(叩く)。連中が立ち退くまで、ウクライナ軍はマリウポリのテロリストどもを叩く」――ダニーロフ国家安全保障会議書記。УП

世論調査①停戦のための領土譲歩は可能か、否

キエフ国際社会学研究所が今月14-22日に行った調査では、「停戦のためであれ、いかなる領土的譲歩も容認することはできない」と考える人が87%の大勢を占めた。「和平そして独立の維持のためにはいくばくかの領土を手放すこともやむを得ない」と考える人は9%。ともに12月行った同様の調査から実質的には変化がなかった。УП

世論調査②戦争はいつ終わる?

同研究所が参加した別の調査(1月4-16日)では、「戦争はどれだけ続くか」との問いに対し、回答は次のようなものだった。(カッコ内は5月に行った同様の調査における数字)

「6-12か月」26%(11%)
「3-6か月」22%(17%)
「1年以上」15%(7%)
「3か月以内」9%(27%)
「分からない」29%(38%)УП

5月の時点では27%もが「3か月以内」に終わると思っていたのだから、人たちはだいぶ現実的になったのだろう。ただし「分からない」のこの有意な減少は、人たちの確信(あるいは願望)が強化されたことを物語っている。

2月22日

ウクライナ国防省情報総局のブダーノフ長官によれば、ロシアの大攻勢はすでに行われているが、多くの人はその事実を知らないでいる。というのも攻勢の質が非常に低いから。УП

プーチンの21日演説について

プーチンの21日の演説についての分析。まず英国の情報当局によるレポート:演説でプーチンは「特別作戦」継続の意向を鮮明にし、例によって西側の「欺瞞」を批判し、米国との新START(核軍縮)合意からの脱退を宣言した。「プーチンはこの半年さまざまなスピーチで繰り返してきた好戦的なレトリックを今回も使ったが、行き詰まりを見せている戦況の具体的打開策は何ら示さなかった。この戦いは『実存的な(自国の存亡をかけた)』戦いであると規定しながら、一方で『ロシアはうまくいっている、すべて計画通りだ』などと強弁する。その矛盾によって、どちらのメッセージもともに説得力を失っている」УП

次いで米国のISW(戦争研究所):プーチン演説は昔ながらのロシアの戦争正当化情報作戦を再開したものであり、戦争に対するロシアの言辞上のポジショニングについては何一つ変化が見られなかった。プーチンはこの機会を、新たな目標の宣言、またその目標を達成するための新たな手段の発表(追加の部分動員の発令、「特別作戦」を公式に「戦争」と宣言すること、その他)の場とすることもできた。だがそれをせずに、本質的なことについては言明を避け、西側批判やウクライナの「ナチス」規定や、自らの正当化と賛美に終始した。これは戦争の長期化を見越して、ひとまず具体的な時間的目標を定めず、戦争をとりあえずロシア国民にとっての「実存的な」戦いと規定しておいて、情報環境の整備に努めたものと見られる。УП

むなくそいわるいイベント

ロシアは23日が祖国防衛者の日である。これとあと24日の「特別軍事作戦」1周年を祝って、モスクワの「ルジニキ」スタジアムで政権支持者らの大規模集会があり、プーチンが登壇してスピーチを行った。祖国とは父なる国のことだ、父の国を守るという言葉には強い力がある、神秘性と聖性がある、ところで母なる故郷という言い方もありますね、つまりは家族です。一人一人の心の中にある大きなもの強いもの、それが祖国と家族です。最も聖なるもの最も崇高なるもの即ち家族と祖国。これを守るために立ち上がった人たちがいます。いまSVO(特別軍事作戦)というものが行われていてこのイベントの前にも軍最高指導部から報告を受けたばかりです。それを戦っているのは勇敢なる戦士たち。私たちの誇りです。УП

ウクライナの子供たちは地下壕で900時間を

昨年ウクライナでは1万6207回空襲警報が鳴り、1回の空襲警報の継続時間は平均1時間であった。毎回しかるべく地下壕などのシェルターに避難していたとすれば、ウクライナ人はこの1年で延べ920時間(平均値。地域によって異なる)をシェルターで過ごしたことになる。東部や南部の激戦地では実際にそうしていたことだろう。国際NGO「Save the Children」発表なので「子供たち」が主語になってるが、実際子供たちこそ律儀に避難した/させられたのではないか。空襲警報とシェルターへの避難は今や生活の一部になっている。УП

ルジニキ。大規模集会。コンサート。翻る三色旗。祖国と家族。聖なるもの崇高なるもの。勇敢なる戦士たち。私たちの誇り。恥を知れ。恥を知れ。恥を知れ。

カルパチアの樹氷

ウクライナ西部のカルパチア山脈で5日間大雪がふりポップイワン山の山頂(標高1936m)はいまこんな感じになっている。УП

22日朝(撮影時点)の気温が-8度で、2月初めは-20度以下の日が続いたということだ。山頂の構造物(観測所?)が蔵王の樹氷みたいになってるんだと思う。見たことがないような雪景色だ。厳しくも美しい。

2月21日

2月21日、この呪われた日付に、プーチンが議会両院向け教書演説をなした。新味のない、内容に乏しい、虚妄にみちた2時間。そこで1年の戦果を誇ることもできなければ、今起きていることを「戦争」と正しい名で呼ぶこともなく、新次の動員を発令することもなかった(УПMeduza)。ウクライナ大統領府のポドリャク顧問:プーチンは自分の時代遅れぶりと錯乱ぶりを議会両院の前で公然と示した。ロシアが文明から断絶した『タイガの奥地』に追い込まれていることをハイライトしてみせた。有望な解決策など彼にはないし、あり得ない。なぜなら(Pの主観では)周り中『ナチス、火星人、陰謀論』だらけだから。Sic transit gloria mundi――かくて世の栄光は過ぎぬ」УП

プーチンの空疎な2時間の唾液飛ばしの中にひとつトピックがあったとすればロシアが米国との二国間核軍縮合意からの一方的離脱を宣言したことで、朝日22日朝刊も一面でこれを取り上げてるが、筆者個人としては、逆にこの程度のことが最大のニュースになるくらい内容の薄い演説だったのだなぁという感想だ。私の極大の関心事は今行われているこの一つの具体的戦争の帰趨であって、ロシアの長期的な軍事戦略とかわりとどうでもいい。それは直接的には私が(精神的)ウクライナ人だからだが、次のようにも正当化できる:この戦争にロシアが負ければプーチン体制は終わる、そしてこの戦争にロシアは必ず負けてプーチン体制は必ず終わるのだから、今この政権が行うあらゆるジェスチャーは早晩ご破算になる。むしろ、近い将来まさに無意味になること(核軍拡)のために目の当たりの戦争に割くべきエネルギーとリソースが消費されるなら願ったりだ。

ゼレンスキー「ロシアが核実験を行うとか何とかは私たちのような大の大人がまじめに取り上げるべき話題ではない。あの人間(※プーチン)には先ず『何か言って脅かしてやろう』という意図があって、それありきで米国への返報だとか何とか口実を後付けするのだ。常に行われていること。こんなものに誰も関心を払わない」УП

中国

中国の名をよく目にするようになった。和平交渉の仲介役を買って出て露ウ紛争における中国のプレゼンスを高めようとしている。王毅外相が21日にモスクワを訪問したのに続き、4月~5月をめどに習近平国家主席の訪ロも計画されていると見られる。УП

その中国は侵攻1周年となる2月24日に和平案を発表することになっている。ウクライナ側には現時点で概要のみ伝えられている。これについてゼレンスキー、和平案の全文を公式に入手するには至っていないとしたうえで、中国は独自の和平案を提出するのでなく、既に存在する(ゼレンスキー自らが提唱した)10項目からなる「平和の公式」に参加することの方が望ましいという立場を示した。「我々の『平和の公式』にはすでに多くの国が支持を表明しているし、23日の国連総会でさらに多くの国が支持することが期待される」「欧州、インド、アフリカ、中国、すべての国がこの戦争の終結に向けて結束し、我々の公正なる(と私には思われる)『平和の公式』を支持してくれることこそを期待する」УП

王毅外相によれば中国の和平案は「主権および領土一体性、国連憲章の尊重」「すべての国の安全保障上の合法的国益」に関するものだそうだから、字義通りに受け取るなら、ロシアは侵略戦争をただちに止めて91年に確定した主権国家の国境線より立ち去れということにしかならない、のだが。

ちなみに「平和の公式」формула мира

①核および放射線安全保障(радиационная и ядерная безопасность)
②食料安全保障(продовольственная безопасность)
③エネルギー安全保障(энергетическая безопасность)
④捕虜および追放者の解放(освобождение всех пленных и депортированных)
⑤国連憲章の履行ならびにウクライナの領土一体性および世界秩序の回復(исполнение Устава ООН и восстановление территориальной целостности Украины и мирового порядка)
⑥ロシア軍の撤退と戦闘行為の停止(выведение российских войск и прекращение боевых действий)
⑦侵略の犯人に対する公正な裁きと損失の賠償(справедливое наказание для виновников вторжения и компенсации убытков)
⑧環境破壊への対策(противодействие экоциду)
⑨エスカレーション防止(недопущение эскалации)
⑩戦争終結の確認(фиксация окончания войны)

バイデンのウクライナ訪問(余談)

バイデンはキエフ電撃訪問後ワルシャワでゼレンスキーを「鉄の男」と表現した。「プーチンは自分こそが屈強な男で民主主義諸国のリーダーはひ弱だと思っていた。そうして彼は<鋼鉄でできた男>との戦いに踏み込んでしまった――ゼレンスキー大統領のことだ」УП

またバイデンはキエフの印象をこう語っている。「1年前、世界はキエフ陥落を予期して身構えた。だが今しがた見たばかりのキエフは、強固に、誇らかに、そして何よりも、自由に、存立していた」УП

バイデンのキエフ訪問は極秘かつ電撃的なものであったが直前になってロシア側に通知はしていたらしい。間違ってもその時間に首都中枢を攻撃しないように(したらひどいことになるぞ)ということなのだろうが、それならば、極秘かつ電撃的にする意味?? ともあれサリヴァン大統領補佐官「安全措置の強化にロシア側が驚かないように、米大統領の日程の詳細を提供した。これに対してロシアは『承知した』と言っただけで、何ら安全の確約はしなかった」УП。つまりロシア側は、一応検討したのだろうか。一石もて二鳥落とすことを。そんでよく考えて、やっぱり止めたのか。そこであんまりよくじっくり考えてもらっては困るから、だから極秘かつ電撃的にやったのか?

ウクライナ人の95%が勝利を信じている

「レイティング」社が2月4-13日に行った調査では、ウクライナのロシアに対する勝利を信じている人が95%に上った。うち勝利は数か月のうちに収められると考える人が20%、半年以上かかると考える人が63%ということだ。УП

ベストオブ戦中切手はこちら

2/13に「Діяで選ぶ戦時切手オブザイヤー」ということで紹介したアレ、優勝者が決まった。これであった。

「案の定」感が強い。Russian battleship go fuck yourself、オデッサ沖の蛇島の国境警備隊員が2月24日の侵攻初日にロシア艦隊の「こちらロシアの軍艦、蛇島のウクライナ国境警備隊、投降せよ、さもなくば……」との無線通信に対し「ロシアの軍艦、行って自分をファックしてこい」と言い放ってぶっきらぼうに無線を切った、その場面。この言葉はウクライナの不屈を示すシンボルとして大いにもてはやされた。ネット上でも多くのミームが作られたし、街中のビルボードもこの言葉であふれた。3月3日の時点で(※私らが侵攻開始後、最初で最後にオデッサの街中に入ったとき)すでにそうでした。

この切手は4月12日発行。その僅か2日後にロシアの巡洋艦モスクワ号が自分をファックしに海底に沈んでいった。人らは予言の成就を大いに喜んだのだった。УП

2月20日

この日バイデンがキエフを電撃訪問した。ゼレンスキーと会談した。各所に詳しく語られているので本ブログは深追いしない。私の感想は「日本にはこんなことはできない」。できない以上は、またする必要もないのだと頭を切り替えて、次善の策を考えていこうではないか。

同じ日、ウクライナメディアのタイムラインには「日本がウクライナに55億ドルの財政支援を行う」との見出しも踊った(УП)。なお、この日バイデンが発表した対ウ追加軍事支援の額は5億ドル。金額ベースで米の11倍の規模の支援であったが報じられ方は11分の1だった。でもだいじ。だいじだ。

なお同じ日、英チャールズ3世王が英国内の訓練場でウクライナ兵士たちを慰問した(УП)。翌21日にはイタリアのメローニ首相がキエフを訪問している。国際の力の結集。頼もしい。2月24日が怖くなくなってくる。

ロシアはスタンダードには行動しない、敵は戦術を変える

ウクライナ空軍のイグナート報道官が警鐘ならす:「敵機が発進しても(大抵撃ってこないから)大丈夫だ、と思うとキエフやザポロージエに『キンジャール』(※極超音速ミサイル)が撃ち込まれる。夜は敵もミサイル撃ってこない、攻撃はたいてい朝だ、だから夜は安心して眠ろう……と思うと夜中に撃ってくる。弾数は少なかったが、撃ってきたのだ」「スタンダードな行動ばかりをロシアに期待するのは危険だ。敵は戦術を変える。非スタンダードな行動も予期してかかるべきだ」УП

バンクシーの反戦アートが新たな戦中切手に

国営郵便が2月24日、ボロジャンカ(キエフ北西郊)にあるバンクシーのグラフィティをあしらった新たな記念切手を発行する。題して「ПТН ПНХ」。読み方はぷーちん・ぱしょーる・なーふい。とても汚い言葉なので意味は教えません。УП

この柔よく剛を制してる作品のオリジナルはしばらく吹きさらしだったが、今は防護壁で守られてるそうだ(УП)。かつて↓

今↓

今ふと思ったんだが私のこのブログ活動はいつかウクライナから感謝されることがあるのかなぁ。日本人のせめて100人くらいにウクライナ戦争のことを絶えず思い出させ続け問題の風化を防いだという、ミリグラム単位の貢献によって。少しのお金を集めたり、あるいは、何人かのウクライナ避難民に少しだけ手助けをしたこと、ほんの一人のウクライナ少年の後見人を務めたこと。だめかぁ。スラーヴァ・ウクライーネ(ウクライナに栄光あれ)とか言わないからだめか。

もしもいつかそれでもウクライナから表彰されることがあるなら、欲しいものあるよ。これら戦中記念切手シートをください。こやつ、とても喜ぶと思いますよ。

ナヴァーリヌィ「15の原則」

獄中のナヴァーリヌィが自らの政治的立場に関する15の原則なる文章を発表した。抄訳す。「5.ウクライナとの国境線をどこに引くべきか?ロシアの国境線と同じだ。国際的に認められた、1991年に画定したもの。我々ロシアだって当時それを認めたのだ。同じ国境をロシアは今も認めなければならない。議論すべきことは何もない。世界のほとんどすべての国境線は偶然的なもので、それを不満に思う人は必ずいる。だがそれを変更しようと武力を行使することは21世紀にはあってはならない。さもなければ世界は混沌に陥る」もっともすぎる。「6.ウクライナから手を引く。ウクライナ国民が望むように発展していけばよい。侵略を止め、戦争を終結させ、ロシア軍をウクライナの領土から撤退させる。戦争の継続こそ自暴自棄なふるまいであり、それを停止することこそ強い一手だ」「7.ウクライナ、米国、EU、英国と共同して、ウクライナにもたらされた損失の、受け入れ可能な賠償法を模索すること」Meduza

獄中の政治犯がこれだけまとまった考えを発表できることに驚いた(禁圧されてないんだ、と)、というのが一つ。もう一つは、読んでいて遥かなトリップをした。未来時点の広場の歌としてこれを読んだ。いつかみんながこんなこと言い出す、これが社会に公認されたひとつの考え方となる。廃墟からロシアは再出発する。みな憑き物(бесы)が落ちたように清々しい顔している。……そんな錯覚に一瞬陥っていた。現実は、今はまだ、暗い獄中で一人の反逆者がうたう白鳥の歌。

オデッサにマクドナルドが戻ってくる?

開戦以来全閉まりしてたオデッサのマクドナルド店舗に再稼働の兆し。求人が出てるのですて。ОЖ

オデッサ市内にはマクドナルドが9店舗あったが2月24日に全店舗が閉まった。その後キエフとかリヴォフでは営業が再開したのだがオデッサはとんと音沙汰なしだった。今は電気の心配があるがちょっと前まではミサイルも飛んでこないし相対的にはめちゃめちゃ平和だったので「なんでキエフでは再オープンしてんのにオデッサはしないの?」と非常に疑問だった。私自身はマクドナルドのファンでもなんでもないが皆さんが好きなの知ってるので。コロナのときも店内飲食禁止で皆さん外食は宅配頼みだった中でGlovo(バルセロナ発の宅配サービス、日本でいうUberEats)の配達員の長蛇の列が絶えなかったのがマクドナルドであった。平和の象徴みたいなことだ。

もっと業腹だったのはロシアとの比較で、レピュテーションリスクを恐れてロシア市場から撤退したマクドナルド店舗がフクースナ・イ・トーチカ(Вкусно — и точка)とか名前をかえて事実上存続したことだ。侵略国はバーガーほおばる口福を享受し続け侵略受けてる側が生活の潤いを奪われていなければならない、こんな不条理なことがあるか。マクドナルド社はヘルソン撤退時のロシア軍みたいに店内設備をめちゃめちゃに破壊して後続使用が不可能な状態にして(立つ鳥跡を濁しまくって)立ち去ればよかったのに。

にしてもВкусно — и точкаとはよく言ったものだ。日本語に訳すと「『おいしい』その一言に尽きる」みたいなことだが、これは「いや、これ、名前変わってるけど、マクドナルドやん!」「マクドナルド撤退したんやないの?」「なんで同じもん食べれてんの?」「てかマクドナルドなんで撤退したの?」いろいろ突っ込みどころあるだろうけど、とりあえず食ってみてどうだ、おいしい?おいしいだろ?ならそれでもうよくないか?といって議論を終了する、拒絶のみぶり。言ったら「もうええわ」とか「知らんけど」みたいなことだ。じっさい今のロシアは「その一言に尽きる。以上」といって話を終わらしたいことだらけではないか。悪いのはアメリカ。以上。キエフ政権はナチス。以上。政治は政治屋、俺たち小市民が何言ったって仕方ない。以上。俺はロシア人だからロシアの味方するんだ。ロシア大統領を信じて、支持するんだ。以上。

2月19日

電気の面では幸運な一週間だった。19日(日曜)も出力不足はないし、また見込まれない(УП

■ゼレンスキー:我々は「短い戦争」そして「勝利」への準備を進めているУП
ゼレンスキーが伊メディアのインタビューで語った:我々は短期戦争そして勝利へと準備を進めている。早ければ早いほど犠牲は少なくなる。2014年に紛争が凍結されたことは我々に不利に働いた。ミンスク合意はプーチンに寝耳に水の昨年の攻撃に向けて備える時間を与えた。もう同じ轍は踏まない。わが軍の士気は高い。自分の家族を、自分の家を守っているのだから当然だ。

■米国は中国がロシアに殺傷兵器を供与する可能性があるとの確証をつかんでいる――ブリンケン国務長官УП
ブリンケン米国務長官によれば、中国は公式にはウクライナ和平に努めているように見せかけながら、陰ではここ数か月にわたり非殺傷装備の供与を行っており、ロシアの軍事的増強に直接的に加担している。中国がロシアへの殺傷兵器の供与を真剣に考えていることを示す情報もある(その情報は早晩公開される)

■ポーランド大統領:ルカシェンコがウクライナに軍隊を派遣したとき民衆は反ルカを叫ぶУП
ポーランドのドゥダ大統領によれば、もしルカシェンコが対ウクライナ参戦を命じたら、それは同人の破滅を意味する。「プーチンによるベラルーシ軍の対ウクライナ参戦強要をルカシェンコは避けるべく努めるに違いない。なぜなら、第一に、それは多くのベラルーシ人が死ぬことを意味するからだ。実戦経験もない、装備も貧弱な兵隊が、何年も戦争を続け、祖国防衛への決意を固めたウクライナ軍といきなり衝突するのだから当然だ。そして第二に、ベラルーシ人は好戦的な民族ではない。ベラルーシ人は戦うことを望まない。そんな彼らにウクライナの隣人たちと戦うことを強要すれば、それが自分の最終的な終わりを意味することを、ルカシェンコはよく分かっている。ほぼ全国民が反ルカシェンコを叫ぶようになる。完全に制御不能な状態に陥るだろう」

2月18日

引き続きオデッサ州で計画停電が行われ、キエフ市・州でもその可能性があるほかは、電力安定(УП)。ゼレンスキー「ウクライナのほぼ全土に電気が灯っている。これがウクライナの底力だ。ウクライナにとって重みのある成果だ。皆でともに勝ち取った成果だ」УП。この「皆」の中には我々のことも含まれていると思うことにしよう(募金に協力してくださった方へ)。これで終わりというわけではもちろんないが。忘れないこと、関心を持ち続けること。ここぞという場面でまた小さな行動を起こせるように。

ウクライナでチャットGPT解禁

ちょっと面白い。Open AI社のチャットボットちゃん「チャットGPT」がウクライナで解禁された。ただし「ロシアに一時的に占領されている領域を除く」。

なんでも「チャットGPTが禁止されている国々のリスト」というものがあり、今回はウクライナが「そのリストから外された」形。被占領地での利用が解禁されていないのは「チャットGPTが反ウクライナ・プロパガンダに利用されるのを防ぐため」だそうだ(УП)。ということはロシア本国も当然ブラックリストに入っている。なるほど確かに危ない……が、国外シンパを使って現状でもいくらでもプロパガンダ作文が可能なのじゃないのか。禁止だの解禁だの、意味あるか?

2月17日

金曜もほぼ停電なし。出力は足りており、幾分かは予備に回すことができている。送電網が損傷しているオデッサのみ短時間の計画停電あり得る(УП

こうした状況を受け、首都キエフでは実に56日ぶりにトロリーバスとトラム(ともに電気で走る公共交通機関)の運行が再開した(УП)。市民は嬉しいだろう。「平和が戻ってきた」感じがするだろう。この間市内交通はすし詰めのマルシュルートカ(ミニバス)で全部まかなっていただろうか。なおオデッサもこれまで断続的に電気系公共交通機関は運行停止していたが現在は走っている(義父談)

ああ、そして見てください。オデッサの10日予報。

読み方:左端は2月18日土曜曇りときどき雨ときどき雪、最高気温11度最低気温2度。雪待草やクロッカスが咲きだす気温だ。キエフ↓

一陽来復。あとは特別軍事作戦1周年記念攻勢とかいう糞企図の惨めな頓挫を祈るばかりだ。2月24日という象徴的な日付にバフムートという象徴的な場所を攻略するために乏しい資源を非合理に集中投下し空費するという「象徴主義の罠」に陥って破滅すること、そもそも一人の禿頭の老人(Pから始まる禿……ピッコロ大魔王?)の妄想から始まった「特別軍事作戦」の末路としてふさわしい。

ISW:ロシアのさらなるミサイル攻撃あり得る、バフムート攻略できない代償として

ISW(戦争研究所)の見立てでは、ロシアはなかなか戦果を得られないことの代償としてウクライナ全土の民間施設に対しもう一度一連のミサイル攻撃を仕掛ける可能性がある。「ロシア軍のバフムート攻略のテンポは速まっておらず、2月24日までに目標を達成できる見込みはほぼない。戦果から見放されつつあるロシアは1周年を象徴的に祝うためにもう一度ウクライナ全土の民間施設に対する一連のミサイル攻撃を行う可能性がある」УП

ウクライナ空軍報道官:2月23-24日のミサイル攻撃に備えている

ウクライナ空軍のイグナート報道官:ロシアは2月23-24日にミサイル攻撃を仕掛けてくる可能性があり、ウクライナ側はそれに向けた備えをとっている。「軍は総統(P)に、また総統は民草に対し戦果を示すこと常に汲々としている」「2月23-24日は連中にとって聖別された日付だ。23日は祖国防衛者の日、24日はウクライナ侵攻1周年。攻撃の頻度を上げているのは恐らくこのためだ」「大規模攻撃の日付は23-24日であろうと予測できる。いつ来てもいいように準備を整えている」УП

2月16日

16日未明、ウクライナ各地にミサイル攻撃が行われた。36発発射で16発撃墜。北部・中部・西部に着弾を許し複数の重要インフラに被害が出た(УПУП)。前回の大規模ミサイル攻撃が1週間前(2/10)で、このときは100発あまりのミサイルが使用された。1度攻撃があると次の攻撃が行われるまでに10日~2週間の準備期間が必要とされていた。直近だと、第11次攻撃が元日、第12次が1/14、第13次が1/26、第14次が2/10、で今回が第15次攻撃(2/16)。ダニーロフ安全保障会議書記は「ロシアは2月23-24日に新たな大規模ミサイル攻撃を行う可能性がある」というのだが(УП)、そんなぽんぽん撃てるのだろうか。戦果を急いで本来やりたかったような1周年攻勢がどんどんできなくなっているのであってほしいのだが。

なお、今回の攻撃による電力システムへの被害は軽微であった。攻撃にもかかわらず、出力が需要をカバーできている状態はこれで5日続いており、キエフ州・オデッサ州の一部を除いては、使用量に制限をかける必要性は生じていないという(УПУП

国営電力「ウクルエネルゴ」クドリツキイ総裁はブルームバーグのインタビューに対し次のように語っている:「対空防衛力の向上ならびに(ウクライナの)重要インフラに対するロシア軍の攻撃能力の低下により電力状況にとって最悪の時期はもう過ぎたと考えられる。とはいえ気は抜けないが」「ウクライナの電力復旧チームは(習熟・効率化により)作業時間を秋時点の4分の1まで削減した。いわばプラトー(台地)に到達しており、この先後退は起こらない。破壊が行われればそれと同等あるいはそれ以上の速度で修復できる」「ロシアはインフラ破壊を目指したミサイル・ドローン攻撃をなおも続けているが、冬の出口が見えてきたことで、安堵を覚えている」УП

いやな奴のいやな動き

きょう17日、モスクワ郊外のプーチン別邸でプーチンとルカシェンコが会談する(УП)。これについてウクライナ国家安全保障会議のダニーロフ書記は「プーチンは再び対ウクライナ直接参戦するようルカシェンコ説得を試みるであろう」УП。当のルカシェンコは「ベラルーシ軍の参戦条件はたったひとつ、ベラルーシに直接攻撃がなされた場合だけだ」と述べている。該当箇所直訳:「今のところただ一つのケースにおいてのみ私はロシア人たちと一緒にベラルーシ領内から戦う用意がある:あちら(※ウクライナ)からベラルーシ領内へたとえ一人でも兵士がやってきて私の民を殺したときだ。彼らがベラルーシに対し侵略を行ったなら、返報は苛烈極まるものとなる。そして戦争は全く違う性質を帯びることになる」(УП

余談だが、УП報道ではルカシェンコの名には決まって「自称リーダー」(самопровозглашенный лидер Беларуси)「正当性なき大統領」(нелегитимный президент)との枕詞がつく。なおプーチンは「侵略国の大統領」(президент страны-агрессора)「ロシアの独裁者」(российский диктатор)。

2月15日

電気は足りていている。国営電力の15(水)昼の発表では、出力が需要の全量をカバーできている状態が土日月火と4日続いており、水曜も同様の見込みという。ゆえに州ごとの使用量上限の設定は引き続き、なし。オデッサのみ僅かに制限がかけられており計画停電が実施される。УП

ウクライナ全土総LED化計画(自宅の白熱電球5個を最寄りの郵便局でLEDランプ5個と交換する)については、開始2週間ですでに100万人が利用、LED500万個がハケたということだ。LEDランプの提供者はEUで、総計3500万個のLEDをウクライナに供与する計画。УП

気球

キエフ上空に露軍の気球6基が出現。そのほとんどが撃墜された。中間報告では、これら気球は①コーナーリフレクターを搭載し一定の偵察装備を備えていた②敵の狙いはウクライナの対空兵器の発見および消耗であった、と見られる(УП

昨日のモルドヴァの領空封鎖騒ぎについて若干の詳細。そもそもウクライナ側からモルドヴァに「未確認飛行物体がモルドヴァに向かっている」との情報が伝えられ、のちモルドヴァ軍も当該飛行物体を確認した。「ドローンないし装置が一定高度で測定を行っていた」「隣国では戦争が行われている。当該物体は北から、つまりウクライナから飛来した。我々としては警戒する必要がある」(モルドヴァ議会広報、УП)。ただし、飛行物体の所属については明らかにされなかった。

バフムート、戦況の現在と今後

なお激戦が続く東部のバフムート。ウクライナ軍は持ちこたえている。最近ではロシア軍の側に開戦以来最大と言われるペースで人的損失が出ているという。そのバフムートについてゼレンスキー「砦だ。生きた人たちから成る、生きた壁。この戦争は我が国の歴史にとっていかにも高くつくものとなった。だれそれでも人たちは、強固に自己を防衛し、強固に立ちはだかり、……理解しているのだ、自分たちは砦なのだと。ウクライナが全土の解放に向けた準備を整えるための砦」УП

その小さな街を守り通すことにどれだけの意味があるのか、いったん退散して新たな防衛線を構築したらどうか……という声も西側諸国にはある。ワシントンポストが防衛計画専門家らの見解として伝えたところでは、ウクライナはバフムート防衛と春季攻勢の開始を両立することができない、だからバフムート防衛ではなく春季反攻にプライオリティを置くべきだ。一方でISW(戦争研究所)は「ウクライナ軍のバフムート死守は戦略的に根拠のある判断だ」とする。「ウクライナ軍のバフムート防衛によってロシア側は『ワグネル』戦力の大部分を消費し空挺部隊の大部分を投入することを余儀なくされている。ロシア軍は戦力を大きく消耗し、これがのちのウクライナの反攻にとって好適な条件を整える可能性がある」。もしウクライナ側が早々にバフムートを明け渡していたなら、ロシア軍は次なる街へと同様の作戦を展開し、ウクライナ側はより脆弱な場所で急場しのぎの拠点を構築することを迫られる。「したがって、バフムート防衛と反攻への条件整備は相互排他的というより相互補完的である。ウクライナが早々にバフムートを放棄していたらロシア軍は進軍を続けていただろう」УП

ウクライナ側の反攻がいつになるのかについては、「占領地の解放に向けた準備が十全に整うまでには数か月がかかる」と国防相(ウクライナ国営通信のインタビュー、УП

なお、ウクライナ国防省参謀総局はプーチンに「非常に身近な人たち」と協力関係を結んでいるそうだ。「戦争にはあらゆる手段を用いている。我々はプーチンに非常に近しい人々と協力するメカニズムを発見した」「ウクライナへの友愛の情から協力してくれている、という人は多くないが、大規模戦争をはじめとする現在のロシアの対ウ政策を支持していない人はそれなりに多い」「いずれの人も自らの利益のためにやっている。自分の命を救うためにという人もいれば、単にお金が惜しいからという人もいる。ウクライナへの侵攻が始まってから一部の人は急速にお金または影響力を失った。彼らはそれが気に入らないのだ」(参謀総局報道官、ギリシャメディアのインタビュー、УП

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何丘の「こ~ぉだったらいいのにな」:プーチンは今のロシア軍の総大将であるゲラシモフに3月までにドネツクを完全制圧するよう命じたということだから、落とせそうで落とせないバフムートにかかりきりになって、すわ北からキエフ再侵攻かとか色々怖いこと言われていた1周年攻勢は結局ただのバフムート攻略戦へと局所化して、それで結局落とせない。ウクライナ側は守り切る。バハムートはいわゆる精肉機мясорубкаとなる:しゃにむに投入されたロシア軍人はもれなくミンチになる。肉を挽き切ったころころに西側から訓練を終えた操縦士とともに戦車が入ってくる。すでに春は来ていてウクライナ市民がブラックアウトで凍え死ぬ心配もない。

素人何丘の「こ~ぉだったら」2:ゼレンスキーの「バフムートという壁に守られながら反攻の準備を整える」レズニコフの「解放作戦の準備が整うまで数か月」みたいな発言は宣言効果を狙ったもので、そう言って油断させておいて明日にも電撃作戦を仕掛けるのでは(だったらいいな)。宣言効果(ある発言が聞き手に心理的影響を与え新たな状況を創り出す効果)といえば、ウクライナの情報当局はロシア政権中枢と通じていますよと宣言すること、これも、まず事実であったとしたら歓迎すべきことだし事実であってほしい(事実であろう)が、それに加えて、こうウクライナ側がいうことで露政権内に相互不信が広がり、プーチンの疑心暗鬼に拍車をかかったりする、そういう効果もあるだろう。

2月14日

14次にわたるミサイル攻撃を耐え抜き、いま目覚ましい回復を見せているウクライナの電力システム。しかし次なる一手としてロシアは「ウクライナ南部市民から水を奪おうとしている」とシュムィガリ首相。占領者どもは南部の水甕であるヘルソン州のカホフカダムから故意に水を抜いており、日量数千立方メートル(参考:1立方メートル=1000L)の水がただ失われていっている。これにより周辺地域に住む多数の住民が浄水へのアクセスを失うほか、ザポロージエ原発の冷却システムが正常に機能しなくなる恐れがある。「ウクライナはあらゆる手立てを尽くしてロシアが弁を閉めるよう圧力をかけることを(国際社会に)求めている」と首相。УП

再侵攻でキエフ攻撃は……ない?

米軍のミリー統合参謀本部議長「ロシアがキエフを攻撃する兆候は現在のところ見られない」。「潜在的な脅威は常にある。空からの脅威、ミサイル攻撃の脅威。キエフは首都であり、この戦争における重要な標的である。ロシアにキエフ攻撃を実行する能力があることは否定しない方がよい。だが現時点では、取るに足るいかなる予兆も警告も認められない」УП

気球がやたらに飛ぶ世界

やたら気球が飛ぶ世界になったもんだ。モルドヴァ上空に未確認の飛行物体どうやら気球が出たとかで、モルドヴァ領空が一時閉鎖された。「モルドヴァ共和国領空に気象観測用の気球に似た小型の未確認飛行体が発見された、との情報を国防相が取得。気象条件により飛行体の追跡および飛行ルートの測定が不可能であったため、13時24分、安全確保のため一時的に領空を閉鎖する決定が下された」「安全上の脅威がないことが確かめられたため14時46分に領空を閉鎖を解除した」УП

14日はウクライナ上空にも気球が出現した。コーナーリフレクターと呼ばれる何やら空中で電波を反射させる装置を気球につけてロシア軍が飛ばしたもので、同様のものが12日にも観察されていたらしい。気流に乗って低速で動く1m~1.5mの気球のゆくえをウクライナ側はレーダーで追跡しており、戦闘機も常時哨戒という。敵の狙いは①情報収集②ウクライナ側の対空防衛を混乱させることにあると考えられるそう。УП

モルドヴァとセルビア(仲良くして)

モルドヴァの政権与党議員が「クレムリンのモルドヴァ不安定化計画の第一歩をすでに阻止した」とか述べた。なんでも今週キシニョフでモルドヴァvsセルビアのサッカーの試合があるそうで、セルビア側のサポーターもモルドヴァを訪れる予定だったのだが、それに交じって工作員が侵入することを恐れ、サポーターの入国を阻止したのだそうだ。セルビアチームはサポーターなしの完全アウェーでプレイすることになる。УП

(「モルドヴァ不安定化計画」については昨2/13付記述を参照)

当のセルビアは、自国民がモルドヴァの不安定化さらには政権転覆に加担するなど風評被害も甚だしいとして反発、「そう主張する根拠の提示をモルドヴァ側に求める」とした(セルビア外相、УП)。

3月8日とか5月9日とか祝うのもう止めましょっか

ウクライナ最高会議で「国民の祝日」に見直しがかけられる。ソ連時代からの伝統である3月8日(国際婦人デー)とか5月1日(メーデー)とか5月9日(対独戦勝記念日)とかを新生ウクライナで祝うのはもう止めませんかという話。ロシアと同じ日を祝いたくない、共有するものを極力少なくしたい、というわけ。

ウクライナのナショナルカレンダーは次のようなものとなる(可能性がある)。まず新設される祝日は、

・2月25日「ウクライナ女性の日」(女性作家レーシャ・ウクラインカ生誕の日)
・3月9日 国民詩人タラス・シェフチェンコ生誕の日
・5月の第2日曜日 「母の日」

存置される祝日は、

・1月1日 新年祭
・1月7日および12月25日 降誕祭(クリスマス)
・6月28日 ウクライナ憲法記念日
・7月28日 ウクライナ国体記念日(День Украинской Государственности)
・8月24日 ウクライナ独立記念日
・10月14日 ウクライナ防衛者記念日

5月9日に関しては、第二次大戦の欧州戦線が決着したのは5月8日なので、この日を祝ったらと。それも、戦勝を祝うというよりは、数千万もの犠牲者を悼む日ということで、休日ではなくす、という案が出ている。УП

富の際限なき収奪

プーチンは大好きな別荘に行くために鉄道を敷いた。駅を開いた。あと、快適で安全な旅のために、装甲列車を作らせた。最近よくそれで出かけている――そんな報道がロシアの反体制メディアで相次いでいる。УП

①モスクワ州内の別荘②大好きなヴァルダイの別荘(モスクワ・サンクトペテルブルクの中間点に位置)③黒海沿岸のソチの別荘、少なくとも以上3つにつき、それぞれ鉄道の支線を伸ばし、最寄り駅を新設した。その周囲はガチガチに守っている。

飛行機で移動すると探知されやすく、鉄道の方が安全なのですって。装甲列車ならなおよし。「生を愛する」プーチンだから(前の記事12/12)

2月13日

ほんとうにすごい。13日月曜は全土で停電なしであった。緊急停電も、計画停電もだ。オデッサを唯一の例外として。つまり、電力が最も逼迫しているオデッサでは依然として計画停電が行われており、またキエフ市および同州含む3州で需要増次第で計画停電あり得るとはしながらも、基本的には電気が全土に行き渡っている状態。これは、停止していた火力発電所(複数)が修繕のち運転再開したこと、水力発電所の活発な稼働、日照時間が長くなり、かつ晴天続きで再生可能エネルギーによる発電量も増していること、隣国スロヴァキアからの電力輸入も継続中……といった理由によるものという(УП)。ウクライナの電力のこれほどのレジリエンスを見越したうえでウクライナ越冬支援を終了したわけでは決してない(see「何かやる」)が、安堵を覚えている。これでよかったのだ/か。

関連して、「ニコラエフ電力、ポーランドより64トンの設備を取得」とのニュースも(УП)。電力施設の復旧のための設備、総計64トンもがニコラエフに運び込まれたという。こうした支援あっての今だ。

モルドヴァ、沿ドニエストル

「ロシアがモルドヴァの政権転覆を計画中である」との情報をウクライナの諜報機関がつかみ、その情報をウクライナがモルドヴァ側に伝えていた。その内容の一端をモルドヴァのサンドゥ大統領が明かした。なんでも、ロシアがロシア・ベラルーシ・バルカン諸国など各地からモルドヴァへと軍事的に訓練された(そして民間人を装った)工作員を送り込み、複数の国家機関を襲撃して人質をとる、という短期計画だという。УП

私がここで地図だしても嫌じゃないですか。出しますよ

オデッサから一番近い外国がモルドヴァ。モルドヴァの東部国境(上図で赤茶の領域)が沿ドニエストルと呼ばれる、事実上のロシアの飛び地(モルドヴァの統治が及んでいない、自称独立国、親露)になっている。

戦争初期はロシアがこの沿ドニエストルの兵力を動員してオデッサへと進軍するのではないかと危ぶまれていたが今日ではこの飛び地の弱小勢力がウクライナ軍に対して何か意味のあることを行い得るというideaは完全に否定されている。と思っていたところへ今回のモルドヴァのニュース。

これを受け、NATOのミルチャ・ジョアナ事務次長「沿ドニエストルを用いてウクライナを背後から包囲するほどの戦力は今日のロシアにはない。オデッサを掌握して(クリミア・ドンバスさらにはロシア本土と)沿ドニエストルをつなぐ陸の回廊を作る、という計画は今もって存在しているが、ロシアにそれを実行する力は見られない」「かわりに今ロシアがやろうとしていることは、モルドヴァの親欧路線をつまずかせることだ。国内の不和を煽り、マイヤ・サンドゥ(大統領)のリーダーシップを損なおうとしている」УП

ロシアの1周年攻勢「もう始まっている」

NATOのストルテンベルク事務総長によればロシアのウクライナ再侵攻は「すでに始まっている」。そのことはロシア側がウクライナ東部で送り込んでいる追加兵力の量に見て取れるという。УП

その他、スト氏の発言:P珍は和平への動きどころか、新たな攻勢をかけている。だからこそウクライナを軍事的に支援することが大事だ。ウクライナに必要な武器・設備・部品を適時に送る。それが速(早)ければ速いほど、より多くの人命を救うことができ、紛争の平和的解決へと道をつけることができる。また、もしPがウクライナで勝利するようなことがあれば、それは世界の権威主義国家に対し、「武力を用いて自らの外交目的を達することは可能なのだ」というシグナルを送ることになる。……

何丘:ロシアの1周年攻勢の一方で、ウクライナ側も大規模反攻を準備しているはずで、西側は前者について機密情報を積極開示し敵の機先を制するということをするが(1年前を思い出しますね)、後者については誰も語らない。そんななかで次のような見出しを見てぎょっとした:

米、自国市民に対しロシアからの即時退避を勧告

在モスクワ米国大使館の退避勧告、「ロシアに居住またはロシアを旅行している米国市民に即時出国を要請する。不当逮捕のリスクに特段の注意を払うよう。また、ロシアへの渡航は控えるよう」。米国は同種の勧告をたびたび出しており、最後のものは9月、ロシアで部分動員令が出たときだという。あわせて大使館は、米国政府がロシア国内の米国市民に通常または緊急のサービスを提供する能力は著しく制限されている、という事情も明かした。ロシア政府が米国大使館職員の移動を制限したこと、また、各地の米国領事館の活動が停止していることにより、とりわけ在モスクワ館から離れた場所にいる米国市民への援助が困難な状況なのだと。УП

ちょうど1周年ということもあり、当時の「手記」も再読してるし、米国大使館の退避勧告と聞くとどきっとする。まさかウクライナ軍がロシア本国に攻撃をしかけるとの情報を米当局が関知したのかとすら思った。定めし在モスクワ日本大使館も今日あたり追随して即時退避勧告を出したことでしょう。

調査:ウクライナ人の絶対多数が勝利貫徹を是

クリミア奪還まで戦う、93%。核兵器使われてもなお戦う、89%。УП

↓朝日14日夕刊

グルジアの岸辺にて

黒海を望むグルジアのバトゥミに機雷が漂着して岸から25mのところで爆発した。幸い死傷者なし(УП)。下図で赤鋲立ってるのがバトゥミ

今度の侵略戦争でロシアは黒海に多数の機雷を設置した。ウクライナ軍も自衛のため相当数を設置しているものと思う。そうした機雷が時化で繋留を解かれ漂流し、ルーマニアやブルガリアの岸辺にもたびたび流れ着いている。ウクライナの黒海北岸(オデッサを中心とする)では2022年のひと夏に8人が漂着機雷に触れて死亡した。

Діяで選ぶ戦時切手オブザイヤー

ウクライナ郵便はこの1年、戦争テーマの記念切手を各種発行してきた。その中から一番いいのを選んでみようと、まぁちょっとしたゲームですよね、なんでもできる国民アプリ「Дія」にて市民に投票が呼びかけられた。УП

いちばん最近出た発電所従業員らに捧げる「光をめぐる戦い」のやつ(本記事2/8)がエントリーしてないようで残念だ。この中なら9番の「ウクライナ・ドリーム」かな、女の子が描いたやつ、ロシアに破壊されたウクライナが誇る世界最大の貨物輸送機「ムリーヤ」が再び平和の空をはばたく夢(ムリーヤ、Мрія、その意味するところは「夢」)。

7番はいわずとしれたロシアの軍船いねよかし、10番はスイカの名産地で知られる(そして夏のあいだずっと奪われていた)ヘルソン、のスイカにしゃっくとひと噛み入ったの。2番はさしずめウクライナのトラクターが鹵獲した露軍戦車を牽引してるところ。4番はたしかこれは崩落したヘルソンのアントーノフ橋でタイタニックごっこ。5番、新年祭を別れ別れに過ごす妻と夫、21世紀の「戦争と平和」。

2月12日

電力に関してマジかと(いい意味で)目を疑うような見出しが並んだ。

「ウクルエネルゴ:エネルギーシステムに出力不足はない、州ごとの使用上限は設定されず」УП。週末の需要減(※一般にオフィスや工場が休眠する週末は電力需要が低減する)および(10日の攻撃の際に停止していた)原発の2原子炉の再稼働により12日日曜は使用上限の設定が行われなかった。

「ゼレンスキー:週末はおおよそ停電せずに過ぎた、だがこれは決定的な勝利ではない」УП。ゼ:絶えざるミサイル/自爆ドローン攻撃、また今週の大規模ミサイル攻撃にも関わらず電力不足に煩わされること少ない週末を送り得たことは、まさにエネルギー事業者たちのプロフェッショナリズムの証左、そして、エネルギーシステムの保守にあたるすべての労働者の非常な献身のたまものである。とはいえ電力前線において決定的な勝利を収めたとはなお言い難い。今後もロシアのテロリストどもは新たな攻撃を行い得るし、新たな制限、新たな破壊と需要増はあり得る。だが今日と昨日のことは、ともに励めば、互いに助け合えば、ウクライナ人には大きなことができる、ということの新たな証左となった。

「キエフおよび3か州は月曜も停電なし」УП。キエフ市・キエフ州・オデッサ州・ドネプロペトロフスク州では日曜に続いて月曜もオールデイ停電なしですと。

「ロシアの2月の大攻勢」恐るるに足らず?

近くあるとされる「ロシアの一周年大攻勢」についても楽観的な見通しが散見されるようになった。

「ダニーロフ:ロシアはすでに『大規模攻勢』を開始している、ただし大きな問題を抱えている」УП。安全保障会議のダニーロフ書記によれば今かと人らの恐れるところの大規模攻勢なるものは宣言なしにすでに開始されている、だが連中が期待したようには進んでいない。

「ロシアは大規模攻勢のためのリソースを保持していない――参謀総局」УП。情報総局のチェルニャク報道官によれば、ロシアは直近数週間のうちに東部における攻勢を強化する計画だが、大規模な攻勢をかけるための十分なリソースをロシア軍は保持していない。

「ロシアは効果的な侵攻に向けて動員兵を訓練することができなかった――ISW」УП。米シンクタンク戦争研究所(ISW)によれば、ロシア軍は効果的な侵攻のために短期間で動員兵を訓練することに失敗した。

オデッサ上陸あるか(いや、ない)

レズニコフ国防相がオデッサを訪れた。で言うことにゃ:オデッサ掌握に必須となる黒海の制海権はすでにロシアから剥奪している。たとえばウクライナ国産対艦ミサイル「ハープーン」によって敵巡洋艦モスクワ号がご存じの航路をたどり海底直行したことによって。ハープーンは現在も配備中。ゆえに海からオデッサに近づく見込みは全くない。陸から近づく試みもすでに失敗している。敵軍はドニエプル左岸に追い落とされ、その際に自ら橋という橋を破壊してしまったことにより、ヘルソンは天然の要害となっている。УП

2月11日

各州当局による10日の大規模ミサイル攻撃の被害詳報によると、攻撃の標的となったのは13州で、この中にオデッサの名なし。各地で家屋やインフラが損傷したが人的被害は(ルガンスクを除いて)ほぼ無い。被害は僅少との印象(УП

それが証拠に、12日日曜はキエフ市・州、オデッサ州、ドネプロペトロフスク州で停電が行われないとのことだ(УП)。オデッサといえばこの一週間状況深刻状況深刻と言われ続けていたが、国を挙げてのバックアップで復旧が急速に超過達成されたということか。ダーチャの義父母も昨日は電気ずっと使えたと言っていた。ちなみに今オデッサはまぁまぁまぁ暖かいと言えなくもない。10日予報↓

読み方:左端が2月12日日曜天気は曇りときどき晴れときどき雨ときどき雪、最高気温3度、最低気温マイナス2度。

蛇島

一転して暗鬱なニュース。オデッサ沖の蛇島にロシア軍が空爆を行った(11日朝の南方作成司令部発表、УП)。敵機から4発の爆弾が投下されたほか、クリミア半島からも3発の対艦ミサイルが発射された。「人的犠牲はない」とのことだが。

2月10日

10日、ウクライナ全土へ大規模ミサイル攻撃。ウクライナ軍参謀本部の18時の発表によれば、対空誘導ミサイル29発と巡行ミサイル71発が発射され、後者のうち61発を撃墜した。攻撃には自爆ドローンも用いられた。УПУП

今度の攻撃も主としてウクライナの発電所や送電網で、6州の電力施設に着弾、特に被害が深刻なのはハリコフ州。全体としてエネルギーインフラの被害は深刻で、複数の火力・水力発電所が損傷したほか、砲撃に備えた予備的措置として稼働中の3原発すべてで電力生産量が低下、フメリニツキー原発では1原子炉が稼働を停止している。УП

国営電力ウクルエネルゴによれば「今日の攻撃による被害は甚大であり、我々の電力復旧計画は修正を迫られたが、同時に、破局(カタストロフィ)は今回も起こらなかった。ロシアは14回目の試みによってもその目的を達しなかった」。目的とは、ウクライナ全土のブラックアウト、政府機能・経済活動・市民の生活が悉皆不可能となるレベルの破壊であるとの見立てだろう。「最も被害が深刻なハリコフ州も、死活的インフラは生きている。この土日で今回の攻撃で損傷した複数のエネルギー施設を復旧し、全国平均に近い水準まで電力状況を回復させる計画だ」「オデッサ市および隣接地域の電力状況も改善しつつあり、計画停電モードを試行できる段階に達しようとしている」УП

2月9日

ゼレンスキーの欧州歴訪まとめたMeduzaの4分動画。ロンドンにて英議会で演説→チャールズ3世国王に謁見→英スナク首相とともに英国内で訓練中のウクライナ軍人らと面会→パリで仏マクロン大統領および独ショルツ首相と会談→ブリュッセル(ベルギー)の欧州議会で演説。

動画終盤の欧州議会演説(抜粋)訳出す:「我々は今、世界最大の”反欧州的”な力に対して自らを守る戦いを行っている。我々ウクライナ人は戦場において、皆さまとともにある▽クレムリン(露政権)にとって1億4000万のロシア市民は、ウクライナへと武器を送りこむ、生ける運搬手段に過ぎない▽EUはかつてない規模の軍事支援を行ってくれている。そしてEUが、欧州のひとつの国の内政改革にこれほど肯定的な評価を与えるのも、恐らくこれが初めてだ――その国は、全面戦争のただ中で、自らを守る戦いを行いつつ、省庁の近代化に努めている。我々はEUへと歩みを進めている。ウクライナはEUのメンバーとなる」そうしてロベルタ・メツォラ欧州議会議長とともに欧州旗を掲げ、議場にはウクライナ国歌が鳴り響いた。ゼレンスキーの表情から抑えがたい高揚が伝わってくる。晴れの舞台であった。いつものスウェットで通した。ウクライナの未来は欧州とともにあるということを確信した旅であったろう。

記者たちが見たゼレンスキー

欧州歴訪に発つ前のゼレンスキーに独シュピーゲル誌と仏フィガロ紙がインタビューを行っていて、記者らがゼレンスキーの生息環境をリポートしている。開戦当初はインタビューも土嚢に囲まれたなかで行われていたが今は大統領府内に象嵌入りの寄木張り・シルクの壁紙をもつ黄金の間というものが用意されている。そこへ至るためには何重もの審査・検査を通らねばならない。身分証確認、金属探知機、赤外線カメラ。携帯電話はもとより腕時計・ペンまで没収される。身体検査のところで記者らは国防省情報総局のブダーノフ長官に会った。長官もやはり金属探知機にかけられていた。そうしてやっと会うこと叶ったゼレンスキーは「苦悩と憔悴に満ちた」様子をしていた……。

なお、インタビューを終えて出ていくと、入口のところにはクレバ外相がいて、次の面会順を待っていた。УП

「日本の諜報機関によれば」……

УПに「ウクライナ戦争でこれまでに20人余りのロシア将軍が死亡――日本の情報当局」と題する記事があり二度見した。日本の情報当局がウクライナ戦争について独自情報を有してる、そんなことあるのだろうか。

引用元は日経新聞で、何しろ昨年2月の大規模侵略始まって以来、ウクライナの地で20人余りのロシア軍将軍が殺害されたという。米国および欧州と協力のもと収集された諜報データに依拠した数字だということだ。なぜこれほど多数の軍高官を殺害できているかといえば、ウクライナ側のサイバー戦争遂行能力が優っており敵の本部の所在を掴みピンポイントで攻撃できていること、ドンバスに有力な情報提供者を有していること、の二説が挙げられている。Meduzaも同じ日経報を伝えている。

出国幇助

ウクライナ保安庁が徴兵適齢のウクライナ市民の不法出国ルートをまた6つ潰した、というニュース(УП)。ひと頃まで当ブログもこれ系の話をよく拾っていたが、飽きてしばらく取り上げていなかった。相変わらずこういう話はありますよということで。

今回逮捕されたウクライナ各地の不法出国幇助者が7人は、一人当たり1500~1万2000ドル(20万円~158万円!)で書類偽装などの手段によりクライアントの国外脱出を手助けしてやっていた。戦時下の闇ビジネス。(ふと思ったが、犯人が一種の義賊であって、その売り上げをウクライナ軍に寄付していたとしたら、ちょっとした小説だ。現に招集されているわけでもなく、いざというとき招集できるように単に国内にプールされてるだけの余剰人員を、法網くぐって国外に逃がして、対価の150万円をウクライナ軍に送る。その人はむしろ戦争によく貢献している。※筆者の妄想)

2月8日

ゼレンスキーが欧州歴訪中。英→仏と訪問して英首相・英国王・仏独首脳と相次いで会談。そのあとブリュッセル入りしてEUサミットに出席する。

まずロンドンで英スナク首相と会談して両国政府のパートナーシップ強化をめざす「ロンドン宣言」に調印した。それによれば、英国からウクライナへの軍事・人道・経済的支援の総額はすでに40億ポンドに上っており、中でも23億ポンドを占める軍事支援の規模は米国に次ぐ第2位である。英国は今後もこうした支援を継続し、ウクライナのエネルギーシステムその他民生インフラ施設の復興を支え、ロシアに対する制裁を継続し、凍結したロシア資産をウクライナのために用立てる義務を負う、とされた。УП

次いでバッキンガム宮殿で英国王チャールズ3世に謁見した。国王「久しくあなたのことを心配していました。あなたのお国のことを想っていました。万感迫って言葉が出てこないほどです」。チャールズ王はウクライナへの個人的な想いが強く、昨年2月、まだ王子だった時分にロシアの軍事侵攻が始まると、これを「野蛮な侵略」と常にない激しい調子で非難したほか、これまで英国内のウクライナ人コミュニティやロンドンのウクライナ教会を訪れ、避難民支援の様子などを視察したという。5月には他の王室メンバーにさきがけてウクライナ・ルーマニア国境の避難民支援センターを電撃訪問した。そんな国王にとって「今回の会談は握手会や写真撮影会には到底収まらない大きな意義をもつ」と消息筋(BBC、УП

ウクライナ側の攻勢をこそ待て

相変わらずロシアの2月の大攻勢いつ来るか・どこへどのように来るかと公人も専門家もあげつらっているのだが「ロシアの攻勢は常にかけられている、それが弱まったり強まったりするだけだ。むしろ『ウクライナの攻撃はいつ始まるのか』をロシア人たちに考えさせなければならない。そして『どうやってウクライナから撤退しようか』と考えさせなければ」ゼレンスキー、УП

オデッサの電力状況は改善しつつあり

しつつある。УП

ありがと日本

日本からウクライナへ12月と2月の2回にわたり、あわせて259機の発電機が届けられた。石炭・ガス採掘企業やガス輸送部門、電力部門、各地の温水製造施設などに送られるそうだ。УП

切手

ウクライナ国営郵便が敵ミサイル攻撃からの重要インフラの復旧に携わる労働者たちをテーマとする記念切手を発行する。題は「光をめぐる戦い、良心の戦い」。УП

「道路業者」「通信業者」「エネルギー業者」「水道業者」「ガス業者」の5種から成る。

なんか普通にほしいんだけど。

2月7日

本日8日から20日まで2週間かけて、すべての州に一日ずつ「一日中電気が使える日」を設ける。該当州はその日だけ州ごとに設けられている電気使用量のリミットが外される。市民にとっては1日限り電気使い放題のラッキーデイ。電力会社の狙いは州ごとの電力需要の実勢値を測り、スマートな電力配分を策定することにあるという。УП

翻訳めんどくさいのでただ貼り付けるとこんな感じだ。

8 февраля: Запорожская, Донецкая, Николаевская области;
9 февраля: Харьковская, Херсонская, Хмельницкая области;
10 февраля: Волынская, Киевская области;
13 февраля: Винницкая, Кировоградская, Черниговская, Закарпатская области;
14 февраля: Полтавская, Черкасская, Ровенская, Луганская области;
15 февраля: Житомирская, Ивано-Франковская, Сумская, Тернопольская области;
16 февраля: Днепропетровская область;
17 февраля: г. Киев, Черновицкая область;
20 февраля: Львовская, Одесская(←オデッサ)

電力逼迫がが最もひどいオデッサ州は最後の順番になっている。2月20日。

もちろんこれには重大な注釈がある。「そのかんエネルギーインフラに対するロシアの大規模ミサイル攻撃がなければ」という夢のような仮定である。最後の攻撃(第13次)は1月26日であった。間もなく2週間となる。いつもの感じならそろそろだ。ただ、つとに指摘されているように、ロシアはインフラ攻撃よりもっとひどいことを準備している可能性があり(2月の大攻勢)、それに集中するためにエネルギーインフラ破壊はいったん沙汰止みにする可能性もある。

なお、オデッサ州は現在全国で唯一緊急停電が行われている州だが、作業員の寝ずの努力と国を挙げてのバックアップで1日4~5時間くらいは市民も電気が使える状態にまで回復しており(УП)、次の週末にはなんとか計画停電へと移行できそうな見込みという。再度、「そのかんエネルギーインフラに対するロシアの大規模ミサイル攻撃がなければ」。УП

2月6日

近く行われるとされるロシア軍の大規模攻勢について色んな人が色んなことを言っている。目についたものを短く取り上げるにとどめる。

ルガンスク州のガイダイ知事「(ルガンスクでの新たな攻勢は)2月15日以降ならいつでもあり得る」「ルガンスク州とドネツク州への人員・装備の集中が進んでいる」「敵は弾丸の消費をかなり抑えている。これも連中が大規模攻勢への準備をしていることの証左」「動員兵の2か月の訓練期は終わりに近づいており、彼らをウクライナに配置するのに10日ほどかかる(※「2月15日以降」との見立てはここからか)」УП

レズニコフ国防相「2月の予想されるロシアの新たな攻勢は1年前のようなウクライナ全土の同時制圧を試みるようなものではなく、特定の方面への集中的な侵攻となるだろう」「全土制圧という戦術は昨年2月に試して失敗した。今ある新たな戦術は『集中して少しずつ』、10mずつ這って進んで奪い・退がらせ・押し出す、というものだ」「現在敵の戦力が最も集中しているのは東と南。だがヘルソンに再び進軍することはないだろう。退却時に自分で橋だの渡しだの燃やしてしまったから。ザポロージエ方面を陸路で進んでいきクリミアへの陸上回廊を拡大して補給を維持する狙いであろう」「何しろ最大のリスクは東。次が南。その次が北だ」「ひとつ依然として恐れねばならないのは、ミサイルおよびドローン攻撃だ。とはいえウクライナ側の対空防衛もより強力になり、練度を高めている」УП

ゼレンスキーからゼレンスカヤへ

先月末にゼレンスキーが45歳の誕生日を迎えてそのときゼレンスカヤ夫人が送った祝電を本記事でも紹介したが(1/25付)、2月6日に今度はゼレンスカヤ夫人が45歳の誕生日を迎えた。それでゼレンスキーが祝電を打ったのだが文面が仕事脳すぎて、なんかなぁ……と思った。以下全文

「愛するO.V.へ、君に感謝する。君がいてくれることに。僕の人生に。君が今、ここにいてくれることに。君がウクライナを、そして勝利を信じてくれることに。君が僕を強くしてくれることに。すべての年・時・分に……。そしてもう一度、この1年のことを(君に感謝したい)。君がどんなにウクライナを代表してくれたか。私たちのすばらしい子供たち、O.V.とK.V.のこと(も感謝したい)。君のD.N.のこともおめでとう。君に願うのは一つのこと。それは、人間たち悪鬼どもに対する勝利の日がいち早く君の人生に訪れること。僕たちの人生に……。人たち皆の人生に! 願いを、愛を、祝福を! 愛するO.V.へ、君のV.O.より」УП

2月5日

レズニコフ国防相「情報が錯綜している。たとえば『今晩攻勢がかけられる』とテレグラム(※SNS)に情報が出る、多くの人がそれを読む、実際には攻勢など何も起きない。いま非常に大事なのは参謀本部の公式声明に耳を傾けることだ。侵略軍が攻撃の構えを整えたときには、それがどこの場所で起きているのか、参謀本部は確実に知ることができる」「とはいえ無論、ロシアが攻勢をかけてくることは予期している。なぜなら今は2月で、連中はシンボリズムの愛好者だからだ。我々にはそれに対する備えがある。だから我々にとっても皆さんにとっても、『想定外の事象』などない」「現時点でベラルーシ領内にキエフに侵攻可能な攻撃力が形成されている形跡はない。かの地の戦力集中状況はそこまでのレベルではない。我々の評価では、ベラルーシの訓練場にいるロシア軍人の数は1万2000人を超えない」УП

ゼレンスキー「侵略軍が2月に何かシンボリックなことをしでかそうとしている、または昨年の敗北を挽回しようと試みる、ことを示す多くの情報がある」УП

なおレズニコフは国防省の汚職スキャンダルを受けて国防相を解任されるという話が大統領府内で出ているらしい。そのタイミングでУПの長尺インタビューが出た(УП)。解任について具体的な話は聞いていないとしながら「УПに取材された後には必ず何か起きるので(前回インタビューは昨年2月24日に出た)、今度も何かあるかも」とレズニコフ。УП

オデッサ電気

5日昼の時点のオデッサ市の電力状況は、死活的インフラ(たとえば暖房用温水プラントの9割)ならびに市民20万人には電気が通い、28万人(全体の40%)に電気が来ていない。УП

オデッサにおける今度の電力の危機的逼迫は①先月26日のミサイル攻撃による被害②それまでの累次の攻撃による蓄積ダメージ③今月3日・4日に起きた変電所の事故のトリプルパンチによるもの。最後の事故に関してだが、これは憶測でしかないが、でもま住んでた人の憶測として聞いてくれ:オデッサ(含め、たぶんウクライナのどこでも)では戦争とか始まる前から、事故による不意の停電というのは日常的にあった。落雷とかそういう見やすい不可抗力による停電でなく、ある街区への電気の供給が予告なく途絶する、追って情報が出るときもあれば出ないときもあり、数時間後にぱたと回復する。これはとりもなおさず、発送電のチェーンのどこかに脆弱性(たとえば設備の老朽化)があり、もともと慢性的に事故が起きやすい状態であったということだ。加えて、この数か月の寝ずの復旧作業で人員の疲労が蓄積しておりヒューマンエラーが起きやすくなっているということも考えられる。

五輪

ロシア(とベラルーシ)人選手の次回五輪参加の是非をめぐってウクライナとIOCの対立というか不一致が続いている。ウクライナは今度は五輪のスポンサー企業に対し書簡を送った。「露政権がスポーツや五輪をプロパガンダに利用することを容認してはならない。テロ国家の代表選手には五輪にもその他の国際大会にも居場所はない」(ゼレンスキー、УП)。前も言ったが悪手だと思う。これではウクライナがスポーツ選手の自己実現権を迫害しているという非本質的な問題にすり替えられて敵プロパガンダのウクライナ悪魔化に利用されてしまう/そう世界の人に見られてウクライナへの共感を棄損してしまう。日本人の中にも今のウクライナのふるまいを見て「そこはさすがに目くじら立てずにさぁ、平和の祭典でしょ?選手に罪はないわけだからさぁ」とリベラルぶってみせる人がそれなりにいるだろう。

私の愚案は、ウクライナはまず「ロシア選手は五輪の中立的白旗でなく白青赤の三色旗で出場していい、金メダルとったらロシア国家が奏されてもいい」とIOCを凌駕する寛容を示して世界を驚かす。ただし重大な付帯事項:「その条件として、軍事侵攻を即刻停止すること」。ポイントは、スポーツだの文化だの自体的価値のあるものを抑圧しているのはウクライナでなくロシアなのだ、という構造を明確化することである。だって本当にそうなんだもの。IOCはウクライナの唱導に応じて次のように声明すべきだ:然り五輪は平和の祭典である、ゆえにこそ、平和の壊乱者の参加を許すわけにはいかない。逆にいうと、平和の壊乱を止めれば五輪の参加をゆるす。つまり、ロシア人スポーツ選手がかわいそうに五輪に参加できないのは、ウクライナがヤアヤアいうからでなく、ロシアが侵略戦争を続けるからですよと。こう整理するのが正しいと思うんだけどなぁ。(本記事1月27・28日の記述も参照のこと)

Дія、世界へ

マイナンバーカードはじめマルチな証明/手続き機能を備えた国民アプリДіяがウクライナの重要な輸出品目になりつつある。その声望が高まり、現在、欧州・アジア・アフリカの5か国がДіяをベースに自国版電子証明アプリを開発することを計画中という。フョードロフDX相によれば、Діяの輸出はいまや外交上のひとつの武器になっている。「Діяはもはやウクライナのブランドであり、名声であり、ウクライナの政治的影響力拡大のテコである」。財政面でもДіяの輸出から得られるものは大きく「Дія導入の際にパッケージになっている複数の製品それぞれが数千万ドルで売れる。すなわちДіяがひとつの国で導入されるだけで短期間で数十億グリヴニャ(数千万ドル)、という話になる」УП

※これまで当ブログではДияとロシア語表記してきたがそれもよく分からん話だなと思ったので今度からウクライナ語表記のДіяに改める。どちらも読み方は「ヂヤ」。ディヤとジヤの中間音としての「ヂヤ」。語の意味は行動・運動・効果(露действие)

2月4日

オデッサの電力状況があまりにひどいので政府内にエネルギー相をリーダーとする特別対策チームが組まれ、またエネルギー省が保有する全部の大出力発電機およびガスタービン発電所がオデッサに送られることになった。喫緊の課題は死活的インフラへの電力供給および集合住宅への暖房供給だという(УП)。4日夕方の時点でひとまず死活的インフラ(上下水道と中央暖房)については電力供給に成功したそうだ(УП

上述ガスタービン発電所というのは先に米国から送られた出力25メガワットのもの。またウクライナ外務省はトルコに対し発電船による追加の支援を求める方針とのこと。

オデッサに電気を供給する変電所(複数)で相次いで大規模な事故が起きており、オデッサ市全域ならびにオデッサ州オデッサ地区の一部で長時間の停電が発生している。

ウクライナ全国総LED化計画

最寄りの郵便局で白熱電球をLEDランプと交換させるやつ、大都市で1月31日に始まって一週間で早や100万個がハケた。計画ではこれから対象地域を順次拡大してって2月末には郵便局の移動店舗を使ってすべての僻村までカバーし、総計2000万個のLEDランプを全国に灯す。順調。УП

2月3日

ウクライナEUサミット(於キエフ)後の記者会見でゼレンスキー、一致団結して市民の戦意を強化し、戦争は今も続いているのだということを市民に思い出させてほしい、と記者らに訴えた。「戦士たちの頑強さは国内の戦意に依存している。我々一人一人にかかっているのだ。些事にかかずりあわずに重大なことに取り組むべきだ。いま我が国の重大問題は、戦争だ」「開戦当初、戦意はより強かった。我々皆が戦争を生きていた。だが今は、一部の都市は、まるで弛緩してしまっている」УП。ゼレンスキーが記者らにこう訴えるような報道・社会環境であるということだ。興味深い。「てんで弛緩している一部の都市」の印象は、最近のオデッサ訪問から来たものではないかと疑われる。

ヘルソンのショッピングセンター

3日夜、ヘルソンのショッピングセンター「エピツェントル」に敵凶弾、つづく火災でショッピングセンターは灰燼に帰した(УП)。同じ名前の店がオデッサにもあり度々訪れていたのもあり、胸が凍る。読者の中にもこの週末をショッピングセンターで過ごす人があるかと思うが想像してください、あなたの訪れたショッピングセンターに夜間、ミサイルが撃ち込まれて、跡形もなく消滅する。こんど来たとき買おうと思った靴や鞄ももろともに。すべての財貨、すべてのよき思い出とともに。

「花びら」

ハリコフ州のイジュームで14-17歳の男女7人(男3女4)が不審物を見つけて拾い上げ、放り投げたところ炸裂し、全員が軽度の裂傷を負った。不審物は「花びら」と呼ばれる小型の対人地雷であった。УП

拾い上げたのがもっと年端のいかぬ子供であったら手もなく爆死もあり得た。解放成っても戦争が終わっても長くこうした悲劇の報を聞くことになる。ウクライナは日本のように隅々までコンクリで塗り固められた国ではない。人口の密疎濃淡の落差が激しく国内ツーリズムが未発達なので行楽はしばしば徒歩ないし車で道なき道を進むことを伴う。マインスイーパーも到底全土には手が回らない。国土の荒廃、地雷原化。その責任は、爆発物がロシア軍が撒いたものであるかウクライナ軍が撒いたものであるかを問わず、侵略者ロシアが一義的に負う。

モルドヴァ

モルドヴァでこのほど行われた社会調査が興味深い。ロシアのウクライナ侵略戦争に対する意見は二分している。悪いのはロシアだ、ウクライナの一部領土併合は不法である、という意見が一応多いとはいえ。

たとえばクリミアについて、「クリミアはウクライナ領土だ」は34.5%、「ロシア領土だ」は23.5%。前者の多さと後者の少なさに驚く。ああモルドヴァどこかって?

ウクライナのすぐ隣、オデッサから一番近い外国。筆者は一年前この国を経由してウクライナから帰国した。

続ける。偽住民投票の結果としてのルガンスクおよびドネツクのロシア併合は「不法である」と考える人は49.8%、ロシアにはその権利があったとする人は26.7%。

ロシアの侵攻は誘発されたものでもなければ言い分のあるものでもない、という意見の人が39.6%で最大多数だが、ロシアは「ドンバス両人民共和国をウクライナから保護している」のだと信ずる人も22%と少なくない。そして12%が「ロシアはウクライナをナチスから解放している」と信じている。んで1%が「ロシアは自己防衛している」。

戦争の責任は誰にあるのかについては「プーチン」25.1%、「ロシア」17%、「米国」17.7%、「ウクライナ」11.8%、「NATO」9%。УП

なお、グルジアで12月行われた調査では、戦争について有責であるのは「ロシア」54%、「プーチン」25%、「米国」15%、「ウクライナ」8%、「NATO」3%。ロシア政権に「反感を持っている」80%「好感を持っている」13%。ロシア人に「好感を持っている」56%「反感を持っている」38%。УП

2月1・2日

暗鬱。

電気

電気はもちろん全然足りていない。電力施設に対してこれまで13次のミサイル攻撃15次のドローン攻撃、回を重ねるごとに状況は深刻化する。1度攻撃があって次の攻撃があるまでに10日~2週間。前々々回が元日、前々回が1月14日、前回が26日。敵の「必殺ゲージ」がたまるのをただ待っている。

いまいま、比較的温暖なので電力逼迫はやや改善しているという(УП)が、間もなくまた冷え込む。キエフ10日予報↓

(読み方:左端が、2月3日金曜、天気は曇りときどき晴れときどき雪または雨、最高気温1度、最低気温-3度)

オデッサ10日予報↓

なお、2月はウクライナ語でлютий、「厳しい月」。一年で一番寒い月ということだ。

支えてくれ

オーストリアのファン・デア・ベレン大統領が発電機持参でキエフを訪れた。「オーストリアは戦争については中立だが、関係性においては中立ではない。ウクライナの人たちが自国のために・子供たちの未来のために戦っている。私たちはそれを助けるのだ」とオーストリア大統領。УП

「絶対悪」と隣り合わせの国の日常(ゼレンスキー、T)。ただ生存し、健康で文化的な最低限度の生活を続けるという戦いを「絶対悪」によって強いられた人々を、なんとかして支えたい。彼らがその戦いで負けないように。すいません、また募金の呼びかけです。一度した人も、何度でも。私ら自身がウクライナに出かけていって直接支援するというのは困難な話ですから、それをまさに行っている団体に寄付をするという形で、間接的に(しかしかなり直接に近い間接)、支援ができると思うのです。

いつものやつです。

ユニセフ(子供たちと家族への支援)
赤十字(医療支援)
UNHCR(防寒支援)

1月31日

ウクライナは腐敗した国?

腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index)の2022年版が出た。それぞれの国がどの程度腐敗・汚職にむしばまれているかを示すもので、国際透明性機構(Transparency International)が世界銀行とか世界経済フォーラムとかと組んでやってる。それによると、ウクライナは100点満点中33点(100が一番清潔、0が一番不潔)で、180か国中116位だった。なお、ジャパンは73点で18位、デンマークおよび英国と同率。ロシアは28点で137位。CPI2022

腐敗「認識(perception)」指数というのはどういうことかというと、それぞれの国のビジネスマンとか専門家に「自分の国がどのくらい腐敗してると認識してるか」を聞いて、その主観的評価を総合して採点するのだそうだ。というのも、腐敗の度合いは裁判件数とかの実証データで測ろうとするとかえって誤る、「実際に実務などで腐敗の現場に直面している方々の経験や認識から」評価するのが一番なんですて。Wikipedia

要するに腐敗認識指数とは、それぞれの国のビジネスマン・専門家が、自分の国がどのくらい腐敗していると認識しているか、を数値化したものということでいいですかね。

で、ウクライナの33点116位というのはもちろん輝かしい数字じゃないわけだが、傾向で見ると、2013年から10年間で8ポイントも向上していて、これは結構なことであると。ただ、2017年以降でみると、上がったり下がったりの振り子になっている。ひと頃より高い水準で安定しているのは間違いないから、これをここからどうさらに上向けていくか、というところらしい。

ウクライナ透明性機構(Transparency International Ukraine)のアンドレイ・ボロヴィク代表の口ぶりだと、汚職撲滅はウクライナの中のロシア的なものとの戦いである。彼によれば14年の尊厳革命(マイダン革命)で政権が浄化されたからこそこの10年で8ポイントという大幅な改善があったのだし、33ポイントという水準を今年も維持できたのは「その適切性と合目的性をウクライナ国内の親ロシア勢力が多年にわたり否定してきたところの反汚職体制は、持ちこたえた(Антикоррупционная система, уместность и целесообразность которой годами отрицали пророссийские силы в Украине, выстояла)」ということになるらしい。УПУП

一言でいうと、ウクライナは依然として汚職の問題が深刻な国だが、改善に向けた努力を行っていると。傾向としては悪くないと。そゆ状況。

ミニ発電所

キエフ西郊のイルペンにて、オーストリアから届いた出力1メガワットの小型ガスピストン発電基(малая газопоршневая электростанция)が稼働を開始した。市内の温水プラントや重要インフラ(学校、病院、市議会)に電力を供給するらしい。こういうやつ

この「コンテナ発電所」、すでに組みあがってる状態でオーストリアから届いたので、あとはコンクリートで基礎を作ってガス・電力網と繋げればすぐ使えた。届いて数日で稼働を開始したらしい。技術的なことは分からんが書いてあるまま訳すと、天然ガスを使うのでディーゼル燃料を使う場合に比べて生産されるキロワットあたりの価格が低減される。でまた、ディーゼル発電機と違い、予備電源でなく恒常電源として使えて、耐用期間の限り休みなしでずーっと稼働できるのだそうだ。

今後は同様のものを100基導入して重要インフラの電源とする計画だそう。発電手段の多角化によってエネルギーシステムの強靭性が増し、ロシアの電力施設攻撃にも負けなくなる。すばらしい。УП

1月30日

ゼレンスキーがオデッサに来た。

ニコラエフ→オデッサと歴訪しながらデンマーク首相と会談してインフラ復興についてなど話し合った。ニコラエフでいま喫緊の課題となっているのはロシア軍によって破壊された水質浄化施設及び上水道の復旧であって、それにデンマークも参加するという。オデッサについては、ウクライナ産穀物の海上輸送計画への支持を取り付けた。ほか、ウクライナ側が準備した和平案の実現にデンマークがどのように参加し得るか、戦車ほか兵器の供与について、対ロ制裁について、ロシア人選手の国際スポーツ大会への参加の是非、あらゆることを話し合ったということだ。УПОЖT

こちらで数えたらニコラエフ訪問は今度が3度目であった。1度目は6月、戦線視察。2度目は11月、ヘルソン解放祝賀訪問にあわせて、ニコラエフをねぎらいに。オデッサ訪問も今度が3度目で、1度目は6月、ニコラエフのついでに。2度目は7月、穀物輸出の再開を祝いに。では今度の3度目は? デンマーク首相と会うためにわざわざ出かけるということもないだろうから、何らかの実務あるいは象徴的意義があってこのタイミングでニコラエフ・オデッサを訪問したはずだが。一つには、いまオデッサが全国で最も深刻な電力不足に喘いでいる、ということがある……か。また一つには、やはりオデッサの世界遺産登録ということが思い浮かぶが、ゼレンスキーのビデオメッセージやデンマーク首相との共同記者会見記事にそれについての言及なし。

なお、この戦争においてニコラエフはどんな街だったかというと、ロシアがドンバス・クリミア・沿ドニエストルをつなぐ陸の大回廊をつくるためにはヘルソン・ニコラエフ・オデッサを順次攻略していかねばならず、ヘルソンは早期に掌握しえたから次はニコラエフ(それが終わればいよいよオデッサ)ということで、侵攻開始当初からニコラエフには毎日毎日猛烈な攻撃が加えられていた。逆に言えば、オデッサがこのかん終始無事を保っていられたのはニコラエフの英雄的防衛のお陰であった。実際11月にヘルソンが解放されると、ニコラエフへの攻撃頻度は激・減した。ゼレンスキーの1度目と2度目のニコラエフ訪問はこれに関連したものだった。

にしてもデンマーク首相とたっぷりデートを楽しんだものだ。岸田もこんなふうに、1日かけてウクライナの2つの街をめぐり、その間あらゆるテーマについてウ大ととくと話し合う、ということができればよいが。(※ウ大=ウクライナ大統領ゼレンスキー)

電気

オデッサ市には1日最大4時間程度しか電気が来とらんそうだ。これまでの攻撃で出力そのものが低減しているなか、直近26日の攻撃でオデッサ市および近郊に電力を供給する重要な変電所が2基破壊されたためという。ОЖ

昨夕義父に電話は通じた。普通に出勤していた。職場は例によって発電機で稼働しているとのことだった。スーパーや薬局のレジ機の修理を行うわりとエッセンシャルなことやってる会社なので、稼働しないわけにもいかない。

あと、例の国民アプリДияを使って白熱電球をLEDと交換しようキャンペーンが30日、大都市を中心に始まった(УП)。利用方法を紹介する1分動画も作られた。言葉わからなくてもスマホ完結の感じ、Дияアプリ内の身分証と白熱電球5個で最寄りの郵便局でLED5個手に入りますの感じ、何しろ簡便迅速である感じが伝わるかと思う↓

ここ数日オデッサは気温が終日0度以下だった。雪も積もってる。ОЖ

これ子供が好きなやつ。雪みちをそり引かれていく。

この子供たちは夜、明るい電灯のもとで本を読むこともままならないわけだ。

※募金にご協力ください。
ユニセフ(子供たちと家族への支援)
赤十字(医療支援)
UNHCR(防寒支援)

※あるいはこういう考え方:何丘ブログに何か学びを得ている、という人、こいつが書いていることには価値がある、と思ってくれる人。なんだかんだ定期的に見に来てますよという方。少しばかりの対価というか、報酬をください。それを私に支払うかわりに、これら慈善団体に寄付してください。たとえばこの記事この1か月だけで3万5000字書いてるそうですが、これにせめて1000円の価値がなかったでしょうか。あったと思ってくださるなら、その1000円を、たとえばUNHCRの防寒支援にご寄付ください。よろしくお願いします。

1月29日

ロシアがウクライナへの侵攻を続けている。という基本的な一行から。

29日一日をとっても、東にも南にもロシアの砲撃は加えられている。住宅が破壊され市民が死傷している。ヘルソンに集中攻撃で3人死亡6人負傷(УП)。ハリコフ中心部の住宅にミサイル攻撃で1人死亡(УП)。爆発音と空襲警報。電気がない。「私たちが何をした」。すべての人の平穏な日常が奪われていることを思い出そう。小ブログは基本的に際立って暴虐な事象が発生したときあるいはオデッサに被害があったときしか取り上げないがこうした「小さな」悲劇は毎日毎日起こっているのだ。

(こんなこと言い出すのも自分がいま1年前の自分の「手記」再読していることの功名だろう。裏を返せば自分は毎日毎日ニュースを追って関心を持続させているつもりで、感覚はだいぶ麻痺・剥離していたということだ。どうしたってそうなる、数は数へと抽象化する)

砕氷船ノアスフェラ、南極に到着

ウクライナの学術調査用砕氷船「ノアスフェラ」が南極基地「アカデミシャン・ヴェルナーツキイ」に到着した。УП

物資およびウクライナ人専門家チームを基地に届けた。先遣の第27回ウクライナ南極調査団は10か月ぶりに同郷人と会えて大喜びしたということだ。

この砕氷船は2021年に英国から買ったものでニコラエフで補修したのちに南極ミッションに就いた。しばらくオデッサ港にも停泊していてポチョムキン階段あたりからよく見えていた。当時はバカにしてたものだ、高い買い物しやがって、あれ黒海って冬凍るんでしたっけ、とか何とか。でも見よ、こうして立派に就航してるわけだし、この時局にウクライナの学術調査船が南極の海を泳いでいると思えば、なんか胸がすっとする。

がんばれ「ノアスフェラ」。

1月27・28日

いま最も電力不足が深刻なのはオデッサ州だそうだ。26日の大規模ミサイル攻撃で複数の高圧変電設備が損傷したため(国営電力ウクルエネルゴ、УП

義父母は週末をダーチャで過ごしていて、これは正直どういうことなのだかよく分からんのだが、街(オデッサ市内)にいるときは停電すると電話も通じないがダーチャにいるときは停電してても電話が通じる。昨晩(←日本時間の)義母に電話したら「いま停電中、でも大丈夫」といつもの調子であった。もう義父母も、また多分ウクライナの人たち一般に、暗いことそれ自体には慣れていると思う。義父母で言えば、ひるま電気があるうちパソコンとかフル充電しておいて、暗くなったらハードディスクに撮り溜めといた映画とか見る。あるいはラジオを聴く。電子書籍読む。そんな感じで過ごしてるそうで、多分皆さんこんな感じに暗闇と仲良くするすべを編み出していることだろう。

深刻なのは電力不足によって中央暖房とか水道が機能しなくなることだ。乏しい電力はそういう死活的インフラに優先配分される、だからこそ家庭の電気は全然使えなくなるわけだが、お陰で今のところ一昼夜に及ぶレベルの断水・暖房停止の話はオデッサについては聞かない。

ロシア人選手のパリ五輪参加可否

2024年夏に行われるパリ五輪にロシア人およびベラルーシ人の選手を出場させるか。バッハ会長(いつまで会長?)率いるIOC国際オリンピック委員会はロシア国旗のもとでなくIOCの中立的な旗のもとでならロシア人も参加させたい考え。УП

で、ウクライナ側はいかなる旗のもとでもロシア人ベラルーシ人は国際スポーツイベントに参加させるべきではない(参加させるなら我々がボイコットする)との立場。ゼレンスキー「独裁国家は得てしてスポーツを自らのイデオロギー上の利益のために利用するものだ。IOCの中立的な旗とやらも必ずや血に染まる」「ウクライナのスポーツ選手はロシアの侵略から家族や祖国を守るために戦うことを余儀なくされている。また、ロシアの攻撃で将来世界のスポーツ界の宝になるかもしれなかった100もの男女の命が奪われた。ロシアはまず侵略とテロルを止めるべきだ。ロシア選手の参加について話すのはそのあとだ。五輪憲章と戦争、両者は根本的に相容れないものだ」「バッハ会長はいちどバフムートを訪れるがよい。自らの目で見て悟ってほしい、中立などというものは存在しないと」УП

それでゼレンスキーは「良心のマラソン」と呼ばれるキャンペーンを始めることを宣言。「IOCの立場はいかがなものか」と問う書簡を、世界の主要なスポーツ連盟(※たぶん、世界陸上競技連盟とか世界水泳連盟とかそういう団体)の会長たちに送った。УП

個人的には、ゼレンスキーの言うことはすごくよく分かる、だからこそ引用も長くなったが、でもやってることは悪手だと思う。私にはある決定またはある運動が一般のロシア国民にどう受け止められるかということしか考えられない。それでいうと、国際社会は結局ロシアにそこまで厳しくはなれないんだと思わせることも、西側はやっぱりロシアが嫌いで皆してロシアをいじめるんだと思わせることも、ともに違う。ロシア選手の国際大会への参加の可否は、国際社会とか西側というものの関数ではなく、ロシア政権の関数なのだと思わせるように設計することが大事だ。要するに、あなたの国がウクライナへの侵攻をやめさえすれば、IOCの白い旗といわず、ロシアの三色旗で選手を出させますよと。試しに3日停戦してみてください。それができたら来夏の五輪への参加も仮に認めておきましょう。それで停戦が成るとは思えないが、少なくとも何を直接の原因としてロシア選手が参加できたりできなかったりするのかはロシア国民の目に明白となるはずだ。

私にとってはスポーツ大会が開催されるかされないか、どのような形で開催されるか、スポーツ選手の自己実現権、五輪憲章との整合/不整合、すべてどうでもいい。五輪なら五輪、それをテコに、ロシアの侵攻をいかに終わらすか、それを終わらす力をいかに産み出すかが肝心であると思う。「平和の祭典」、スポーツを通じた平和の実現。だが現に平和は乱されてるのだから、五輪も非常時にふさわしい形に変形すべきだ。五輪それ自体が戦争を終わらすテコとなるべきだ。「五輪はロシア人はおろかロシア国歌・ロシア国旗を排除しない。だがそのためにはロシアは侵略を止めろ」この明確なメッセージを出すべきだ……と思うが、どうか。

あわせて読んでね→何丘マニフェスト

復興庁の新設

復興およびインフラ計画庁(Агентство восстановления и инфраструктурных проектов)というものが新設されたそうだ。日本にとっても今後重要なカウンターパートとなるだろうからメモしとく。

何しろ戦後復興戦略計画というものを立ててその枠内で仕事をするのだそうだ。所管業務には「資金提供者たち(各国政府、国際金融機関、非政府組織)との協業メカニズムの策定」「各地域からの『わが地域のこの施設を優先的に復興してほしい』という要請間の調整」「非政府組織や公共団体の中から設計・建設・マネージメントといった分野における最良のエキスパートを探す」といったことが含まれる由。んで、時流も受け、透明性と説明責任を担保するべく汚職撲滅事務所の庁内設置を早期に実現することも約した。初代長官はインフラ省副大臣のムスタフ・ナイエム氏。УП

ドローンハンター

26日のインフラ撲滅大規模攻撃では飛来した自爆ドローン17機を全機撃滅ということで凄っと思ってたのだが、いまウクライナのエネルギー施設をロシアのドローンから守っているのは「ドローンハンター」と称する最新鋭の自律的防御システムであるらしい。これをまた軍とか国防省でなくフョードロフDX相が発表するという。しかもカッコいい動画つきで。→Telegram

何しろ敵ドローン飛来をレーダーが探知すると妨害電波を発して行動不能状態にし、そこへAI搭載の自律型ドローンを時速100kmで飛ばして敵ドローンを捕縛し強制着陸させるのだという。米国の戦略拠点防衛に使われている最新防衛装備で、これを6ユニット購入しているということだ。

1月26日

26日朝、第13次となるウクライナ総暗転を目指した大規模ミサイル攻撃。カミカゼドローン17機は全部撃滅、ミサイル59発は47発撃墜、12発が着弾(УП)。インフラが損壊したほか、2件の火事が起き35棟の建物が損傷し、11人死亡、11人負傷(УП

今次の攻撃により少なくともキエフ・ドネプロペトロフスクの2州でエネルギーインフラが損傷、電力供給に支障が出た(УП)。とはいうものの、今回はよく守った、被害は軽微だったようだ。キエフ州とドネプロペトロフスク州は電力供給が安定化し計画停電へと移行する旨を昼過ぎ~夕方にかけて相次いで発表した(УПУП)。

わがオデッサは「電力不足が最も深刻な地域」のひとつに数えられているが(26日晩の時点、УП)、少なくとも15時には市内の全病院・暖房用の温水供給施設の復旧に成功したと発表(УП)。逆にいうと数時間の間は中央暖房も止まっていたということだ。現地の昼過ぎの時点で義母に電話は通じた(停電してると言っていた)(爆発音かまびすしかったと言っていた)

オデッサにはちょうどフランスの外務大臣が来ていて、空襲警報発令と対空防衛システムの作動という状況下で予定の場所を変更してオペラ劇場の倉庫で外相会談を行ったということだ(УП)。外相はエネルギーインフラの破壊をその目で目撃したという。岸田に同じようなメにあってほしいとは言わないが、これを体験するとしないとでは全然リアリティが違ってくる。したがって発言の重みも。

1月25日

慶事3つ。

慶事①戦車

ドイツの戦車の供与が決まった。アメリカの戦車の供与も決まった。手放しに喜べないのは、専門家の方々が言ってるように、これを受けてロシアが春の大規模攻勢を早める可能性があるからだ。戦車の訓練には相当な期間を要する。供給と訓練が一段落したらロシア軍にとって明白な脅威なので、そうなる前に大規模攻勢をかけてくることは大いにありそうに思える。

・ドイツが「レオパルト2」最新型(A6)の供与を決定した。あわせて第三国からの同戦車の再輸出も許可することを決めた。パートナー諸国は”Tanke shön”と口をそろえた。当面の目標は「レオパルト2」を中心とする2個戦車大隊(各大隊に「レオ2」40両、計80両)を早急に創設することだという。УПУПУП

・米国はウクライナに「エイブラムス」戦車31両(ウクライナの一個戦車大隊に相当)を提供することを決めた。УП

戦車の次は戦闘機。ゼレンスキー「我々はウクライナへの航空機の供与へと進んでいかなければならない。夢のような話だが、必ずやらなければいけないことだ」УП

慶事②ゼレンスキー誕生日

1月25日はウクライナ大統領ウラジーミル・ゼレンスキーの45歳の誕生日であった。おめでとうリーダー。

公言するが私はこの人が好きだ。理由は単純で、義兄と同じニオイがするからだ。義兄の職場によく遊びに行ってマリファナ吸ってたが、というのは嘘だが(マリファナはあったが)、義兄の仲間たちの中にこんなやつ全然いた。3月末にメドゥーザとかドーシチとかロシアの独立系メディアの合同インタビューがあったが(これ)、そこで台本なしのロシア語でПо-пацанскиしゃべっているゼレンスキー見て「ふつうの人じゃん」と思った。「ウクライナの、オデッサあたりにもごろごろいる、ふつうの兄ちゃん」。この人がたとえばブチャを訪れたときの苦悶に歪んだ表情に胸が締め付けられた。

この人が12月のNetflix番組でデヴィッド・レターマンに「戦争が終わったら何をしたいか」と問われて、「今は何も考えられないが……まぁ、海を見ながらビールを飲みたいかな」と答えたとき、その願いが叶うことを心から望んだ。

私はこの人に好きな義兄を重ねている。とても耐えがたいようなことに耐えている。人間に耐えられる精神的苦痛の限界をこえて戦っていると思う。この人を応援したい。この人は失えない。

同い年で結婚19年のエレーナ夫人から祝電。「旦那さんはこの1年ですっかり変わってしまいましたね、なんてよく言われるけど、私はいつもこう答えています:何も変わっていません。同じ人です。お互い17歳で出会ったあの頃と同じ。……でも、本当をいうと、ひとつだけ変わったことがあります。あなたは全然笑わなくなりました」「精神力は十分足りてるみたいだから、あとは体が健康でありますように。健康でいてください。いつもあなたと笑顔でいたい。そうさせてくれますように」УП

慶事③オデッサ世界遺産登録

おめでとうオデッサ。第18回ユネスコ世界遺産委員会臨時総会で、オデッサ旧市街の世界「危機遺産」登録が決定。長い道のりでした。

私は世界遺産登録の効果の一つとして、戦後ウクライナが世界に開かれたときに観光客を集める旗印になる、ということがあると思っていたが、危機遺産ということは、ロシアの侵略戦争で灰燼に帰す恐れというものが消滅した場合には、即ち登録抹消ということになるのだろうか。

少なくとも一つ、文化遺産の保護のためにユネスコから資金が出る、という利点はある。УП

追記:危機遺産というのは、あくまで世界遺産の中で危機に瀕しているものへの指定である由。だから、一義的には、オデッサは世界遺産に登録されたのだ。そんで、同時に「危機遺産」にも登録されたのだ。お詫びと低姿勢。訂正。

岸田のキエフ訪問のメリットと問題点

「首相のキエフ渡航の是非で揺れる日本」と題する記事がУПに。引用元はThe Japan Times。どんなふうに伝えられてるか手短に紹介する(※自分の言葉も多少盛っている)。

まず、次のような理由から、キエフ訪問と日ウ首脳会談の対面実施は望ましいと考えられている。すなわち、日本はいまG7議長国で5月には広島でG7サミットが開かれるが、広島サミットの主たる議題はウクライナ支援となるであろうところ、G7(米英カナダ仏独伊日)の中で侵攻以来リーダーがゼレンスキーと会っていない国は日本だけである。それではG7議長国として議論をリードするにあたってビミョウ。あと、広島という象徴的な場所で、しかも広島出身の岸田が「核なき世界を唱道」するにあたり、今まさに地球上で第二次大戦以来最も大きな核攻撃の脅威に直面しているウクライナを自分で訪れていないというのは、いかにも弱い。

だが、安全性への懸念がある。キエフに入るためには政府専用機でポーランドかどっか隣国に入ったあと陸路を使うことになる。24時間の道程。ロシアのミサイルとかドローンがいつどこに飛んでくるかわからない。護衛の問題もある。ウクライナに入ってからの護衛をどうするか。自衛隊には海外でそのような任務を行う権限がない。警察の警護では武器が心もとない。

また、ゼレンスキーが12月に隠密裏にキエフを抜け出し米国訪問を成し遂げたが、これと同様の極秘電撃作戦として岸田がキエフを訪問することは、困難であるらしい。理由は①日本の首相が海外渡航する際は議会の許可を取り付ける必要がある、そして②安全性のために事前に渡航について発表しておくべきだと日本では考えられているためである。……このように伝えられている。УП

1月24日

ドイツ戦車のウクライナ供給やはり成るかと期待させる報道が相次いだ。ドイツが「レオパルト」提供の条件としていた米国の「エイブラムス」提供(30両規模)をバイデン大統領は水曜(25日)にも発表する可能性があるという(УПУП)。独誌シュピーゲルによればドイツ政府内ではすでにレオパルト供与について決定がなされていて、ショルツ首相はやはり水曜に①自国からの提供②欧州諸国からの再輸出許可を発表する可能性がある(УП)。

G7協調でウクライナの電力を支える

主要7か国(G7)会合が24日開かれロシアの攻撃にさらされているウクライナのエネルギーセクターへの今後の支援について話し合った。会合を率いたのは米ブリンケン国務長官と日本の林外相。「設備ならびに冬季人道支援の提供、必要なインフラの購入、ウクライナの電力システムの近代化・脱炭素化・欧州の電力システムとの統合の長期的推進を目的として、緊密な調整を続ける義務をG7が負う」と声明。УП

オデッサの世界遺産登録を邪魔する勢力

オデッサ旧市街の世界危機遺産登録が来るユネスコ世界遺産委員会第18回臨時総会で検討されるのだが、ロシアの暗躍が見え隠れしている。ウクライナ文化省によれば、ロシアはまず総会の議事日程からオデッサの世界遺産登録の議論を排除しようとした。だがこの試みは阻止された。次に、一般的な手続きとして、総会での議論に先立って①ウクライナ側が自薦書類一式を準備し②ICOMOS(国際記念物遺跡会議、ユネスコの諮問機関)が当該遺産の保存上の特性について純技術的な勧告書を送る、という段取りを踏むのだが、①自薦書類(昨年10/11付)の時点では存在しなかった「オデッサはエカテリーナ二世女帝の戦略的決定によって創設された」との文言が②勧告書(今年1/11付)には出現していたという。②の執筆者は匿名であり、誰がこの文言を盛り込んだのかはウクライナ側も関知できないとのことだ。УП

何丘の立場は、まず⑴オデッサの世界遺産登録を心から望む。そして⑵ロシアはユネスコからもICOMOSからも追放されるべきだ。他国の歴史的建造物や学校をミサイルで破壊するような国にユネスコ(国連教育科学文化機関)の庇護を受ける権利はない。

1月23日

戦況の話とか聞きたい人はこういうの見たらいい。

引っ張りだこの軍事アナリストが色んな番組でしゃべってる。私がその畑の産であるところの文化とか文学の研究者は全く呼ばれないのだけども、軍事とか戦況の話はむしろ日本のメディアに横溢している。何丘ブログはなるべく違う話をしようと思う。

実際問題、素人が漫然と見てるのとプロが本気でウォッチしてるのとは全く違う。自分もこんな毎日ニュース巡回してるのに、こういう動画見て初めて知ることも多い。なんとなく思ってたことをばしっと言ってもらってやっぱそうかぁと思うこともしばしば。上掲動画でいえば、ロシアの語用ではウクライナ軍を相手に行っている個々の戦闘行為は「特別軍事作戦」なんだけども経済制裁とか兵器供与とか情報宣伝とかグローバルに行われている西側との角逐についてはざっくり「戦争」と呼んでいるとか、ああ確かに、と思った。戦車という究極に強い兵器を出す出さないの議論が公然と行われる状況になったことでそれ以下の兵器(歩兵戦闘車とか)の供与は事実上フリーパスになっている、という指摘とかも成程。

電気

気温がまた冷え込み始めてるのとオフィスの稼働日(平日)なのとで23日月曜は出力不足がやや深刻化し、州ごとに定められた使用量上限をオーバーして複数の州で緊急停電が発生した。УП

ウクライナ全土総LED化計画こと、例の国民アプリДияから申請して家庭の白熱電球を最寄りの郵便局でLEDランプと交換させる話、そのベータ版がオデッサ含む4か所で16日から始まっていたのだが、月内にこれが全国に拡大し、2月末にはどんな僻村でもランプ交換ができるようになるらしい。ウクライナの電気のうち家庭で使われるのは40%だそうで、家庭の電灯が全部LED化すれば、ピーク時の電力消費が7-10%削減される。これでエネルギーシステムへの負担が著しく軽減される。都合3000万個のLEDランプがEUの資金で購入されることになっていて、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長によれば、「もしランプが5000万個になれば、1ギガワット、すなわち原発一個分の電気を削減できる」УП

世論調査:ウクライナ国民のほとんどがNATO加盟支持

調査機関「レイティング」が1/14-16行った調査では、NATO加盟の是非を問う国民投票がもし行われたなら「賛成する」と答えた人が全体の86%に上った。過去最高の数字という。反対は3%。地域・年齢層による偏りもほぼなかったということだ(УП)。上掲動画でもNATO装備の流入とそれへの習熟によってウクライナ軍が否応なしにNATO標準に近づいているとの指摘があったが、国民の意思もこの通り。

世界で最も美しいコイン

ウクライナの2種類の記念硬貨が国際コンクール「コイン・オブ・ザ・イヤー」で賞を受賞したらしい。

左のコウノトリのやつは「ウクライナ独立30周年」記念5グリヴニャ硬貨で、これが「最も芸術的な硬貨」部門で優勝した。右のパズルモチーフのやつは「ウクライナ憲政25周年」と名付けられた10グリヴニャ硬貨で、これが「現代史に関する最良の硬貨」部門で優勝した。

第40回となる「コイン・オブ・ザ・イヤー」には世界各国から2300種のコインが参加した。УП

1月22日

更新休みます。

一つだけ:22日はウクライナ統一記念日(День Соборности Украины)だった。1919年にキエフを首都とするウクライナ人民共和国とリヴォフを首都とする西ウクライナ人民共和国が合体してほぼ現在のウクライナの形ができた。「一つにならなければ独立は失われてしまう。あの2月24日がそれを教えた。私たちは強い、なぜなら一体だから」УП

1月21日

キエフの10日間予報。

記録的な暖冬だということだがそれでも最高気温0度付近の日が続く。(見方は、左端が1月22日日曜曇り、最高気温3度最低気温1度)

続いてオデッサの10日予報

キエフより1度2度高い、て感じだ。

深刻な電力不足は続いている。ЗДМ(значительный дефицит мощности、著しい出力不足)。УП

ИПСО

ロシアのやってることに関してСВОとかИПСОという略称が使われる。前者はСпециальная Военная Операция=特別軍事作戦のことでロシア側の言い方。これに対して後者は(多分)専らウクライナ側が用いる表現で、Информационно-ПСихологическая Операция=情報心理作戦。ロシアが偽情報とか流して市民に不安や不信を植え付けたり社会を混乱させようとする、そうした心理作戦のことをこう呼んでいる。

で、ウクライナ情報総局によれば、いま「ベラルーシから攻撃が行われるのではないか」という観測がささやかれてるが、これは外ならぬロシアのИПСОであると。敵が故意に不安を煽っているのであると。「ベラルーシにルカシェンコという独裁者がいることは先刻承知。だが客観的な事実として部隊・人員・装備その他をカウントしたときに、今日ベラルーシから大規模な地上作戦が行われる脅威、ないしベラルーシがロシア側で参戦する脅威は存在しない」
加えてこうも。「もし状況が変化したら然るべき情報が出る」ただし「状況のあらゆる変化をウクライナ側はすでに織り込み済みである」。УП

いつか聞いた歌、の感。去年の今頃もちょうど軍や政府はこんなこと言っていた。→50日後にウクライナから脱出する何丘とかいう奴の「手記」

新祖国戦争

この戦争はのちの歴史の教科書に何という名前で呼ばれているだろう、ということに前々から興味を持っている。たとえば先の大戦は第二次世界大戦というのが世界標準であろうが日本には日中戦争・太平洋戦争というローカルな呼称があり、ロシアらへんでは(ひと頃まではウクライナでも)大祖国戦争=Великая Отечественная войнаと呼ばれている。では今次の戦争はというと、いまウクライナ側の露字メディアないし露独立系メディアでは単にвойна(戦争)と呼んでいる。あるいは14年~のドンバス局地戦争と差別化する意味でполномасштабная война(大規模戦争)とか、より詳しくполномасштабная война развязанная Россией против Украины(ロシアがウクライナに対して仕掛けた大規模戦争)とかと呼んでいるが、これらは普通名詞である。現にそれが行われているときは他との混同の余地がないので普通名詞で足りる、「戦争」の一語で足りるのだ。だが、歴史の教科書では何と呼ばれているか。まぁ国際標準では「ロシア・ウクライナ戦争」とかなのだろうが、ウクライナ側の教科書では何と書かれる。ロシア側の教科書ではまた何と。それはまだ確定していない。(私はウクライナ側にウクライナ語で美称される未来を夢見ている)

前置きが長くなった。珍言王ドミートリイ・メドヴェージェフがSNSで「ナポレオンとヒットラーの直接の後継者であるナチスウクライナおよび西欧との戦争はさしずめ新祖国戦争(новая Отечественная война)である」とか述べた。УП

世論調査:ソビエト時代との決別

民主イニシアチブ基金が昨年末行った、今日のウクライナ人はソビエト時代をどう捉えているかを問う調査。УПУП

問い:ロシアの侵攻でソ連時代に対するあなたの立場は変わりましたか?
・全く/おおよそ変わっていない 34.6%
・完全に/いくらか変わった 52.8%

地域別で見ると、オデッサを含む南部でも4割が「変わった」と答えている。ロシアと一体的であったソビエト時代に郷愁とか憧憬とか感じていた人の4割が過去をよきものを思うことを止めたということだろう。もうオデッサについて何か知ってる気で語っちゃいけないなと思った。

問い:ソビエト連邦の崩壊をどう評価する?
・完全に/どちらかといえば肯定的に評価する 73%
・完全に/どちらかといえば否定的に評価する 12%

地域別で見ると、わが南部では「肯定的」48.3%「否定的」22.9%。また様相が違ってくる。ソビエト連邦が崩壊し独立ウクライナになって良かったと思う人が、全体でも7割、南部では5割しかいないということなのだとすれば意外。

あと、昨日の国民アプリДияの話で、もはやこうした世論調査は全部Дияに取って代わられるのではないかと一瞬思ったが、仮に今回みたいな調査をДияでやったらどうだろう。ロシアの侵攻にもかかわらずソビエト時代に対しては依然として懐旧の情をもっています、ソビエト連邦の崩壊については完全に否定的な評価を行っています(それは崩壊すべきでなかった)、こんな回答つづけるやつは手もなく敵性国民認定だ。権力に対してマイナンバー(個人の識別評)と結びついた意見表明を繰り返す、こんな危険なこともない。やはりこういう調査は独立した調査機関が匿名を条件に行うことでしか成り立たない。当然か。

検事総局「イランの有罪性を確信している」

昨日お伝えした「ロシア軍が使ってる自爆ドローンがまさしくイランのものであるかについて確証はない」発言はウクライナ検事総局「軍事紛争下における犯罪対策」課のとある検事のものだったのだが同課の課長氏が述べた:検事総局はドローンの製造およびそのロシアへの供給についてイランの当局者・法人また自然人の関与を微塵も疑っていない。それを示す中間的なデータは我が国およびパートナー諸国の偵察情報に基づくものであり、これから証拠を集めて、最終的には国内および国際法廷で関係者の責任を追及する、と。めちゃめちゃ予断をもって調査してることを検察側が公言しちゃった形だが、まぁそういうもんか。前の検事氏はデュープロセスの観点からもの言っただけだと思うけど更迭されちゃうのかな。УП

1月20日

ドイツ製戦車「レオパルト2」の供与あるか否かで盛り上がっていた。結論は先送り。

20日行われた「ラムシュタイン」フォーマット会議(ドイツのラムシュタイン米空軍基地におけるウクライナ支援をめぐる国際会議)で出し渋りのドイツがついに自国製戦車の供与を許可するかと注目されたが、「同盟国間になお意見の一致はない」と独国防相。ただし「ドイツが決定を阻害している、という理解は間違っている。供与のメリットには分厚い論拠があるが、反対の論拠も分厚い。ゆえに、いつ、どのような決定が下されるかについて、今言えることはない。供与が決定された場合には最速で供与を行えるように準備だけは進めている」(УП)。またポーランド国防相「レオパルト保有15か国で集まりウクライナへの戦車供与のため連合形成を試みたが何らの決定も下されなかった。次また集まることで合意した」УП

それでドイツ首都ベルリンの連邦議会前では在独ウクライナ人ら数百人が集会を開きFree The Leopards、ヒョウ(レオパルトは豹の意味)を解放せよと叫んだということだ。УП

「イラン製ドローン」は本当にイラン製か

9月からウクライナ攻撃に使用されてる神風ドローンとか殺人原チャとか呼ばれるものが本当にイラン製自爆ドローン「シャヘド136」であるか、純法学的にはまだ確定していないという。ウクライナも米国もそれがイラン製のものであるとしてイラン非難の声を上げて久しい(クリミアに同ドローン操縦の教練を行うイラン人インストラクターが入っている、との指摘もあった)ので意外の感。

ウクライナ検事総局「軍事紛争下における犯罪対策」課によれば、「無人機がイラン製のものかどうか断定することは今のところできない」「無人機攻撃に関するあらゆる要素について事実を確認する必要がある。同兵器がどのようにしてロシア軍の装備に入ったのか。なぜこの兵器に『ゲラニ』とか『ゲラニ2』という商標が入っているのか。なぜこれがかくも『シャヘド131』や『シャヘド136』に酷似しているのか。当該無人機の生産がどこで行われ、どのような経路で供給されているのか、誰が供給しているのか、製造日と製造場所は、契約書はどこにあるか、誰が契約を交わしたのか。こうした事柄が逐一重要になる」「さらにロシア側は意図的な攪乱を行っている。あえて特定企業の商標を刻印したり、あるいは部品に刻印された商標やステッカーを消したりなどしている」「作業は膨大であるが、その間にもロシアからの絶えざる攻撃があり、調査は遅々として進まない」УП

米国、大規模反攻の計画を延期するようウクライナに勧告

米政府高官(匿名)が20日少数の記者を集めて語ったところでは、米国はウクライナに対し、米国から供与される兵器が全部到着し、またウクライナ軍人がその扱いに習熟するまで、ロシア軍に対する大規模攻勢の開始を待つよう進言したということだ(УП)。

知らんけど、情報工作なのかなと思った。ロシア軍が昨年2月を彷彿とさせる大規模攻撃を仕掛けるのとウクライナ軍がかねて準備しているという大規模反攻を仕掛けるのとどっちが早いか(先制した方が状況を有利に作れる、だがなるべくタイミングを遅らせて準備を整えたい)というなかで、ドイツ製戦車の供与が決まれば「ウクライナ側に戦車軍が加わると長期的にロシアが不利になる」との判断からロシアはむしろ攻勢をかけるのを早めるのではないか、と高橋さん言ってた。そんな中で「ウクライナは当分攻撃をしかけてこない」とロシアに思わせるためにあえて米国がこんな情報流したのかな、と素人何丘は思った。

国民アプリДия、世界へ

ウクライナ国民ほぼ全員スマホを持っていてそのスマホにほぼ全員Дияという電子マイナンバーカードアプリを入れている。これであらゆることができる。身分証明書(運転免許証とか健康保険証)にもなるし役所・役人介在不要で各種手続き(婚姻手続きとか)を行えるし、世論調査に使う実証実験も行われた、多分ゆくゆくは選挙の投票もこれで行える。私らがいたときはまだコロナのワクチン接種証明書くらいの機能しかなかったが、戦時下にフョードロフDX相がガンガンに推し進めた。マイナポイント2万円分プレゼント!とか言ってる日本が原始人に見えてくる。このシステムがいま各国の熱視線を集めており、たとえばエストニアがДияの自国版を開発した(УП)。ノウハウの輸出には米国際開発庁(USAID)も協力するということだ。УП

1月19日

ヘリ墜落の原因は依然として霧の中。

相変わらずドイツが戦車を出すの出さないの。ゼレンスキー「多くの国が戦車の提供に前向きな中、とある一か国がブレーキをかけている」УП。米が供与すれば独も供与するとの独首相の提案については米大統領府報道官「どの兵器を出すかは各国の主権的決定に委ねられている」УП

プーチンいるいない論争

ゼレンスキーがプーチンはいないんじゃないかと言い、露ペスコフが「プーチンはいます。い続けます」と応えた。ダヴォス会議でゼ「誰と何を話せばいいのかよく分からない。ときどきクロマキー(合成)で出てくるあのロシア大統領なる人物が本当にその人であるのかどうか。その人が今もなお生きているのかどうか、その人こそが決定を下しているのか、それとも誰か別の人か」→露ペス「ウクライナとゼレンスキーにとってロシアそしてプーチンが大問題であることはよく分かる話だ。純心理学的に、ゼレンスキー閣下にとってロシアやプーチンがいてくれないほうが好ましいということ、これもまたよく分かる。だが認めた方がよい、ロシアはある、プーチンはいる、そしてい続ける」УПУП

くまのめざめ

異常気象でカルパチアのヒグマが1月というのに冬眠から覚めちゃった。イワノ・フランコフスク州の国定自然公園でカルパチア最大最強の哺乳類であるヒグマの活動痕跡が認められた。まだエサもない時期なのでクマにとってよろしいことではない、おなかがすいた熊は狂暴になるので森を歩く人は注意を、とのこと。УП

1月18日

そんなことあるのか。キエフ東郊の幼稚園近傍に18日朝、内務省のヘリが墜落、搭乗していた内務大臣以下同省最高幹部数名が死亡、子供たちも巻き添えになった。死亡14人、うち1人子供、負傷25人、うち11人子供(УП)。こんなこと絶対あっちゃだめだろ。何をやっている?

内務省は警察および国家親衛隊(Нацгвардия)という武力を保持し、前者は国内の治安維持、後者は対ロの前線で戦力になっている。今回のことはそれ自体悲劇であるが、国家経営と戦争遂行にとっては巨大な損失である。ドニエプル市の凶事がやや霞むほどの被害で、情報工学者たちも困惑だろう。スペキュレーション慎みなさいとシュムィガリ首相に言われてるが(УП)、パイロットが隠れルースキイ・ミールで自爆テロに及んだのではないかとか疑ってしまう。そうでないならば、単純な整備不良とか操縦ミスだったなら、何をやってるんだって感じだ。ゼレンスキーは「これは不幸な事故などではない、すべての死は戦争の結果だ」というが(УП)、さすがに苦しいと思う。

電気(暗い話)

国営電力ウクルエネルゴによれば、深刻な電力不足は続いており、気温の上昇でやや需要が低下したものの、それでも供給が需要の4分の1しかカバーできていない状態。18日昼の時点で8州で緊急停電が行われている。「ウクライナのエネルギーシステムはこれまで12回のミサイル攻撃、14回のドローン攻撃を受けている。その都度、機動的に復旧作業を行うのであるが、攻撃が回を重ねるごとに復旧作業はますます困難に、ますます時間がかかるものになっている」УП

ウクライナはただでさえ欧州最大の原発であるザポロージエ原発、ザポロージエ火力発電所、ルガンスク火力発電所、ウグレゴルスク火力発電所、カホフカ水力発電所が敵に押さえられ、都合10ギガワットの電力源を失っている状態だ。УП

電気(明るい話)

そんな中でもキエフは木曜から計画停電モードに移行できそうだという(УП)。同じ時間停電するのでも、何時から何時までと分かっているのといないのとでは、生活の便が全然ちがう。

オデッサも木曜朝から計画停電モードに移行するそうだ(УП)。ここでも要因として高気温ということが指摘されている。義母も1月としては異常な暖かさだと話していた(昨日テレビ電話通じた)。

ロシア軍がいつ何をしてくるか分からない、人間の行動のほうが予見不可能なので、自然の確実な歩みに期したい。春は確実に近づき、夜は日に日に短くなる。昔の人は天候のことを神様に祈ったそうだが逆になった。人間のやることのほうがわけわからなくなり、今は季節の巡りこそ確かなものだ。平和には期待しない、早く春が来てくれ。

だがやっぱ人間か。米国がウクライナの電力復旧支援に1億2500万ドルを拠出する。資金は首都キエフの水・温水供給のための予備電源の構築、ガスタービン・変圧器その他機器の購入に充てられる(УП)人間万歳。

ドイツの戦車

前に別のとこで紹介したが戦車戦についてはこの動画が大いに勉強になった。

これでドイツが欧州のベストセラー戦車であるレオパルト2をウクライナに大量(300両とか)供与するか否かが死活的ポイントだと学んだ。

欧州議会は独ショルツ首相に対しウクライナに新式兵器と地対空防衛システムを即時供与するよう呼びかけた(УП)。当のショルツ首相は米バイデン大統領との電話会談で「アメリカが戦車『エイブラムス』を供与するならドイツも『レオパルト2』を供与する」とか条件を出したということだ(УП

ドイツの「レオパルト2」は欧州各国に配備されており、たとえばポーランドが自国保有の「レオパルト2」をウクライナに提供する意向を示しているが、ドイツ製の戦車を購入国が第三国に再供給する際には本国ドイツの同意が必要なのだそうで、EU諸国からドイツへの圧力が高まっている。ドイツは金曜のウクライナ防衛問題コンタクトグループ会合で戦車の供給の是非について結論を出す可能性があるそうだ。УП

1月17日

ロシアの14日のミサイル攻撃で破壊されたドニエプル市の集合住宅における69時間に及ぶ捜索・救助活動が17日13時をもって終結した。死亡45人。うち6人が子供。最も幼い子は11か月。負傷79人。うち16人が子供。28人が入院中、うち10人が重体。子供5人が孤児になった。うち3人は親類が引き取ることに。2人には親類がなく、ひとまず国家の庇護下にある。УПУП

シュムィガリ首相によれば、14日の攻撃で火力発電所の発電設備が9機損傷した(東部1機、西部8機)。これにより深刻な出力不足が起き、15日以降は緊急停電が常態化している。一方で、エネルギーシステムは全体としては「持ちこたえた」。発電・送電網は完全性と制御可能性を保持しているという。УП

電力不足が最も深刻な地域の一つがオデッサ州である。電力使用上限は通常の消費量の半分に設定され、供給量の半分が重要インフラの維持に回されるため、市民には到底行き渡らない。緊急停電が続いている。УП

不幸中の幸い、現地は4月並みの暖かさである。オデッサ10日予報↓

18日は最高気温10度、最低7度、風速15m毎秒と風が強いが。この水準が3日続く。

キエフ10日予報↓

黒海上にはなお6隻のミサイル艦がいて、「カリブル」ミサイルの搭載総数は44発と見積もられる。過去最大で48発だったらしいので、記録的な水準の火力が洋上からウクライナを睨んでいる。УП

東京は18日朝、気持ちよく晴れている。光が明るい。部屋うちは暖かい。ドライヤーも電子レンジも気兼ねなく使える。通信もある。二つの現実。無数の現実。忘れないようにしたい、感じていたい。そのために書いている。現地報道を追いかけ続けている。

1月16日

ドニエプル市の集合住宅爆撃による死者数がなおも増大している。40人死亡、うち3人子供。何をかいわんや。УП

このドニエプルの事例についてEU報道官「ロシアはウクライナの重要インフラ破壊に続き市民の住居にまで標的を拡大したのではないか」。水平的エスカレーションというやつ。プーチン政権は紛争の鎮静でなく激化を望んでいる、EUはこれに対処する必要がある、と。УП

ゼレンスキーによれば近々に新たな侵略行動がとられるとの情報もあり、敵が新次のミサイル攻撃を行う可能性に備えて、最大限に効果的な対抗手段を策定中であるとのことだ(УП)。現在黒海には「カリブル」ミサイル搭載艦が6隻配備されており、総計30発のミサイルが黒海からウクライナを睨んでいる。「カリブル」搭載艦は今年に入ってからずっと姿を見せていなかったが、14日初めて現れ、その日に大規模ミサイル攻撃が行われたのだった。УП

電気

14日の大規模ミサイル攻撃で発電量が大幅に減り電力供給は深刻な障害をきたしている。全土で使用上限が下方修正されたほか、16日昼の時点で9州で緊急停電が生じている。(УП

2022年初頭時点でウクライナの電力構成は原子力55%、火力29%、水力7%、再生可能エネルギー(太陽光、風力ほか)9%であった。まずザポロージエ原発が送電網から外され、今次の攻撃で火力発電所も複数ダウンしている。水力発電所も修復が必要な状況。ウクライナの送電網は全土で一体的であり、たとえば西部で発電所がダウンしたとなれば、その影響は等しくリヴォフにもオデッサにも及ぶ。УП

世論調査①政治に関心がある

キエフ国際社会学研究所が昨年末に行った調査。

⑴政治にどの程度関心があるか
全く関心がない……9.5%(前年30%)
ある程度関心がある……60.5%(前年60.6%)
強く関心がある……29.9%(前年9.4%)

 

⑵今日のウクライナに自分の政治的立場を表現する自由はあるか
ない……9%(前年32.1%)
ある……75.9%(前年47.2%)

 

この結果はウクライナ国民の多くの政治的立場が政府の公式的な立場と一致していることを示すものだろう、と社会学者。

⑶国家経営を効果的に行えるような政治的リーダーたちがウクライナに存在するか?
しない……9.2%(前年44.2%)
する……60.2%(前年25.7%)

 

ロシアにおける世論調査では通例、政治に興味は「ない」だが独裁者プーチンは「支持する」、なぜなら俺たち私たちにはよくわからないけどもあの人たちには物事がよく見えていてよろず俺たち私たちに良いようにやってくれているのだろうから。との答えが大勢を占める。ウクライナはこれと完全な対照をなしている。ウクライナ人は政治に、状況の推移に、関心を持っている。そうして、自身の立場を主張するのを恐れない。УП

世論調査②今年中に戦争に勝つことを信じている

同じくキエフ国際社会学研究所が昨年末に行った調査。

⑴ロシアとの戦争にウクライナが勝利することをどの程度信じているか
完全に確信している……75.3%
どちらかといえば信じている……20.4%
どちらかといえば信じていない……1.6%
全く信じていない……0.9%

 

⑵戦争の終結までどのくらい時間がかかるか
一週間以内……0.4%
数週間以内……1.4%
数か月以内……13.6%
一年以内……49.6%
1年以上かかる……26%

 

一言でいうと、ウクライナ人の95.7%が戦争への勝利を信じており、66%が一年以内に戦争が終わると考えている。УП

もちろん、願望に加圧された数字である。

1月15日

ドニエプル市の集合住宅破壊による死者数がどんどん増えていく一日だった。14日晩の時点で12人だった死者は、負傷者が搬送先の病院で死亡したり瓦礫の下から新たに死体が見つかったりして、15日晩には30人に膨れ上がっている。「うちの一人は子供であった。15歳の少女。また、子供2人が両親を失ったとの報もある。なお30人が生死不明であり、捜索・救助活動が続けられている」ゼレンスキー(УП

「ロシアへの憎悪が恐怖を凌駕している」――侵略者による高層アパート砲撃に遭ったドニエプルからのルポルタージュと題するУП記事に写真多数。映ってる景色はこれはオデッサだと言われたら信じる。義父母の住まう13階建てアパートのある団地の景色そのままだ。生えてる木さえ同じ(ポプラ)。写真の中に入っていってそのまま違和感なくこの景色の中を歩けるような気がする。着ぶくれたおばちゃんたちのこの意思的まなざしを見てほしい。ただ生存し、生活を続け、勝利を見届けること、それがこの人たちの<前線>なのだろう。そうして救助隊、この瓦礫の山から人間(の、おそらくは死体)を見つけようとする人の絶望を思ってほしい。すべての人が途方もない前線に立っている。

私たちもまた問うべきだ、自分に何ができるかを。さしあたり可能なことは、いつもの辻説法、煩わしいリフレインかもしれないが、募金の輪を広げることだ。医療支援なら、赤十字(https://www.jrc.or.jp/lp/kaigai/donation/)。子供たちの保護とケアなら、ユニセフ(https://www.unicef.or.jp/kinkyu/ukraine/)。極寒のなか電気・暖房途絶にあう人たちに毛布や衣類を届けたいなら、UNHCR(
https://www.japanforunhcr.org/appeal/winter-support)。ご自分の問題意識に一番ふさわしいと思う団体に募金してみてほしい。また、ご自分の影響圏(交友関係、属する組織、メッセージを拡散可能な人間集団)に、募金の輪を広めてみてほしい。その際に私がお手伝いできることは①文案を草す②対面またはオンラインで辻説法する(30分でも2時間でも。私が見た・生きた・写真を撮った平和だったころのオデッサと、現在の問題について話し、募金を訴える)。これらがご入用な方は何丘TwitterからDMを。(むろん無償でする)

電気事業者Yasnoによれば14日の攻撃で複数の火力発電所が稼働停止するなど被害は甚大であり、深刻な出力不足が生じている。復旧のめどは立たず、ウクライナ市民は相当長期の停電を覚悟する必要がある、と。УП

1月14日

14日、ウクライナの電力施設を狙った新たな大規模ミサイル攻撃。国営電力ウクルエネルゴによれば「ウクライナの発電・送電網に対する第12次となる大規模ミサイル攻撃。露テロリストどもの今次の標的はまさしくウクルエネルゴの発電所および変電所であった。ウクライナの発電・送電網は完全性と制御可能性を保っているが、電力不足は深刻である」「敵の最終目標はウクライナ全土を寒さと暗闇の中に陥れることである。軍とエネルギー従事者の協調によってこれを阻止しなければならない」УП

今これを書いてる私はどんな顔をしているだろうか。当たり前みたいな顔をしてないか。寝起きみたいな顔してないか。正しく憤れ。無感覚になるな。馬鹿野郎!

うちの一発がドニエプル(中部の都市。宇ドニプロ)の集合住宅を見舞った。12人死亡、64人負傷(うち14人が子供)。УП

攻撃にはミサイル38発が使用された。25発を撃墜したが13発に着弾を許した。カスピ海上の爆撃機から、黒海上(また海面下)の船艇から、また各地の戦闘機から、ウクライナ全土にミサイルが飛んだ(УП)。火力発電所2基が被弾し、うち1基は発電を停止した(УП)。ほか6州(オデッサ州含む)でエネルギー施設に被害、多くの地域で緊急停電が生じている(УПОЖ)。復旧作業にすでに着手がなされているが今後数日は厳しい電力状況が続くという。

発電所職員・電気技師は砂上楼閣を築くようなものだ。いつ大波にさらわれるかわからない、いや必ず来ると分かっている大波の前に必滅の試みを続ける人たち。英雄とはこの人たちのこと。兵士には兵士の、電気技師には電気技師の前線。私たちも私たちの前線に立たねばと思う。さしあたり思いつくのは、いつもの呼びかけを繰り返すことだけだ。ウクライナの越冬支援のために募金を……。

・日本赤十字社 医療サービス・機器、医薬品など
https://www.jrc.or.jp/lp/kaigai/donation/
・ユニセフ 子供たちの安全・健康支援
https://www.unicef.or.jp/kinkyu/ukraine/
・UNHCR 発電機、毛布、温かい衣服など防寒支援
https://www.japanforunhcr.org/appeal/winter-support

1月13日

ロシア国防相が公式にソレダール掌握を宣言(УП)。これに対し先に掌握を宣言していたワグネルのプリゴジンは「戦功が盗まれている」と苦言を呈した。つまり血の犠牲を払ってソレダールを掌握したのはロシア軍でなく我が民間軍事会社ワグネルである、手柄を横取りするなと。実際ロシア国防省コナシェンコフ報道官の定例発表でソレダール「解放」がどのようにして可能であったかを語る際にもワグネルの貢献については言及なし(TASS)。また、ウクライナ国防省情報総局が入手したロシア軍司令部作成の露プロパガンダメディア向けインストラクションでも「PMC(民間軍事会社)ワグネル」の名に肯定的な文脈で言及しないこと、むしろ「PMC」による攻撃の無意味さや、そのもたらす人的犠牲の大きさについて重点的に報道するように、との一条があるとかだ(УП

それにしても露の用いる「解放」の語のおぞましさ。この無意味な侵略、破壊、殺戮が「解放(освобождение)」の語で語られている。

なお、ウクライナ側によればソレダールをめぐる戦闘はなお継続中である。УПУП

グッバイ・トルストイ

キエフの地下鉄で駅名の「脱ロシア化」2件。キエフ市の旧称ズヴェリネツ地区の「諸民族の有効」駅は「ズヴェリネツ」駅に。レフ・トルストイ広場の「レフ・トルストイ広場」駅は「ウクライナの英雄たち広場」駅に。市民10万人が改称を是とした結果だそうだ。УП

ボルシチは誰のもの

朝日の12日朝刊のコラム。この話題で「違うよなぁ」と思うことがよくあるので一言しておく。私は赤汁が好きなのでモスクワでもオデッサでもいろんな店で赤汁たべた。んでいうが、ロシア風ボルシチなるものはない。ウクライナ風ボルシチなるものもない。ウクライナでも結構な人が黒パンで赤汁のむ。店によって違う、としか言えない。ウクライナの人がロシアのどっかの街のどっかの店で赤汁飲んで、「これはウクライナ風だ!」とか思うことはない。あ、この店の赤汁好きだなとか、ここのはちょっと違うな、とか思うだけである。と思う。

私が一番好きなボルシチは義母のボルシチだ。義母がロシア人なのかウクライナ人なのかは微妙なところだが、それを食べるときこれはロシア料理だともウクライナ料理だとも思ったことはない。言われたこともない。義母のボルシチは二刀流で、ひとつはふつうの赤カブの赤いボルシチ、もうひとつはщавель(ホウレンソウ、で合ってますか)とジャガイモの緑のボルシチ。前者はたっぷりのスメタナ(サワークリーム)と黒パンで、後者は私はスメタナなしで、グレンキ(焼いたパン)と食べるのが好きだった。ボルシチとはおふくろの味であってそれ以外の何でもない。ウクライナ料理だなんだという議論には空虚なものしか感じない。

1月12日

日本がウクライナの重要インフラ復興のために9500万ドルを拠出する、というニュースがУПに。資金は国連開発計画(UNDP)に送られる由。使途は①政府の危機反応/対処能力の強化②国家機関が重要インフラ復旧などの機能を維持するための支援③民間企業が活動を継続しそれによって共同体が維持されるための支援④市民社会および社会的つながりの強化とか書かれている。あわせて、日本が2022年春にウクライナの爆発物除去や瓦礫撤去のため450万ドルを拠出したこともリマインドされている。

9500万ドル=122億円。意味のある支援とはこういうことだ。単発のイベントなんか開いて10万円を集めたって仕方ない。「何かやった」と思いたい自己満足にすぎないと思えてくる。

国営電力ウクルエネルゴによれば電力不足は深刻で、12日昼の時点で9州で緊急停電が起きている(УП)。電力供給会社Yasnoによれば、電力不足は相当長期にわたる問題で、復旧には相当な期間とリソースがかかる。気温は最大のファクターではない。おもてが-20度でも発電が止まることはないし(それによって市民が受け取る電力は非常に限られたものになるが)、逆に気温が上がっても、それで事態が急激に改善するわけではない(УП)。改善も増悪も、その最大の要因は気温でなく、それぞれ「時間」、「敵のミサイル攻撃のあるなし」であるということだ。

ロシアは次なる大規模ミサイル攻撃を準備している?

ウクライナ軍の報道官によれば、ロシアは近日中に新たなミサイル&ドローン攻撃をしかけてくる可能性がある。これまでの例を見ると大体10~14日のインターバルで大規模攻撃を繰り返している。攻撃準備を整えるのにそれくらい時間がかかるらしい。敵の残弾は僅少なので攻撃はミサイルとドローンを併用したものになるだろう、またウクライナの対空防衛も精度が上がっているので、対空兵器の所在を確認しながら波状攻撃をしかけてくるであろうと。げんに敵の無人偵察機の活動は活発化している。オデッサ沖では11日夜と12日朝に無人偵察機を撃墜した。УПОЖ

ロシア軍は3つ半ある

ウクライナ国家安全保障会議書記アレクセイ・ダニーロフによれば、スロヴィキン→ゲラシモフの露軍総司令官交代劇はロシア内部で権力闘争が行われていることの現れである。ダニーロフによればロシアには軍が「3つ半」ある。すなわち、正規軍・プリゴジン軍・カディロフ軍・そして新たに形成されつつある軍。諸勢力間の争いは今後も先鋭化する一方であり、やがて対立はモスクワの最中枢にまで及ぶ。サドーヴァエ・カリツォー(環状道路。この内側がモスクワの中心)の内側で銃火器だの装甲車が火を噴くのも時間の問題であろうと。いずれにしろここ2-3か月で趨勢はほぼ決する。「プーチンは重病人である。プーチンが弱体化するや否や、まぁプーチンは日に日に弱体化しているのであるが、どちらが上だかはっきりさせるための闘争が諸勢力間で始まるだろう」УП

怖くて酒が買えない

ウクライナの情報当局が傍受したロシア兵の会話内容というのが定期的に公表されている。

このほど発表されたひとつ。ロシア兵が妻と電話で話している。「いや、何も要らないよ。こっちにゃ何でもあるよ。まぁウォッカとビールかな、それで新年を祝いたいもんだ。いや、中には(アルコール飲料を)買うやつもいるけど、定期的に死ぬやつ・目が見えなくなるやつが出るよ。もちろんなんか混入してるのさ。俺は何も買わないよ。毒殺されたくないもんな」УП

1月11日

戦況については他を当たってほしい。だがソレダールとスロヴィキンについて一言ずつ。

●ソレダール
ロシア側(ワグネル)が掌握を主張しているドネツク州ソレダール(バフムートの隣町)はСоледарと書いて「塩(соль)の産地」である。先にロイターが米大統領府筋の情報として「プーチンのシェフ」プリゴジンがバフムートにかく執着するのはかの地で産せられる塩が欲しいからだ、と報じていた(УП)。つまりはかの地でプリゴジンが火力と人命の莫大な消費のもとに追及しているのは経済的な利権であると。

ちなみに土地の産出物+дарで地名を構成する例は他にもあり、ザポロージエ州エネルゴダール(Энергодар)といえばかのザポロージエ原発のあるところでエネルギー(энергия)の産地。またわがオデッサ州にはチプロダール(Теплодар)という街があって、これは熱(тепло)の産地と解せる。チプロダールにはチェルノブイリ原発事故のため建設途中で放棄された原発廃墟があり(筆者訪れたことあり、薄気味悪い場所だった)、そもそもこの街自体が原発の産業城下町として人工的に造られた。

●スロヴィキン
露軍トップに人事異動。昨年10月8日にウクライナ侵攻の総司令官に任命されたスロヴィキンが更迭され、かのワレーリイ・ゲラシモフ露軍参謀総長が後任に据わった。その意味するところはまた小泉さんにでも語ってもらえばよいが、Meduzaによれば前任のスロヴィキンはもともと民生インフラに対する大規模ミサイル攻撃の推進派であったとかで、実際スロヴィキンの総司令官就任直後の10月10日に電力インフラに対する仮借なき攻撃が始まっている。だがこの日から12月31日まで十数次にわたるインフラ攻撃によっても結局ウクライナの<継戦>という国家意思を挫くことはできなかったわけだ。スロヴィキンの退場は、ウクライナの電力インフラ破壊という糞戦術の否定を意味しないだろうか。してほしいのだが。

電力

電力不足は依然として深刻で、首都キエフでは11日晩の時点で必要量の6割しか供給できていないとのこと。その6割のうちの4割が重要インフラにおける電力維持に使われるので、家庭に回るのはその残余ということになる。気温が下がるほど暖房だなんだで電力消費が増大する。キエフの12日の気温は最高で-4度、最低気温は-9度。УП

希望の話として、欧州からウクライナへの電力輸入が年明けから始まっているらしい。現在のところ少量であるがゆくゆく増大させていける見込みだそうだ。УП

(そういやオデッサ沖にトルコの発電船を停泊させるというプロジェクトがあったがあれどうなっただろか)

昨日のLEDの話の続き。国民アプリДияを通じて白熱電球とLEDランプを交換する取り組み、その試験版の導入地域の中にオデッサも入ってるらしい。何しろДияで申請して最寄りの郵便局で白熱電球5個とLED5個を交換する。LED化で消費電力が7-10%削減できるらしい。УП

何かやる

「何かやる」の記事更新したので見てください。

1月10日

寒波というほどではないが、この季節としては普通の寒さがかの地にきていて、キエフは当然、オデッサでも終日気温が0度を下回っている。

気温の低下に伴い10日朝の時点で多くの州で電力需要が増し、州ごとに設けられた供給量の「天井」が突破され、緊急停電が発生している。「発電量は増していないのに消費量が増している、そのため不足が生じている」УПУП

シュムィガリ首相によれば、電力節減のため、白熱電球→LEDランプの無料交換プログラムがスタートする。第1段階として国内6地域で50万個を交換し、その2週間後に全土で同様のことを行うそうだ。手続きはというと、市民各人が国民アプリДияを通じて申請を行い、最寄りのウクルポーチタ(国営郵便)店舗で新型ランプを5個入手する、という手筈らしい。「すべての手続きを最大限イージー&スピーディに行う」と首相。このLEDランプはどこからといえば、先に欧州委員会から3000万個、ついでフランスから500万個が供与される。すばらしい。УП

名前の話

2022年にウクライナで生まれた赤ちゃんにどんな名前がつけられたか。人気の名・珍奇な名を法務省が公表した。УП

女子の名で人気なのはソフィヤ(宇Софія/露София)、マリヤ(Марія/Мария)、アンナ(Анна)、ポリーナ(Поліна/Полина)など

男子の名で人気なのはマルク(Марк)、アルテム/アルチョーム(Артем)、オレクサンドル(Олександр)/アレクサンドル(Александр)など

珍奇な名は、女子でいえばエミリー(Емілі/Эмили)とかキャロライン(Керолайн/Кэролайн)、男子ならウィリアム(Вільям/Уильям)みたいな、バタ臭い=西欧ちっくなのが当世風だなと思った。男子のオリオン(Оріон/Орион)みたいな古典時代風の名もかえって今ふう。新しきものとはよく忘れられた古きもの(новое – это хорошо забытое старое)

珍名の中でとりわけ目を引くのはやはりジャヴェリナ(Джавеліна/Джавелина)、ムリーヤ(Мрія)/メチター(Мечта)といった戦争の現実を反映したと思われる名だが、実際にはごく少数のケースなのだと思う。マスメディアが好みそうな話題(げんにУП記事もタイトルにジャヴェリナちゃんを起用している)だけに割り引いて見ておきたい。私が親なら大人たちの醜悪な戦争の痕跡を子供の名前に残したいとは思わない。

とはいえ、ウクライナではわりと簡単に改名ができる?みたいだ。УП記事によると、両親の同意があれば14歳で、また16歳以上なら本人単独で、役所に届けて改名ができる由。「こういうケースだと改名できません」という条件が列挙されてるが、そこにあるのは「刑事訴追されてる人」とか「裁判中の人」とか「外国の治安機関から指名手配されてる人」とか極端なケースばかりで、過去の例を見てもアンナ→オリアンナとかアンナ→アナベッラとかラリーサ→グロリアサンドラとか、単に審美的観点からクラスチェンジを図ったものとみられる例が散見される。逆にドッラアオッルドリッスДррааоллдлісс→アンナみたいな珍名を凡名に戻すみたいなパターンもあるみたいだが。とにかく、特段の必要性とか汲むべき情状とかなくても、わりとカジュアルに改名できるように見受けた。改名手続きの際に役所に払う手数料は初回が5グリヴニャ(20円)、2回目は51グリヴニャ(200円)だそうだ。だいたい年間1万数千人が改名するらしい。プチ整形みたいなノリか。

そういや名前については過去に記事を書いたことがあった→ロシア人の名前の読み方(名・父称・姓)。ロシア人ということで書いてるがウクライナ人も全く同じ。さしあたりロシア・ウクライナ人名について日本語で書かれたもののなかで最も網羅的かつ分かりやすい記事だと思うのでよかったら。

1月9日

戦況のことは他を読んでほしい。東部で激戦、バフムート、ソレダール。

ロシア語かウクライナ語か

キエフ国際社会学研究所が昨年12月に行った調査で、ウクライナ国民の使用言語に明らかな地殻変動が起きていることが分かった。つまり、ロシア語からウクライナ語へ。УП分析

上のグラフで、上段が2017年、下段が2022年。青がウクライナ語、赤がロシア語。比重が青の方(左側)へ移ってる様子が一目瞭然だろう。「日常生活での使用言語は」との問いに、「専らウクライナ語」と答えた人が34%(2017)→41%(2022)に増、「主としてウクライナ語」15→17に増、「両言語等量」変わらず、「主としてロシア語」14→9に減、「専らロシア語」12→6に減。

こうした調査には願望を現実と取り違えることによる歪みがつきものであることは調査した側も認めている。そうした歪みを除去する方法として調査前にどちらの言語で調査を行うかを回答者に選ばせたり、回答者自身が調査に答える中で使用する言語を分析したりといったものがあるらしい。いずれにせよ大規模な変動が起きていることは確実である由。

あわせて行った調査で、それぞれの言語がなぜ重要であるかを聞いた。まずウクライナ語。ウクライナ語は重要だ、なぜなら……「国語だから」76%、「ウクライナの独立の基盤だから」32%、「ウクライナ社会を統合する言語だから」23%、「ウクライナ語は重要じゃない」1%。これらの数字は2014年からそんなに変わっていないという。

次にロシア語。こちらは2014年から大きく変化があった。ロシア語は重要だ、なぜなら……「全ウクライナ人が理解できる言語だから」14%(←2014年は59%だった)、「ウクライナ東部の大多数の言語だから」14%(←31%)「CIS諸国との共通言語として」7%(←34%)、「ウクライナで昔から話されてきた言語だから」5%(←15%)「ビジネスや科学技術の言語だから」4%(←10%)「優れた文学・芸術作品の言語だから」4%(←16%)「ロシア語は重要じゃない」58%(←9%)

1月8日

全国的な冷え込みで電力需要が増し各州に設定されたリミットを州内の電力消費が上回り緊急停電が起きる事態も懸念されているが、たとえば首都キエフでは時間割り通りの停電で問題なく回っているらしい。УПУП

オデッサに新年初雪。ОЖ

寒かろう。この人たちを世界が支えなければならない。ロシアがいくら押しても倒れないように支え続ける。

いつものヤツです。お年玉余っている方、募金にご協力ください。

・日本赤十字社 医療サービス・機器、医薬品など
https://www.jrc.or.jp/lp/kaigai/donation/
・ユニセフ 子供たちの安全・健康支援
https://www.unicef.or.jp/kinkyu/ukraine/
・UNHCR 発電機、毛布、温かい衣服など防寒支援
https://www.japanforunhcr.org/appeal/winter-support

ロシアがつくった「世界最大の地雷原」

昨日の話題だが、ロシアがウクライナの領土のうえに築いた地雷原の総面積は25万平方kmにのぼる。日本でいえば本州(23万平方km)と四国(2万平方km)を足した面積だ。「ロシアは世界最大の地雷原をウクライナに造った」「人々の移動が困難になるだけでなく、我が国の基幹産業のひとつである農業にも深刻な損失を引き起こすものだ」とシュムィガリ首相。УП

1月7日

「クリスマス停戦」が明けた。ロシアが一方的に停戦を宣言する中でウクライナ側が攻撃を仕掛けて、それが露プロパガンダにうまく利用されてウクライナの国際的イメージまで傷つくのではないか、と心配したが杞憂であった。ロシア自身がさんざ停戦違反を犯した(ウクライナ側発表)。少なくともロシアが騒ぎ立てて世界の人の耳目をそばだてるに足るほどの揚げ足はウクライナは取らせなかった。

ウクライナ軍参謀本部によれば、ロシア軍は7日夕方までの24時間に空爆1回、ロケット砲からの砲撃7回を行い、ウクライナ軍拠点に対する戦車・迫撃砲等による攻撃も複数回行われた(УП)。タイムラインにはロシア軍のバフムート砲撃で市民2人死亡13人負傷とか(УП)ハリコフにミサイル着弾で1人死亡とか(УП)ザポロージエ郊外にミサイルが飛んできて爆発(УП)とかの見出しが躍った。

地雷原のウクライナ

国家非常事態庁が爆発物マップを発表した。УП非常事態庁

円の中の数字はその円の周辺に「半径30mの中に爆発物があるかもしれないエリア」がいくつあるかを示している(と理解した)。

ウクライナはツーリズムが発展していない。PRもされてないしよく整備もされていないが、実はオデッサ周辺だけでも景勝地の宝庫である。こんないいとこあるのに知られとらんよなぁ実にもったいないことをしているなぁと思うこと再三であった。そういう場所には誰がどうやって行くのか。知ってる人とか、知ってる人から口コミで聞いた人が、道なき道をただどって行くのである。地図でオレンジ色になっているエリアにも風光明媚な場所がどんだけでもあると想像する。ヘルソンあたりのドニエプル・デルタだってそうだ。この戦争が終わっても地雷や不発弾による死傷の報に長く接することになるであろうし、ウクライナの観光開発は大幅な遅れをとる。本当に……どうしてくれるんだよ、ロシア。

1月6日

7日0時(日本時間7時)現在、深刻な「停戦」違反の報はない。ウクライナには二つの道があった。勝手に入ってきたやつが壊し殺し盗み犯し狼藉の限りを尽くした、それに抗う形で不可抗的に戦闘が始まった。あるタイミングで侵略者の方が一時停戦を一方的に宣言して実際に破壊と殺戮を一時停止した。だがそいつはまだそこにいるのだ、本来いるべきでない人んちにい残ったままで、そうしてその一時的な停戦が明けたらまた破壊と殺戮を再開することは必定なのだ。ならば、むこう都合の停戦宣言など全く意に介さないで叩く、そこに不当に存在するものをそこから追い出すためにただ叩く。これはこれで全く正当なことに思える。

だがISWによれば「プーチン主導の36時間停戦はウクライナの評判を損ねることを目的とした情報戦という意味合いが強い」УП。プーチンは停戦を命じるに際し宗教的根拠を引き合いに出しており、そうである以上は、これをウクライナ側が無視して攻撃を行った場合、「ウクライナは正教徒を迫害している」ということに、どうしたってなる。露プロパガンダ的には。そうして「正教徒の真の庇護者はプーチンである」というイメージが強化される。

叩くか、待つか。ウクライナは評判によって戦ってるとこあるから、理不尽でも停戦には応じざるを得ない、か。敵のペースか、プーチンにまたしてもうまいことやられたのか。

もとはといえば新年祭中の停戦はゼレンスキーが言い出したのである。12月12日、G7各国首脳向け声明で、ロシアに対し二つの日付の降誕祭と正月を含む期間の休戦を呼び掛けていた(前の記事12/12の項)。これを露は一蹴した。実際に大晦日や元日にさえキエフに大量に自爆ドローンだのミサイルだの飛ばしてきた。

ウクライナは12/25と1/7がともに祝日である珍しい国だった。だがロシアの侵略を受け、もと1/7に降誕祭を祝っていた人の相当部分が、12/25の方に移っているという。伝統であれ慣習であれ宗教であれ(言語であれ)もはやロシアとひとつのものをともにしたくない、という人たちの思いが、かの地のカレンダーとか風俗習慣に地殻変動を起こしつつあるのだ。ある人はこれを国民国家の形成過程と呼ぶ。そこへ今回プーチンが、この世にひとつ聖別された日があるとすればそれは1/7であって、また1/7以外にない、という価値観を押し付けてきた。<ロシア世界>русский мирによる抱擁だ。停戦それ自体は歓迎すべきことなのだろうが、そのやり口の陋劣さとか構図の醜さに深い嫌悪を覚える。

気温、電気

オデッサの10日間予報

雪もちらほら、0℃付近をいったりきたりは、オデッサとしてはこの季節の平常運転だ。風が強いので屋外の体感気温はもう2、3度低いであろう(10日の風速17m毎秒やばい)

一方キエフの10日間予報は

やはりだいぶ寒い。7日と8日は最高気温-8℃。

寒くなると電力消費が増える。6日昼時点で全州の電力使用量に上限が設けられている。この上限を超えると緊急停電となる。そうならないために、各州が計画停電を行う。УП

1月5日

ロシア正教会の首魁キリルとロシア国家の首魁プーチンが相次いで「クリスマス停戦」を呼び掛けた。後者は実際にロシア国防相の首魁ショイグに対し6日正午から7日24時まで36時間にわたり全前線で戦火を収めるよう命じた。УПУП

ロシア正教では1月7日が降誕祭である。ウクライナでも降誕祭を(12/25でなく)1月7日に祝うという人が25%いる→前の記事12/30の項

このロシアからの一方的なクリスマス停戦の呼びかけについて米バイデン「12/25や1/1にすら病院・幼稚園・教会を爆撃した者について何をかいわんや」УП、ゼレンスキー「敵の狙いは短時間なりとウクライナ軍のドンバスにおける前進を止め、その間に自軍の装備を前進させること」УП、ポドリャク大統領府長官顧問「情報戦以外の何ものでもない。束の間にもせよ自軍補給拠点に対する攻撃の烈度を下げ、追加の動員を行い、占領地に防衛線を構築し、部隊の配置換えを行う。こうしたことを軍事的手段で行い得なかったがために月並みな情報工作に出たものに過ぎない」УП、クレバ外相「ウクライナ側は先に10か条の和平案を明確に示している。これを無視して12/25前夜にヘルソンを砲撃し1/1に大規模ミサイル・ドローン攻撃を仕掛けてきたロシアのいう『一方的な停戦』など真に受けられるはずがない」УП、ダニーロフ安全保障会議書記「連中が勝手に言ってるだけだ。停戦なるものについて何らの交渉を行うつもりもない。我々には全く関係がない。連中のすべきことは、持ってきた書類も兵器も全部引っかかえてロシアに帰ること、それだけだ」УП

それでも撃ってこない以上は、撃つべきではないと思ってしまうのだが。敵プロパガンダに好餌を与えないために。たとえば極端な話、この日にクリミア橋の第二の爆破を行いでもしたら、ロシアの国民感情としては、いよこそウクライナはサタンに与するものということになる。それがゆくゆく政権を打倒するかもしれない可能性に賭けて、ロシア国民の気分というテコは大事に育てていく必要がある。ならば向こうが聖日停戦というならば、こちらからは撃つべきでない。正教を信奉するウクライナ兵士の少なくない割合にとっても、1月7日は聖日なのであるし。

ウクライナ戦争と情報戦

УПに「ウクライナ戦争と情報戦」と題する(全然題さない)コラム。ウクライナのSNSユーザーがいかにロシアのプロパガンダを無意識的に拡散してしまっているか、という。以下にまとめる。

まず前提として、ウクライナでは市民の74%がSNSを情報源としている。うちのFacebookについて分析したところ、2022年6ー9月の期間にユーザーの63%が偽情報の拡散に加担していたという。ここにはもちろんロシアの意図的な呼応とか増幅も効いている。

コロナと戦争

ここ数年でロシアは二波にわたり超大規模な情報工作を行っている。第一次はコロナ、第二次は軍事侵攻に伴うもの。そのどちらでもFacebookは重要なツールとなった。オックスフォード大インターネット研究所によると、コロナに関する偽情報の92%はロシアと中国が発信源という。「反ワクチンキャンペーンによってクレムリンは『ウクライナ国内のエージェントを使って市民を街路に引き出すことは可能だ』との確証を得た」。つまりクレムリン発の反ワクチン情報工作はのちの軍事侵攻(に伴う情報戦)のよき予行演習になったというのである。反ワク運動の急先鋒の一人がかのキリル・ストレマウーサフ、占領下のヘルソンで「副知事」に上り詰め、11月に交通事故で死んだ名うての対敵協力者。

で、反ワク活動家はロシアの侵攻後にベクトルを変えた。同じ人たちが「これは戦争ではない、ビジネスだ」というテーゼへと旋回し、政治・軍事エリートの汚職への非難を繰り返すようになった。この状況で誰かが金儲けをしている、この状況は誰かの金儲けのためであると。たとえばウクライナ兵士の装備が貧弱なのは志願兵支援基金が猫糞してるからだ、云々。こうした情報が裏どりなく拡散された結果、はからずも敵を利することになっている、という。

ウクライナ人vsウクライナ人

Facebookユーザーの3人に1人が同胞非難の投稿を行っている。いわく「お前らがレストランに座ってるときに同じウクライナ人の戦士が塹壕で血を流してるんだぞ」いわく「オデッサに電気がこないのはリヴォフに電気を回してるからだ」いわく「西部では現地住民は勤勉に働いてるのに東部・南部からの疎開者は飲んだくれてばかりいる」。ロシアはウクライナ国民の分断をつとに目論んでおり、こうした言説を分析しては言論空間に介入して、個別の意見をさも全体の総意であるかのように誇張して拡散しているという。

我々には真実が伝えられていない

公式メディアが最も好む話題のひとつが敵の損失であり、最も忌む話題が味方の損失である。その裏返しで、SNSでは味方の損失の話題がもてはやされる。味方の損失は甚大なのではないか、政権は我々から真実を隠している、たまに捕虜交換の話題があるが、これは取り返し得た数十人によって取り返せていない数千人のことを覆い隠す試みではないか。「政権は彼らのことを見放したのだ。我々は見放してはならない。拡散してくれ」。


論考に書かれてることはざっと以上であるが、どう思うだろうか。どう思いましたか。ダメ出しをすると、敵の情報工作の話と、ウクライナ人自身の利敵性情報発信の話がごっちゃになっている。あと、利敵性情報発信についてだが、そうなんでもかんでも「偽情報」と断じてしまっていいだろうか。たとえば伝聞とか見聞ベースの投稿で、公式発表とか公式報道には拠らないけれども真実を伝えている、ということもあるではないか。公式筋とか公式メディアの言わないこと・その言ってることに反することすべてが「偽情報」だろうか。私自身の管見から推していうのだが、汚職は戦時下でも普通に行われてると思うし、西部と南部のメンタリティの違いもあるだろうし、実際に味方の損失は国民から秘匿されている。

この本↓

これがドイツで2022年に発刊した児童書ベスト12に入ったそうです。著者はウクライナ人。本邦でも書店でお求めになれます。УП

1月3日

3日は春並みの高気温のため電力需要が下がり、また晴天のため太陽光発電量も増えたため、昼過ぎまではウクライナ全土で電気が使える状態であった。ただし、夕刻にかけて電力消費が増大するため電力会社は各州に使用量の上限を課し、この上限量に応じて計画停電が行われた。最も電力不足が深刻であった首都キエフも停電は計画的なもの(緊急的でなく)で済んでいる。УПУП

1月2日

またしても首都キエフに大規模ドローン攻撃。2日未明、イラン製自爆ドローン40機が飛来、その全てを撃墜したということだが、あわせて用いられた誘導ミサイルが着弾したか、エネルギー施設に被害があり緊急停電が生じた。それでも全体として電力供給は安定的であるとのことだ。УПУПУП

ゼレンスキーいわく、2023年始まってわずか2日で、撃墜した敵ドローンはすでに80機。ロシアは今後もウクライナの対空防衛を消耗させるべく長期にわたって同様の攻撃を続ける可能性があるという。УП

だが、繰り返されるロシアのエネルギーテロにもかかわらず、ウクライナ国民の継戦意欲は揺らいでいない。キエフ国際社会学研究所が12月4-27日行った調査では、「早期停戦のためには領土的譲歩もやむなし」と考える人は8%、「譲歩はあり得ない」と答えた人は85%。9月の同様の調査と同水準であった。УП

暖冬?

元日キエフの平均気温は+10.3℃で4月並みの暖かさであった(УП)。義父母によるとオデッサもめちゃめちゃ暖かいらしい。天もウクライナの味方をしているか。

だがこのまま冬が終わるわけもない。予報ではこの暖かさはあと数日で終わり、続く急激な冷え込みで7日には日中の気温が-6°前後という水準になる。全土で雪も降る。УП

不屈のヨールカ

本記事のサムネに使っている首都キエフの新年祭ツリー、いわゆる不屈のヨールカ(ёлка несокрушимости)が、BBCの「世界で最も美しいクリスマスツリー10選」に選ばれた。УП

ニューヨーク↓

ストックホルム↓

香港↓

キエフ↓

プラハ↓

1月1日

朝日新聞の元日号一面はアレクシーエヴィチへのインタビュー。作家によればウクライナの民をいま支えているのは「勝利を信ずる心」と「なにげない日常」だそうだ。孫の頭をなでること、朝の一杯のコーヒー。

2023年は必ずウクライナ戦争終結の年となりますように。必ず。必ず。(そうしてその終結は、絶対にロシアの勝利でなどありませんように)

ウと露、双方の大統領の、年越しの国民向けビデオメッセージを見た。

音響効果も駆使してドラマティックに演出した。ついにロシア語は一語だに用いなくなったがもうそんなことはどうでもいい。好きな箇所を訳出す。

「2月24日の爆発音は我らの耳を聾した。以来私たちには全部の音が聞こえているわけではない。すべての声に耳を傾けてはいない。ある声は言った、『降伏するより道はない』と。だが私たちは言うのだ、『勝利するより道はない』と」

「この一年は”損失”の年であったと名指しうる。だがそれは正しくない。そのようには言うべきでない。我々は失ったのではない。奪われたのだ。ウクライナは息子たち娘たちをただ失ったのでない、人殺しによって奪われたのだ。ウクライナ人はただ住む家を失ったのではない、テロリストによって破壊されたのだ。我々は自らの土地を失ったのでない、そこへ占領者が入り込んだのだ。世界は平和を失ったのではない、ロシアがそれを破壊したのだ」

「311日。そのどの1分間についても多くを語りうる。だが贅言は無用だ。説明も文飾も要らない。必要なのは静寂、そしたら聞こえてくる。必要なのは静止、そしたら浮かび上がってくる。

2月24日。朝。

ゴストメリ。ブチャ。イルペン。ボロジャンカ。ハリコフ。

『ムリーヤ』。

クラマトルスク。駅。ぬいぐるみ。

チェルニーゴフ。

マリウポリ。劇場。『子供』と書かれていた。

オレネフカ。

オデッサ。集合住宅。少女。3か月の。

ヴォリニャンスク。産院。赤ちゃん。生後2日。

『アゾフスターリ』。

忘れることなどできない。許すことなどできるはずがない」

「戦争においてはすべての人が重要だ。武器を手にする人、ステアリングを握る人、パソコンに向かう人、コンバインを運転する人、哨戒を担う人、電力復旧に励む人、働くすべての人、学ぶすべての人。全面戦争に小事はない。不要なものなど何もない。一人一人が戦士だ。一人一人が前線だ。一人一人が国防の礎だ」

「この1年は帰還の年となる。戦士たちは家族のもとへ。捕虜は自宅へ、避難民は祖国ウクライナへ。ふつうの生活への復帰。外出禁止時間などない、空襲警報も鳴らない。奪われたすべてのものを取り返す。子供たちの幼少年時代、父祖たちの穏やかな老境。夏休みには孫がじぃじとばぁばに会いに来れるようになる。ヘルソンのスイカも。メリトポリのサクランボも」

私(何丘)も私の戦いを戦おうと思う。めっちゃ微力だが。戦争に小事なし、すべての人が前線。

対する頓風珍の方は紹介に値するものが何もない。サムネからすら漂う作り物感。何か奇怪な、自然でない、正視に堪えない感じ。スピーチの中の陶酔的な声のふるえも含めて、ただひたすらに気色悪い、胸糞悪い。見ながら100回「滅びてくれ」と唱えていた。

ロシアの残存攻撃力は

ウクライナ側の見立てでは、ロシアの残弾は枯渇しかかっており、大規模ミサイル攻撃はあと2回程度しか行えない。それが証拠に最近の大規模攻撃ではロシアは使用するミサイルの数を減らし、イラン製自爆ドローンなど種類の異なる複数の兵器を併用するようになっている。「3月までにロシアは深刻な兵器不足に陥る」とブダーノフ情報総局長官(УПУПУП)。ウクライナ側が一時盛んに口にした「ロシアは2月に前年を彷彿とさせる大規模侵攻をかける」というような暗鬱な未来予測はすっかり鳴りを潜めた。

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